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ライターアースと笑おう  作者: 六助
ダークカーテン
19/33

木島陽平という先輩

主人公は実はそれなりに凄いというお話。

「目標の能力使用を確認。これより偽装モードを解除、武力を用いて制圧する」

無機質に呟かれた言葉。

一瞬の静寂を破ったのは、銃弾ではなく、二つの切断音。

「う――――そっすよねぇ!?」

引きつった笑みで俺は尋ねてみるけど、黒服のお姉さんは相変わらず答えてくれないっすわ。

 学習しない行動だと言われても仕方ないけど、これは本当にしゃーない。

だって、切り裂かれたんだから。

銃弾も、達人の居合いも防げるはずのダークカーテンが、目の前のお姉さんにあっさりと切り裂かれたんだから。

両手に携えているのは2本のアーミーナイフ。

一体、どんな素材を使えば、俺のダークカーテンを切り裂くことが出来るんっすか、まったくもう。

「んでもって、こりゃ、ちょっとやばいっすねー」

俺は無意識に胸を押さえる。

ぬるりとした生暖かい感触が手に溢れ、生臭い鉄の匂いが鼻腔に充満した。

いつ斬られたんっすかねぇ?

ナイフどころか、それを振るう腕すら見えないっていうのはかなりやばい状況だ。

戦力差がありすぎるっすわ。

「最終警告。投降を推奨する。次は、四肢の腱を切断すると宣言」

警告か、確かにそうだ。

胸に刻まれた十字の傷は浅い。

しかし、恐らく次はこのお姉さんはきっと、文字通り切り刻んでくる。

警告の攻撃で反応すら出来なかったのだから、俺にはその攻撃を回避することは無理って判断した方がいいみたいっす。

はい、てなことで、

「そんじゃ、痛いのは嫌なんで、さっさと逃げることにするっすよー」

三十六計逃げるが勝ちってね。

俺は深く息を吐き、もう一度その名を口にする。

「覆い隠せ、ダークカーテン」

出現するのは漆黒の暗幕。

闇をそのまま布状に固めたような、超常の現象だ。

「最終警告を解除。これより、目的の捕獲推奨レベルを下げます」

黒服のお姉さんがナイフを構えた姿を最後に、ダークカーテンは俺の視界を全て包み込む。

けど、このままじゃ、さっきの二の舞っす。

だから、俺は続いて唱える。

「キーワード『暗い海』」

 異能力を行使するときに一番大事のはイメージだ。

 俺の場合はしっかりと暗幕を頭の中で思い浮かべられるかが、能力の発動に関わってくる。

 強く思い浮かべるほど、能力は強固なものとなり、そして、現実を侵食する・・・・・ってね。

引用はライターアースのメールからっす。

んでもって、俺はその特性を利用して、あらかじめイメージを固めておいた物を、キーワードを唱えることによって、思い浮かべやすくしているというわけっすよ。

ちなみに、暗い海というキーワードからイメージするのは、膨大な数の暗幕。

人さえ溺れてしまいそうなほどの量の暗幕だ。

「ぐ・・・・・・」

 出現した膨大な量の暗幕に押しつぶされ、さすがのお姉さんも身動きが取れない。

 けど、それも恐らくは一時的なもの。

 なぜならほら、俺の耳にはしゅらんっ、しゅらんっ、という小気味良い切断音が聞こえているんだから。

 「ほんっと、お姉さんは化け物っすか?」

 俺は、自分で投げかけた問いの返答を聞かずに、一目散に逃げ出した。

 目的地は先輩の家。

 俺が憧れる、ヒーローみたいな人の家だ。



 目が覚めると、そこには血まみれの女の人が俺を覗き込んでいた。

 「んぎょわあああああああああっ!?」

 はい、そんなわけで、俺は自分の悲鳴と共に起きたわけっす。

 「ちょっ、キョーコさん!? 昨日、話し合ったじゃないっすか! 俺、すぐ出て行くからむやみやたらに化けて出ないって! いい加減、落ち着いたクールな幽霊になるって!」

 俺は悲鳴を上げた後、布団から転がるように部屋の隅へ移動。

 がたがたと震えながら、この部屋に居るであろう和服幽霊に抗議をしてみる。

 すると、部屋の壁に染み出るようにして血文字が浮かび上がってきた。

 血文字は、妙に丸っこい筆跡でこう書かれていた。

 『やだ』

 「反応がかわいいっすよーっ!?」

 やばいっす、不覚にも俺、萌えてしまったっすよ。

 落ち着け、俺。相手のペースに飲まれたら終わりだ。相手は常識が通じない幽霊、ならば、こっちも常識破りの方法で戦うのみっ!

