第51話 紫炎
「あのバカ女、敵に塩送りやがったよ。」
クランベリーパイを合計350個食べたボーナ。
おかわりをファニィに頼むも売り切れだと手を横に振られ断られる。
「なんか…ディアって人、パワーアップしてるね…。ボーナさん、サっちゃんなんて言ったの?」
変な顔をしてぶっきらぼうに口を尖らせるボーナ。
それだけで何も答えない。
「サっちゃんはあの子の心の氷を溶かしたんだ。なんか如何にもサっちゃんらしいぜ。」
歯を見せニカッと笑うクエスチョナー。
グレートとエメリィは横目にそれを眺め、目線をサーシャたちに向け直した。
ヒュオオオオオオオオ
身体から冷気が迸る。
顔つきもなにか憑き物が取れたかのように爽やかなものになったディア。
「アンタマジでわけわかんないわ。何?そうやって戦ってきたスペースファイターたちにも吹き込んでた感じ?」
「吹き込む?なんの事やら。ウチは自分が言いたい事言うてるだけやで。そんなウチが説教言うなんざ向いてへんやろし。」
それを聞いたディアは口元が少し緩んだ。
目の前の女は何も説教や自分のほうが立場が上だと気持ちよくなっている訳では無い。
本気で本音を喋っているのだと理解し納得した。
ディアは誰にも聞こえないような消え入るような声で小さく何かを呟いた。
それが聞こえたのかどうかは分からないが、サーシャは笑顔で拳を強く握りなおした。
「後悔すんなしッッッ!!!」
ディアが一瞬でリングの表面を凍結させた。
そして両足をフィギュアスケートの形に氷を覆う。
その後ろからは凍てつく突風が追い風となりディアを前に押し出した。
サーシャはジャンプし、自分の両足の凍結を回避。
しかしもう目と鼻の先にディアが接近していた。
「えッッッ!!??!速ッッッ!!!」
「アイスブレードッッッ!!!」
ディアは右手に日本刀のような氷の刃を纏わせサーシャに斬りかかった。
ジャンプしたせいで空中に居るサーシャは避けようがないがなんとか真剣白刃取りでそれを受け止めた。
しかし
ガチチ…
パキ…
「ッッッッッッ!!!!!!!」
サーシャはすぐさま氷刀を離し、ディアと少し距離を取った。
瞬時に判断が功をなしたのか表面の皮膚が少し剥げた程度で済み、手をグーパーと交互に動かす。
痛みはあれど、この程度気にしていられない。
「ドライアイスかいな…。」
そして何かに気づく。
吐いた息の白さが先ほどより増している。
周りの温度も急激に下がり、体がブルブルと
震える。
シバリングが切れたのだ。
マンナと違い、全くした事のなかった見様見真似の技。
その分、精度も低く持続性も悪かった。
もう一度シバリングを試みようにも、ディアの嵐のような猛攻が襲いかかってくるのでそれどころではない。
ガガガガガガッッッ!!!!!!
「オラオラオラッッッ!!!どうしたよどうしたよッッッ!!!防ぐだけじゃ勝てないし!!!さっきまでの威勢はどこに行ったし!!!」
寒さのダメージもあり、体が上手く言うことを聞かないながらも防御と流しに専念するサーシャ。
しかし誰がどう見ても追い詰められている。
「クッソ…………!!!!!!こんのッッッ!!!」
力を振り絞ったストレートを放つも面白いぐらい簡単に避けられ、顔面にドロップキックを貰うサーシャ。
スケートの歯の部分のせいで裂傷も作られた。
鼻血を吹き出しながら回転し吹っ飛んで行く。
まだラインアウトまでには距離があるので心配はないが、このままではKOは必須。
なんとか震える体を起こし、ディアを見ると印を結んだ後、両腕に力を込めている。
「な…………なんかヤバそう…!!!動けや!!!しっかりせんかい!!!!!!!」
兎に角当たるわけにはいかない。
力を貯めるのに時間がかかるのか、ディアはまだ攻撃を放たない。
もしくはサーシャ相手に最大の技をぶつけるために必要以上に魔法を込めているのか…。
次第に冷気が増し、ディアの両腕が光る。
「デュアル・フロストッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
ウオオオオォォォォッッッ!!!!!!
