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ライターアースと笑おう  作者: 六助
プロローグ
3/33

世界の危機ってこんな感じ

 世界の定義は色々ありますが、とりあえずは地球規模のピンチですよ。

 「はっきり言いますと、このままだと一カ月後には世界は滅んじゃいますね。それはもう、文句のつけようが無いほど物理的に」

 悪魔はそう笑顔で言葉を続ける。

 「そして、それを救えるのは何と、陽平さん、貴方一人だけなのです!」

 正直、唐突過ぎて話についていけない。

 世界を救えるのが俺だけ?

 はぁ? こんな一介の高校生に過ぎない俺が、世界を?

 いつから世界はそんな安い物になっちまんたんだか、まったく。

 目の前の悪魔へ言いたいことはたくさんあるが、とりあえず一言。

 「まず、この縄をほどけ」

 「いやです」

 「いやですじゃねーよ! 普通にほどけよコラぁ!」

 俺は現在、目の前の悪魔に拘束されていた。

 どこから出してきたのか、ご丁寧に縄でぐるぐる巻きにされている。

 「だって、縄をほどいたら逃げるじゃないですか、陽平さん」

 「いきなり世界を救えだなんて言われたら逃げたくもなるわ!」

 想像してほしい。

 ある日、いきなり現れた少女(悪魔)に、世界を救って欲しいと言われたこの状況を。

 引いた。

 それはもう、この場に居るのが耐えられなくなるぐらいどん引きだった。

 「あれ? 俺はなんで悪魔なんかと話してるんだろう? とか、今の状況を冷静に考えちまったじゃねーか」

 「まー、この状況で素に戻ったら、やってられないという気持ちはわかりますけど」

 「やめろ。お前が原因なのに、俺を憐れむような目で見るな」

 悪魔に憐れまれるなんて、もう最悪だ。

 「でも、世界の危機なのは本当ですし、それを救えるのも陽平さんしかいないのも本当ですから、さっさと現実を受け入れてください」

 「……三十秒くれ」

 俺は深呼吸し、ふと、窓から見える青空を仰いだ。

 ああ、今日はいい天気だなぁ。

 あはははははははー。

 あははは、はぁ……。

 「わかったよ。受け入れるかどうかは置いておいて、とりあえず話を聞いてやる。だから、さっさとその世界の危機とやらを詳しく説明しやがれ」

 「ふふっ、陽平さんならそう言ってくれると信じていましたよ」

 にこやかに悪魔は微笑む。

 子犬を連想させる可愛らしい微笑みだったが、その時の俺にとっては、ケルベロスがよだれを垂らして俺を狙っているように感じた。



 「始まりは、とある研究所が、うっかり秘密裏に開発していたウイルスをばら撒いてしまったことが原因なのです」

 「うっかりで済まねぇレベルじゃねーか! つか、ウイルスって! かなりやばいんじゃねぇのか?」

 「いえいえ、そのウイルス自体には殺傷性とかは皆無なんですけどねー」

 悪魔はホワイトボードにペンを走らせ、『ウイルス』と書きこむ。

 ホワイトボード、どこから出したんだろう? なんて質問は今更野暮か。

 「問題は、そのウイルスが人間に異能を宿らせるという事です」

 「異能? 手から炎を出したり、電気を操ったり、みたいな奴か?」

 「そういう類の物だと考えてもらってオッケーです。要するに、現代科学じゃ、ちょっと説明できないレベルの現象を引き起こせるようになるんですよ」

 『ウイルス』から矢印を引き、その先に『異能発生!』と書き足された。

 「しっかし、それだと矛盾しねぇか? そのウイルスを作ったのはいわゆる、その現代科学って奴なんだろ?」

 「別におかしくはありませんよ。その研究所は科学とオカルトの両方を研究していましたから。多少ブラックボックスな部分はありますが、オカルトも科学と似た部分がありますし」

 「ふん。まぁ、そこら辺は素人の俺がいくら聞いても理解できそうにねぇな。んで、そのウイルスが原因で、超能力者大量発生ってわけなのか?」

 「んー、そういうわけでも無いんですよね」

 ひゅんひゅん、と軽やかなペン回しを披露しつつ、悪魔は言葉を続ける。

 「そのウイルスっていうのか、かなり感染力、発症力、ともにもの凄く低くて、大抵の人間は、まず異能力を得ることなんてないですね。実際、ウイルスはばら撒かれてから、ほんの数時間で死滅してしまいましたし。その規模も、田舎町一つ程度でしたしね」

 しかし、と悪魔は言葉を区切り、ホワイトボードにペンを走らせた。

 『ウイルス』と『異能発生!』を丸で囲み、そこから大きな矢印を引き、そこ先には『異能力者×4誕生』とでかでかと書かれている。

 「何の因果か、十万人に一人の割合でしか発症しないはずの異能が、その田舎町に四人も発生してしまいました」

 「……なぁ、もしかしてその田舎町って」

 「無論、陽平さんの住んでいるこの町ですよ」

 「うっわぁ」

 俺は思わず 頭を抱えたくなった。

 なんでよりにもよって、この町に? ていうか、この町にそんな大層な研究所あったのか?

