第53話 「鎖をぶった斬れ」
ゴングが高らかに鳴り響く。
雨は止むことを知らずに降り注ぐ。
パルムはファイテングポーズをしっかりと構え、バルカンと対峙。
バルカンはヨダレが口から垂れ落ち、フシュルフシュル…と全身を震わせている。
ズズッ
先に動いたのはバルカン。
その場から弾丸のようにパルムに向かい突っ込んだ。
なんとか動きを予測していたパルムは横に跳び突進を回避。
勢いのままラインアウトになってくれれば御の字ではあるが、そんな事あるはずもなくバルカンは急ブレーキをかけたと思うと慣性を利用し体を捻り上段浴びせ蹴りを炸裂させた。
ドゴォッッッ!!!
「グ…ッッッ!!!!!」
両腕でのガード。
しかし威力が凄まじいのでガード越しからその蹴りが伝わる。
そう何度も連続で防げるものではない。
バルカンは片手でバランスを取り着地。
パルムは大きな轍を残し後ろに後退。
(なんちゅう蹴りや…。チェリオスクラスやんけ…。でもまだなんとか対応できる…!!!)
グググと握り拳をつくり、腰を前に丸くかがめるパルム。
「今度はこっちの番やぜ!!!」
バッッッ!!!
バルカンめがけ右ストレート。
しかし当然のように躱される。
バルカンは体を横に逸らすように回避した。
「引っかかったの!!!」
パルムは勢いで上半身を丸め、逆立ちの形を取るようにバルカンに向け蹴りを放った。
直撃は叶わなかったものの、頬を掠める事に成功。
皮膚が裂け流れる鮮血。
バルカンは怒りのままに拳をパルムめがけ振り下ろした。
(今やッッッッッッ!!!)
ドゴオオオオオオオォォォォォォッッッ!!!
アームハンマーはリングにぶち当たるも、パルムには当たらず。
それ以前にパルムが居ない。
顔を横に向けると、髪の毛がスカイブルーと化したパルムの膝が顔面に命中。
バルカンはたまらずに尻もちをついた。
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!
「パルムのやつ!!!もうコントロール出来るようになったのかよ!!!すげぇ芸術だぜ!!!」
「いや、まだ若干発動が遅い。しかし今のはタイミングが完璧でした!!!」
どっちだよ。
ガッツポーズを取るディブロスとルーク。
お前もちゃんと見てたのかよと後ろを向くディブロスであったがチェリオスが居ない。
「あ?どこ行ったんだアイツ?」
「肛門がはち切れそうですわ!とか言ってトイレ行ったボルよ。でも同時に…パルムが優勝する瞬間までには帰ってくるって。」
「あんにゃろ〜。とことんわけの分からん変態目玉野郎だぜ。まぁいいや!」
タイミングの悪い目玉はさておき、今はパルムとバルカンの試合を見届けなければならない。
パルムはスカイハイモードでバルカンの周りを縦横無尽に移動し、時たま攻撃を浴びせていた。
普通の観客はまるでパルムが姿を消したようにしか見えない。
ズガガガガガガガガッッッッッッ!!!!!!
「ブベァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
ハエのように飛び交うパルムを鬱陶しがり、腕をブンブンと振り回すバルカン。
当たれば相当な威力のパンチなのだろうが、面白いぐらいに当たらない。
そればかりかパルムはそのパンチすら利用してカウンターを仕掛ける。
(いける!!!筋肉の鎧で硬ったいけど、ヴェルタースほどじゃない!!!なんとか出来るだけここで削らんと!!!)
ドゴッッッ!!!
バキィィ!!!
「よっしゃぁ!!!いけるぜパルム!!!そのまま押し切って………ん?」
バチ…
「ダメだパルムッッッ!!!離れろッッッ!!!」
バチチ…
ヴェルタースが叫んだ直後。
バルカンが身体から半径5メートルほどの電気ドームを形成。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッッ!!!
「ウオッッッ!!!」
パルムはなんとか回避出来たものの、勢いでその場から吹っ飛んだ。
回転しながらなんとか受け身を取り、体勢を整える。
「ウゲッ………リングが焼け焦げてやがる…………む?」
暗い。
何かの影が自分を覆っている。
「グギギュギュ…………フシャルァ………。」
「な…!!!いつの間に…」
バゴオオオォォォォッッッ!!!
驚く暇さえ与えずにアームハンマーがパルムの脳天に直撃。
瞳孔がボヤけ意識が飛びかける。
バルカンは間髪入れずにパルムの喉元を鷲掴みにし、リングに叩きつけた。
「ゴバッッッッッッッッッ!!!」
あまりにも早い流れ。
雷遁を使ったすぐ後に高速移動。
タイムラグはほとんど無し。
元よりバルカンのフィジカルに黒魔術がかかっているのだ。
まさに鬼に金棒。
それも最悪の形で。
「ブルルルルルァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
ガクンッッッッッッ!!!
