第57話 ゴードンの片想い・前編
ドガァァァァァン!!!
吹き飛び砕ける地面。
砂埃と突風が飛び散り、銀之助率いるカフェ3人組は苦戦を強いられていた。
「クッソー!!!なんやねんそのロボットー!!!ちょっちカッコええのが腹立つわぁぁぁ!!!
」
「オーホッホッホ!!!観念しな屁こきガール!!!このパラボラン3号には誰も勝てやしないよ!!!」
ウィーーーン!!!ガシャンガシャン!!!
何を隠そう、銀之助たちはパラボランと戦っていた。
今度は地球をチョコまみれにして征服する魂胆らしい。なんやそれ。
実を言うとパラボランはまだまだ地球征服は諦めておらず、幾度となくカフェのバカトリオと戦っていた。まぁ向こうもバカトリオではあるが。
そのパラボランたちは15mほどのロボットに乗り、その力を思う存分に引き出していた。
「銀兄!!!反転魔法頼むで!!!」
「やってるっちゅうねん!!!せやからサっちゃんも…………うわうわ!!!なんやこれめっちゃモゾモゾするんやが!!!」
「かかったゲロね!!!さっきパラボラン3号で殴ったときにばら撒いた【陰毛チリヂリスモーク】を体に付着させれば!!!」
「体の陰毛が気になってしかたなくなるのよ!オーホッホッホ!!!」
「………………………。」
くっだらねぇ。
しかし、威力は本物なのだろう。
現に銀之助とパルムがのた打ち回っている。
サーシャには効かないところを見ると、意外にもムダ毛処理などは行っているらしい。
そんな事しなさそうなのに。
「じゃかあしいんじゃ!!!ウチ女の子やぞ!!!屁かますぞボケ!!!」
女の子は普通そんな事言わない。
しかし気になる点がひとつ。
ファニィとケロンバは高らかに笑っているにも関わらず、ゴードンだけ無言である。
少し悩ましげな表情を浮かべ、レバー操作もぎこちない。
「今度こそ勝てるゲロ!!!なぁゴードン!!!」
「………………………。」
「………ゴードン?」
「…………ん…あぁ………そうだな…。今度こそだ…。」
「………………?」
ぎこちないゴードン。
そしてロボットの下ではカユイー!と叫ぶパルムと銀之助。
良いとこなしの2人。
「クッソー!!!男どもしっかりせぇや!!!」
サーシャはそう叫ぶと、力を込め両拳に紫炎を纏った。
トーナメント以来、少しずつ鍛え上げ徐々に慣れてきたらしい。
サーシャは地面を思いっきり蹴り飛ばし、拳を広げまるでジェット噴射のように炎を噴き上げた。
応用技だ。
「そう来ると思ったよ!!!」
「ゲロゲロ!!!対策の技を炸裂させるゲロ!!!ゴードン!!!………………ゴードン?」
隣を見るケロンバ。
居ない。
そこには何か手紙のようなものが置かれているだけで、ゴードンの姿が何処にもない。
その手紙の内容を読むケロンバ。
「……………あ。そう言えばゴードン今日時間有給取ってたゲロね。」
「そうだねぇ。忘れてたよ。」
「アハハ!」
「ウフフ!」
迫るサーシャ。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」」
そしてロボットはぶん殴られ、大破した。
ギギ…ギギギ…
「どうだ?外の空気は新鮮で美味しいだろ?」
「えぇとても。病院の中じゃ味わえませんよね。…………それに…もう2度とこの楽しさは味わえませんから…。」
「そんな事言うんじゃない!絶対に助かる!だから…その…またこうやって…散歩しよう。」
「…………ありがとうございます。優しいんですね…ゴードンさん…。」
ガサガサ
「はぁ〜、なるほどね。あの車椅子の子と敷地内でデートしたかったわけだ。」
木陰に隠れながら2人を見守るファニィたち5人。
「えぇー!!!なになに!?ゴードンの彼女さん!?」
「シーッ!声でかいてサっちゃん!彼女かどうかわからんけども、仲は良さげやの。」
パルムは笑顔でそれを眺めていた。
とても微笑ましいものである。
ファニィ曰くゴードンは総合病院で清掃のバイトもしているらしく、おそらく病室清掃かなにかで知り合った女の子と意気投合したのか、今こうして散歩デートをしているのだろう。
「え?女の子の部屋に掃除て入れるん?銀兄どうなん?」
