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ライターアースと笑おう  作者: 六助
ベイビーボマー
14/33

平穏な現在、絶望の未来

 これにてベイビーボマー編は終了でございます。

 次の章からは、本格的に彼が『普通の高校生』ではないことを証明していく感じになるかと。

 俺はあの時、千穂ちゃんが明美に抱きついて、そして憑き物が落ちたように明美が泣き崩れた場面を見ていたところまでは覚えている。

 もう大丈夫だな、そう思い安心すると、俺の意識はあっさりと闇の中に沈んでいって、気付いたらときには病院の白い天井を眺めていた。

 体がいまいちだるくて動けないので、首だけ動かして辺りを見回すと、銀色のフレームで四角い形のデジタル時計が、あの時から一日経った日付と、17:50という数字を表示している。

 どうやら、あれから丸一日俺は寝ていたらしい。

 丸一日?

 やばっ、偽装モードにしてねぇし、俺の体を一般的な病院に調べられたらかなりやばいんじゃねーの? とか焦っていると、いつの間にか現れた猫子に説明をしてくれた。

 「にゃはははっ、相変わらず、後先考えずに無茶をするねぇ、陽平は。病院のことなら心配しなくていいよん、君の事情を知っている『こっち』関係の医者を用意させたから。それとしっかり口止めもさせてあるしね。あ、そうそう、君の可愛い後輩はもう心配ないみたいだよ? ちょっと怪しげな人間が調査に来たみたいだけど、私がうまく誤魔化しといたし」

 「おいおい、随分気が利くじゃねーか。気が利きすぎて、この後の料金請求が怖くて仕方ないんだけどよ」

 「心配しなくてもオッケーさ。体で払ってもらうから・・・・・・性的な意味で」

 「はっはっはっは、相変わらず冗談がうまいなぁ、猫子は」

 「にゃはっ、にゃはははははは」

 「猫子? 笑顔だけど、目が笑ってねぇよ? というかさ、俺の可愛い後輩たちとか、子犬系転校生とかはどこだ? あいつらの性格なら、俺の見舞いに来ていてもいいはずなのによ」

 俺の質問には答えず、猫子は言葉を続ける。

 「知ってるかなぁ、陽平。私は昨日ね、珍しく気を利かせて、君の可愛い後輩である上田千穂ちゃんに、同じく君の後輩である桐生明美ちゃんの居場所を教えてあげたんだ」

 「ほんと、どこまでお前は見透かしているんだか。つーか、お前がどうやって明美の居場所を千穂ちゃんに教えたんだ? 千穂ちゃんの携帯番号を知っているくらいならおどろかねーけどよ、明美の場所は例外だろ。明美にGPSでも付けてたのかよ?」

 「にゃははははっ、まさかー、そんなわけないじゃん!」

 「だよなー、さすがにそこまでしねぇよな!」

 俺と猫子はしばらく笑い合ったが、次の猫子の一言で俺の笑いはぴったりと止むことになった。

 「GPSを付けているのは陽平にだよ」

 「・・・・・・・・・・・・」

 薄々気付いていたけどよ、なんか、猫子がコンビを解消してからやけに俺に絡んでくるというか、行動が、その、ストーカーっぽい感じなんだが。

 「つーか、今気付いたんだけどよ、なんか俺、拘束されてねぇ? 両手が手錠でベットに繋がれてんだけど? つーか、いつまで経っても体のだるさが消えねえんだけど?」

 「にゃはははっ、エロゲーに似たようなシュチエーションがあったから参考にしてみましたっ。もっともね、そのエロゲーだと男女逆だけど」

 「猫子、猫子。お前の目がいつものさわやかな感じじゃなくて、こう、ねっとりと絡みつく感じの視線を向けてくるんだけどよ?」

 「にゃははははははー」

 「だから目が笑ってねぇよ!」

 なんだ、この状況っ!?

 昨日、俺、すげぇがんばったじゃん。結構命がけで頑張ったじゃん、なのになんで陵辱イベントみたいなの発生してんだよ!

 しかも、その相手が昔の相棒って・・・・・・せめてもうちょっといい雰囲気で、普通に拘束されてなきゃご褒美なのにっ!

