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ライターアースと笑おう  作者: 六助
グラビティムーン
31/33

人が壊れる音

ぐしゃ、とか、ばきっ、とか。

 私、御影美月から見て、御影陽平――私のお兄ちゃんはとてもステキな人だ。

 第一印象は、ちょっと頼りない人だなぁ、と感じた。

 男の癖に、自棄にさらさらふわふわとした黒髪。中性的な顔立ちに華奢な体躯。スカートを履いていたら、もしかしたら、女の子に間違えられてしまうかもしれない。そんな容姿の人だった。

 個人的には、もうちょっとかっこいい系の人を期待していたんだけど、そこは仕方ない。妥協しましょう。そんな風に、当時の私は自分を納得させた。子供の頃から病弱で、母親がすぐに死んで、父親も仕事でめったに家に帰らない。そんな家でずっと暮らしていた私には、兄妹というものは輝いて見えていたのだ。もっとも、実際に兄妹とかが居る人に言わせれば、そんなのは都合の良い妄想だろうけど。

 そして、結果から言えば、私が思い描いていた理想と、現実は食い違っていたのである。

 かなり――――良い方向に。

 お兄ちゃんはなんというか、人を惹きつける才能を持っている。誰が相手でも、どんな相手でも、きっとお兄ちゃんとしばらく過ごしたら、お兄ちゃんに好意のような物を持ってしまうだろう。少なくとも、悪意を向けられなくはなることは確実。

 その、自分自身の特性のことを、お兄ちゃんは『そういう性能だから。僕が偉いわけではないんだよ』と苦笑していたが、そんな事は無い。お兄ちゃんは偉いに決まっているのだ。

 だって、また、私が父親と暮らせるようになったのは、お兄ちゃんのおかげなんだから。

 ほんと、一年前までは想像できなかった。

 いっつも仏頂面で、何考えているのか分からなかった父親が、自然に笑うようになって、私と会話するようになって、家族一緒にご飯を食べるようになって。

 まるで、呪いでも解けたかのような変貌ぶりだった。

 多分きっと、お兄ちゃんは人に好かれる才能のほかにも、『人を幸せな道へ導く』才能もあるんだと思う。というか、絶対にそうだ。

 お兄ちゃんは『人に好かれる以外、自分には才能が無い』って考えているかもしれないけど、そんなことは無いと思う。

 うん、だから、今度、家に帰ってきたらちゃんと、私が教えてあげようっと。



 薄々、こんな時が来るんじゃないかと思っていた。

 いつも通りの日常。

 いつも通りの生活。

 学校の友達とバカ笑いしながら、肩を組んで、一緒に歩く。

 時々、自分の中途半端な才能の無さが嫌になるけど、それもご愛嬌。彼らと一緒に青春を満喫するには、この程度の悩みは良いスパイスだ。

 売られてきたときは、まさかこんな生活が出来るとは夢にも思っていなかったけど。

 ああ、とっても楽しい日常だった。


 「――――それで、心の準備は終わったか? 皇帝」

 「うん、時間を取らせてわるかったね、兵士」


 それもきっと、今日まで。



 その日は、いつも以上にいつもらしい日常だった。

 美月とお父さんに見送られて、友達を一緒に登校。バカ騒ぎしながら、授業をやり過ごし、昼休みは弁当の争奪戦をしながら空腹を満たし、放課後は暇を潰すために、缶蹴りを企画して、大いにはしゃいだ。

 そして、友達と別れて、家に帰る僅かな間。

 彼は現れた。

 「初めまして、御影陽平」

 2mはあるであろう、大きな身長と、鍛え抜かれた筋肉。その体を迷彩色のコートで包み、赤い瞳を鋭く僕に向けている。まるで、ヒグマか何かが目の前に居るみたいな、圧倒的な威圧感。でも、そんな事はどうだっていい。ほんとに、僕が気にしなきゃいけないのは――――

