第56話 宇宙の贈り物
宇宙からは絶え間なく、なにかが振り注いでいる。
隕石や雨、コズミック粒子線なんかもそうである。
しかし、時にはなんやこれ!てものが突然振ってくるのだ。
そして今宵。
何かの繋がりか、引き寄せられたのか。
とあるカフェに宇宙から一筋の光りが差し込んだ。
というより激突した。
ドゴオオオオッッッ!!!
「…………………。」
銀之助は悩んでいた。
腕を組み、真剣な顔で何かを見つめる。
向こうではサーシャがケーキセットを運びながら困り顔でお客さんのおっちゃんたちに叫んでいた。
「アカーン!おっちゃんケーキ置かれへんがなー!」
「お!ごめんごめん!サっちゃん可愛いからいっぱい頼んでもうてテーブル皿いっぱいになってもうたわ!」
「もー!ウチが美少女なのはしゃーないからええよー!ほな空いた皿持っていくでー!」
女子高生にしてはあまりにも豊満な胸を少し揺らしながら皿をシンクへと運ぶ。
その時銀之助と目が合った。
「む。どないしたん銀兄?ハナクソ踏んだみたいな顔してるけど。」
「サっちゃんはもうちょい節度を覚えよか。失礼やからねそれ。これよこれ。」
目線を移すサーシャ。
そこには皿に乗ったデザートたち。
どれもこれも銀之助やパルムが丹精込めて作ったものである。
しかし、よく見てみると一口だけかじったものや中途半端で食べるのを中断したかのようなものが見受けられる。
そう、食べ残しである。
「はぁ〜!?なによコレ!あとでウチが食うから置いといて!」
「気持ちは嬉しいけど、そういう訳にもいかんのや。廃棄やなこれは…。」
「勿体ないて!なんで捨てるんよ!消費期限切れたもんウチとか銀兄パル兄で食べとるがな。変わらんて。」
「アレも本来で言うたらアカン事やからなぁ。俺がオーナーやから許してるってだけで。」
銀之助は昔からフードロスが大嫌いであった。
誰しもがそうかもしれないが、とくにコンビニや飲食店で働いたことのある人ならば気持ちが分かるだろう。
消費期限が切れた食品は食品ではない。
廃棄物となるのだ。
学生時代コンビニなどで働いていた銀之助は、いつか自分がカフェを経営した時はフードロスは絶対に発生させないと心に決めていた。
なので本来ならば、消費期限が切れた食品を食べてはいけないところを3人で分けて食べている。
しかし…今回は別である。
齧っているのだ。
客が一度口につけたもの。
家族や身内の食べ残しとは理由が違う。
サーシャはプンスカしながら食べると言うが、銀之助は眉を八の字にし断った。
何かしら風邪や病気の人ならばどうするんだと。
厨房でパンケーキを焼いているパルムも銀之助を見て察したのか、苦虫を噛み潰したような顔だ。
こればかりは仕方ない。
「もー!残すくらいやったら最初から注文するなて!」
「まぁまぁサっちゃん。しゃーないて。途中で具合悪くなったんかもしれんし。時間無くて急いでたんかもしれん。」
「時間無いんやったら素手で鷲掴みにして持っていけ言うねん!」
「気持ちはわかるけどなぁ。サンキューなサっちゃん。」
銀之助はやるせない気持ちで新品のゴミ袋にデザートを入れ口を縛った。
そしてバッカンにゴミを入れようと裏口に出た其時であった。
「あん?なにこれ???」
目の前には不思議な紫色のまだら模様がある白いものが。
大きさは1.5mほどで、ところどころ形が崩れないように壁やフェンスにしがみついている。
これはまるで…。
「卵…?」
「銀兄〜。ちょっち聞きたいこと…」
裏口のドアを空けてサーシャが来た。
銀之助に用があったらしいが、目の前の卵に目を奪われた。
「なんやコレ!???!!デッカッッッ!!!」
ブボォォォッッッッッッ!!!!!!
