第5話 「青春の鯛焼語り・前編」
今日も今日とでせっせと働くバカ3人組。
何を隠そう、銀之助・パルム・サーシャである。
しかしいつものカフェの綺麗な制服ではない。
作業着であった。
銀之助はせっせと流れてくるベルコン(ベルトコンベア)上の機械や部品を組み立て、パルムとサーシャは鉄仮面のようなものを被りアーク溶接やガス切断で鉄をいじっている。
いくら客が増えたとはいえ、単価を安く提供しているせいでカフェだけの稼ぎでは食べていけない。
なのでこうして他のバイトをしていると言うことである。とはいえこれも依頼業の一つ。
因みにここはヤナギ製鉄所㈱。
社長は柳珠雄という165cm前後の初老の男であり、娘にはボシャン星人のエメリィがいる。
実の娘ではない。珠雄と妻には子どもが出来なかったので親戚から養子に貰ったのだ。
エメリィはタヌキを擬人化したような風貌で、胸とお尻は控えめで腰は綺麗にくびれている。
因みにサーシャと同い年である。後同じ高校でもある。
「エメちゃんこれでええんかな。」
「いいよサっちゃん!みるみるうちに上達してんじゃん!上手上手〜!!!」
決して上手とは言えないが、溶接された加工鉄をエメリィに見せるサーシャ。女の子同士でキャッキャしている。
父の仕事を手伝う素晴らしい娘でもあるのだろうエメリィちゃんは。
そろそろ休憩に入るタイミングでサーシャがブブフッと屁をこき腰をあげる。
こんな火を扱うところであんな屁をこかれたら工場が爆発する。だんだん屁の調節もできてきた。
偉い偉い。臭いけど。
「わざわざ手伝いに来てくださって…ありがとうございます。」
「ええんよええんよ。困ったときは助け合わな。おおきに。」
銀之助に缶コーヒーを差し出す大男はガンマ星人のエンジョージア。ジョージの愛称で呼ばれている。
控えめでかつ勤勉家な男前。たまにエメリィやサーシャに勉強を教えている。
なんと立命館卒であるというのだ。そら頭がいいはずだ。
しかしどの時代どの惑星でも、頭が良ければ良いところに就職出来る訳では無い。
ここが落ち着くらしい。
「そういえば、あの話聞いてますか?」
「あれやんな、社長の代わりに見舞い行って欲しいってやつ。聞いとるで。今日の仕事15時上がりやから、その後に行かせてもらうわな。」
「サーシャちゃんも行くんですよね。エメリィちゃん遊びたかったらしいので、さみしいって言ってましたよ。」
「申し訳ないな。ほな一緒に仕事してるのが遊びみたいなもんか。」
社長の珠雄はカフェの常連でそこから仲良くなった。
そしてその珠雄からの依頼を頼まれた。
内容としては昔馴染みの鯛焼屋の大将が具合が悪くなったらしく入院しているとのこと。
本来珠雄が行くべきなのであるが、残念ながら仕事で外出するようだ。
「ほなお疲れ様でした!!!」
「ごめんやでエメちゃん!また今度ユニバでも難波でも行こ!」
「約束だかんね!じゃあサっちゃん!銀さん!パルくん気をつけて!」
ブンブンと手を振るエメリィたちを後に目的地の病院まで歩みを進める3人。
「ん、パル兄鼻毛出てんで。」
プスス
「サっちゃん屁出てんで。」
などとくだらない会話をしながら歩く。
途中サーシャがシャワーを浴びたいというので一旦家にカフェに戻った。
サービスシーンは無しやで!覗かんといてや!とサーシャがニシシと笑うも2人は落ち着いた声で屁をこかれそうだからいいやと断ると鼻くそみたいな顔をしながらサーシャは浴室に入っていった。
銀之助とパルムが大将について話し合う。
珠雄曰く、大将には一人息子がいるらしいが最近顔を見ていないらしい。
しかし周りの人の話を聞くと、悪そうな仲間とつるんでいるようで夜な夜な帰ることもしばしば。
あまり疑いたくないがその息子の事もあり、精神的にも身体的にもダメージが来てしまったのでないかと言うのだ。
そうこうしているとサーシャが風呂から出てきた。
やはり素晴らしいプロポーションである。
湯冷めしないように促し、カフェを出た。
え、銀之助とパルムシャワー浴びねぇのかよ。汚えな。
カフェから徒歩で病院に向かうのは時間がかかるのでバス移動である。
大体15分くらいの場所にある総合病院。
10階に大将がいるというので受付を済ましフロアに向かう。
小さくはあるが元気よく挨拶する3人。
大将と呼ばれる男は少しやせ細り、皺が目立つがまだまだ元気そうな初老である。
名前は満貫敦。
