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スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
新たなる出会い編
58/58

第58話 ゴードンの片想い・後編

結局その日にパルムとサーシャは来なかった。

というより、来れなかったと言ったほうが正しいか。

カフェの客が多く、とてもではないが席を外せなかったのだ。

日付は変わり銀之助は現在トイレに籠もっており、副店長のパルムとバイトのサーシャ、お手伝いのモス子できり盛りしていた。

芋虫を働かせるな。


カランカラン


カフェの扉上部に付けられた鈴が綺麗に鳴る。

入ってきたのは綺麗なスーツの男。

年齢は…わからんなこれ。異星人やし。


「いらっしゃいませー!」


可愛い可愛いサーシャスマイルでお迎え。


「ふむ…底辺の割には努力しているんだな。」


ピキッ


こめかみに血管が浮かぶも、冷静に対応するサーシャ。

案内した席はカウンター。

パルムもま〜たこういうやつかといった顔を一瞬だけ浮かべた。

居るのだ。

このカフェのコンセプトは、魔力数値や異星人の種族関係なしに入れて楽しめる地元カフェ。

それに託つけて、態度が悪い精魂が腐ったような客層が来る。

この客もそういったものだろう。

パルムが小さくサーシャに声かけ。

冷静であれよ、と。


「トリスブレンドを一杯。」


「かしこまりました〜。」


舌打ちを我慢し対応するサーシャ。

その男は店内を見渡したのち、トリスコーヒーの目玉である依頼ボードに目をやった。


「依頼…万屋か。低所得ではこういう事もせんと生きていけんわな。よくやっている。」


パルムが心から銀之助がトイレから現れる事を祈る。なぜならば、コーヒーを入れているサーシャがワナワナと震えているからだ。めちゃくちゃイライラしているのだろう。

すると男の胸ポケットに入れていたスマホが鳴った。

男はスマホを取り出し、一旦外に出る寸前にとある言葉を発した。パルムとサーシャはそれを聞き逃さなかった。


「あぁ、コットンだ。どうした?例の打ち合わせなら〜………」


「…………コットンやと…?」


「コットンて…ゴードンが言うてたあの男か…。」


しばらくしてからコットンは戻ってきた。

珈琲は既に出来ており、いい香りを漂わせながらカウンターに鎮座。

しかしコットンはどうやら飲みに帰ってきたわけでは無いらしい。


「仕事が入った。コーヒーはキャンセルだ。」


苛立ちが助長される。

パルムが後払い制を説明し、お代はいただきますよと伝えるとコットンはパルムたちを下に見るかのような顔で財布から金を取り出し一万円札を飛ばしてきた。


「釣りはいらん。ポケットにでも入れたらいい。」


ドンッッッ!!!


「アンタなぁ!!!!!ええ加減にしぃや!!!客やからて調子乗りすぎちゃうか!!!店員の事なめすぎやろがいッッッ!!!」


「ちょ、サっちゃん!!!」


「パル兄は黙ってて!!!」


フボボボバァァァッッッ!!!


感情に任せ、爆音の屁を放ち物理的にパルムを黙らせたサーシャ。

今は銀之助は居ない。

パルムは情けなくも悶絶している。

いや目の前のコットンも鼻を押さえ悶えているがサーシャの感情は歯止めが効かない。


「製薬会社のトップだかなんだか知らんし、どんな努力積み上げてここまで来たんか知らんけどもやな!!!人の事馬鹿にしすぎとちゃうか!!?そらそんな奴が親父やったらシルクちゃんも嫌やろなッッッ!!!」