「わーーーーお!!!お前の屁の方がデカいし!!!お前がなんや!!!?!」
「ゴメンやんか。久々に屁こいたわこの小説で。単なる美少女やないんやでウチ。で、なにこれ?」
知らんがなと答える銀之助。
繭の部分がバッカンにも付いているので、このままではゴミが捨てられない。
それによく分からないので放置、というわけにもいかない。
そろそろ昼時が終わりお客さんのラッシュが落ち着く時間帯。
銀之助は例の馬鹿どもに連絡をする事にした。
カフェのカウンター席。
「で、なんやと思うアレ。ボーナわかるけ?」
「なぁ〜んでこんな事もわからねぇんだか。聞いて呆れるぜ。お前ら物事を覚えないように生きてきたわけ?」
目をつむり得意げに話す男。
クソゴミカス元エリートことボーナである。
「おい待てお前!!!前までクソエリートだったろ!!!名前酷くなってるし元ってなんだよ!!!今でも僕は現役のエリ」
「俺も見たことねぇな。見た目からして卵…繭だとは思うんだけどな。」
ハニーココアを飲みながら頬杖をつくクエスチョナー。
エメリィも首を横に振る。
誰も見たことがないと言うのだ。
後ろでギャーギャー騒いでいるボーナはわかるのだろうか。
「アレだよ。卵だよ。なんかのキッカケで裏口のゴミ入れに繭作ったんだろ。」
「…………………いや、せやからそれが何の卵かっちゅう話なんやが…。」
「アカンで銀兄。やっぱしコイツアホやで。」
「あんだとテメェ!?!トーナメントの賞金の9割以上他のやつらに配って赤字続行のお前らバカトリオにだけは言われたくねぇな!!!」
「モキュ」
「そう言うなよボーナ。これもなんかの縁なんや。困ってるもんおったら助けてやりたいやろて。そら全員とかは無理やけどよ。」
「モキュ」
「かぁ〜!!!お人好しのどうしようもねぇバカどもだな。そんなんだから金無いんだろうがよ。ていうかさっきからモキュモキュうるせぇよ。ボーナ様の会話に入ってくんじゃ…」
「モキュ」
全員が視線をモキュモキュ言っている方向に目をやった。
そこには( ´・ω・`)こんな顔をした緑色の芋虫が居た。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」
「ゲロ〜!この子は世にも珍しいバトルモスモスの幼虫ゲロ!スペースビースターの一種ゲロよ!」
保健所に連絡したら何をされるか分かったものではないのでパルムたちはケロンバたちに連絡を入れた。
するとその芋虫を見た瞬間にケロンバはすぐに正体を言い当て、図鑑を広げてくれた。
白黒で小さいが確かにバトルモスモスの繭が確認できる。
隣では細い目で口をへの字にしているボーナくんが。
「はぇ〜、この子宇宙芋虫なんや!流石はケロちゃんやで!それに比べてどこぞのエリートはなんの役にも立たへんなぁ〜。」
嫌らしく目を閉じ口をとがらせるサーシャ。
ボーナの立場が危うい。
ケロンバというカエル学者に取られてしまう。
「エリートでも知らねぇことぐらいあるってんだボケ!!!それにしてもこの芋虫ブッサイクだな!!!ヒャッハッハッハ!!!」
「ピギーーーー!!!」
宇宙芋虫が怒ったのだろう。
指を指し笑っているボーナめがけ口から糸を発射。いとも容易くボーナはぐるぐる巻きにされてしまった。
「モキュ」
可愛い〜!とサーシャが頭を撫でたり抱っこなどをしている。
モスモスは笑顔になりモキュ〜と鳴いている。