ディアは両腕から冷気の突風を突きだした。
当たればひとたまりもない。
どうするサーシャ。
「動け言うとるやろがクソボケエエエエェェェェェェッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッーーーーー!!!!!!!」
シュゴオオオオオオオォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
パラパラと舞い落ちるは砕け散ったリングと氷の破片。
キラキラと輝くその光景は美しくも残虐。
次第に落ち着くその粉塵に映る影。
「……………………悪運強いし…。」
少し広角が上がった口元のディア。
「ゲホッゲホッ………ハァ…ハァ…!!!」
サーシャは生きていた。
サーシャに天空奈落落としを食らった際に、思いっきりこれでもかと足首を握られた痛みのせいでディアのデュアル・フロストの狙いが逸れたのだ。
しかしその威力は魔法ドームの半分以上を凍結させ、ところどころ瓦解している事から当たればまず生き残れなかっただろう。
とはいえサーシャも完全に無事かと言えばそうではない。
何故ならば、サーシャの左足が凍結しているからだ。
元より寒さのせいで俊敏な動きが出来なかったのがこれが止めになるだろう。
「サーシャさんッッッ!!!」
「サっちゃん!!!」
心配するスペース・ファイターたち。
どうにか立ち上がり、左足に両手を当てるサーシャ。
しかしサーシャは熱魔法など使えない。
シバリングは人間に備わった本来の力。
それを無理やり引き出したに過ぎない。
ディアはサーシャに向かい走りだした。
「ダメですわ!!!足を粉々にするつもりですわよ!!!」
「サーシャさん逃げてください!!!」
「足?違うし。私の狙いは…。」
不敵な笑顔でマクロとマンナを否定するディア。
フラフラのサーシャに勢いよく飛びかかったと思うと、何やら不思議な体勢へと事を運ぶ。
飛び蹴りでのラインアウトではない。
サーシャは本気でヤバいと顔を強張らせる。
そう、この技はまさしく…。
「あ…アレはッッッッッッッッッ!!!」
「まずいって!!!アレってマンナが食らった…!!!」
「いや違うぜアスカ!!!少し形が違う!!!アレは………!!!」
相手の足に足を引っ掛け、背中に跨り両腕を折り曲げる技。
「パロ・グレイシアリバースッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」
グギギギギッッッ!!!と歯を食いしばり踏ん張るサーシャ。
両腕がみるみるうちに凍りついていく。
「パロ・グレイシアは背中合わせで相手の腕を攻めていく技!!!でも相手が倒れたら技は崩れやすくなる!!!でもリバースは相手が倒れようとも技を続行できるッッッ!!!ヤベェぞサーシャ!!!」
叫ぶベラニー。
その間にサーシャの両腕は完全に凍りついた。
それに合わせて左足の凍結。
勝負あったか。
「アンタには感謝してるし…。色々頭叩いて目覚ましてくれたからさ。でもそれとこれは全く別。互いに背負ったもん。違いはあれど、私が勝たせてもらうし!!!」
パキキキキ…
(マズイ…!!!ホンマにマズイ!!!完全に凍ってもうた!!!全く言う事きかん!!!)
ガチチ…バキッッ
(ここまでなんかウチ…。寧ろ凄いんかな…。宇宙中から凄腕の…なんやった?スペース・ファイターやったっけか?が集まる中でこんなスタイル抜群の超絶美少女で可憐で清楚で儚いウチがここまでやれたんやし…。)
バギッッッ
(パル兄と銀兄はどうなんやろ…。ホンマにごめん…。ウチが勝手に申し込んどいて、優勝もせんて…。いくらお金無いからって巻き込んでもうた…。…………情けないわ…。…………ん、なんか聞こえる。)
サーシャッッッ!!!!
サーシャッッッッッッ!!!!!!!!
「根性だせやクソ女ぁぁぁぁぁッッッッッッッッッ!!!!!このエリートを倒したのはなんだったんだよッッッッッッ!!!そんな無様な姿見せるぐれぇなら負けて死ねやッッッッッッ!!!おいゴードンッッッ!!!追加のクランベリーパイ持ってこいや!!!」
「売り切れつってんだろ。お前にほぼ食われたって。サーシャッッッ!!!このパラボランと戦った熱き魂を忘れるなよッッッ!!!」
「負けんじゃないよッッッ!!!極楽湯のあのアンタはどこにいったのさ!!!」
「頑張れええぇぇサっちゃんんんんんッッッッッッ!!!」
サーシャ!!!