あ。

言ってしまった。

サーシャはそんな事思っていないが、パルムは思ったのだ。あまりにも悪手。というか悪臭。


「ゲホッゲホッ…なんて下品な女だ…。というより、シルクを知っているのか。シルクの知り合いか?」


「直接は知らんけど、ゴードンと銀兄から話しは聞いとるわ!!!」


ピクッ


明らかにコットンの眉が反応した。


「ゴードン…?あの清掃員か。まだあいつシルクに近づこうとしているのか。会社に声をかけたほうがいいかもしれんな。」


「お前に言われてから接触してへんわい!!!なんやのアンタ!!!ひっどいおっさんやわ!!!」


「もうええてもうええてサっちゃん!!!」


パルムがサーシャの服を掴みコットンに頭を下げどうにかこの場を収めようとする。


「娘に輸血もさせんと何を偉そうにしとんねん!!!アホちゃうか!!!さっさとしたったらええやろが!!!」


「な…………!!!輸血の事まで…。底辺は個人情報保護法も知らんのか。なるほどな。酷いカフェだ。こんなところに足を踏み入れた自分が情けない。」


そう言い残し、踵を返そうとしたコットン。

しかし次に出たサーシャの感情任せのセリフでその歩みを止めた。


「娘さん死んでもええんか!!!」


「…………………何がわかる…。」


「あ?」


「お前らに何がわかる!!!」


出ていくどころかこちらに戻り、カウンター席を力任せに殴るコットン。


「輸血はそんな簡単な話じゃないんだッッッ!!!」






デイルームの椅子に座っていたボーナ。

新発売のクランベリージュースを片手に少しご満悦。

すると廊下からこちらに向かい車椅子の音が聞こえてきた。

シルクだ。

表情はかなり落ち込んでおり、今にも死にそうである。

全体的に細く見える。

元より細かったのかもしれないが、病気が進んでいるのだろう。


「……………………。」


「………………チッ…。」


軽く舌打ちをするボーナ。

まるで自分が動かなければならない状況。

こういうのは銀之助たちが進んで動くものだろう。

なんで僕が…と思いながらもシルクの動向を伺う。


「………おいお前確かシルクだよな?」


「え………貴方は?」


「ボーナ。まぁいわゆるエリートってやつだ。ゴードンから話は色々聞いてるし、あの銀之助とかいう前髪が薄い地球人とも色々あってな。」


髪の毛は別にいいだろうよ。

シルクは少し驚いた顔でボーナの隣まで移動。

なんでこんなお節介しなきゃならないんだ、と思いつつボーナは話を進めた。


「お前輸血しなきゃならないんだってな。さっさとしてこんなとこから出ていけよ。なにボサッとしてるんだ。そんなしけた顔で来ないで欲しいね。ジュースが不味くなる。」


とことん毒舌な男。

シルクは申し訳なさそうな顔をして、その場から移動しようとした。


「待てや。話聞いてんのかよ。」


「……………………。」


椅子をドンドンと下品に叩くボーナ。

取り敢えずこっちに来いという合図だろう。

シルクはまたボーナに向き直した。


「……………。」


「……………。」


無言が続く。

苛立ちを抑えるためにジュースを飲むが、そろそろ底をつきそうである。


「………お父様が…。」


「あん?」


「お父様が…輸血に同意してくださらないから…なにも出来ないんです…。」


「……………お前が強く出ないからだろ。クソ親父に言えばいいだろうよ。」


バッッッ!


「お父様を…そんな言い方しないでください…!お父様は…私をここまで育ててくださったんですから…それに…私を大事に…!!!」


「面会にも来ないような男がか?そらぁ御立派で。大事な娘が死にそうなのに頑なに輸血を拒否るとはめちゃくちゃいい親父さんじゃん。憧れるわ。」


「そんな言い方…………。ゲホッゲホッ!!!」


「それ見てみろ。めちゃくちゃ体に来てんじゃねぇかよ。なんで簡単な輸血すら拒否んだ。意味がわからねぇ。」


また顔をうつむき辛そうな表情のシルク。

ボーナはジュースがきれたこともあり段々イライラしてきた。


「…………輸血元に………ちょっと…………。」


「……………?」


シルクは現在片親である。

離婚ではない。

リネンという名前の母が居た。

3人は仲睦まじく生きており、休日は必ずと言っていいほど家族で出かけていた。

コットンも臨機応変なので、家族のために一生懸命働き休むときは休む男だった。

ある日までは。

この日コットン家は車で遊園地を目指していた。

信号待ちでハンドルを握るコットンたちは楽しく会話していた。


「さてと!そろそろ遊園地に着くぞ!着いたら何に乗りたいんだシルク?」


「観覧車…は最後にして、メリーゴーランドに乗りたいです!」


「観覧車はだいたい最後だものね。ジェットコースターも楽しいわよ。」


「ジェットコースターはお父さん苦手だなぁ。」


どこにでもあるべき家族の姿。

しかし、この幸せはここで幕を閉じる事となる。

信号が青になったので、コットンは周りを確認した上でアクセルを踏んだ。

ここまでは良かった。

スピードもそこまで出していない。

しかしその直後。

ありえないスピードで車が横から突っ込んできた。

信号無視。


ガシャァァァァァァァァンッッッッッッッッッ!!!!!!


「うわぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!」


車は激しく横転。

止まったのは元の位置から100m以上離れた場所だった。

 

エアバッグが膨らむ車内。

頭から血を流しつつも、家族を心配するコットン。


「だ………大丈夫か…シルク…。」


シルクも流血しているが、なんとか意識がある。 しかし、問題は助手席に座っていたリネンだ。

左腕がちぎれかけ、頭部からの出血があまりにも酷い。


「おい…リネン…。リネン!!!しっかりしろリネンッッッ!!!」


コットンは重症だったので自らは動けなかったが、その惨状は多くの通行人が見ていた。

すぐに警察と救急車に連絡してくれたのだろう。

現場にかけつけた救急車に運ばれる3人。

スピード違反の犯人である男はングォレ星人。

すぐに捕まったのは良いものの、反省の余地はなかった。

病院に搬送されたコットンたち。

コットンとシルクはなんとか助かった。

しかしリネンは…。


「お前らにわかるか?底辺に殺されたんだよ。妻が奪われたんだ。」


「…………………。」


腕を組む銀之助。


「確かに、ングォレ星人は治安が悪いことで有名…。心情お察しします。」


敢えてセリフをここで終わらせた。

コットンはまだ何か言いたげな顔だからだ。

しかし、それを破るのがサーシャという女。


「なんちゅう話や…。お悔やみや…。でも…………それとシルクちゃんの輸血となんか関係あんの…?」


「関係だと…?!あるに決まっているだろう!!!シルクは回復してから病気になった…!!!事故の怪我が関係しているかはわからん…!!!それにその病気今の医学的には輸血したらすぐに治る…!!!だがな…!!!」


力いっぱい拳を握るコットン。

血が少し滲んでいる。


「輸血元がングォレ星人の血なんだぞッッッ!!!あの妻を奪った!!!俺たち家族3人の幸せを壊した!!!あの!!!ングォレ星人の血を入れろだのとほざくんだぞ!!!お前らにわかるかッッッ!!!」


驚くサーシャたち。

しかし銀之助は知っていた。

かつて衛生兵として動いていた時、輸血作業も行っていたからだ。

そこによくあげられていたのがングォレ星人の血。

種族自体は野蛮で治安が悪い人の心がないようなやつらだが、皮肉にもその流れている血は現代医学からしてとてもありがたいものなのだ。

コットンの言う事もわかる。

そんなやつの、幸せをぶっ壊してきた種族の血を娘に入れるのがどれだけ心苦しいのか。

簡単であり、簡単ではない。


「…………でも、シルクちゃんは生きたいはずです。コットンさんと、これからもまだまだ一緒に居たいはずです。確かにお気持ちはわかります。でも………それをよくわかっているのもコットンさんのはずです。」


「…………………。」 


「変な話ですが、またお二人でここにいらしてください。確かに底辺かもしれませんが、ここは誰でもが繋がれるようなカフェをコンセプトとしています。シルクちゃんにも、コットンさんにも是非コーヒーを飲んでいただきたい。」


「…………………。」







「なるほどな。でもそれとこれは別だろうよ。さっさと親父に頼めや女々しいな。」


「…………でも………………お父様の気持ちを考えれば……………。」


泣き始めたシルク。

普通なら慰めたりするところ、ボーナはありえない行動に出た。


ガシッッッ!!!


「い…痛い…ッッッ!!!」


なんとシルクの髪の毛を軽く鷲掴みにし、至近距離で話し始めた。


「お前見てたら昔の僕見てるみたいでイライラすんだよ…!!!あのなぁ、それとこれは別って言ってるだろボケ。お前の中に血が入ろうがなんだろうが、お前はお前だろが。まずは生きること考えろや。」


「い………生きること………。」


「それと親父にちゃんと言うこと言え。いつまで甘えてんだクソ女。」


すると看護師たちが現れ慌ててボーナを抑え込んだ。


「お!何してるんですかボーナさん!!!看護師長!!!コイツ頭おかしくなってますよ!!!」


「鎮静剤を打て!!!取り押さえろ!!!」


「何すんだお前ら!!!僕はシラフだアホども!!!」


必死に抵抗するも、羽交い締めにされるボーナ。

処置室に連れて行かれそうである。

そして捨て台詞を吐いた。


「お前のことちゃんと見てくれてる男が居るだろうが!!!お前のそばに寄り添ってくれてた男がよ!!!そいつの気持ちもちゃんとわかってやれよなボケ!!!」


「暴れるな!!!」


ハナセボケコラー!!!


ボーナは処置室に消えていった。


「寄り添ってくれている…男…。」


壁付近にゴードンが清掃道具を持ちながらシルクを見つめる。


「ゴードンさん…。」


しばらく見つめ合う2人。互いに何を思うのか。

シルクはしばらくその場にとどまり、何かを決心したのか、スマホを取り出し電話コーナーへと向かった。

 





