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ライターアースと笑おう  作者: 六助
ダークカーテン
21/33

たまには後ろも向こう

 そんなわけで、なんやかんやのうちに『第三回世界救済会議』は終わった。

 とりあえずの結論としては、剣の保護を現状の最優先にして、後はライターアースの目的を探っていく、という形に落ち着き、千穂ちゃんや明美は表立って関わらないように釘を刺し、学校での噂話や人間観察に勤めてもらうなったのである。

 ちなみに俺は、千穂ちゃんや明美がこの件に関わるのは正直反対だったのだが、どこからか会議の情報が漏れた所為で、関係者として招かざるを得なくなってしまったのだ。

 まぁ、恐らく情報を漏らしたのは猫子の奴だと思うが、あいつが何を思って情報を漏らしたのかはわからない。

 というか、今思えば、俺は相棒だった頃から、あいつの気持ちというものがわからなかったのかもしれない。だから、結果として猫子を傷つけていたんだろう。

 ほんと、俺はどうしようもないな。

 あいつのためを思って行動したことが、あいつと―――――と思って行動したことが、裏目に出て、その結果がこれだ。最悪と言ってもいい。

 けど、それでも俺は立ち止まるわけにはいけないんだ。

 何があったとしても。

 「おう? どーしたんっすか、先輩。そんなところでたそがれて」

 「あー、剣か」

 俺は椅子の背もたれから起き上がり、剣に片手を挙げて応える。

 誰にも見つかりたくないときのために、家にこっそりと仕掛けた回転扉の向こう側にある超プライベートルームでくつろいでいたんだが、そこはさすが天才。まさか、この空間まで探して当てるとは思わなかったぜ。

 「よくここを見つけられたな」

 「先輩の気配を追って行ったら、偶然と仕掛けのある壁に気付いただけっすよ」

 いや、普通に気配とか辿るなよ。漫画じゃあるまいし。

 「しっかし、なんかここかっこいい部屋っすねー! こう、男の隠れ家的な内装とか、さりげなく充実している家具とかが最高っすよ!」

 剣はしげしげとこの部屋を見回し、目を輝かせている。

 「おお、わかってくれるか、このロマンを! 前に猫子の奴にも見せたんだけどよ、反応がいまいちというか、『男の子ってこういうのが好きだよねぇ』みたいな顔されてさぁ」

 「女子ってそうっすよねー。男のロマンをわかっちゃくれないっすよねー」

 このプライベートルームには、俺が集めた模型や銃器の類、ナイフや無駄に尖ったデザインがしてある家具などで構成されていて、ぶっちゃけ、俺の趣味の塊みたいなものだ。誰だって好きな物に囲まれて生活したいって思うときだがあるだろ? 俺はひそかにそのささやかな夢を実現させていたのさ。

 「あ、そうそう、女子といえばなんっすけどねー、先輩」

 「おう、なんだよ、後輩」

 剣は軽い口調で、なんでもないように尋ねてきた。

 「結局っすね、先輩は誰が好きなんっすか?」

 ・・・・・・・・・・・・うん、なるほどなぁ。だから、俺が一人になるときを見計らって近づいてきたわけかよ、剣。

 「一応確認しておくぞ。それは友達として、とかじゃなく、紛れも無く恋人として誰を愛するか? ということだよな」

 「さっすが、先輩。話が早くていいっすね」

 剣は学校中の女子がとろけてしまいそうな、フェロモンが可視化していそうな笑みを俺に向けて話を続ける。

 「先輩って、色んな人間と友達っすよね? しかも、その誰とも仲が良いい。例えば、灯先輩とか明美とか・・・・・・千穂とか」

 「おいおい、俺はしっかり男子とも付き合いがあるんだが。どうしてそこで女子の名前ばっかり列挙するんだよ」

 「これが恋の話だからっすよ、先輩」

 剣は恥ずかしげも無く、実に恥ずかしい台詞を笑顔で言いきった。

 いや、どーでもいいんだがよ、どうしてそこに猫子の名前をリストしてないんだろうな?

 「はっきり言って、誰が見てもわかるっすよ? 灯先輩は陽平先輩のことに好意を持っているし、明美だって先輩には千穂の次に心を開いている。そして、千穂にいたっては、見ればわかるじゃなっすか。あいつが先輩の事を好きなことぐらい」

 「・・・・・・一応訊いておくが、どうしてその中には猫子が入ってないんだ?」

 剣は目を細めて、俺を睨むようにして答える。

 「安田先輩はもう自分自身で言ってたっすから、『恋に破れた』って。俺は敗北者をリストできるほど、先輩の競争率は甘くないと思ってるんっす」

 おおう、この後輩は猫子が見てないところだとなかなか言うじゃないか。でも、気をつけとけよ。俺の経験上、あいつはなぜかこういう陰口みたいなことはしっかり聞いているような奴だから。