 「灰色の髪は、僕らの象徴みたいなものだ。まぁ、僕は例外だけど。けどさ、人間社会に溶け込んでいるはずの『初期体』ならさ、普通は染めたりしているんじゃない?」

 「問題は無い。私のタイプは【ボーン】。戦場で使い捨てにされるただの駒だ。戦場は、髪の色など気にする余裕など無いからな」

 目の前に現れた灰色髪の男が、僕の同類ということだ。

 年齢は恐らく、二十代後半ほど。つまり、僕ら<NHシリーズ>が世界に出始めたころと一致する。おそらく、あのクソ所長が<NHシリーズ>の性能を知らしめるために、出荷された製品のうちの一つだろう。僕ら後続機のなかでは、そんな彼らのことを『初期体』と呼んでいる。が、まさかその『初期体』とこうして会うとは。

 「……どうして僕の前に、って言うのも愚問だね。訊いても無駄だと思うけど、クライアントは何処のバカだい? 『フィクサー』幹部の次期後継者である僕を暗殺しようだなんて考えるなんて」

 「その意見には同意する。【アサシン】タイプではなく、【ボーン】タイプの私を選ぶななど、滑稽もいいところだ。だが、仕事は仕事なのでな……悪いが、死んでもらう」

 「ったく、仕事は選べよ、先輩」

 僕と【ボーン】は、静かに対峙する。

 『後続機』と『初期体』が相対する。

 性能の上では、間違いなく、後から造られた僕の方が上だろうが、いかんせん、相手は生粋の戦闘タイプ。しかも、過酷な戦場を生き抜いてきた猛者だ。経験値ではまったくお話にならないだろう。

 だってほら、【ボーン】の構えは余りにも自然体で、力みがまるでない。フェンシングのように構えられたナイフは、まるでその空間に貼り付けられた写真のように、微動だしていないのだ。おまけに、僕がこんな危機に陥っているのに、お父さんが僕に付けているはずの護衛の姿が見られない。気配すら、感じない。即ち、僕を殺そうとしている存在は、『フィクサー』幹部が用意した凄腕の護衛を、僕に気づかせることなく処理した化物。

 対して僕は、『後続機』ではあるけれど、戦闘訓練もまともに受けたときがない素人。

 ははっ、やっべー、勝てない。

 「だから逃げるっ!!」

 僕は弾けるようにアスファルトを蹴り、大きく飛びのいた。

 そして、わき目も振らずに走り始める。

 いくら【ボーン】が化物だとしても、護衛の人たちもプロだ。自分がやられる前に、お父さんへ何かしらの連絡をしているだろう。そうなれば、『フィクサー』の方から、対<NHシリーズ>の部隊が派遣されるはず。それまで何とか――――

 「忠告してやろう、後輩。戦場では、そう易々と敵に背中を見せるものではない」

 たぁん、という乾いた音が一つ。

 「え?」

 気づくと、僕はアスファルトの上に倒れていた。

 「そして、相手がナイフを構えたからと言って、近距離しか攻撃の手段が無いと思わないことだ」

 腰からは焼けるような感触が伝わってきて、そして、それから下の感覚が無い。まるで、腰から下をごっそり削られたかのようだ。

 「腰椎を撃ち抜いた。私たちでも、その部分は簡単に復元できない」

 淡々と【ボーン】が言葉を告げてくる。

 そこでやっと、僕は状況を理解した。戦場を行きぬいた猛者と、日常に使っていた素人の差を、嫌というほど思い知らされた。

 ああ、くそ! まるで相手になっていない。なんてこった、瞬殺じゃないか! 

