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スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
新たなる出会い編
59/64

第59話 また明日

「エーメーちゃーーーーーん!!!!!」


ブババババババッッッッッッッッッ!!!!!


教室に入るやいなや、エメリィを見つけハグするサーシャ。

ついでレベルではない放屁とともに。


「もぉ〜、サっちゃんいきなり爆音で屁こかないでよ。ほら、男子も女子もくたばってんじゃんか〜。」


頬杖をつきながら少し困り顔のエメリィ。

廊下に居た生徒たちはゲホゲホと咳込み、既に椅子に座っていたクラスメイトの数名は沈んでしまっていた。

なんでエメリィは平気なんだ…という畏怖に近しい思いを同級生たちに向けられるも、エメリィ曰く慣れたから平気らしい。

慣れるもんか…?

どこかエメリィも壊れてしまっている気がする。


「出物腫れ物ところ嫌わず!!!ってね!」


ウインクサーシャ。

変に博識。

なんでそんな言葉知ってんだコイツ。

まぁサーシャにピッタリの言葉ではあるが…。

それはともかく、本日は始業式である。

気温も少し寒く感じる季節。

部活にバイトに勤しんでいた2人は夏休みあまり遊べていなかった。

だからこそ、後期でいっぱい遊ぼうとはしゃいでいた。

普通逆じゃね?


「ほな!そろそろ体育館行こや!」


カッターシャツの上に来ているセーター越しに胸がプルンッと弾む。

普通にしてたらモテるのに、屁のせいでとことん残念な女の子である。

エメリィも笑顔で答え、一緒に廊下に並ぶ。


「………?人が少ない………。なんでや。」


お前のせいだろ。

そうしてなんやかんやで体育館で校長先生の話を聞く成海高校の3学年たち。

サーシャは目が点になり、下唇が突き出ていた。

典型的な話がひとつも入ってこない人間に起こりうる現象。

見た目はかなり情けない。

エメリィを見習って欲しいものだ。

って言おうとしたけど同じ顔をしていたので辞めておく。


(おもんないなぁ…。そのへんの石ひっくり返してダンゴムシ観察するほうが絶対に楽しいて…。)


そう。

ダンゴムシに負ける人間。

それが校長という存在。概念なのだ。

毎度のごとく、長い話を聞き終え生徒会やあとに続く人の出番も終えついに始業式は終わった。

体育館を後にする生徒たち。

途中までは綺麗に整列しめ帰っていたのだが、やはりバラけてしまうもの。

サーシャはいつものようにエメリィと合流。

教室を目指す。


(…………ん?あんな子おったっけ…。)


帰り際にとある女の子に目線を移す。

離れた場所から横顔が見えた程度であるが、髪の毛が緑色で可愛らしい女の子。

スリッパの色からして同級生である。

サーシャはエメリィにもその子のことを話した。

どうやらエメリィも見たことが無いらしい。

考えても仕方無いので2人はまばらに目的地に向かう有象無象の中で歩みを進めた。






ガラガラガラ


「じゃあホームルーム始めるで。みんなスマホカバンになおしや。」


先生がひょうきんに振る舞い、生徒たちに促す。

カバンの生地がこすれる音が教室に響く。


「今日は始業式やけどその上に転校生おるんやわ。紹介するやで。入っておいで!」


クラス全員が開く戸に注目。

サーシャとエメリィは入ってきた転校生を見て、おっと思った。

先生が黒板にモニターを映し名前を書きつづる。


「転校生のチックルベリィさんや。奈良県から来たんやで。ほな軽くでいいからベリィさん紹介お願いね〜。」


「…………………………………………チ………チックルベリィで……です…。」


おどおどしたその女の子は少し怖い顔をしつつ小さく名前を呟いた。

先程体育館で見た女の子だ。

前髪が長く、左目を覆っておりマスクを着けている。

右目の瞳は宝石のように綺麗であり、君麻呂も笑顔でレビューするだろう。

男子どもはほんのりと歓喜。

女子どもはベリィを見つめる。

品定めでもしているかのように。

それにベリィの特出すべきは背中に隠すように持っている杖だろう。

今どき杖を持っている人間は少ない。

珍しいのだ。

軽い自己紹介…というより名乗りだけだが、それを終えたベリィは先生に席の場所を伝えられ座った。

サーシャの斜め右隣である。


(ベリィちゃんかぁ…。)


サーシャは目線だけベリィを一瞥。

そうして授業が始まった。






「エメちゃ〜ん。休み時間やし体育館にバスケしに行かへん?」


「次の授業教室移動で10分休憩しかないのに?色々と無理だって。」


笑顔でネジが数十本吹き飛んだサーシャと会話するエメリィ。

すると後ろから女子数名のJKあるあるの甲高い声が聞こえてきた。

ベリィを囲んでいる。


「ねぇねぇチックルさん!奈良のどっから来たん?」


「土日なにしてんの?」


「バイトとかは〜?」


次々と質問攻めにあうベリィ。


「えぁ………ん………おぅおぅ……んあ………その…えと…。」


ベリィは紹介時のように怖い顔をしながらしどろもどろに。


「バイトは………して……………な、ない………です…。」


ウケるー! 