 「ふふふ、いいんっすね? そんな態度をとって? こっちは生命力溢れる男子高校生、

例え幽霊であろうと、キョーコさんは和服美人! つまりっ」

 しゅばっ、と俺はかっこよく立ち上がってポーズを決める。

 「俺はあなたにセクハラすることが出来るっ!!」

 幽霊?

 血まみれ?

 上等っすよ。こちとら性欲が有り余った男子高校、美人幽霊なんてむしろ望むところ。

 それが美女だったなら俺は――――神様にだってセクハラしてみせるっ!!

 『・・・・・・これでも?』

 キョーコさんは血文字を変化させ、ご丁寧にも三点リーダーが書かれた文章を浮かび上がらせた。

 そして、俺の目の前には血まみれの和服美人が出現する。

 絹のように艶やかな黒髪は赤く染まり、瞳は黒く濁っている。身に着けている着物だって、元々の色が赤なのか、血に染まった赤なのかわからないほどの出血量。

 思わず俺の心に本能的な恐怖感が生まれた。

 当たり前だ、目の前に居るのは正真正銘の幽霊。この家に古くから住まう悪霊。霊能力者ですら対処できない、絶対的な恐怖の権化。

 だが、俺はここで挫けるわけにはいかなかった。

 だって俺は男子高校生だから。

 エロいことが大好きな、男子高校生だから――――

 「イメージ『二次元萌え化幽霊』!!」

 能力を使うときと同じだ。

 強いイメージで現実を変える。妄想のフィルターで、目の前にいる血まみれの幽霊を、萌え萌え美少女幽霊に脳内変換するっ!

 見ろ、よく見るんだ、破竜院剣! 目の前に居るのは、着物を濡らして、体のラインをくきっりと浮かび上がらせた美少女だ。その美少女が、俺に挑発的な視線を向けているんだぞ・・・・・・つまり、そういうことだ。

 「よっしゃー! この展開はエロ漫画で予習済みっすよ! このまま理性を崩壊させて、本能に赴くままキョーコさんとR18な展開にっ!」

 うひゃひゃひゃー、と古い漫画のスケベ主人公のように笑いながら、俺は欲望に従い、勢い良くキョーコさんに抱きつこうとし――

 「朝っぱらからうるせぇよ!」

 エプロン姿の先輩に蹴飛ばされました。

 「ったく、剣よぉ。いくら気の知れた先輩の家だからってな、朝っぱらからはしゃぎすぎるのはどうかと思うぜ?」

 先輩はお玉片手に、俺に軽く説教をしてくれると、「やべぇっ、味噌汁っ!」と言いながら台所へ駆けていった。

 「ははっ、相変わらず先輩は常識人っすねぇ。俺も見習わないと」

 部屋の中を見回すと、キョーコさんも、壁の血文字も既に無い。

 なるほど、どうやらキョーコさんも先輩には弱いらしく、というか嫌われたくないらしく、壁の血文字のような、先輩が見たら「ちょ、おまっ、これふき取るのにどれだけ洗剤使えばいいんだよっ!」と言われるような悪戯はすぐに消したみたいだ。

 幽霊にまで好かれているなんて、ほんと、どんだけ凄いんっすか、先輩。

 「マジで、見習わないとっすねぇ」

 俺は学校中の、ほぼ全員の人間から好かれている先輩の人柄に憧れつつ、先輩みたいになれば、彼女も少しは俺の方を向いてくれるのだろうか? なんて、バカみたいな妄想を思い浮かべた。

 「でも、少なくともそうなれば、こんな能力ダークカーテンに頼るような情けないことにはならないっすよねぇ」

 ・・・・・・・・・・・・とりあえず、着替えて顔を洗おう。

 自虐なら、それからでいい。



 唐突っすけど、先輩は本当に凄い人だ。

 まず、先輩には苦手な分野というものが一切無い。

すべからく、満遍なく、大体のことは、運動や勉強、料理、芸術などといったものはある程度さらっとこなしてみせる。というか、苦手なものがあったとして、先輩はあっさりと努力を積み重ねて、それを克服することが出来るのだ。

