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ライターアースと笑おう  作者: 六助
ダークカーテン
24/33

化け物

 これで、ダークカーテン編はひとまず終了になります。

 新キャラとか出てきましたが、それは次のお話にて。

 ネームレスには固有の名前が無いと思われがちだが、それは違う。

 彼女がネームレスというあだ名で呼ばれるのは、あくまで名前を使い捨てているからであり、だからと言って『本当』の名前が無いとは限らないのだ。

 というわけで、ネームレスこと、紅花べにばな 散世ちるよという名前を持つエージェントであり、人造人間でもある。彼女はコンセプト上、社会に紛れる必要がなかったので、感情表現などの部分はひどく拙く、起伏の小さいものなのだ。

 しかし、感情が無いというわけでもない。散世は普通の人間より極端に感情表現が難しいだけで、感情はしっかりと存在している。

 そう、例えば、今まで100%を誇っていた任務成功率が崩れてしまったときなどは、それなりに悔しく思ったりしているのだ。

 もっとも、表面上には一切変わりは無く、相変わらずの無表情なのだが。

 「…………以上、報告を終わります」

 「んー、りょーかい、りょーかいっと」

 そこは昼夜とわず、機械的な光によって照らされている場所だった。

 その空間には窓は一切無く、外から完全に遮断されている。そんな遮断された空間に存在するのは、無数のコンピューター、それもいわゆるスーパーコンピューター呼ばれる超高速演算を可能とする類のものばかり。コンピューターの類の他にも、様々な機械がその空間には存在するのだけれど、どれも奇奇怪怪な形状をしており、常人にはその用途を見出すことは不可能だろう。

 ブゥーン、という機械音が耐えない空間で、唯一、機械とは無縁な、休憩用のソファーに金髪の少女がだらりともたれ掛っている。目の前で散世を立たせているのにも関わらず、遠慮の欠片も無い座り方だった。

 「しっかし、めずらしーこともあるもんだねぇ。散世ちゃんがお仕事失敗しちゃうなんてさー」

 けらけらと、ソファーに座っている人物は無邪気に散世を嘲笑う。

 その人物の身長、体型、顔つきなどは少女と呼んで差し支えない十代後半のものだが、にじみ出る雰囲気のようなものが違和感を抱かせる。

 ――――もっとも、鮮血に染まったような、『真っ赤な白衣』という異常な服装を目の前してしまえば、そんな違和感は些細なものでしかない。

 されに言えば、岸田きしだ へだてという異常者を説明するのに、外見などというものは些細なことに過ぎないのだ。

 「……まだ失敗はしてないと抗議。現時点では一時報告、これから対象の捕獲に移る」

 無表情だが、どこか不満げに散世は隔に反論する。

 「いやね、それがさぁ、無理なんだよ、散世ちゃん」

 「無理、とは?」

 無表情のまま首を傾げる散世に、隔は笑いながら答えた。

 「実はさー、研究の費用だしてくれているスポンサーの奴らがさー、木島陽平とその周囲にこれ以上手を出したなら、金を一切出さないとかほざいてくるんよ」

 散世の眉が、疑問で僅かに動く。

 「疑問。なぜ、スポンサーが御影陽平を擁護するのですか?」

 「散世ちゃん、『御影』じゃないくて、今は『木島』だよ。昔馴染みだとしても、呼称は正確にしましょう」

 「…………了解」

 散世が頷くと、隔はへふーと盛大なため息を吐いた。

 「しっかし、まさか『悪の執行人』である彼が、御影から離れた彼が、今なおここまでの影響力を持っているとは思わなかったなー。んー、でも、これがひょっとしたら、タイプ<エンペラー>の真価なのかもしれないねぇ」

 「所長、説明要求」

 「あー、はいはい。無知で愚かな戦闘まっしーん、である散世ちゃんにもわかりやすく説明してあげるからねー」

 ずびしぃっ! とチョップがいい角度で隔の額に叩き込まれた。

 先ほども言ったことだが、無表情だろうと、散世は無感情ではない。罵倒されればそれなりに苛立ちを覚えるのである。おまけに、感情表現が苦手なので、すぐに実力行使に出る癖があるようだ。

 「あー、うんうん、そんなに怒んないでよ、散世ちゃん。私が悪かったて」

 隔は額にチョップを浴び去られたというのに、顔色一つ変えず、気だるげな笑顔で謝る。

 「…………説明要求」

 「んー、そんじゃ説明してあげるねー。いいかい? 彼、木島陽平は人心掌握を目的として造られたタイプだ。彼の行動、才能、言動、全てが大衆を魅了し、彼に好意を持たせるようにして造られている。『御影』の血統はそういう人材を欲しがっていたからね、精々、マスコットキャラクター程度で役に立てば良いと思って造ったんだけど、どうやら予想以上みたいだったようだ」