なんで敬語なんー!


「なぁ〜んや!ベリィちゃんもうみんなと会話してるやん。ええねぇ〜。」


「……………………。」


それを見ていた2人。

サーシャはポジティブに捉えてニシシと笑うがエメリィは、あー………といった具合で眺めていた。

そうして2週間ほど経った。

気がつくとベリィは昼休みにも関わらず教室にポツンとひとりで座っていた。

この間のようにクラスメイトに囲まれる事もなく、顔を隠すように机に突っ伏していた。


「エメちゃん飯食お………アレ?あの子1人やんか。弁当持ってきてへんのかな。」


「いやぁ、違うと思うよ…。」


サーシャはよくわかっていないが、エメリィは何かを理解しているような面持ちだ。

ベリィは徐に上体を起こし、カバンをまさぐる。

そして可愛らしい小さなポーチのようなものを取り出し、静かに教室を出ていった。

ほかのクラスの子と食べるんかなとサーシャは呟いたが、そんな雰囲気ではない。

2人はベリィの背中を見つめていた。






校舎から少し離れた体育館近くの階段。

日があまり差し込まないほんの少し埃の香りがするその場所でベリィはポーチから菓子パンを取り出した。

マスクを外し、長く垂れた片方の前髪を横に流す。

パンの袋を開け、口に運ぼうとしたその時であった。


「ベリィちゃんッッッ!!!」


「ッッッッッッッッッッッッ!????!!?!」


例によって例のごとく屁コキ女とタヌキが目の前に急に現れた。

慌てふためくベリィ。

あたふたするもなんとかパンを落とさずに済んだ。


「ベリィちゃん狭いけど一緒に食べてええけ?」


笑顔で目を宝石のようにキラキラと輝かせながら尋ねるサーシャに、少し動揺しながらコクコク!と頷いた。その動きすら挙動不審だ。しかし可愛い。

エメリィは父の珠雄特性サンドイッチを片手に壁にもたれ、バカでかい屁とは裏腹に小さなお尻をアスファルトにつけ座るサーシャ。

器用に膝の上に弁当を広げる。

そして上手いこと箸入れから箸を取り出す。


カランカランッ!


落ちた。

取り出せなかった。


「アカーン!落ちた!ベリィちゃん箸持ってる?」


「えぁ…………お……、も、……もももも。」


「そっかぁ…ももももかぁ…。ベリィちゃんパンやし持ってるわけないわなぁ。しゃーない素手で食うわ。」


インド人と化したサーシャ。

意外にもキチンと右手で食べている。


「……………フフッ……。」


「お、ウケた!ベリィちゃん笑顔めっちゃ可愛いやん!ていうかそもそもソックス整ってて可愛い顔しとるで!マスク勿体ないで〜。」


「ルックスじゃない?」


「え……………か………かか……かわわわ。」


顔を真っ赤にして目がグルグルと回る。

それを見てまたサーシャとエメリィが可愛い攻め。


「せやせや!弁当分け合いしよや!ほらエメちゃん!」


「気持ちは嬉しいけど素手で掴んで渡さないでサっちゃん。厳しいものがあるよ。」


「そっかぁ…ほな今日は無理やなぁ。」


2人の会話を眺めていたベリィ。

激しくなる心臓の拍動。

可愛い口から静かに声を漏らす。


「あの………………こ、こ……この…パ、パン…………ど、どう…ぞ。」


振り向くサーシャ。

ベリィは小分けになっていたパンを2人に差し出した。

サーシャは喜んで口を開けた。

コイツ口でけぇな。60cmくらい広がってんぞ。

ビックリして目が飛び出すベリィ。

ついパンをほってしまったがこれを綺麗にサーシャは頬張った。


「アシカあたりのエサやりみたい。私ももらうねベリィちゃん。」


エメリィはベリィからパンを受け取り、そのお返しにサンドイッチをベリィの前に出した。

理解出来ていないベリィ。

サンドイッチはパンとは違い小分けにされていない。

まさかと思うベリィ。


「そのまま齧っていいよ。お父さんのサンドイッチすんごいおいしいからさ。」


ニヒヒと笑う。

ベリィは汗まみれで緊張しながらゆっくりとサンドイッチをかじった。

本当に良いのだろうか…と感じつつ。


「お…………………おい……しい…です…!」


「え?エメちゃんウチには?」


「サっちゃんは無し。だって一口つってんのに一口で全部食べるじゃん。それで弁当全部食われたこと何回もあるし。」


ええええぇぇぇ!!!!なんでよー!!!!