 「頭部は狙えたが、<NHシリーズ>を確実に殺すには、まず、動きを止めるのが鉄則だ。ヘッドショットは、余裕が無いときか、こうやって、相手に動きを止めてからにするべきだ」

 うつ伏せの状態からは分からないが、足音から察するに、【ボーン】は僕のすぐ近くまで歩み寄っている。多分、十メートルも無いと推測。

 これは死ぬな。

 素直に、あっさりと、僕はそう思った。ここまで状況が絶望的だと、抗おうという気力すら沸いて来ない。

 …………まぁ、死ぬのが怖くないと言ったら嘘だけどさ、お父さんの――御影時告の息子になったときから、ある程度の覚悟はしていたんだ。だから、泣き叫ぶなんてみっともない真似をせず、死を迎えられるだろう。心残りがあるとすれば、遺された家族や、友達が悲しむだろうな、ということだけ。

 や、もう一つだけあったか。

 こんな、中途半端な僕にも才能という奴があるのなら、それはどんなのだっただろう? なんてね――――

 「おい、テメェ! 何してやがる!」

 「も、もう警察は呼んだぞ! 大人しくしろ」

 「今すぐ、陽平から離れやがれ!」

 諦めていた僕の耳に届く、友達の声。

 美吉、春樹、レミ、三人の声。

 何をやっているんだ! あの三人はっ!? 

 僕はうつ伏せの状態で、必死に腹に力を入れて叫ぶ。

 「ばっ、逃げ――――」

 「目撃者確認。排除する」

 その叫びを、乾いた銃声が遮った。

 三つの銃声と、どさりと『何か』が倒れこむ音。

 「あぁ、ああぁああああああ!!」

 無理やり腰椎を復元させ、僕は素早く立ち上がって、背後を振り返る。

 そこ、には、

 「復活が早い。さすが『後続機』だな」

 拳銃を携え、無表情に呟く【ボーン】。その背後には、額を、頭を、打ち抜かれて、頭から、血が、赤い血液が、流れて、壊れて、いる、三人の、姿、が。

 「あ、ああ…………」

 バカだろう、三人とも。何、死んでいるんだよ。君たちはさ、まったくを持って、死ぬ必要がなかったじゃないか。そもそも、なんで途中で分かれた三人が、僕の所に来ているんだよ?

 「ん、そっか」

 目に付いたのは、大きなビニール袋。中身は多分、ケーキとか、プレゼントとか。なんでそんなものが? とは、さすがに思わない。だって、今日は、今更だけど、僕の誕生日だったのだから。適当に、身分を偽るために偽装した物だったんだけど、そんな物でも、この三人は、祝ってくれようとしたいたんだなぁ。

 そんなおせっかいで、最高の友達は、もう、目を覚まさない。

 「少々手間を取ったが、もう一度やり直せばいいだけの話だ。御影陽平、苦しみたくなかったら、大人しく私に殺されることを推奨する」

 そして、その仇は目の前に居る。

 なら――――答えは、一つだろ?

 「るぅぁあああぁあぁああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 僕は、生まれて初めて、明確な殺意を覚えた。



 「ついに、目覚めちゃったか、陽平くん。<NHシリーズ>唯一、本格稼動せずに他の人造人間と同等の性能を発揮したイレギュラーにして、この私が初めて造ったことを後悔した――――最悪の失敗作」

 遠い町の地下で、陽平の製作者は、どこか悲しげに呟いた。



 「るうぁあああああああああああああっ!!」

 体中が熱い。

 焼けるような熱の奔流が、全身に、指先まで巡る。

 圧倒的な駆動力が、僕の――俺の体に生まれた。

 それを、そのまま【ボーン】に叩きつけるっ!