 「つまり?」

 隔は、ひゃひゃ、と奇妙な笑い声を出した後、愉快そうに言葉を続けた。

 「彼の場合は、他人に好感を与えるだけじゃなくて、自分に忠誠を誓わせるレベルまでその効果を拡大させられるみたい。つまりだ、彼はその気になったら、ひょっとしたら、世界征服ぐらいできちゃうんじゃないかなぁ?」

 散世は隔の言葉を否定できなかった。

 世迷いごと、ただの冗談だと切り捨てることはできなかった。

 なぜなら、現に木島陽平は、否、『御影陽平』だった頃の彼は、『悪の執行人』として、世界を征服しかけたのだから。

 「なるほど、まさに『エンペラー(皇帝)』として相応しく成長しているじゃないか。製作者としては嬉しい限りだけれど……敵対するとほんっと、めんどいなぁ、彼」

 へふぅ、と気だるげに隔は呟く。

 「まったく、資金切られたぐらいだったら、まだなんとかなったのに、まさかあんな化け物まで呼ぶなんて、容赦ないなぁ。製作者に対する愛と無いのかねー?」

 「? どういうことです、所長? 所長が嫌われ者だってことは理解可能ですが、化け物とはどういうことです?」

 「……散世ちゃんもさらっとひどいねー」

 まぁいいか、と隔は一人で納得すると、ぱちんっ、と指を鳴らした。

 すると、まるでSF映画のように、四角く切り取られた映像が二人の目の前に映し出される。

 現代においては、明らかなオーバーテクノロジー。しかし、二人ともその程度のことでは驚きはしない。なぜなら、この研究所では、この程度の技術、そこら辺に転がっているのだから。

 「………………これは……」

 けれども、散世は目を見開いて驚愕した。

 もちろん、映像が出てきたことなんかではなく、その映し出された内容について、である。映し出された映像には、無表情の仮面を崩すほどの衝撃を散世に与えたのだ。

 「まー、幸い、ここはそこから結構遠いし、ある程度の時間稼ぎも置いてあるし、実験データもバックアップはしっかりあるし、なにより――――<NS>シリーズのデータは大分取れた。おまけに、悪魔とかいう不確定要素のデータも取れたんだ、万々歳だろう」

 ひゃひゃひゃひゃ、と笑い、隔は散世に言う。

 「だから、さっさと逃げるよ、散世ちゃん。あんな化け物、相手にするだけ人生の無駄だからねぇ」



 翌日、俺と灯は学校も休みなので、二人でだらだらと室内で過ごしていた。

 俺は積んでおいた漫画の消化を行い、灯は携帯ゲームの攻略をしている。

 「しかし、あれですねー、陽平さん」

 「んー、なんだー?」

 俺と灯は視線を手元から話さず、会話を開始した。

 「なんとか剣君のダークカーテンも完治したっぽいじゃないですかー」

 「ああ、夕日が見える草原で殴りあったからな」

 「古典的ですねー」

 「いやいや、意外と効果あるんだって、これが」

 思春期の悩みなんて、大抵の場合、夕日が見える草原とか、丘とか、川辺とかで殴りあったら解決するものたと師匠が言っていたし。

 「ま、なにわともあれ、これで残りの異能力者はライターアースを含めて二人ですね」

 「だなー。そういや、残り日数って確かあと20日ぐらいだっけかよ?」

 「ですねー。でも、今回はイレギュラーが多いですから、実際、そのリミットは在って無いようなものと考えてもいいかと」

 「あー、マジでかー」

 だるーん、と俺と灯は会話を続ける。

 会話の内容は一応、世界がかかっているのだが、傍からみたらまったくそんな風には見えないだろう。

 いや、だって、しゃーないし。

 昨日、あれだけ気合入れて後輩と殴りあったり、昔馴染みと殺しあったりしたらさ、そりゃ、軽く燃え尽き症候群にもなるぜ?