話は珠雄から聞いているのでスムーズに事は進んだ。
どうやら心臓のバイパス手術を終え、回復期間だとか。
しかし意識もしっかりあるし、軽いリハビリを順調にしているのでさっさとここを出たいと笑う。
それにやはり息子の事もあるのだろう。
親としても心配なのだ。
「相談カフェか…。なんやおもろい事しとるんやの。ほな、また今度遊びに行かせてもらうのは当然として…俺からも依頼してええかの。」
「息子さんでっか?」
「せや、やっぱり心配なんやわ。地球人とマルパ星人のハーフでな。ゼクスて名前なんやが、アイツがちっさい時に女房が男作って出ていってな。男手ひとつで育ててきたんやわ。」
「そうでしたか…。ご立派で。」
「ははは!おおきになぁ。そんで一人息子のゼクスを調べてほしいんやわ。最近家帰らんことも多なっとるし。やっぱりな、俺の後継いでほしいんやわ。」
敦の鯛焼屋は曾祖父さんの代からやっている老舗の鯛焼屋である。
もう少しでめでたく創生100年。1世紀である。
長らく地元民から愛されているのは勿論、宇宙貿易が始まり色々な異星人たちも立ち寄り食べてくれている。その店を息子に継がせたいというのだ。
無論、無理強いはしない。本人…ゼクスの意思をしっかりと尊重したいとのこと。
それに敦の手術が無事に成功したとはいえどこまで持つかもわからない。
この事をしっかり銀之助たち3人に伝えた上で、ゼクスを探す調査を開始した。
見舞いの品の高級バナナの6本のうち3本も食べたサーシャも引き連れて。
まぁサーシャの小遣いで買ったバナナやからええんやけどよ。
「そういやゼクスくん、なんか変な奴らとつるんどる言うてたよな。」
パルムがポケットに手を突っ込みながらつぶやく。
男手ひとつで育てられたゼクス。
母親という最愛の女に裏切られたショックは計り知れないものだろう。
まだ物心つく前なのがせめてもの救いか。
歩いているだけでは埒が明かない。
近くの人に聞き込み調査なども行い、素行を調べる。
しかし意外な事に誰もゼクスの悪い噂を口にしない。確かに愛想が悪そうに見えるも、昔から人見知りで返事が小さかったりするが挨拶などは返すらしい。ただ変な奴らとは良くつるんでいると。
変といっても珍走団のような見た目ではあるが、何かこう「変な奴ら」だという。
なんなんだろうか。
そこはかとなく屁をこきつつもサーシャがメモを取る。銀之助とパルムはタバコを吸っている。
そして次の人に聞き込みをしようとしたその時であった。
「………ん?あれゼクスくんちゃうんか。」
咥えタバコで遠くを見る銀之助。
確かに、ドレッドヘアを少しアレンジしたような髪型、いかにも異星人の面構えではあるが整っていてイケメンである。
ゼクスもタバコを吸っていたが、電子タバコ派のようだ。
誰かを待っているようにも見える。
タバコをポケット灰皿で消し潰し、パルムとともにサーシャに声をかけゼクスの元に赴く。
「こんちは!すんません、ゼクスくん…であってはります?」
「………あ?誰やねんあんたら。」
どこか無愛想で口が悪くなっているが、いきなり知らないやつらに声をかけられたせいだろう。
しかしそんな事は予想済みなので気にせず語りかける銀之助。
「単刀直入に言いますわ。お父さんから依頼されましてね。ゼクスくんが心配やと。」
「な…親父が…。」
事情を説明するサーシャ。
黙ってタバコを吸いながら聞いている非行…とは違うが少しヤンチャな青年に響いたのだろうか。
「……………チッ。」
明らかに舌打ちをされた。
小さな音ではあったが、どこか余裕のないイライラしたぶつけようのない舌打ちだ。
「なによ…アンタ。」
サーシャが眉を寄せ小言を吐く。
この中でサーシャは16歳の女の子。
いくらしっかりものでもこういう仕事や状況に慣れていないのだろう。
態度と言葉に出してしまった。
「俺みたいな奴が居ったから親父は幸せになられへんかったんや…。」
「え?」
「………ホンマは親父も俺が邪魔なんやろうよ。」
普通の大きさの声でそうはっきりと零すゼクス。
何を分けのわからない事をと前に出ようとするサーシャを腕で制止する銀之助とパルム。
「ゼクスくんがどう思ってんのかは今のでわかった。でも、親父さんの語り口調と雰囲気考えたら、ゼクスくんの事ホンマに心から思ってはる様子やったで。邪魔な存在とはほど遠い……」
「やかましいんじゃっっっ!!!!!俺に構うなボケどもっっっっっ!!!!!!お前に何が分かるんじゃ!!!!!!」