 「ぬぅっ!」

 百戦錬磨の戦士である【ボーン】は、俺の大振りの攻撃なんか、通用しない。多少動揺した声を出したが、軽いステップでかわし、銃弾を撃ちこんで来る。

 音速を超えた鉛球の数々。

 通常の俺だったら、ろく反応できずに急所を撃ち抜かれ、倒れ付していただろう。けれど、今の俺なら話は別だ。

 「あぁあっ!」

 有り余るエネルギーによって強化された目は、あっさり銃弾を補足し、神経を電流以上の速度で何かが伝達し、足を駆動させ、回避。

 銃弾は放たれてから、それを視認しての回避。どうして俺が、そんな物理法則を超越した真似が出来るのかなんて、どうでもいい。

 大切なことはただ一つ。

 「るぅあああああああああああああああああっ!」

 目の前に居る、こいつを殺すことのみ。

 「前回の攻撃結果から分析、修正ぃっ! 攻撃プログラムを最設定っ!!」

 俺は自身の情報を力づくで書き換え、より優秀な戦士へと変貌させていく。

 元々、<NHシリーズ>は人類を進化させるために作られた存在。ならば、自分自身程度、進化させられないはずがない!

 「無理やり、自己の情報を書き換えて、強化しているのか? バカな! むちゃくちゃだ、そんなもの……我々の製作者ですら、そんな芸当は――」

 「うるせぇ」

 俺の腕は、ついに【ボーン】を捕らえることに成功した。

 【ボーン】の首に手をかけ、激情に任せるまま、絞め続けている。

 「あ、が……あっ」

 ナイフを振るい、俺の腕を切り落とそうとする【ボーン】。

 はんっ、舐めんな。

 今の俺には、そんな程度の金属じゃ、皮は切れても肉は切れない。もはや、俺の筋肉繊維は対刃効果を持っており、【ボーン】が振るったナイフは、俺の腕から一筋の血を流す程度でその勢いを止めた。

 歴戦の猛者が振るうナイフを、俺の生身はあっさりと止めた。

 「きさ、ま……」

 【ボーン】が苦しそうにもがいて、俺に何かを言おうとするが、その前に、俺は手にさらに力を加えた。

 ぼきり、と骨が折れる音が聞こえた。

 【ボーン】の体から、力が抜ける。けれど、相手は俺と同じ、人造人間。この程度じゃ、まだまだ死なない。

 「だ・か・らっ! しっかり頭を潰して、体をぐちゃぐちゃにしねぇとなぁっ!!」

 壊す。

 砕く。

 千切る。

 掻き混ぜる。

 ぐちゃぐちゃにする。

 「ははっ、あははははっ!!」

 燃え上がる憎悪と悪意。

 何もかも、壊してしまいたいという感情、欲望。

 冷静に思考しなくても、自然と人を壊すにはどうすればいいのか? という問いに解答を導く俺の頭脳。そして、才能。

 こんなものが、俺の才能でした。

 こんな、人を壊すことが、砕くことが、俺の才能でーした!

 「ひゃはははははははははははっ!」

 ああ、なんて愉快。

 なんて、爽快なんだろう。

 欲望を解放するのは、なんて、気持ち良いんだろう。

 憎悪から生まれた破壊衝動。

 俺はそれに身をゆだね、暴れ続け――――気づくと、の周りには死体しかなかった。

 その事実に、やっと気づいた。

 「うわ、ああっ、あぁあああ!」

 鮮血に染まった両手に、人の形をとどめていない、目の前のそれ。

 これを、僕がやった。

 こんなおぞましい所行を、僕が。

 「あ、あ……」

 振り返ると、三人の死体。

 大切な友達だった、三人の亡骸。当然のことながら、【ボーン】を破壊したところで、生き返るわけが無い。

 本当だったら僕は、三人のために殺すのではなく、三人のために守らなきゃいけなかったんだ。

 ああ、わかっている。

 わかっているさ!

 「くそっ! ちくしょう! ちくしょう!!」

 守れなかった。

 大切な友達だったのに、僕は、何もできなかった!

 何が、皇帝だ! 何が人造人間だ! 友達一つ守れない奴くせに!!

