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ライターアースと笑おう  作者: 六助
ダークカーテン
17/33

万能な後輩

短いですが、区切りがよかったので。

 破竜院剣という後輩について紹介しよう。

容姿端麗。

 あいつはそこら辺のアイドルなんか目じゃないほどに、容姿が整えられており、一つ一つの体のパーツが完璧に近い。切れ目がちの瞳に、整えられた長身のスタイル。この学校では、いや、この国でもあいつとまともに並べるほどの容姿を持った人間は少ないだろう。

 頭脳明晰。

 驚くほどにあいつは頭の回転が速く、思考も柔軟だ。難解な方程式だろうが、一瞬で看破し、推理小説なんかは、探偵が犯人を見つける前に犯人を言い当てる。本人の話だと、既に二十ヶ国語は話せるらしい。そんな頭脳明晰なあいつが、なんでこんな田舎の学校に通っているかというと・・・・・・いや、やめておこう。これはプライベートな問題だしな。

 そして、万能天才。

 あいつは万能で、そして天才だ。

 例を挙げるときりが無いが、そう、例えば、初めて竹刀を持ったその日に、段位を持っている剣道の達人から一本取ったり、一回、その料理を食べただけで、同じ料理を完全に再現できるのだ。さらには美術で絵を描けば、何十年に一度の才能だとその道のプロに驚愕されたりなど、その逸話は数知れない。

 出来ないことなど何も無し。

 あいつがこの世界の中心だと言われたとしても、俺は不思議に思わない。

 だから、俺は少し信じられなかったのだ。

 そんなあいつが、破竜院剣が、息も絶え絶えの状態で、血まみれになりながら俺に助けを求める姿なんて。

 

 

 「いやー、ほんと助かったっすよ、先輩! 一時は本当に走馬灯がこう、ぐるぐるーっと頭を駆け巡りましてねー、先輩とのありし日の思い出なんかに浸っちゃりなんかしましてね。あと数分ぐらい遅れてたら、ほんと、あの世行きでした。つーか、凄いですね、灯先輩。なんか手をかざすだけで傷があっという間に無くなって、まるで魔法使い、いや、確か悪魔でしたね。いやぁ、まさか悪魔なんてものをこの目で見られると思いもしませんでしたよ。あ、今思ったんですけど、悪魔が居るなら当然、天使も居ますよね! 先輩、天使とは知り合いじゃないんっすか? その天使ってエロいんで――――」

 「るっせぇ!」

 俺は数分前まで、重病人だった剣に対して、拳骨を落とした。

 剣が頭を押さえて、涙目でこちらを見てくるが、あいにく男に同情する主義は無い。

 「つぉおおおおおおっ、超痛いっす。何するんですか、先輩」

 「何って、うるせぇんだよ、後輩。数分前まで死に掛けだった奴が、ぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇよ。傷が開いたらどうするんだ」

 玄関で血まみれの剣を見つけると、俺はまず有無を言わさずに居間に担ぎこみ、灯に要請して剣の傷を治させた。

 灯はこのゲーム中、異能力者を直接排除するような行動以外は、ある程度自由に力を行使できるらしいので、こういった傷の手当てぐらいだったら、一瞬で済ませることが出来るらしい。

 さらに言えば、異能力者を『直接』排除するような行動はダメなのだが、俺に銃器の類や毒ガスなどといった兵器を用意することなんかも実は可能なのだ。ま、俺はそんな物騒な物に頼る気など毛頭無いので、今後もその能力は封印されているだろうが。

 「天使はいますよー、剣さん。けど、今回は多分、この世界に登場することは無いと思いますけどねー」

 噂をすれば影、灯はその手に急須きゅうすと湯飲み、お茶菓子が乗ったお盆を手に登場した。

 ただし、制服姿ではなく、髑髏マークのニット帽に、シルバーアクセサリーをジャラジャラつけた上下真っ黒な私服で。

 「そりゃ残念・・・・・・って、うおっ!? なんっすか、灯先輩、その格好。言っちゃあなんですけど、似合ってませんよ、それ」

 「知ってますから、大丈夫です」

 にっこりと、なんでもないように灯は答える。

 前にも俺は剣と似たようなことを聞いたのだが、なんでも、髑髏マークやシルバーアクセサリー、黒い服装などは、悪魔の正式ユニフォームらしく、灯本人も渋々着ているのだとか。

 さて、閑話休題はここまでだ。

 そろそろ本題に入るとしよう。

 「剣、俺たちの事情はさっき話した通りだが、理解できたか?」

 「ういっす、そりゃあもう」

 剣は女子を卒倒させるような笑顔で、冗談交じりに敬礼をした。

 「簡単に纏めると、陽平先輩はこの世界を守るために、実は悪魔だった灯先輩と一緒に異能力を持つ人間と戦っているんっすよね! やべぇ、かっこいいっすよ、先輩! まるでラノベじゃないっすか!」