 「ちなみに人払いは済んでいます」

 「わあっ、状況がすでに詰んでやがるなぁ、畜生!」

 さすがは猫子、抜かりが無い。

 いーやー、犯されるぅ、と俺がぎゃあぎゃあ騒いでいると、今まで笑顔だった猫子の表情に影が差し、ぽつりと呟いた。

 「・・・・・・最近さ、陽平は冷たいよ。『普通の高校生』になりたい君が、私と関係を断ちたいと思うのはわかるけど、それでさ、寂しいんだよ」

 その呟きがあまりにも寂しげで、切なげだったから、俺はやっと自分の過ちに気付いた。

 関係を断ちたがっている、か。

 確かにそうだよな、そういう風に見られてもしかたねぇ行動をしてきたけどよ、別に俺は猫子のことが嫌いなわけじゃない。

 嫌いだとしたら、元々、コンビを組むわけが無い。

 つーか、コンビを解消したのだって、ある意味猫子のためなんだが・・・・・・まぁ、今言うことでもないだろう。

 「なぁ、猫子」

 ただ、このまま勘違いされるのも嫌だし、少しだけ本音を言っておくとするか。

 「情報料とかさ、そういう仕事関係の返済としての強制じゃないなら、俺はお前と一緒に居たいぜ。むしろ願ったり、叶ったりだ」

 「陽平?」

 首を傾げる猫子。

 やれやれ、と俺はため息を吐きつつ、手錠を力任せに破壊した。

 俺が手錠を壊したことについて猫子は驚かない。

 いくら体がだるいからといって、こんな手錠1つで俺を拘束できないことを猫子は誰よりも知っている。

 それなのにこんな真似をしたのは恐らく、俺にかまって欲しかったんだろう。

 だから俺は、猫子の頭に優しく右手を乗せた。

 「しばらく隣に居てくれ。今回はさすがに、俺もこたえたからな」

 「・・・・・・・・・・・・いいの?」

 いつもの態度はどこへ行ったのかと問い詰めたくなるほどしおらしく、猫子は上目遣いで俺に尋ねる。

 俺は苦笑しながら答えた。

 「頼むよ、猫子」

 猫子は珍しく、にゃははとも言わず、静かに俺の肩に寄りかかる。

 俺も黙って、それを受け入れた。

 命がけで頑張ったんだ、昔を懐かしみながら、しばらく二人で寄り添うぐらいしても、罰が当たらないはずだよな?

 

 

 「おかえりなさい、陽平さん。昨日はお楽しみでしたねー♪」

 翌日、俺が自宅に変えるとジト目で悪魔に出迎えられた。

 「おいおい、いきなりなんだよ、灯。やけに機嫌悪そうじゃねーか」

 「いえいえ、別に機嫌悪くなんかありませんとも。私の忠告を無視して瀕死になって、あまつさえその後始末を私に任せて、陽平さんだけ猫子さんと二人でイチャイチャしてんじゃねーよ、なんて全然思っていませんとも!」

 「全然、隠す気が無い本音をありがとう」

 確かに俺も悪かったと思う。

 というか、自分で説得するとかほざいておいて、結局は千穂ちゃんのおかげで明美が戻れたものだし、その千穂ちゃんに連絡入れたのも猫子だし。

よく考えると、俺が無駄に明美に殺されかけただけじゃねーか。

その上、後始末で灯にも迷惑をかけてさぁ・・・・・・。

 「そーいや、後始末って具体的にどんな感じにしたんだ? 明美の容態はどうなった?」

 灯は淡々と俺の質問に答える。

 「さすがにアレだけの規模で破壊が行われたら色々と面倒なことになりますからね、ちょっと悪魔らしく魔法でも使って、爆心地を元の林に戻しただけですよー。ああ、それと明美さんが襲った方には、能力の事とかばれると面倒なので、適当な記憶を改ざんしておきましたし、関係者以外で明美さんが能力を使用した痕跡も大分消してあります」

 そして、と灯はさっきまでの不機嫌オーラを若干緩ませて、言葉を続けた。

 「明美さんは『完治』しましたよー。恐らく、ウイルスの媒体となっていた心の闇が消え去ったからでしょうねー。今は学校を休んでもらって、ゆっくりと記憶を整理してもらっています。いくら『完治』したと言っても、まだ色々と不安定ですからねー」

 「そう、か」

 俺は胸を撫で下ろした。

 猫子から大体話は聞いていたが、やはり灯に太鼓判を押してもらわなければ安心できなかったからな。

 「記憶の整理か。やっぱり、暴走中の記憶とかも改ざんしたのか?」

 出来ればうまく改ざんしてやって欲しいと思う。

 いくら能力が暴走していたとはいえ、明美は自分の意思で他者を傷つけてしまっている。

 他者を傷つけるということは等しく、自分を傷つけてしまうことになる。

その傷を忘れられるなら、忘れてしまったほうがいいものなのだ。

 「いえ、陽平さんが病院で寝ている間、私は明美さんや千穂さんにある程度の事情を話し、今までの記憶の改ざんを望むか尋ねたのですが、見事に拒否られまして」

 「・・・・・・お前、そりゃ拒否るだろ、明美や千穂ちゃんなら。俺の後輩たちは総じて、そういうごまかしみたいなのが一番嫌いなんだから。つーか、わざわざ事情を説明しなくても、適当に記憶を改ざんしておけばいいじゃねーか」