怒号を吐き散らかすゼクス。
周りも少しではあるが人がこっちに集中し始めた。
それに気づいた銀之助は暴れそうなサーシャを抑えその場を離れようとした。
ちょうど例の仲間が来たらしく、そのままゼクスはバイクに跨りどこかに行ってしまった。
「なんでウチ抑えるんよ!!!」
「いちいち相手の言葉に感情むき出しで乗ったらあかんて。相手の事情とかもあるんやから。そんな一朝一夕では出来へんて。」
真剣でかつ色々と考えている顔の銀之助。
今までの仕事が逆にうまくいきすぎていた。
これが本来普通なのだろう。
しかし金を貰っている以上、ここで終わらすわけにはいかない。次の一手を行うだけである。
ポツポツ…ポツ
「あ、雨降ってきたの。」
パルムが点々と降り始めた雨に気づき、上を見上げる。
悲しい雰囲気を醸し出しつつ、3人はその場を後にした。
次の日、依頼の件もあるがカフェの経営もある。
わざわざ数あるカフェからトリスコーヒーを選んでくれた客をもてなす。
サーシャは今日は休みである。
シフトは週6日で入ってくれているので貴重な休み。エメリィと遊びに行くと言っていた。
サーシャ目的の男たちは言葉こそ出さないものの残念そうな顔をしていた。
カランカランと鈴が鳴る。
またお客さんの来店だ。
ゾロゾロと5人組みで、いかにもヤンキーやチンピラが好みそうな肩パッドにトゲトゲの革ジャン、指出し手袋。どうやら異星人も人間も変わらないようだ。
「いらっしゃいませ〜!ご注文がお決まりでしたらお呼びください。」
「ここぉ…教室とかやってねぇのか?」
「教室?」
「お料理教室だよ。なんか聞いた話ここプリンとかケーキ美味いらしいじゃねぇか。」
「お褒めいただき光栄でございます。しかし…そうですね。教室はやっておりません。」
「メニューに鯛焼とかもねぇのか。」
「えぇ、申し訳ありません。鯛焼屋なれば前まで少し離れたところに坑篭屋というお店があったんですけど…」
「あぁ、知ってる。ゼクスの親父さんがやってたんだよな。でも今休業してんだろ。残念だよなぁ。」
「ゼクスが継いだらいいのによ。わざわざ料理教室も行ってんだしよぉ。」
聞き逃がせない言葉が鼓膜に響く。
ゼクスが料理教室に通っている?
従業員と客の立場を弁えながらも、それについて尋ね始めた。
このチンピラたちはチームを作っているらしくその名も「モット・ホイールズ」。
宇宙の異星人問わず流れ者が集まっているらしく、内容は街のゴミ拾いから始まり、編み物や生け花、料理などをするらしい。
家庭科クラブかな?
ゼクスもその一員だという。
「この前…ゲェップ…。皆でじゃがいもを収穫した。次はトマトだぜ。」
「なんと…素晴らしい。」
そんな会話を混ぜつつゼクスの事を深掘りする。
やはり口ではあんな風に言っていても、親父さんが大好きで大事に思っているきちんとした青年であったのだ。
料理教室も家の鯛焼屋を引き継ぐために密かに修行しているとのこと。
素直ではないだけなのだ。
いい収穫ができた。
後ろでパルムが忙しなく働いている。
時たま「助けてぇ。」と聞こえるのでモット・ホイールズのメンバーから注文を聞き、厨房に入った。
「ほなそう言うたらええがな。なんで親父さんの見舞いもいかんのよ。」
「……………俺の勝手やろ…。」
こっちはこっちでサーシャがエメリィとともにゼクスと話していた。
この前言っていたUSJではないが、花がとても綺麗に咲き誇る素晴らしい憩いの場「ハーベストの丘」に来ている。
そこで動物と触れ合っていたゼクスにたまたま会ったのだ。
声をかけようとしたサーシャがエメリィを巻き込むのも申し訳ないと思いつつ断りを入れるも、エメリィ自体こういう人情に熱い女の子なので協力してくれたという顛末である。
本人が継ぐ気がないのであれば話は違ったのであるがゼクスは継ぐ気自体やる気満々。しかし何かが心にひっかかるのであろう。
サーシャは何故かゼクスが奢ってくれたホットドッグを食べつつ話を続ける。
しかし、その時であった。
「こんなところに居たんですねぇ〜ゼクスくぅん。」
「あ?……!!!!!お、お前!!!!!」
「ん?誰や?ゼクスくんの知り合い?」
「嫌ってほど知ってるぜ…!!!親父のとこに行かんかったんが返ってありがたいが…!」
「例の話…承諾してくれますかねぇ?」
「地上げ屋・ボーナッッッッッ!!!」