 苦悩する俺に、追い打ちをかけるように悪魔は言う。

 「そして、最悪な事に。その四人の異能力者の中に、この世界を壊しうる力に目覚めた者がいるんですよねー」

 「さらっと、重要なことを言わないでくれ」

 「あ、ちなみにその異能力者は世界を壊す気満々ですから」

 「わざとだな。わざと俺を追い込むような言い方をしてるな」

 「いえいえ、そんなまさかぁ」

 その笑顔は肯定と受け取ったぞ、こんちくしょう。

 「つーか、なんでそいつが世界壊す気満々だってわかるんだ? そいつに直接聞いたわけじゃあるまいし」

 「それはですね、現にその人が世界を壊しかけたことがあるからですよ」

 「は? どういう事だ?」

 悪魔は目を細め、唇の端を釣り上げる。

 それはいままでの可愛らしい笑顔とは違い、正真正銘、人を誑かす悪魔の笑顔だった。

 「陽平さんは疑問に思いませんでしたか? なんで悪魔である私が、世界の危機を救えだと言うのかを?」

 「いや、そこはつっこんじゃいけないところだと思って。正直、来るなら悪魔じゃなくて天使の方が異和感無いと思ったがよ」

 「そうですね、本来なら、天使と呼ばれる存在が来るのが適切です。実際、前回の時には天使が来ていましたし」

 前回?

 その単語に異和感を覚え、尋ねようとするが、その前に悪魔が答える。

 「前回、天使と天使に選ばれた勇者が世界をかけて異能力者と戦い、敗れました。そして、世界が滅んでしまう寸前、勇者が自らの存在と引き換えに私と契約をしたんです。一カ月前まで、時を戻すと」

 「で、現在に至るってわけか?」

 「ええ、そうですね」

 俺は軽く絶望した。

 だって、そうだろう?

 正式に世界を救う者として選ばれた奴が、ものの見事に失敗してるんだ。一介の高校生である俺がどうにかできるわけがない。

 ……否、まだだ、まだ希望はあるはず。

 「なぁ、悪魔。ひょっとして、漫画やアニメみたいに、俺が異能力とかに目覚めたりするのか? それで、こう、バトルしたり、相手の異能力を消すことができたり――」

 「目覚めませんし、できませんけど?」

 「絶望した!」

 俺が甘かった。

 現実には夢も希望もありはしなかったぜ。

 俺が頭を抱えていると、慰めるように悪魔が言葉をかけてくる。

 「陽平さんには異能力や、そういった後天的な能力に目覚める可能性は皆無です。でも、陽平さんにはそんなもは必要ありませんよ」

 「はぁ?」

 「だって、陽平さんですから」

 …………満面の笑顔で何を言ってやがるんですか、この悪魔は。

 初対面の悪魔にここまで信用される覚えはまったく無いんだけどなぁ。

 「なぁ、ずっと聞きたかったんだが、なんで俺なんだ? なんで、一度失敗したってのに、その上ただの高校生である俺のところに来たんだ? 俺より世界を救えそうな奴なんて、数え切れないほどいるだろ?」

 「そうですね、強いて理由を挙げるなら『彼』が貴方を選んだから、でしょうか?」

 「誰だよ、その無責任野郎は」

 悪魔は無機質にその名前を口にした。

 「赤城あかぎ 時春ときはる、前回の勇者にして、世界を救うはずだった者。そして」

 一瞬、悪魔が俺に視線を向ける。

 その視線の意味は、憐憫だとすぐにわかってしまった。

 

 「貴方の唯一無二の親友だった人ですよ、陽平さん」

 

 どすん、と鉄球を胃袋に落とされたのかと思った。

 そう錯覚するほど、わけのわからない吐き気に襲われていた。

 親友がいた。

 この、俺にだ。

 俺は自慢じゃないが、人間関係も中途半端で、知り合いや友達は結構いるけど、親友と呼べる人はいなかったんだ。

 だから、いつかはそんな奴と巡り合えることを期待してたわけなのだが、どうやら、前回にはそんな奴がいたらしい。

 だが、もういない。

 悪魔は、そいつが自分の存在を消して時間を巻き戻したと言った。

 つまりはもうそいつと俺が会うことはあり得ないという事だ。

 なんだ、この気持ち悪さは。

 親友だった奴と言われても、正直、今の俺からしたら会ったことも無い他人のはずだ。

 なのになんで、こんなに気持ち悪いんだよ!

 「陽平さん、貴方は本当に友達思いなんですねー。まさか、存在しなかったはずの親友の死を、そこまで嘆いてくれるとは思いませんでした」

 嘆いている?

 いや、この気持ち悪さはそうじゃない。

 「ちげぇよ」

 これはきっと『怒り』だ。

 「俺は悲しくなんかない。ただ、むかついていただけだ」

 いくら前回、親友だったからといって、今、顔も知らない奴のために泣けるほど俺は人間ができてやいない。

 ただ、苛立つんだよ。

 「前回、テメェの親友すら救えなかった自分自身にな」

 親友だった奴がいたんだろ、前回の俺?

 今の俺みたいに、中途半端にじゃなくて、命を懸けてもいいってぐらいの奴がいたんだろ?

 なのになんで、俺はそいつを救えなかったんだよ!

 「いいぜ、悪魔、上等だ。引き受けてやる」

 気づけば、勝手に口が動いていた。

 「正直、俺は世界を救えるだなんて微塵も思っちゃいねぇ。けどよ、救えるか救えないかじゃねぇんだよな」

 犬歯をむき出しに、俺は笑顔で言ってやる。

 「救わなきゃいけねぇ! 前回、たった一人の親友の親友も救えなかったくそったれな俺に、選択肢なんて最初から無かったんだ! 今度こそ、俺は救わなきゃいけねぇ!」

 中途半端な俺でも、信じてくれた奴がいたんだ。

 世界を救えると、そう思ってくれたんだ。

 「さすがにここで逃げ出すほど、俺は人間やめていないんでね」

 悪魔は俺の言葉にうなずき、にっこりと微笑む。

 「陽平さんならそう言うと思いましたよ」

 「ふん、勝手に期待しすぎるなよ」

 「安心してください。私が勝手に信頼しているだけですから」

 悪魔が俺に手を差し伸べた。

 俺はそれに答えようとし、苦笑する。

 

 「まず、縄をほどけ」

 

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