 「だから安田先輩のことは除外しておいて、今はこの三人の話っす」

 今までに無く真剣な表情で、剣は俺の瞳を見据えてくる。

 「いや、ぶっちゃけ灯先輩と明美の話はどーでもいいっす。正直、先輩を観察していれば、大体わかったっすから。問題は、千穂のことっすよ」

 「へぇ、知ったような口を利くじゃねぇか」

 「これでも俺は天才っすから」

 嫌味やおごりでもなく、ただ、事実として剣は断言した。

 そう、真の天才という奴は、自分自身が謙遜できないほど、謙遜してしまったら他の全てを否定しつくしてしまうほど理不尽なものなのである。

 だから、剣は断言しなければいけないのだろう。

 自分自身が天才だと。

 「灯先輩に対しては、可愛いマスコット感覚て接していて、でも完全には信用しないようにしている。明美に対しては、ほとんど妹や身内に対するものと似通っているっすね。恐らく先輩は、この二人を恋愛対象とは見てないんじゃないっすか?」

 「くくく、さぁな」

 俺が肩を竦めると、剣の目つきが険しさを増す。

 「・・・・・・とりあえず肯定とみなして話を進めるっすよ。それでっすね、灯先輩と明美に関しては観察していてわかったんっすけど。それが千穂に代わると、まったく判断がつかないんっすよ」

 「ふぅん、つまりお前は、俺が千穂と関わるときだけ気合を入れて『仮面』でも被っているって思ってるのか?」

 「そうっすね。この俺ですら見破れない、とっておきの『仮面』を被っているんじゃないかと推測してるっすよ」

 ほうほう、なるほどなぁ。

 俺は剣が真剣な目つきでいるというのに、ついつい口元がにやけてしまった。

 「何がおかしいんっすか?」

 当然、剣はそれを見逃さす、言及してくる。

 「正直っすね、先輩。俺は先輩が千穂の気持ちに気付いた上で、あんな、生殺しみたいな、からかい半分みたいな態度をとっているのが気に喰わないんっすよ。この際だから、はっきり言うっすけどね、千穂は紛れも無く先輩のことが好きっすよ? あいつの幼馴染である俺が言うんだから間違いないっす」

 剣は俺の肩を強く掴み、握りつぶさんばかりの力を込めて言った。

 「だから先輩。もしも、先輩が千穂の気持ちに気付いて、それを弄ぶような態度をとっているっていうのなら――――俺は例え先輩でも容赦しねぇ」

 そう言う剣の姿は、いつものへらへらとした態度は微塵も感じられず、まさしく鬼気迫るものがあった。

 ああ、だからこそ俺はそれを嘲笑うように言葉を返してやる。

 「だから?」

 目を見開く剣の手に、俺の肩を掴んでいる手を掴み返し、強く握り締めた。

 「お前が容赦しないから、なんなんだよ?」

 「っつ!」

 剣が思わず顔をしかめるほどに、俺は強く力を込めた。

 「お前はあくまで『ただの幼馴染』だろうが。しかも、千穂ちゃんだってもう高校生だ、何も知らないガキじゃねぇ。その千穂ちゃんと俺がどういう関係にあるのかなんて、当事者同士の問題だ。部外者が偉そうに首を突っ込んでくるんじゃねぇよ」

 「・・・・・・先輩、それ、本気で言ってんのかよ?」

 剣の語尾が消え、代わりに俺への敵意が湧き上がっている。

 はは、いいねぇ、剣。なかなかいい塩梅に頭に血が昇ってきてるじゃねーか。

 だがよ、まだ足りねぇな。

 この際だから、いっそのこと全部を吹っ切らせてやろう。

 「つーかな、剣。お前は前提が間違ってんだよ。俺はな、別に千穂と話すときに『仮面』なんか被っちゃいねーよ。お前だって、薄々わかってんだろうが。なんで千穂と俺が話しているときだけ、お前の人間観察が鈍るのか、それはな――――」

 そのために俺は挑発する。

 何かと理由をつけて目を逸らしがちな後輩の目の前へ突きつけてやる。


 「お前が千穂ちゃんのことを誰よりも好きだからだろうが」

 



 えー、どうも、上田千穂なのです。

 陽平先輩の家に行けて、おまけに陽平先輩に頼ってもらって、今日はとっても良い日だと思っていたのですが、最後に思わぬ落とし穴があったのですよ。

 「にゃは、それでねー、千穂ちゃん。陽平の奴ってば、意外とロマンチストなところがあるんだよ」

「あははは、そうなのですかー」

「まー、男はみんなロマンチストだけど、あいつはほんと飛び切りでさぁ」

一見、和やかに会話をしているように見えるかもしれませんが、ええ、実は私、内心凄くビクビクしているのです。

 だって、今、私が会話している相手は、あの安田猫子先輩なのですから。

 元陽平先輩の相棒という噂もあり、そして、何より私の学校では『魔女』のあだ名で恐れられている人なのです。というか、こんな今は陽気に話しているのですけど、私は陽平先輩の家で感じたあのプレッシャーを忘れられません。

 というわけで私は現在、内心ガクブル状態で猫子先輩と談笑しているのですよ。ちなみにあーちゃんはさっきから私の腕にしがみついて、無言して震えています。

「昔、陽平は二丁拳銃に憧れたときがあってね。対して射撃がうまくないくせに、銃の反動に耐えてひたすら練習していたりしてたなぁ」

「あれぇ? 猫子先輩、さりげなく陽平先輩の重大な秘密とか話しちゃってませんか?」

 なんで陽平先輩の昔話に拳銃が出てくるのでしょうか?