 「ライトノベルか、確かに、そんな展開だな」

 事実は小説より奇なりというが、小説みたいな展開が現実に起こるとは思っていなかったぜ。さすがに、小説より奇なりってほどじゃないけどな。

 「つーか、お前、相変わらず理解はえーな、おい。俺なんかこの灯から話を聞いたときには思わず現実逃避しちまったぜ?」

 「あー、実際、逃げようとしましたもんねー。まったく、暴れる陽平さんを縛るのは大変だったんですよ?」

 「し、縛りプレイ・・・・・・だと。さすが先輩、転校生と同棲しているだけでも凄いのに、その上さらにそんなマニアックなプレイまで」

 「落ち着け、剣。文脈的にお前の思考はおかしい」

 剣は万能なのだが、思考がエロい方面にズレがちな所が玉に瑕だ。

 「やだなぁ、先輩。健全な男子高校生としては当然っすよ、とーぜん」

 軽やかに笑う剣。

 確かに、剣の言うとおり、これくらいが思春期の男子としては当然なのかもしれない。

 俺は『師匠』の教えで、そういった感情を表に出さないよう訓練されているから、よく淡白だと勘違いされやすいのだが、本当は俺だってエロいことをしたいと思っている。

 だってほら、男だもの。

 が、『文脈的に思考がおかしい』と言ったのは、エロ方面だけじゃない。

 「なぁ、剣」

 「なんっすか?」

 「お前、異能力者だろ?」

 俺の質問に、剣は見ていてわかりやすいほどに硬直した。

 考えてみれば、おかしいだろ、普通に。

 いくら剣の思考が柔軟だからといって、世界の危機や異能力だなんてライトノベルじみだ出来事を、何の疑いもなく肯定できるわけがない。

 例え、目の前で魔法を使われたとしても、だ。

 この『俺』でさえ現実を疑って逃げ出したくなったんだ、いくら万能だったとしても、一般人であった剣がそんなにやすやすと受け入れられるほど、世界に危機は軽くない。

 ならば、答えは簡単だ。

 剣が実際に、その当事者であるのなら、俺の話を理解できる。

 「・・・・・・・・・・・・すげぇ。なんつーか、さすが先輩って感じっすね! 実際に、このことは俺から話すつもりだったんっすけど、まさか先に言われるとは」

 「いや、後輩が血まみれで倒れてたら何か事情があるって勘ぐるのは当たり前だろ? だから俺の身の回りに起こっている出来事を当てはめてみただけだ。だからそんな目を見るんじゃねーよ、恥ずかしい」

 後輩である剣に、まるでヒーローショーを見る子供みたいな目をされると、恥ずかしいを通り越して気持ち悪くすらあるのだ。

 まったく、俺より格段に上のスペックを持っているくせに、なんで俺みたいな奴を慕っているんだかなぁ、ほんと。

 「じゃ、ネタバレされちゃったんで、さくっと状況説明しますね。まず、先輩のおっしゃるとおり、俺は異能力者です」

 俺が複雑な想いをしていると、剣があっけからんと、自らの正体を明かした。

 「異能力っつっても、俺の能力は貧弱で、ただ、少し頑丈な黒いカーテンを出現させるぐらいっすね。おまけに、そのたびに傷を抉られるような思いもしなきゃならないし、マジ勘弁って感じっすよ」

 剣は軽々と話しているが、俺はその内容に戦慄している。

 こいつは、この後輩は、異能力をその身に宿していたとしても、心の闇がかなり増幅されているであろう第三段階目に進行していたとしても、まるでいつもどおりなのだ。

 つまりそれは、完全に異能力を掌握しているということ。

 「剣、お前の方がよっぽどすげぇよ。俺は前に一人、異能力に感染した奴を見たことがあるが、お前みたいに平然とはできていなかったぜ。勘違いするなよ、別にそいつの心が弱かったわけじゃねぇ、お前が強すぎるんだ」

 「やーだなぁ、そんなおだてないで欲しいっすよ、先輩。それにほら、俺の能力は明美のとは違って、さほど感情は左右されないんっすよ」

 その言葉に、今度は俺が硬直することになった。

 「剣、どうしてお前が明美の能力を知っている? 俺は一度も、明美の名前は出したつもりはなかったぜ?」

 「・・・・・・あー、やっちゃいましたか。多分、能力を使いまくって逃げていたせいで、若干精神が不安定になったのが原因っすね。ったく、俺らしくないミスでしょう?」

 剣は自虐的に笑った後、サーカスのピエロのように両腕を広げて大げさに振舞う。

 

 「俺、ダークカーテンは今の所、ライターアースの勢力下にあります」

 

 その仕草は、さすが剣といったところか、なかなか様になっていた。


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