サーシャ!!!!!!
「み…みんな。」
「声援か…。そんなもん!私も貰ってるし!私の帰りを待ってくれてる大事な家族が!姿見えずとも応援してくれてるし!!!」
ディアが最後の力をサーシャに加えた。
粉々にするつもりだ。
「終わりだしッッッ!!!」
バキバキッッッッッッッッッ!!!
「ウオオオオオオオオオオオオオアォァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!負けてたまるかぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!関西の女なめんなよおおおおおぉぉぉッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
ゴシャッッッッッッッッッ!!!
ドッバァァァァァァァァァァァァァァァァァァンンンンンンンンンッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
謎の爆炎が吹き荒れる。
吹っ飛んだディアは氷の爪をリングに突き刺し、なんとか踏ん張り耐える。
しかし爪に異変。
「な…なにこれ…。」
ディアの強固な氷の爪がドロドロと融解し始めた。
周りを見ると冷気がほとんど死んでいる。
そして何より、熱い。
観客やディアがサーシャに注目。
「……………何これ。」
ボォウ…
メラメラ………
シュゴオ…
サーシャ自身も驚いている。
何故ならば、拳と足から炎がメラメラと燃え上がっているからである。
凍結した腕と足は完全に溶けている。
ディアによって急速に冷え込んだ空気が吹き飛んだのもこれのせいであろう。
それにそれだけではない。
「紫の炎て…アンタ、カラーリングしたわけ?こんな切羽詰まった状況で?」
ディアに疑問をぶつけられるも理解出来ないサーシャ。
「いや…ウチ火遁なんか知らんし使ったことも食ったこともないんやけど…。カラーリングて?」
食えない女である。
サーシャが火遁を使えないのは本当である。
驚くべきなのはその色。
本来、火や炎の魔法は赤色である。
勿論空気の通りが良い質の高い魔法は青色だったりするが、紫など聞いたことがない。
魔法に色をつける魔法なども確かに存在するのはするが、サーシャがするとは思えない。
顔色が悪くなるディア。
兎に角熱いのだ。恐らく熱魔法も兼ねているのだろう。
一気に逆転された。
「それにしても…ウチこんな魔法使えるんやな…。全然熱ない…。凄いなこれ…。……フヒヒ!みんなとディアちゃんに感謝やな!」
「勝手に感謝…ね。この状況、全ッッッ然嬉しくないしッッッ!!!」
ディアのアイス・コーンがサーシャを襲う。
周りの温度が熱いせいか形も少し歪で小さいが関係ない。
「デリャッッッッッッ!!!!!」
ボジュウッッッ!!!
腕や足で氷柱をブロック。
当たる直前で氷は完全に融解。
ボタボタと水へと変貌し、力なくサーシャの足元に滴り落ちる。
「行くでディアちゃんッッッ!!!手加減せぇへんぞ!!!」
サーシャが一気にディアに攻め込む。
「ッッッ!!!!!」
ディアはまた氷の鎧を纏い、サーシャと対峙するもその鎧はボディブロー一発で崩壊。
得意の氷が役に立たないとわかればすぐに近接格闘に切り替えるしかない。
炎に耐えつつ、正面からの殴り合いに持ち込んだ。
ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
(やっば…!!!めちゃくちゃ熱いし氷が意味ないし!!!こんな土壇場で目覚めるとか!!!ありえないし!!!)
サーシャのパンチを回避しても後から尾を引くように炎がディアに掠る。
いつもの避け方ではダメだ。
もっと余裕を持った上での回避をしなければ。
サーシャの上段右回し蹴りがとんでくる。
これをイナバウアーみたく背中を曲げ回避。
勢い余ったサーシャはクルッと背中をディアに向ける。
そこにディアは手刀を斬りつける。
「いっっっっっっだッッッッッッ!!!!!」
皮膚が避け鮮血が飛び散り苦しむサーシャ。
一気に叩き込むしかない。
そう思ったのも束の間。
「ジュウオラァッッッ!!!」
(しま…ッッッ!!!)