 そこら辺を突っ込んで聞きたいところなのですが、猫子先輩は意味深に笑ってごまかすだけ。

 うん、色んな意味で怖くて聞けないのです。

 ああもう、どうしてこんなことになったのですかねー? 本当だったら今頃、夕暮れに染まるこの田舎道をあーちゃんと一緒に帰っていたのに、突然、猫子先輩ってば絡ん来たからなぁ。

 とりあえず、私は怯えるあーちゃんの頭を撫でて『萌え』によるMP回復に努めておくのですよ。

 そんな私たちの様子を見て、猫子先輩は口元を抑えて微笑みます。

 「ふふふふ、そんなに私が怖い?」

 「い、いえいえ、そんなことは多分、きっと、もしかしたら無いので――――」

 「正直、超怖い」

 今まで黙っていたあーちゃんが、なぜかその時に限って即答しました。

 んもうっ、あーちゃんってば空気読んで!? でも、そんな空気読めないあーちゃんも、私大好きだよ。

 「にゃ、にゃははははは! まさか、そこまでストレートに言われるとは思っていなかったなぁ」

 失礼なことを言ったはずなのに、なぜか猫子先輩は上機嫌なようです。

 くっくっく、と口元を押さえて体を九の字によじっているのですが、そこまで面白いことしたのですか、私たち?

 「いやー、素晴らしいね、君たちは。そう言うところが、私は気に入っている。どこぞの万能天才君のように、陰口を叩かないところがね」

 万能天才君・・・・・・あー、剣君のことですか。確かに彼はちょっと、暗いところがあるというか、意外と小心者みたいなところがあるから仕方ないのですよ。

 軽く涙が浮かんだ目じりを拭い、猫子先輩は気まぐれな猫を連想させる笑顔で私の頭に、軽く手を置きました。

 「そして、陽平に対して真っ直ぐな気持ちで想っているところも、気に入っているよ、千穂ちゃん」

 「ぬわっ!?」

 な、なぜそれをっ!? くっ、さすが『魔女』とあだ名されし情報通の猫子先輩! 私の秘めた恋心ですら看破しているとは!

 「いや、ちーちゃんの態度を見ていたら、誰でもわかるって」

 「今明かされる衝撃の事実!?」

 しょ、ショックなのですよー。

 まさか、私の恋心が周囲にバレバレだったなんて。うぅ、ひっそりと愛を育む学校生活を夢見ていたのに。

 「・・・・・・本当に君は面白いね、千穂ちゃん」

 「はい?」

 なでなでと、優しい笑顔で猫子先輩は私の頭を撫でていました。

 「陽平が気に入るもの納得だね」

 「んわっ!? そ、そんなことは、あって欲しいと思っていますけど、いや、確かに気に入っているとは言われたときはあるのですが、それでも・・・・・・・・・・・・」

 私の脳裏をよぎるのは、あの日の出来事。

 今日みたいな夕暮れの時。

 赤く染まった教室。

 二つの影。

 そして――――

 「千穂ちゃん? 一体、どうしたのかな?」

 「い、いえっ! なんでもないのですよ!」

 私は慌ててあの日のイメージを頭から振り払いました。

 ダメなのですよ、こんなときに、あの日のことを思い出したら。思い出すならもっと、しかるべき時にしないと。

 「ふぅん、どうやら千穂ちゃんと陽平の間には、私も知らないイベントがあったみたいだね」

 「見抜かれたっ!?」

 にやにやと笑う猫子先輩。

 もう嫌なのですよ、なんでこんなに人の心を見抜けるのですか? まぁ、私がわかりやすい性格をしているといったら、それまでなのですけど。

 「にゃははは、そう拗ねない、拗ねない」

 けらけらと猫子先輩は陽気に笑うと、私の顔を覗き込んで言いました。

 「お詫びに・・・・・・・・・・・・いや、これはライバルとして、正々堂々戦うために、良いことを教えてあげよう」

 「良いこと、ですか?」

 首を傾げる私に、猫子先輩は、にゃはと笑って囁きます。

 「陽平が、誰よりも心から敬愛する女性のことを、ね」

 そのとき、私は一体どんな表情をしていたのでしょうか?

 ただ、猫子先輩はなぜか満足そうに笑みを浮かべると、その名前を口にしました。


 「灰霧はいぎり 渡里わたり。それが、陽平の師匠にして、陽平がこの世界で誰よりも敬愛する、私たちの宿敵さ」


 夕暮れに照らされた田舎道は、あの日の事を嫌でも連想させました。


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