第54話 光の道しるべ
ザァーッ
雨が降りしきる。
目は開いてはいるものの、虚ろなパルム。
少し動く指は意思なのか痙攣なのか。
フォー!!!
ファーイブ!!!
カウントが進む。
バルカンはパルムから少し距離を取り見下ろす。
(つ…強すぎる…。か…勝たれ…へん…。ま………負けるんか俺…………。最悪…負けても……ええ…。た………ただ…………。)
バルカンを助けなければ。
それだけでパルムは戦っている。
今のパルムには、カフェの事やサーシャに怒鳴られる事があまり考えていない。
余裕が無いのも理由のひとつであろうが、目の前の苦しんでいる一人の男も救えずに何がカフェでネガティブと言う名の退屈を奪おうと言えるのか。
なにが寄り添える、安心できる場所を提供出来ると言うのか。
ダダダダダッッッ!!!
「バルカンッッッッッッ!!!」
声が響く。
ヨーベイガーたちが居る選手専用客席にディアたちがやってきたのだ。
フェンスに手をかけ大声で叫ぶディア。
「何やってるし!!!どうしたのよバルカンッッッ!!!」
「フシュル…グ………!!!ガ…!!!」
頭を押さえるバルカン。
ディアの言葉が響いているのだろう。
パルムによってちぎれた黒い鎖の影響か、ディアの声が届きやすくなったか。
「パル兄ィィッッッ!!!起きんかい!!!何してんねんッッッ!!!」
サーシャの怒鳴り超えが耳に入る。
動こうにも体が言うことを効かない。
(さ………サっちゃん………。)
「ていうか…銀兄は…。負けたんか…。なんや今治療でもしてんの?どうなんボールちゃん!」
「ぼ………ボル…。銀之助は………バルカンと戦ったけど、負けて………。でも大丈夫ボル!命に別状はないボル!」
とっさに嘘をつくチップ。
ここで正直に話しても仕方ない。
ナイスファインプレー。
サーシャは頷き、リングに振り返る。
そしてこれでもかと息を吸い込み、はち切れそうな声で叫びだした。
「パーーーーーールーーーーーーームーーーーーーッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」
周りのスペースファイターたちも互いに頷きそれに続く。
パールーム!!!
パールーム!!!!!
クエスチョナーやグレートたちも大声でパルムの名を叫ぶ。
心からの応援。
そう、戦っているのはパルムだけではない。
全員が【心】で戦っているのだ。
だからこそ、応援なのだ。
「バルカンッッッ!!!なにがあったのか知らないけど、しっかりしろし!!!」
「ググギ……ガ………ァ…ッッッ!!!」
(し…死にそうや…。)
声という思いが、素粒子がパルムに伝播するも体が動かない。
心を縛る黒い鎖に触れたせいか、その因子が邪魔をしているのだ。
必死に動こうとするパルム。
しかしほんの少しずつ動くようになってきた。
とは言えこの状態では戦うどころか、立つのでやっと。
(動け………動けよ俺…!!!)
パルムの頭にはみんなの顔が浮かんでいた。
全員が自分を応援してくれている。
それに応えなければならない。
こういう時、あの銀色の巨人はどうしていたのだろう。
苦しみながら目を強くつむるパルム。
ほどなくして、何故か瞼の内の黒い部分に明かりが灯された。
薄目で空を見上げる。
そうだ。そうだった。
ウルトラマンはこの力で動いていた。
人間もこの力無しでは生きていけない。
肝心なものをわすれていた。
小さく、差し込む光を眩しがりながら呟いた。
「太陽…………エネルギー…………。」
次第に後光は強くなり、パルムとバルカンを映し出す。
バルカンは太陽光でまた苦しみだした。
木霊の力はなにもパルムだけではない。
バルカンにも届いているのだ。
真剣な眼差しでおもむろに起き上がるパルム。
「ゴギャ…………!???!」
「ウウウウゥゥゥ………オオオオォオォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーー!!!!!!」
腹の底から気合いを入れるパルム。
その姿は後光と木霊で光り輝く。
「バルカンッッッ!!!退屈させて悪いなッッッ!!!仕切り直そうぜッッッ!!!」
何かに怯えるバルカン。
目の前の少年、それも身長も低い少年に恐怖を感じている。
それでもバルカンは拳を握りしめファイテングポーズをとる。
「いっっっっっけええええぇぇパル兄いいいぃぃッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーーーーー!!!!!!!」
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!!!!!