おがるサーシャを見て、怖がりながらもまた静かに笑うベリィ。


「ベリィちゃん気になってたんやけど、なんで敬語なん?同級生なんやし、普通に喋ってええんやで?」


「えと…………あの……………そ………それ、…は……あの…。」


「……………ゆっくりでええからね。慣れへんかもやけど、もうウチら友達なんやし。」


優しく笑顔でその場とベリィを包むサーシャ。

エメリィも同様である。

ベリィは頬を染め少し嬉しそうである。

照れもあるだろう。


「ベリィちゃんてロンパリなんやね。」


「え…………ろ………ろん…………な……なん……で……す………。」


「ロンパリ。ロンドンとパリくらい目が離れてる…まぁ今で言う斜視だね。ていうか、その言い方あんまり良くないよ〜サっちゃん。」


「そうなん?ベリィちゃんかわいいしオシャレやからロンドンとパリて似合うと思うんやけどなぁ…。ベリィちゃん前髪綺麗やけど、目綺麗なんやし出してもええんちゃう?」


「えぁ……………う…………うん…。」


そうこうして、3人は仲良く昼飯を続けた。

そして時間の流れは早く、6時間目が終わり終礼も過ぎた放課後。

教室から次々にクラスメイトが各々の目的のために移動。

サーシャとエメリィはバトン部なのでこれから部活である。

ベリィはまた少しどこか憂いげのある顔でリュックを背中に背負った。

少し早歩きで近づき、サーシャはベリィに声をかけた。


「ベリィちゃんごめんなぁ。ウチ今日エメちゃんと部活なんよ。また今度一緒に帰ろ!」


ベリィは片方の瞳をほんの少し大きくして、頷いた。

そして校舎の靴箱までベリィを見送り、2人は体育館へと向かった。

小さく手を振り返す。

嬉しそうに校門を通り過ぎ電車にのるのであった。

しかし良かったのはここまでである。

その後はスマホをいじったり、無線イヤホンを耳に着け音楽を聴く。

ここまで見ればごく普通の女の子だ。

寂しそうな顔を覗けば。


(友達…………………か…………。変に思われてないかな…。多分もう話しかけられないんだろうな…。)


電車を降り、トボトボと歩く。

顔は下を向きがちだ。

この寂しそうな雰囲気の正体。

おそらくベリィは何度も経験しているのであろう。

最初こそ、気を使われて話かけられたりする。

問題はその後だ。

続かないのだ。

ここまで見ればわかるだろうが、ベリィは上がり症で少しどもり気味。前にでるのがとても苦手な女の子だ。

話しかけられたら怖い顔をするのは極度の緊張からである。

そして何より距離を感じさせる敬語。

喋り方も途切れ途切れ。

今までいじめなどは経験していないが、【変なやつ】というレッテルは貼られてきただろう。

これも直接でも間接でも聞いたわけでもない。

憶測だ。

だから楽しかったのは今日の昼ごはんあたりまで。

明日以降はおそらく今までの人生経験上、何もないだろう。

放課後に見送ってくれたのが最後の気遣いか。

マンションの自分の家についたベリィは鍵を回し部屋に入った。

リュックを置き、手洗いとうがいを済ませ自室に戻る。

部屋は6畳ほどあり、その周りにはDTMの機材やアイパッド、色々なヘッドホンを壁にかけており創作をしている人が見れば口からヨダレが出るほどの充実した環境。

テーブルで各教科の宿題をさっさと片付け、低反発の椅子に座り直しデスクに向かう。


「……………………………。」


普段ならすぐにパソコンを立ち上げ、趣味の音楽づくりや小説などを勧めるのだがマウスの操作がおぼつかない。

サーシャとエメリィが頭の片隅にひっかかるのだろう。

今回だけではない。

常々、人と関わったその日はだいたいそうだ。

決して恨みなどは抱かない。

悪いのは自分。

向こうが来てくれているのに馴染めない。

話しかけてくれているのに、思うように返せない。

ベリィは自己嫌悪や1人反省会をよく昔から広げていた。

結局その日はあまり創作の進捗はよろしくなく、帰ってきた両親と兄と食卓を囲んだ。


(明日学校行きたくないな………。)


そう心に抱きながら。






-翌日-


「おはよーベリィちゃん!!!」


ポスッ


「ッッッッッッッッッ!!!???!!」


笑顔で肩に手を置いてきたサーシャ。

ベリィは相変わらずビクッと全身を震わせた。

その隣にはエメリィが綺麗な歯を見せている。


「今日も昼飯一緒に食お!!!」


JKで弁当の事を昼飯と呼ぶ女は少ないと思う。

ガサツである。

挙動はまだまだおかしいが、ベリィは頷きそれを了承。

しかもサーシャは話の続きがあった。


「今日部活休みなんやて!顧問の先生が生の鳥刺し食べて病院運ばれたらしいわ。せやから!良かったら放課後遊ばへん?」


なぜ自分を誘うのだろう。

疑問が深く心に残るも、別に予定などあるわけもなくベリィはサーシャとエメリィの提案に乗ることにした。


(ど…………どうしよ…………。い…行くって言っちゃった……………。)


放課後がどうなる事やら…。














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