「!???!!」
再度リングに叩きつけようとしたが、衝撃がこない。
そればかりか腕がギシギシと軋む。
「ボコスカボコスカと………やってくれるなぁバルカンさんよぉ…………!!!」
紅蓮の重戦車・パワーダンプモード。
この大会。急に修羅場をくぐり抜けてきたからか、パルムのモードチェンジの速さは異常なまでに成長している。
バルカンが片方の腕で殴りかかってきた。
それを利用し、パルムは一本背負いでバルカンを逆に叩きつけた。
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!
「お返しじゃコンニャロッッッ!!!」
起きかかっているバルカンを後ろから殴りかかる。
ガシッッッッ!!!
「うぇッッッ??!」
ドゴオオオオ!!!
流石は本当の戦地を生き抜いてきた男。
パルムの腕を掴み、一本背負い返しをお見舞いしたのだ。
即座の判断と行動。
パルムは顔面からリングにぶち当たり動かない。
ダウンである。
ワーン!!!ツー!!!
カウント。
KOではない証拠にパルムの指はほんの少しではあるが動いている。
「ぐぐぐ………いっ…………………てぇ……。」
頭を押さえつつ起き上がるパルム。
視界が揺らぐ。
「ゴウェェッッッ!!!」
みぞおちに強烈な痛み。
バルカンのボディブローが突き刺さった。
容赦の二文字はこの男には存在しないのか。
「デリャァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
「ブリュウゥァァァァァッッッ!!!!!」
正面からの殴りあい。
パルムはパワーダンプなので、強さだけならばバルカンを上回るだろう。
しかし、チェリオスほどとは言わないがパンチの嵐に対応仕切れない。
ヴェルタースとは違い、確実に急所を狙ってきている。いくらパルムが頑丈になったとは言え、このままでは押し切られる。
「パルムッッッ!!!一旦引けッッッ!!!」
叫ぶヴェルタース。
「ッッッ!!!!!」
バックステップからの回避。
瞬時にスカイハイモードに切り替え距離を取る。
(おかしいぞアイツ…!!!なんべん殴ってもまるで効いてへん!!!でも…なんか…………。)
パルムの脳内なのかそれとも心で感じたのかは不確かではあるが、バルカンのイメージが伝わってきた。
それは暗黒の鎖にがんじがらめに巻かれて封印されているかのような姿。
何十本もの鎖がバルカンを縛り上げている。
しかしところどころ鎖が欠けている。
何十本ものうち、数本が今にも引きちぎれそうなところまで欠けているのだ。
「………………………うわッ!危ねッッッ!!!」
イメージに集中するあまりぼーっとしてしまう。
間一髪でバルカンの攻撃を避けられたのは良いものの、このままではやられっぱなしだ。
ザァーッ
雨が降り注ぐ。
冷静に状況を整理するパルム。
スカイハイで勝負をすれば、速さは勝るもののバルカンの雷遁でふっ飛ばされる。
パワーダンプで戦えば、手数と確実な狙いでこちらが圧される。
色々と鑑みた結果、パルムは危険な賭けに出ようとしていた。
「…………………2つ合わせれば…。」
バルカンがこちらに向かい獣のような雄叫びを上げながら突進。
凄まじい右ストレートが飛んできた。
このままではモロにぶつかる。
(俺の体…!!!持ってくれやッッッ!!!)
「ブルルルルルァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」
(今やッッッッッッ!!!)
拳を握り、右腕に一瞬で力を込める。
全体ではない。
一部だけでいい!!!
「6連ッッッ!!!ジェット魔圧ブレーカーッッッ!!!!!」
ドドドドドドッッッッッッッッッッッッ!!!!!
「ガブリャエババババッッッッッッ!!!」
バルカンは回転しながら飛んでいく。
パルムの右腕は少し震えてはいるものの、なんとかカウンターパンチを決められた。
とはいえ土壇場で出したものなのでクオリティとしてはまだまだ低いだろう。
(痛ぇけど…なんとかできた!!!スカイハイ×パワーダンプの合わせ技…!!!でも…)
震える腕を見つめる。
(できて後数回…。)
「グリュリュリュ………。」
バルカンが起き上がる。
パルムは眉間に集中し、イメージする。
今のパンチでバルカンの鎖が数本へし折れた。たたっ斬ったのだ。
しかしまだバルカンはキツく縛り上げられている。
完全に壊さなければならない。
「ゴギュァァァァァァァァァッッッッッッ!!!」
バルカンが両腕から電気の鞭を発生させ、あちらこちらに無差別に叩きつけていく。
リングは雨で濡れているのでこのままではいずれ感電する。
パルムはスカイハイモードにチェンジし、空中に飛び上がった。
ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!