 その方が後輩たちを面倒事に巻き込まないで済むしな。

 「いやぁ、それが、私たち悪魔にもある程度制限がありましてー。明美さんや、千穂さんみたいな関係者の記憶を改ざんするのはちょっと、本人の許可がないと無理っぽいんですよねー」

 「便利なようで不便だな、お前」

 「功労者に対して失礼ですよー、陽平さん」

 ぷくー、と頬を膨らませて灯は俺を睨む。

 ・・・・・・わざとだとわかっているのに、その仕草で和む俺もどうかと思うぜ。

 「でもですねー、陽平さん。貴方はきっと、彼女たちのことを想って、そう言っているんでしょうけど、彼女たちにとっては余計なお世話だと思いますよー。私の見たところ、彼女たちはあの程度の傷で潰れるような人間じゃありません。むしろ、その傷を糧にしていくタイプです。色んな人間を潰してきた悪魔が言うのですから、間違いありませんよー」

 「おいおい、さりげなく怖い事実を混ぜるなよ。けど、まぁ、そうだな。あいつらなら大丈夫か」

 他者を傷つけたという事実は、いつまでも治らない傷だ。

 その傷は幸せな日常を送っていたとしても、ふとした瞬間に思い出して、痛みを与えてくる。

 でも、あの二人なら、その痛みに負けずに生きていけると俺は信じてみることにした。

 「それにですね」

 灯は悪戯に微笑んで、俺に伝えた。

 「彼女たちは言ってましたよ。『記憶を消されちゃ、陽平先輩にお礼を言えない』って」

 わざわざ伝えなくてもいいような、赤面モノの発言を伝えてきやがった。

 「あれ? 照れているんですかー、陽平さん?」

 「うるせぇ、こっち見んな」

 「あれあれぇ?」

 「あー、うぜぇ、うぜぇ。近づくなよ、もう。悪魔は俺の半径十メートル以内に近寄らないでくださーい」

 「恥ずかしさのあまり陽平さんが小学生染みたことを言い出したっ!?」

 俺はこれから熱を持った顔が冷めるまで、灯にからかわれ続けることになるのだが、そんな中でふと思った。

 できることなら、こんな悪ふざけをずっと続けられますように。

 そんな夢みたいなことを思った。

 

 

 灯が散々俺をからかい、俺もそれに付き合ってバカげたやり取りをした。

 多分、俺も灯もわかっていたんだろう。

 このやり取りが終わってしまったら、俺たちが気付きかけている『絶望』と向かい合わなければいけないことに。

 だから、余計に俺たちのやり取りは長引いて、だれて、結局、最後には灯も俺も、無言で顔を向かい合わせることになった。

 「陽平さん、言わなきゃいけないことがあります」

 「だよな、俺も言われなきゃいけないことがあると思っていたところだ」

 灯はいつに無く真剣な表情で、まるでこれから魔王にでも挑む勇者のような表情で俺に語りかける。

 「本体、ルールによって絶対的に保障されているはずの、私のレーダーの不調。そして、不自然なウイルスの侵食速度。イレギュラーな事態ですが、ある事態を想定して考えるならば、この状況にも納得がいきます。そしてそれは恐らく紛れも無い事実として存在しているんでしょう。」

 死刑を言い渡すように、灯はその言葉を紡いだ。

 もっとも、死刑を言い渡されるのは、他でも無い俺たちなのだが。

 

 「ライターアースは私と同様に前回の記憶を受け継いでいます」

 

 俺は半場予想していた、けれど、嘘だと信じたかった事実をゆっくりと噛み砕き、理解し、飲み込んだ。

 きっと今、俺が鏡を見たら、物凄く情けない顔をしているんだろう。

 けどよ、可愛い後輩たちにこんな顔は見せられねぇよなぁ、おい!

 無理やり心を奮い立たせ、悪魔の言葉に答える。

奥歯を噛み締め、不敵で生意気な笑みを浮かべて、俺はその絶望に答える。

 

「上等だ!」

 


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