 「あぁ、うぁあああああああああああああああああああああっ!!」

 目の端から、生温かい液体がこぼれ続けて、喉の奥から慟哭が吐き出される。

 このまま、自分も壊してしまいたかった。

 なにもできなかった僕を、どうにかして欲しかった。


 「やぁ、どうして泣いているんだい? 陽平」


 ――――そこに、魔女が現れた。

 場違いな明るい声を響かせて、夜の闇から浮かび上がった。

 「ああ、友達が死んじゃったんだね。それで、君は何も出来なかった! うん、それって凄く悲しいことだよねー! ははっ、だから陽平は泣いちゃってるのか!」

 「……ぁあ」

 何も答えられない。

 不謹慎な態度に怒りを抱くことも出来ず、悲しむこともできず、ただ、呆然と魔女の顔を眺めていた。

 「うんうん、やっぱり君はいいねっ! 無様に泣いているときですら、可愛らしい」

 何を言われようが、どうでもいい。

 もう、僕には…………

 「そんな可愛らしい陽平に、朗報です! なんとっ、私と取引をしたら、死んでしまった三人のお友達を生き返らせてあげましょう!」

 「………………は、あ?」

 辛うじて、それだけ声が出た。

 理解できない。

 目の前の魔女が、何を言っているのか、わからない。

 「といっても、信用しないだろうからー、うん、後払いになっちゃうけど、先に三人を生き返らせてあげよーか!」

 明るい声で、魔女は空中に五指をさ迷わせ、

 「肉体の再構成、および、黄泉から魂の召喚を行う。蘇生魔術『泰山府君祭』――発動」

 厳かな声と共に、空を叩いた。

 まるで、見えないキーボードが目の前にあるかのように。

 そして、そこから、奇跡が始まった。

 「あ、ああ、あああああっ……!」

 魔女の指先から、降注ぐ白い粒子。

 それが三人の死体に降りかかると、流れ出た血液が消滅。貫かれた頭部も、白い粒子と混じり合って修復されていく。三人が、人としての形を取り戻していく。

 ほんの十数秒の間だったけれど、僕にはとても長く感じられて。

 そして、光の粒子が消え去ると、三人の体は完全に修復された。

 「……んぅ」

 「あうぅ」

 「あ、んんー」

 三人の口からは、吐息の音と、唸り声が。

 ああ、ああっ!

 生き返った!

 本当に、本当の、嘘みたいな出来事で、生き返った!

 「ははっ、やった、やったぁ」

 ありえない奇跡。

 世界の常識を超えた、出来事。

 でも、そんなことはどうだったいい!

 「ほうら、どうかなっ! これで君も泣き止むよねっ!? 後は、私の願いを聞いてもらうだけ、っと、わぷっ?」

 奇跡を行使した魔女に、僕は思わず抱きついた。

 「ありがとう、本当にありがとう」

 ろくな文章すら思い浮かべることが出来ず、僕はひたすら「ありがとう」と魔女に抱きついたまま言い続けた。それしか、できなかった。 

 「あー、陽平? この状況は私としても棚ぼたで嬉しいんだけどさっ! ちゃんと取引内容を聞いてだね――――」

 「なんでもいい。僕に出来ることなら何でもするし。出来ないことでも、意地でもやってみせる」

 「ふぇ?」

 僕はここで一度死んで、そして、救われた。

 この魔女に救われた。

 どんな意図で僕の友達を助けたのか? どんな思惑を持って、僕を救ったのか? そんなことはどうでもいい。

 例え魔女が、この先、世界を敵に回しても、僕は魔女の味方で居続けるだろう。

 それっくらい、僕は感謝しているのだ。

 「んー。そこまで言ってくれるのは嬉しいんだけど……いざとなると、照れちゃうな」

 もごもごと、魔女はちょっと言葉を濁らせた後、僕の耳元で囁く。

 「それじゃ、陽平。私の相棒になってくれるかなぁ?」

 これが僕と魔女との契約。

 と安田猫子の、血まみれの青春の始まり。

 『悪の執行人』が誕生した瞬間だった。

 


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