リングを蹴り上げ、バルカンに突進するパルム。
全身ではない。
両足にだけスカイハイの力を込めている。
バルカンはパルムに対して拳を振りかざすも、スレスレで回避される。
そしてパルムがボディブローを叩き込んだ。
「ゴブェアッッッ!!!」
口から大量にヨダレがほとばしる。
パルムは両腕をパワーダンプの魔力を纏っている。
それがモロに命中したのだ。
バキンッッッ
黒い鎖が砕けていく。
「ゴビャァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
数撃ちゃ当たる戦法か、バルカンが辺り一面を殴り倒す。
パルムは時折顔や体を掠めるも、マトモに当たる事だけを避け抵抗。
そしてバルカンの後ろに回り込み、ガッチリとホールド。
「ッッッ!!???!」
「ダァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!」
ドゴオオオオッッッ!!!
まるで教科書のようなジャーマンスープレックスが炸裂。
悶え苦しむバルカン。
バキバキッッッ
バキンッッッ
「オマケにこれやッッッ!!!」
すぐさまバルカンの足元に移動し、足首を持ち思いっきり捻るパルム。
そしてスカイハイモードを利用した高速スピンをかける。
スピニング・トーホールド。
「ガギャァァァァッッッ!!!」
バキバキバキッッッ
バルカンの体が緑色に発光し始めた。
パルムはとっさにバックステップで距離をとる。
バリバリバリバリバリバリッッッッッッ!!!
バルカンの全身発電。
このままでは近づけない。
パルムは臆することなく、冷静に魔力を練り始める。
「パルムのやつ、なに悠長に魔力練ってんだよ!!!」
「いや、アレでいい。頭悪い割にはいい動きしやがるぜ。」
心配するクエスチョナーを他所に冷静なクソエリート。
「どういう事だよ!??!」
「あの全身発光。流れを見てたらわかるが、発光しながらはあの電気の鞭は出せねぇみたいだぜ。だからあの発光はあくまでも相手と距離を取るための魔法なんだろうよ。それに…」
ボーナは続けた。
あの技は他の魔法と比べて魔力・体力・カロリーの消費が激しい。
おそらく、この場ではもう出さないはずだ…と。
「なるほどな…。そういう事かよ。よく見てるなお前。実を言うとパルムたちのファンなんじゃね?」
「だ、誰がファンだボケッッッ!!!ただ僕はエリートだから冷静に物事を見て判断して、それを」
「ハイハイ。ボーナさんは素直じゃないもんねぇ〜。」
「テメェクソ狸ッッッ!!!」
周りの仲間にニヤニヤされながら囲まれるボーナ。
焦っているのを見ると本当は好きなのだろう。
最後まで素直じゃないボーナであった。
「ガボェヤァァァァッッッ!!!」
電気鞭がついに出てきた。
パルムめがけ縦横無尽に鞭を振るうバルカン。
しかし、パルムは冷静にこれらを全て回避。
先ほど練った魔力のお陰で心にも身体にも余裕が生まれている。
焦っているのはバルカンである。
そして一気に近づいたパルム。
「さっさとぶっ壊れろやぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーー!!!!!」
両拳に力を込める。
もう鎖は崩壊寸前だ。
「12連ッッッ!!!ツイン魔圧ブレーカーッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーーーーーー!!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドドッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
「ウバァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!」
激しく吹っ飛ぶバルカン。
何度もリングに体を打ち付け、連撃が止まった。
「ハァ…………ハァ…………!!!」
瞳が薄くなるパルム。
太陽がまた雲に隠れてしまった。
それに一気に魔力を使ってしまった。
一連の流れは奇跡に近しいだろう。
とは言え、曇天は過ぎたので雨の様子は無い。
ほんのりと曇る空の下、2人の男を映し出す。
そしてゆっくりとバルカンが起き上がった。
「………………………………………。」
顔を上げる。
パルムも真剣にバルカンを見ていた。
「………………俺は…………今まで…何を………。」
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!