サーシャは右足を即座にリングに着け、上体を曲げ左足で下からのかち上げ蹴りを放つ。
ディアはこれを両手で受け止めてしまった。
ジリジリと焼けていく両手。
すぐさま手を離すも、腹に正拳突きが炸裂。
「ゴボッッッッッッッッッ!!!」
綺麗にみぞおちに入った上に、ダメ押しの炎の熱さ。
凍てつく惑星から来たディアからしたらたまったものではない。
「まだまだ行くでディア…………うぇ?」
ズルッッッ
ドテエエエエエエエエェェェェェェンッッッッッッ!!!
思いっきり派手にずっこけたサーシャ。
ディアも少し拍子抜け。
「ダーーーーーーハッハッハッハッ!!!おいおい!!!見たかよ今の!!!イーヒッヒッヒ!!!アイツ顔面からずっこけたぞ!!!」
腹を抱え笑うボーナを白い目で見るクエスチョナーたち。
「アレは痛いな…。それよりも…なんでサっちゃんこけたんだ?」
ポタタ…………
パタパタパタ………
ザァーーーーーーーーー
「ん?」
上を見るエメリィ。
雨だ。
それも中々の大雨。
観客席には天井があるのでそこまで濡れることは無いが、リングの真上には天井が無い。
「あ、これでサっちゃんこけたんだ。」
「それもあるだろうけどよ、ディアの出した氷が溶けて水になって、それがリングに広がってるからスリップしたんじゃねぇか?」
「どっちもだろうな。それにしてもよ、なんで魔法ドーム張ってるのにリングが濡れるんだ?」
「んな事も知らねぇのかよクエスチョナー?じゃ、僕が教えてあげるよ。魔法ドームてのは内側からの物理干渉を大いに防げるけど、外部からの干渉は普通に受けるんだよ。覚えとけよ〜?」
「ウザ。こっからリングにぶん投げてやろうか。」
相変わらずムカつくボーナに対してイライラするクエスチョナーであった。
「雨降ってるやんか!!!………て、アァ!!!小さくなっとる!!!」
なんと紫の炎が少し弱まっているではないか。
雨や水とは相性がやはり悪いのか。
顔を上げるサーシャ。
離れてはいるものの、ディアと目が合う。
ゆっくりと立ち上がり、鼻を少しさする。
ザァァァァァァァァァーーーーーー
大雨の空の下。
互いの場所はほぼリングの両端。
「力に目覚めて一方的に勝つってのは無理みたいやね。」
「まぁ、それが人生だし。」
「……………。」
「……………。」
少しの沈黙。
支配するのは雨が降り注ぎ、遮蔽物や地面に当たる音。
そして2人の婦女子を照らすように一筋の稲妻が避雷針に落下した。
ドゴオオオオオオオォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
「!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!」
サーシャは腰を落とし、炎を最大限まで高めリングを蹴り飛ばす。
まるでジェット噴射。
ディアも負けじと冷気を極限まで練り上げ迎え撃つ。
「ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」
「デリャァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
ミサイルのように突っ込んでいくサーシャ。
とてつもないスピードであり、本人ですらコントロールは出来ていないだろう。
なすべきことはディアに右拳を突き出すのみ。
それに対しディアは何枚もの分厚い氷の層を出し、本人も反撃がいつでも出来るように構える。
「行くぞディアァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッーーーー!!!!!!」
「こいやサーシャァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
」
ドガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!
氷の層は全てぶち壊され、サーシャとディアの距離は超至近距離。
ディアの左ストレートがサーシャの顔面を捉える。
しかし、右頬を抉っただけでクリーンヒットには至らなかった。
「………………楽しかった。あんがとね…サーシャ。」
「………こっちこそやで。戦友。」
ドゴォォォォッッッ!!!
サーシャのナックルがディアの胸にぶち当たる。
ディアは勢いのまま後に吹っ飛び、リング外に投げ出された。
カンカンカンカンカンカンカンカンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
長い戦いを終え、サーシャが勝利を飾った。
正真正銘、優勝である。
22分59秒。
サーシャ。
優勝。