「話はここまでだ。俺としたことが…なぜお前らのような人間にここまで感情的になってしまったのか…。」


サーシャはコットンの気持ちもわかった上で一万円は受け取らずに返した。 

コットンは嫌そうな顔をしながら金を受け取り、カフェを出ていこうとしたがスマホが鳴り始めた。

画面を見ると否や、すぐに出た。


「もしもし…どうしたシルク?………………………………。」


それを見守る銀之助たち。


「…………………………それが本当にお前の気持ちなのか?」


静かに、そして悩むコットン。

そして徐に電話を切った。


「シルクちゃんからですか?」


「……………あぁ。」


ただそれだけ。

それを言い残し、コットンはその場を去った。

それから数日が経った。






「ボーナ退院おめでとー!!!」


「退院おめでとー!!!じゃ、ねぇよクソども!!!元をたどればこの糞虫のせいだからな!!!」


「モキュ!」


「モキュ!じゃねぇよクソ虫!!!あっち行け!!!」


無事に退院したボーナ。

銀之助たちやパラボランの3人に囲まれ祝われる。

いや、元をたどればコイツがモス子を煽るから起きたのだが…。

こういう時だし仕方ないと、ケーキやコーヒーをご馳走する銀之助たち。

文句をたれつつケーキを食らう底辺エリート。

もはや威厳もクソもない。


「期間限定やけどクランベリーケーキもあるんやから文句言うなっての〜。な?機嫌直せよボーナ。」


「しゃぁねぇ。許してやるよ。このボーナ様の寛大さに感謝しろよな。」


カランカラン…


またお客さんが入ってきた。

もう閉店間際の時間帯。

この時間帯はあまり人は来ないので珍しい。

しかし来客は来客だ。

銀之助がいらっしゃいませーと声かけした。

そしてその来客にゴードンは目を見開いた。


「………………シルク。」


そこにはコットンとシルクの親子が居た。

ここまで来ているということは、退院したと言うことだ。

みんなの顔をみて頭を下げるシルク。

まだ車椅子とはいえ、顔の血色がまともになってきている。


「コットンさん。来てくれはったんですか。」


少し真剣な顔で尋ねる銀之助。

コットンは最初こそ気まずそうな顔をしていたが、こちらに顔を向け頷いた。


「その………アレだ。シルクが…どうしてもここに来たいと言ってな…。」


プライドのせいか、謝罪こそしないものの態度に表れている。申し訳なかったという思いが。

シルクは自分で車椅子を使い、ゆっくりと進む。


「みなさま、ごきげんよう。お世話になりました。」


全員ほんの少しだけではあるが、デイルームなどで自然を装いシルクとの接触はあったのだ。その後ついでにボーナの面会にも行っていた。

サーシャたちが笑顔首を横にふる。


「私…気づいたんです。自分は弱かったんだなって…。自分の思いも相手に伝えられずにずっとしまい込んでしまって…。それでお父様にも【生きたい】って気持ちを…伝えられなかった。」


憂いげな顔のコットン。


「でも…やっとお父様に伝えることが出来たらさ…。私は…お母さまの分まで生きないといけない…。だから…生きたいって…。そうしたら…お父様も納得してくださいました…。そして…」


顔をしっかりと上げるシルク。


「それに気づかせてもらった人が…居ます。どうしても会いたくて…そして…私の…気持ちを伝えたくて…。」


銀之助やパルムが肘でゴードンを突っつく。

ゴードンは緊張気味でどこか照れくさそうだ。

コットンも完全には納得出来ていないかもしれないが、ある程度認めているのかもしれない。

いや、ここからだろう。

みんながゴードンとシルクを見守る。

なかなか良いムードである。


「その人のことが…大好きなんです…。私のこの思い…………どうしても伝えたい…。好きです………

























ボーナさん。」





「「「…………………………………は?」」」


は???

全員が口を開け、目が点になる。

コットンも意味がわからないといった顔だ。


「え………?え?え???ん??ちょっち待ってやシルクちゃん???名前間違えてない?」


サーシャが混乱しつつ尋ねる。

しかし、シルクは間違っていないと豪語。


「ボーナさん…デイルームで私に少し乱暴したじゃないですか…。あの髪の毛を掴まれた時…………ドキッ…としまして……………。」


「え……???あれ?え?ゴードンの事は???」


「もちろんゴードンさんも尊敬しています。心から感謝しております…。そして私の気持ちを気づかせてくれた恩人です…。ボーナさん!!!お付き合いしてください!!!」


「え?嫌だよお前みたいな女。あっちいけ。ほらシッシッ。」


「うぅ〜、それがまたいいんですよねぇ…。」


うっとりしているシルク。

どうしようもないバカ女だったのだ。

震えるゴードン。

ケロンバたちがゴードンを宥めようとすると、少し泣きながらではあるが笑い始めた。


「いや!!!良いんだ!!!彼女が生きる選択をしてくれただけで嬉しいよ!!!これで良いんだ!!!」


悲しいだろうが、やはりゴードンは気のいい優しい男なのだろう。

店内では猛アプローチをしているシルクとそれを気持ち悪がっているボーナ。

そして固まっているコットン。

ヤレヤレである。



















何やこの話。

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