 ということで、今日は世界を救うとかそういうのは軽く休み。

 のんびりと休日を過ごしているわけだ。

 「んあ、そういえばなんですけどね、陽平さん。ネームレスっていう黒服のお姉さんの件はどうなりました? 確か、剣君、サンプルにされそうになってましたけどー」

 「あぁ、あれな。一応、俺のツテで研究所のスポンサーから圧力をかけてもらったんだ。これであっちは身動きが取りづらくなるだろうし、もう、完治した剣には興味は薄れていると思うしな」

 それに、と俺は言葉を付け加える。

 「俺の師匠がその研究所を跡形も無く潰したっていう連絡が来たし、とりあえずは大丈夫だと思うぜ?」

 俺の言葉に反応し、灯はゲーム画面から目を離してこちらを向く。

 「師匠?」

 「ん? 言ってなかったか? というか、お前も知らないんだな」

 漫画から目を離し、灯の方を向くと、なんというか、灯がえらくふてくされていた。

 「……そりゃ、私だってわからないこととかありますしー。一応、陽平さんのことは、あらかた知っていたつもりでしたけど、あくまでも前回と今回は違いますしー」

 「よくわかんねーけど、ふてくされんなよ」

 「いいんですー。どうせ私は、陽平さんが実はフィクサーと呼ばれる世界を影から操る巨大組織の幹部に買われた人造人間ってことぐらいしか知らない、その程度の女なんですよーだ」

 「俺が今まで秘密にしてきたこと、ほとんど知ってんじゃねーか!?」

 ったく、今までちまちま伏線を張ってきたのに、台無しもいいところだ。

 …………でもまぁ、俺が造られた人間だって知っていた上で、俺となんでもないように会話してくれてたんだよなぁ、こいつ。

 「つーか、お前は俺が人造人間だってことに何かこう、思うことは無いのか?」

 だから俺は、今までなんとなくわだかまっていた気持ちを吐き出してみた。

 灯は、きょとん、と目を丸くし、当たり前のように答える。

 「え? 別にありませんけど。というか、陽平さんが人造人間だからって何かあるんですか? 確か、最新技術で造られたから、漫画やアニメみたいに寿命が極端に短いってこともなく、普通に人生を送っておつりが来る程度の寿命でしたよね?」

 「なぜ知っている? というか、なぜ寿命の話?」

 「いやですよー、陽平さん。寿命の話ときたら当然、結婚関連のことに決まっているじゃないですかー」

 「そういや、お前も悪魔だし、寿命もないからなー」

 「スルー!? そして、未も蓋も無い言い方!?」

 なんにせよ、灯が悪魔だろうと、俺が結構悩んでいたことをあっさりと受け入れてくれたことは事実なわけで、うん、そこだけは感謝しておこう。

 「ああ、人間じゃないで思い出したんだが、灯」

 「…………うぅ、普通に結婚という単語をスルーされたぁ」

 わしゃわしゃと灯の頭を撫でてやる。

 すると、あら不思議、さっきまで不機嫌だった灯が超笑顔になりました。

 「で、思い出したんだがな」

 「はいなー、なんでしょう?」

 「これから俺の師匠がやってくるんだけど、その師匠っていうのが、また人間じゃないというか、普通に化け物でさー」

 「うおう、陽平さんの師匠なのに随分な言い方ですねー」

 確かにそうかもしれない。

 だが、師匠を一言で説明するのに一番的確な単語は『化け物』なのだ。一応、善人の部類にはいる性格をしているからなんとか世界は平和だが、師匠がダークサイドに落ちたら、恐らく、ライターアース同様、世界崩壊の危機になってしまうだろうなぁ。

 「正直に言うと、俺はあの人を世界中の誰よりも尊敬しているけれど、同時に、世界中で一番苦手な人でもあるんだ」

 「陽平さんにも苦手な人がいたんですねー」

 当たり前のことを、なぜかしみじみとうなずく灯。

 「ええい、とにかくだな、師匠は人の形をした最終兵器みたいな人だから、いくら悪魔であるお前でも態度には気をつけれよ? ほんと、気をつけろよ?」

 「はいはい、わかりましたってー」

 にやにやと笑う灯の額にデゴピンをかましてやろうかと思ったが、急に、玄関の呼び鈴が鳴った。

 ……………………ああ、多分、というかこの不吉な感じは絶対に師匠だぜ。

 「はぁ、仕方ない。いくぞ、灯。いつまでも放置していると、あの人は平然とドアとかを突き破ってくるからな。冗談じゃなくて、二回ほど俺の壁は師匠によって破壊されたからな?」

 「どんな人っていうか、人ですか? それは」

 灯の質問に俺は答えない。

 だってほら、師匠って人間かどうかっていったら、化け物って答えたほうが的確な感じの人だし。

 まぁでも、どんな人かと聞かれたら、


 「こんにちは、陽平君。久しぶりだね、元気にしてた?」


 と、人の玄関を蹴り飛ばし、片手でクマの死体を悠々と背負って微笑むような人だと答えよう。

 「たった今、元気じゃなくなりましたよ、師匠」

 「へぇ、そりゃ災難」

 藍色の着物を纏い、絹のような長い黒髪をなびかせ、妖艶に微笑むこの女性こそ、俺の師匠――灰霧渡里という化け物だった。


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