時折銀之助やパルムの方にも向かおうとするが、まだ開店中なのでごめんねとハンドサインを送る。
ていうか仕事中に芋虫と戯れるな。
そして銀之助は一応衛生の問題もあるのでサーシャに注意を促した後、ケロンバと会話を進めた。
「どうする気ゲロ?役所に連絡するゲロか?」
「いやぁ…役所に連絡したら連れて行かれて何されるかわからんからな…。めちゃくちゃ珍しいんやろ?」
「そうゲロね。そもそもバトルモスモスはかみのけ座あたりに生息してるはずゲロ。なんでまたこんなところに。まぁ、これも銀之助たちの引き寄せた縁かもしれないゲロね。」
笑顔のケロンバ。
どこか満足そうだ。
銀之助も釣られて笑顔になった瞬間、後ろでサーシャたちのワーオ!という声でつい後ろを振り返った。
宇宙芋虫が廃棄処分の残飯をモキュモキュと食べているではないか。
おいおい大丈夫かよと心配する銀之助であったが、宇宙芋虫は平気そうだ。
「よしよーし!銀兄!パル兄!この子廃棄予定のもんも食べてくれるし!可愛い!ここのカフェの看板にしよや!ウチに続いてのマスコットキャラやで!」
目をキラキラと輝かせるサーシャ。
嫌な話、廃棄予定の残飯は嫌でも毎日発生する。
それを食べてくれるのであれば、決してフードロスにはならない。
パルムも乗り気だ。
「そっちのほうがいいんじゃねぇか?保健所に連れて行かれたら政府に渡されるかもしんねぇしな。ところで名前どうすんだよ?そもそも性別なんなんだ?」
クエスチョナーはなんとなしに言ったが、金銭面的に悩むところである。
腕を組み考える銀之助。
育ててあげたいが、やはり余裕が無い。
「残飯食べてくれるのは嬉しいけど…なぁ…。食費とかの事考えたら…んん………。」
「なんでよー!お金ないなんかいつもの事やんかー!1人2人一匹増えたところでなんもかわらんてー!」
目を閉じ駄々をこねるサーシャ。
銀之助は困り顔でそれを眺める。
「ちなみにこの子て、男の子なんかの?女の子?」
ケロンバ曰く、黄色い模様の数が偶数なので雌とのこと。
「サっちゃん!名前つけたげよーよ!」
嬉しそうなエメリィ。
なんか育てる前提で進んでる。
ノリノリで名前を考えようとしたその時であった。
外がなにやら騒がしい。
どうしたのかと銀之助がこの場をサーシャたちに頼み表に出た。
「火事だぁぁぁーーーーーーッッッッッッ!!!」
少し離れたマンションがゴウゴウと炎に包まれていた。
消防車が数台放水しているが、炎はまるで収まる気配が無く、マンションを燃やしていく。
水遁を使える消防隊員の人手不足。
苦戦を強いられている。
それだけではない。
マンションの下付近に女性が泣き叫んでいる。
「落ち着いて!!!危険ですから!!!」
「リクちゃんがッッッ!!!リクちゃんがまだ中に居るッッッッッッ!!!!!!!あぁぁぁぁぁッッッーーーーー!!!!」
どうやら女性だけ助かったらしく、中に子供が残っているらしい。
すぐさまカフェの中に戻り早々と説明をする銀之助。
「よっしゃ!!!ほなウチが風で吹き飛ばしたるわ!!!」
「いやアカンサっちゃん!!!下手に風遁放ったらガラスとかも吹き飛ばしてまう!!!それが中におるこどもが巻き込まれるかもしれん!!!」
軽くストレッチをする銀之助。
カフェをサーシャとパルムたちに任せ、マンションに向かい走り出した。
後ろにはケロンバとエメリィ。
ダダダダダダダダッッッッッッ!!!