「妊婦さんがおる女性棟とかやったら無理やけど、ほかの病棟の部屋清掃は男女関係なしに入って掃除すんで。ゴミ上げしたり、床清掃したりの。」
「へぇ〜、そうなんや。でもあの2人、仲よさげちゃう〜?」
「すごい美少女ゲロね。ゴードンもついに彼女ゲロかぁ…。ケロ美〜…………。」
そうこうしていると、ゴードンと女の子は病院の入り口に消えていった。
散歩の時間が終わったのだろう。
いいものが見れたと全員が快い気持ちでその場を後にしようとしたが、銀之助とパルムは少し後ろに注目した。
なにやら高そうなスーツを着て腕を組み不機嫌な顔の男がゴードンと女の子を見ていたのだ。
そして2人のデートを見てから1週間ほど経った。
パラボランも銀之助たちもネジが外れているので、カフェに遊びに来たり歓迎もしていた。
時たまサーシャが細い目でデートの件を茶化すとゴードンは顔を赤らめ、手を振りそんなんじゃない!と断っていた。女の子の名前はシルクというらしい。清楚なあの娘にピッタリの名前だ。
そしてとある日。
ファニィがコーヒーをすすりつつ、満面の笑みでいついつに襲いに来るねとサーシャたちに予約を入れていた。
頭おかしい。
しかし、ゴードンの表情が優れない。
いや表情だけでなく全体的にテンションが下がっている。
「…………どないしたんなゴードン。具合悪いんか?」
「………………いや、気にしないでくれ。」
「気にするて。お前のお気に入りの俺が作ったパルム特製ミルフィーユ全然口進んでへんし。なんかあったんか?」
「……………………。」
「もしかして…あの女の子に振られたん…?」
「キュウ…?」
座っているゴードンに対して心配そうにかがむサーシャ。隣のモス子も心配そうだ。
「なんでも言うてくれよゴードン。難波で戦って以来、俺らはライバルみたいなもんや。軽い相談なり愚痴なりは金取らへんのやからよ。」
ゴードンは悩みに悩み、重い口を静かに開いた。
この日も相変わらず真面目に仕事に力を入れ、いつもみたくシルクと会う予定であった。
『さて…と!仕事しますか!その後にシルクとまた少しだけ公園に散歩…』
ザッ…
『お前だな?私の娘にちょっかいをかけているのは。』
『え…貴方様は?』
『コットン。シルクの父だ。………困るんだよ。お前みたいな底辺に近づかれると。うちの娘が汚れるだろ。』
「ちょっちなによそれ!!!なんやねん底辺て!!!失礼すぎるやろが!!!どついたろかソイツ!!!」
まだ話の途中にも関わらず怒りを顕にするサーシャ。
パルムと銀之助がどうにか宥める。
ゴードンは苦笑いで話を続けた。
『そもそも知っているのか?お前と娘は本来接触すら許されんほどの格差がある。お前はただの清掃員の底辺。娘はチムチンピロー製薬の令嬢。つまりは私の娘だ。』
『な…………シルクが…!!!』
『名前を呼ぶ事自体やめてもらえるか?はっきり言って迷惑だ。』
そうしてゴードンはコットンに一方的に誹られ、言い返す暇もなくその場は終わった。
チムチンピロー製薬はこのアナールランド総合病院とも密接な関係がある。
下手なことをすれば、委託会社である清掃会社に迷惑がかかる。
こうした理由があり、ゴードンはシルクと会うのを極力控えめにしているというわけだ。
「……………おもっくそ差別やな…。」
「あぁ。だが…清掃員なんてものはこんなものだろう。縁の下の力持ちとはいえ、世間では汚い底辺扱いだ。この仕事自体は好きだが…一般の目は厳しいからな。」
銀之助にも思うところがある。
衛生兵の前にやっていた仕事がまさに清掃業であった。
世間どころか、病院の規模によっては看護師や補助員すら白い目で見てくる。
肩身が狭い立場なのだ。
しかし今回はあまりにも露骨すぎて酷い話だ。
過去の自分と照らし合わせたからか、戦友のテンションが下がっているからか銀之助は提案をした。
「ほな俺今度シルクちゃんのお見舞い行ってくるわ。その時にシルクちゃんがどう思ってるんか聞いてくる。」
「お見舞いって…身内でもないのに無理だろう。どうする気だ?」
「ほら、これよ。」
銀之助は両目の前で親指と人差し指で輪っかを作った。
それを見たみんなは何か察したのか、あぁ〜…と頷いた。