「あ…あいつ!!!モードチェンジを合わせやがった!!!」
「………………。」
「ヨーベイガー!!!あいつ勝てるぜ!!!ウォーーイ!!!いけやパルムー!!!」
「いや…打開策にはならんだろう。ラッキーパンチだ。」
「はぁ?何言ってんだよヴェルタース。確実にバルカンの野郎に当たっただろうが。」
「確かに当たりはした。でもまだあいつは生きてる。それに合わせ技は完成度が低い。練度がまるで無ぇ。」
少し険しい顔になるディブロス。
ヴェルタースの言う通りかもしれない。
まだまだバルカンの方が有利であろう。
そればかりかパルムは今空中に居る。
逃げ場がない。
「デリャッ!!!」
パルムが風遁のカッターを投げるも簡単に破壊される。
ただでさえ練度が無い魔法。
印も結んでいないのだ。
当然だろう。
ドガァァァッッッ!!!!
バゴォーッッッ!!!!!
辺り一面に鞭を叩きつけるバルカン。
パルムめがけ振り下ろすも、パルムはなんとか足に魔力を集中させ空気を蹴り上げ逃げる。
とはいえ追い詰められているのは事実である。
「ドゥラッッッ!!!」
「何やってんだパルム!!!魔力を無駄に消費するんじゃねぇ!!!そんなもん出しても意味ねぇだろうが!!!」
パルムは立て続けに風遁カッターを射出。
残酷にも全て無に化すと知っている上で。
バビュンッッッ!!!
鞭がまた飛んできた。
先程の動きで、焦らないように着実に避けようとするも…
ガクンッッッッッッ!!!
「ウゲッッッッ!!!その鞭曲がるんかよッッッ!!!」
ヨーベイガーの腕みたく、直角に曲がった鞭によっめリングに叩きつけられてしまった。
起き上がろうとした瞬間、バルカンの鞭がパルムに巻き付いた。
「ッッッ!!!!!!」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
「ガァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!」
白目を向き叫ぶ。
流石のパルムとはいえど、この威力はたまったものではない。
「ゴギュァァァァァァァァァ!!!」
更に出力を高めるバルカン。
このままでは銀之助の二の舞である。
「パルムーーーーーーッッッ!!!!!」
「ダメだッッッ!!!銀之助みたくなっちまう!!!止めるぞッッッ!!!」
ディブロスたちがフェンスに手をかけた時であった。
ルークとヴェルタースが腕を前に出しそれらを制止。
「アレを見てくださいッッッ!!!」
鞭でパルムを縛り上げるバルカン。
本来の優しい彼からは考えられないような形相である。
とどめを刺そうと最後の出力を上げようとした。
その時。
ピンッッッ……
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
「ギャガァァァァァァァァッッッ!!!」
何故かバルカンが感電し苦しみだした。
たまらず鞭を解除。
パルムは口から煙を出すも、頭を少し振り正気を取り戻しバルカンを一気に抱え込んだ。
「ルーク!!!パルムのやつ!!!何したんだよ!!!」
「パルムくんはバルカンさんを感電させたんです!電気を逆流させたんです!」
「逆流って…どうやって……………まさか!!!」
バルカンの足元がキラキラと光っている。
まさしく、アレはパルムの髪の毛。
「パルムくんは無闇矢鱈に風遁を出していたわけじゃない…!髪の毛をリングに突き刺す言わばカモフラージュ!例えバルカンさんが鞭でリングを叩こうとも、弾力のある髪の毛ならばそうそう壊れない!」
「それで髪の毛をバルカンの足に巻きつけてたのか!!!それにあのホールド…!!!いけぇぇぇパルムーーーッッッッッッ!!!」
空中に飛び上がり、しっかりとバルカンをホールド。
体勢、角度、速度。
何をとっても完璧なフォーム。
「今の逆流でまた鎖が壊れた…!!!この衝撃与えれば…完全に壊れるやろッッッ!!!戻ってこいバルカンッッッ!!!リュウジンバス…」
ズキンッッッッッッ!!!!!!
(いでぇ!!!!!)
先程のジェット魔圧ブレーカーの痛みが蘇り、右腕が痛んだ。
これをバルカンが見逃すはずもなく、空中でホールドを解きパルムをしっかりとロック。
「ゴギュルァァァァァァァッッッ!!!」
ズドォォォォォォォッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
顔面から落ちたパルム。
ゆっくりと身体から離れるバルカン。
目は虚ろであり、パルムは仰向けで倒れた。
2度目のダウンカウントが始まった。