内容までは把握していないので、流れのノリで盛り上がる観客たち。
パルムやディアたちも自然に笑みが溢れる。
「バルカン…………!!!目、覚めたんやの…!!!」
「パルム………。」
周りを見渡すバルカン。
そして少し震える両腕を見つめる。
「パルム………感謝する………。」
パルムが笑顔で返答しようとすると、バルカンはゆっくりと腕を上げ始めた。
「俺は…この試合を…放棄」
「辞めるなバルカンッッッッッッッッッ!!!」
最後までセリフを言わせずに制止するパルム。
不思議そうな、困ったような顔でそれを見るバルカン。
「な…何故止める…。俺は………銀之助を殺して……そして…お前も殺そうとして…………。それに何より………」
頭に浮かぶはディアや帰りを待ってくれている家族たち。
その家族などどうでもいいと、暴れてしまった。
何もかもが壊れた。
罪悪感に縛られるバルカンは、身を引こうとしたのだ。
「死んでへんッッッ!!!銀ちゃんは生きとるッッッ!!!それに俺も死んでへんッッッ!!!誰も死んでへんのやッッッ!!!」
スッ…と構えをとるパルム。
「最後までやろうぜ。もう恨みつらみは無い。男比べの続き…やろうや。」
血まみれで笑顔を見せる。
バルカンは少し迷った。
自分にそんな資格などあるのだろうか。
たった一人の男に心の闇を利用された自分なんかに。
しかし、バルカンは同時に思った。
寧ろここで相手の提案を断ること。
それこそ本当の失礼にあたるのでは、と。
「…………………。」
無言で構えをとるバルカン。
両者睨み合い。
「………かっこいいぜ…パルム。」
「お前もな…キャプテン・バルカン。」
バッッッッッッッッッ!!!
タイミングはほぼ同時。
もはや体力が残っていない2人が出来るのは正面からの殴り合いという泥試合。
互いにクロスカウンターがぶつかり合う。
仰け反りながらなんとか体勢を保つパルムはバルカンの横腹にボディブロー。
入ったはいいものの、浅い。
そして反撃にパルムは顔面に膝蹴りを貰う。
前歯がへし折れた。
しかしそんなことどうでもいい。
パルムは水面蹴をかける。
先ほどのスピニング・トーホールドのダメージが足に残っていたので、バルカンはいとも簡単に崩れ尻もちをついた。
そして最後の技の準備に取り掛かる。
泣いても笑ってもこれが最後だと。
ズキンッッッ!!!
膝も腕も限界だ。
痛みが走るも関係ない。
パルムはバルカンを持ち上げ高く飛び上がった。
「こんの…………ッッッ!!!」
バルカンはパルムの片腕のロックを無理やりほどき、顔面に何度もアームハンマーを叩き込む。
パルムはただ耐えるのみ。
ガシッッッッ!!!
「な…ッッッ!!!」
「使わせて貰うぜッッッ!!!」
パルムは何度も襲ってくる腕を逆に利用し、形は崩れ不安定ではあるもののバルカンをホールド。
リングが近づく。
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッ!!!!!
「正真正銘ッッッ!!!これが最後じゃッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!リュウジンバスターッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーーーーーー!!!!!!!」
ドゴオオオオッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
砂煙が舞う。
シルエットはリュウジンバスターのまま。
少しの静寂が流れ、その形は終わりを迎えた。
ドサッッッッ
倒れたバルカン。
何故かパルムはしゃがんだ状態で動かない。
「ど………どうなったんだ………。」
冷や汗をかきながら見守る観客たち。
スペースファイターやクエスチョナーたちも固唾を飲んでいる。
そしてゆっくりと起き上がったのは………………
「グ……………ゥ………。」
バルカンであった。
パルムは微動だにしない。
砂煙が完全に消え、その隠れていた顔が見え始めた。
パルムは白目を剥き、気を失っていた。
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
カンカンカンカンカンカンカンカンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
試合が終了した。
これで完全に全ての試合、この大会が終わった。
泣いても笑っても最後である。
この場にいる全員が声を上げてはしゃぐ中、審判が叫んだ。
「勝者ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!パルム選手ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」
「なッッッ!!???!!」
「な、なんでだよ!???!」
「あのガキ気絶しとるんやぞ!??!!」
会場がざわつく。
バルカンも状況を理解出来ていない。
何故なのか。
「………………あッッッ!!!」
一人、そして一人が気づいていく。
そして遂にバルカンを気がついたのか。
ゆっくりと汗を流しながら、目線を自分の足元に移す。そして目を見開いた。
「………………ライン……………アウト……………。」
完全に足がラインの外に出ている。
リングに立っているのはパルムである。
そう、パルムがこの試合を征したのだ。
そして…処置室では一人の男が静かに優しく微笑んでいた。
相方の勝利を称し。
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
30分2秒。
パルム
優勝。