先輩は「ただの器用貧乏の中途半端、凡人の意地みたいなもんだよ。なんでも出来るのはお前の方じゃねーか」と言っていたけれど、俺は先輩の方が数段凄いと思う。なぜなら俺は、ただ才能に頼って『なんでもできる』状態にあるだけで、先輩みたいに努力を積み重ねて得た結果ではないから。重みがまるで違う。

 わかりやすい例えをあげると、『最初から何でも出来た天才』が俺で、『努力で何でもできるように鍛え上げた達人』が先輩って訳っす。もう、明らかに後者の方が凄いし、好感も持たれるじゃないっすか。

確かに先輩の『何でも出来る』は、俺の才能と違って、平均値より多少上というレベルで、突出したものじゃないっすけど、先輩はそれを『中途半端』と嫌っているけど、逆にそれこそが先輩の凄さの一つでもあるんっすよ。

正直、俺には信じられないっすよ? だって、先輩が言う『中途半端』のラインは、ちょうど『もっとも多くの人に好かれやすい』レベルなんっすから。

俺みたいに何でも人並み以上に出来る万能型の人間は、大抵、好かれるというよりも羨まれ、妬まれ、例え好かれたとしても、どちらかというと崇拝に近い感情だったり、ろくなことが起きない。

けど、先輩はまるで違う。先輩の中途半端さに、人々は共感と得て、その中途半端を克服しようと努力する先輩の姿に人々は感心を覚える。そして、いつの間にか、先輩の周りにはたくさんの人が居るんだ。純粋な、善意と友情から集まった仲間たちが。

ああ、そうだ、だから、先輩は凄い。

俺は生まれてこのかた、これほど人に好かれている人間を見たことが無いっすよ。

ぶっちゃけ、リアルに友達百人とか居るらしいし、その全員と関係を良好に保っていて、なおかつ先輩自身も無理せず楽しく人間関係を構築している。

かく言う俺もその一人っす。

いやぁ、なんっつーか、もはや凄いを通り越して異常っすね! なんか、将来大勢の人間を纏めて、凄いことをやりそうなイメージがあるというか、昔の『英雄』っていうのは恐らく、先輩みたいなカリスマを持っていた人間のことだったとさえ思う。

さぁて、何で俺が現在、ここまで先輩を褒めちぎっているのかと言うとっすね、うん、改めて先輩の凄さを思い知らされたって言うのが大きいっすね、やっぱり。

「んじゃ、集まってくれてありがとな。手元にお菓子とジュースを行き渡ったか? うっし、問題無いみたいだな。なら、遠慮なく『第三回世界救済会議』を開始するぜ」

場所は、先輩宅の茶の間。

そこに、俺と先輩を除くと合計4人が丸いテーブルを囲って座っている。

一人目は聖名灯先輩。

先輩の相棒にして、この世界に顕現した世界救済を目論む悪魔。

二人目は上田千穂。

俺の幼馴染にして、高校生で既に画家として不動の地位を築いているという異常才能者ばけもの

三人目は桐生明美。

千穂の親友にして、かつて『ベイビーボマー』という異常能力を暴走させたにも関わらず、正気に戻り心の闇を打ち払った『強い』人間。

ここまででも十分凄いメンバーなんだが、俺は、最後の一人を、この人を自分の都合で呼び出せる先輩を心底尊敬した。

 「にゃはははー、陽平。なかなか面白いことになってるじゃないか!」

 茶髪の美少女は陽気に笑う。

 四人目、安田猫子先輩は心底楽しそうに、猫のように笑う。

 この笑顔を見たら、彼女を知らない人間は信じられないだろう。

 学校の情報を、この町の情報を、いや、時にはこの国の重要機密でさえ笑顔で売り、人の運命を弄ぶ魔女にして情報屋だということに。

 「まぁな、猫子。少なくとも、お前を退屈させない程度には愉快な事態になっているぜ」

 そんな彼女と気軽に会話できる先輩はやっぱり凄いと思い、心底尊敬できると思い、そして――――そんな先輩が、俺は怖かった。


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