そして後日。
銀之助は単身で病院に足を運んだ。
パルムはサーシャとあとで来るらしい。
サーシャは感情的なのですぐにやっかみを起こす。
そのケアのためにパルムをあてがった上で、時間差をつくった。
総合受付で事務員とのやり取りを終え、とある個室に向かう。
軽くノックを3回。
静かに戸を開いた。
「よっす、大丈夫かボーナ?」
「大丈夫なわけねぇだろうが。こちとら手持ち少ねぇんだぞ。………まぁ社長が少し出してくれるみたいだからマシだけどよ。」
そうボーナである。
前回でモス子の糸にぐるぐるまきにされた後、病院に搬送された。
どうやらモス子の糸には無害なものと、毒性のある糸の2種類あるらしい。
ボーナは毒漬けにされたのだ。
訴えようにも、自分からモス子を馬鹿にした始末。
カフェのカメラにもしっかりと映っているので訴訟などできないと判断したか。
それにこの調子ならば弁護士などを雇う金もないだろう。もちろん、お金がなくても雇える弁護士は存在するのであるが。
「マジでふざけんなよクソ。お前のとこのバカ芋虫ちゃんと飼育しとけや。」
「バナナとかリンゴとか買ってきたぞ。病院食マズイからの〜。食うやろ?」
「シンプルに無視すんじゃねぇよ。まぁ食うけど。ありがたく思えよな。」
文句をたれつつバナナの皮を剥き食べるボーナ。
成城石井の高級フルーツなので素直にいただくのだろう。
10分ほど駄弁ったのち、銀之助は椅子から腰を上げた。
「ん、もう行くのか?アレか。シルクとかいう女のとこか。」
「おう。看護師に疑われへんように自然に…な。」
「その女だったらデイルームの窓からよく外見てるぜ。車椅子乗ってるやつだろ?」
リンゴを頬張るボーナ。
これは貴重な情報だ。
銀之助が詳しく聞こうとすると、ボーナが手をこちらに出してきた。
「…………?」
握手。
「ちげぇよ!!!金。」
手を振りほどくボーナ。
「ハァ???フルーツ買ってきたんやからええやろて。エリートがそんなもんで金取ろうとすんなや。」
「ケッ、しけてんな。まぁいいや。出血大サービスで教えてやる。ちゃんと聞いとけよ。」
ボーナが言うには、この間シルクの元に父親であるコットンが来たらしい。
親が来てくれたのだ。
周りからすれば、喜ばしい光景になるはずなのだがシルクはコットンに向かい怒号を飛ばしたらしい。
とはいえ、物静かなお嬢様なので小さい怒号だが。
『なんですぐに会いに来てくれないんですか…!それに………ゴードンさんが最近冷たいのも………お父様が原因なのでは……!?』
『仕事が忙しいんだ。無茶言うんじゃない。それに当然だろう。あんな底辺の人間がお前のような高潔な存在に近づいていい訳がない。』
『酷い…。お父様はいっつもそう!!!なんでもかんでも数字でしか人を見ない!!!それに………なんで私に早く輸血…』
『それ以上言うのは辞めなさい!!!そんなものせずともお前は治る!!!』
コットンがそう叫ぶとシルクは顔を覆って泣き始めた。
ボーナはそれを少し離れた場所で全身を震わせながら検尿カップ片手に見ていたらしい。
モス子の毒が強い。
「なるほどな…。そんな事あったんやの。…………輸血ってのが気になるな。なんなんやろうな。」
「知らねぇ。なんか看護師どもの話聞いてたら輸血したらさっさと治る病気らしいぜ?あの堅苦しいクソみたいな面した親父が同意書にサインしないから進まないんじゃね?流れ的にどうせ底辺の血なんだろうよ。大事な娘の体にそんな汚いもん入れたくない〜ってな。」
ボフンッ
ボーナは頭の後ろで手を組みベッドに横たわった。
「…………サンキューボーナ。にしても…赤の他人やし…難しいの…。」
「なんでもかんでも首突っ込もうとすんなよ。ほっとけほっとけ。関わってもろくなこと無えって。ゴードンもさっさと諦めろよなそんな女。」
口は悪いがボーナの言うことも一理ある。
銀之助はまた来るぜと言い残し、病室から出ていこうとした。
「おい銀之助。」
「ん?なんや。」
「次何持ってきてくれんだ?」
「……………………モス子連れてくるわ。」
「おう、2度とその面見せんなや。」
ガラガラガラ
銀之助はその場を後にした。