「ケロンバ!!!お前水遁できるか!!!?!」
「使えるゲロ!!!あの炎くらいならほぼ掻き消せるけど中に居るこどもを巻き込まないように調節するのは難しいゲロ!!!」
「私も少しなら水系魔法使える!!!」
「よっしゃッッッ!!!ほな道作ってくれ!!!そっから突っ込む!!!」
走りながら印を組み、魔力バリヤーを全身に張る銀之助。
「なんですか!!!危険ですから下ってッッッ!!!入っちゃダメです!!!」
「すんません!!!仕事の邪魔になってまいますけど、失礼しますわ!!!」
「消防士さんはそのまま放水続けて!!!」
消防隊員を押しのけ無理やり3人は階段を使い炎が噴き上がる一室へとたどり着いた。
「水遁・ガマ鉄砲ッッッ!!!」
「ラクーンバブルッッッ!!!」
ボジュウウウゥゥッッッッッッ!!!!!
「今ゲロ!!!」
「サンキュー2人とも!!!」
ドアを蹴り壊し中に進入した銀之助。
部屋を軽く見渡すこと数秒。
リビングかダイニングだろうとすぐに察知し、炎と煙を掻い潜る。
「ゲホッゲホッ。」
(いくらバリヤー張ってるとはいえ煙が酷すぎる…!!!そんでこどもは…………おった!!!)
うつ伏せで倒れているこどもが1人。
男の子だ。
小学生にも満たないその体を確実に煙という毒ガスは蝕んでいる。
大人でも耐えられるものではない。
銀之助はこどもを抱え、ケロンバとエメリィが待つ通路に戻ろうとした。
しかしまたもや炎が激しく燃え盛る。
(この炎…!!!しょうもない惑星のゴミ油使っとるんか…!!!)
いわゆる安っぽい量産型の油。
実態はいいものとは言えず、質の悪さが目立つ。
しかし安価で生産できるとのことで、地球にもよく輸入されているのだ。
ゴオオオオオォォォォッッッ!!!
「ケロンバ!!!エメリィちゃん!!!水遁使ってくれ!!!」
…………………………
返答が無い。
炎が燃え盛る音で聞こえないのか。
どうにかテレパシーを送るも、質の悪い油が原因で通信が途絶する。
(俺そこまで水遁出来へんけど…やるか!!!)
こどもをおんぶしながらなので、印が結びにくい。
その時であった。
シュルルルルルッッッ!!!
なにやら白いものが飛んできた。
その白いものは一気に拡散。
パッッッ!と開き、なんと炎を包みこんだ。
「銀兄!!!」
「サっちゃん!!!なんでここおるんな!!!って…………その子…!!!」
「モキュ!」
サーシャはバトルモスモスを抱っこしていた。
そのモスモスが口から糸を吐いたのだ。
炎を包み込む糸。
完全にかき消えたわけではなく、包まれた内部で燃えている。
おそらく、一時的なものだろう。
「この子の糸凄いで!なっかなか燃えへん!さっきコンロの火消しよったんよ!ていうか銀兄はよせんかい!!!」
「悪い!!!」
銀之助は足に魔力を込め、踊り場からジャンプ。
そのまま綺麗に着地し止まっていた救急車と隊員にこどもを託し事なきを得た。
近くにいた母親には泣きながら何度も頭を下げられた。
銀之助は自分だけでなく、みんなのおかげだと笑顔で対応したのであった。
みんなに見つめられる銀之助。
「………………よし!!!この子育てるか!!!」
ワーイ!!!
ワーイ!!!!!!!!
正式にバトルモスモスをカフェに招き入れることにした銀之助。
モスモスもサーシャも大喜びである。
衛生観念どうなってんだこのカフェ。
「ん、そういやさっきエメリィちゃんに名前どーこー言われてたよな?どないするんや?」
この際である。
サーシャが決めたらどうだろうかと銀之助は提案。
うむむ!と悩んでいたサーシャだったが、拳を手のひらにポン!と叩き口を開いた。
「バトルモスモス…!!!この子はモス子!!!」
ズコー!!!
まんま過ぎる名前にみんながズッコケた中、サーシャとモス子だけは笑顔であったとさ。
「モキュ!!!」




