第47話 「怒りの火」
次元の穴から飛び出したバルカンは、どうにか転がりながらも受け身を取った。
「グ…………シ、シオン……!!!なぜ…!!!」
シオンは離れた場所で別機動隊として動いていたはず。
無線は航空部隊にだけ取っていた。
何故自分たちが危機的状況に追い込まれている事を知っていたのか。
「…………………!!!」
飛び出してきた空間の穴は既に存在しない。
恐らくバルカンが出た瞬間に閉じたのだろう。
空間魔法は本来異次元人が得意とするもの。
しかし、時折この魔法を扱える異星人も存在する。
それがシオンであった。
その能力もあり、シオンは傭兵として雇われたのであろう。
しかし、やはりというか異次元人ではない他の種族による空間魔法には制限がある
シオンの魔法は一人しか通過出来ない。
なのでシオンが穴の外に出ていき、それを見計らったスイートピーたちがバルカンを蹴り飛ばしたのだろう。
バルカンは傷だらけの体にムチを打ち、どうにか立ち上がるも足が限界を迎えその場に崩れ落ちた。
(何を…しているんだ…!!!このままでは……アイツらが……!!!)
心が焦るも体が言う事を効かない。
誰がどう見てもスイートピーたちの戦況は負け戦。
早く行かなければ。早く戦闘に参加せねば。
気持ちだけが逸り、瞳も焦点が合わない。
自分が空間魔法を使えたら…。
このままでは仲間たちが危ない…。
何故自分だけを逃したのか。
「みんな……………な、なぜ…………!!!」
スイートピーたちに悲しみの疑問を抱きつつ、バルカンは気を失った。
バルカンはその後の事はあまり覚えていない。
いや、厳密に言えば覚えているのだが覚えたくなかったのだろう。
目が覚めた時、バルカンは体に包帯を巻かれた状態で目覚めた。
動こうとしたら体のあちこちが痛み、とても戦闘どころではない。
周りを見渡すとこじんまりとした綺麗な部屋であった。生活感があり、とても戦争とは縁のなさそうな空間。
しばらくすると、ドアを開け温かい食事を笑顔で運ぶ異星人の親子がこちらに来た。
ここは何処だと勢いよく布団をめくり、痛みなど忘れ異星人の肩を揺するバルカン。
話を聞くと、どうやら現在の場所はイントリー星から30光年離れた場所らしくバルカンは林の中で血だらけで倒れていたようだ。
助けてもらった感謝を伝えつつ、家を後にしようとするバルカン。
「そんな身体でどこに行くんですか!」
「仲間が戦っている!!!俺も行かなければ…!!!アイツらが死ぬ!!!」
「戦っているって…一体どこで!?」
「イントリー星だ!!!早く行かなければ!!!…………移動手段が無い…!!!すまない、UFOか何か貸してくれないか!!!必ず返す!!!それと政府に連絡したい!!!」
「イントリー星……もしかして…テマーロゥ戦争…の事ですか…?」
「そうだッッッ!!!それがどうしたッッッ!!!もう猶予がないんだよ!!!早く行かなけ……」
「戦争は…1週間前に終わりましたよ…………。」
「な………………なに……………?」
話によると、バルカンは林の中で1週間近く気絶していたという事になる。
理解が追いつかない。
自分が無様に気を失っていた間に戦争が終わった?
どうなったのだ?
人質は全員解放出来たのか?
勝ったのか?
そして…小隊は生きているのか?
「…………兎に角、今はスープを飲んで回復してください。少しですが、傷が癒えるように作ってありますから…。」
「既に銀河政府には連絡を入れてあります。勝手ですが…貴方の持ち物から軍人と分かったものですので…。」
「………………………………。」
目が点になり虚無に包まれるバルカン。
ゆっくりとベッドに腰を下ろした。
本音を言えば、じっとするだなんてしたくない。
しかし心身共に疲労が溜まっているので、細胞は休みたかったのだろう。
差し出されたスープに口をつけた。
「……………………美味い。」
「でしょでしょ!ままのすーぷおいしいんだよ!ぼくもてつだった!」
ピョンピョンと跳ねる子供を見つめ、ゴツゴツとした手で頭を撫でる。
その子は笑顔で撫でてくれたバルカンの手を何度も嬉しそうに触れた。
バルカンの元にやっと銀河政府からの迎えが来た。
それも目覚めてから更に1週間経ってからの事であった。
あまりにも遅すぎる迎えに腹が立つも、戦争のすぐ後の事なので仕方がない。
世話になった異星人に頭を深々と下げ、UFOに乗り込み銀河政府の本拠地へと戻った。
ワープゲートを利用した移動。
その間バルカンと運転手は一言も話さなかった。
お互いに疲れているのもあるだろう。
いや、それ以上に何も話したくなかったのかもしれない。
酷い戦争だった。
今は静かに揺れるUFOの振動が心地よい。
腕を組み、バルカンは静かに目を閉じた。
そして1時間経った後、銀河政府の惑星に着いた。
「……………軍曹よく帰ってきた。ひとまずは…お疲れ様だ。」
「メルトロン中尉こそ…………。」
「戦争が終わったばかりで、見たくないのは分かる。しかし………俺たちの立場だから…見送ってやらんとな…。」
目的地である政府本拠地。
その中にある遺体安置所。
かつてどこかで見たことのある顔ぶれも居れば、まったく知らない仲間たちの遺体が並ぶ。
寝袋のような袋に入れられた姿はまるで物扱い。
しかし、静かに目を閉じているその顔は字のごとく仏のようだ。
虚ろな目でしっかりと見つめ、手を合わせ頭を下げる。
ゆっくりと仲間たちの姿を見て歩くバルカンと
1時間はゆうに超えただろう。
「………………………メルトロン中尉。」
「なんだ軍曹。」
「……………俺の部隊のメンバーが居ない…。まさか………生きているのか………?」
「……………………………。」
タバコを吹かすも無言のメルトロン。
部隊で特に有名だったバルカン小隊の事を知らない理由がない。
何かあるのだろう。
疲れ切ったバルカンからは伝わりづらいだろうが、心の底からどうか生きていて欲しいという気持ちに嘘はない。
仲間の遺体を全て確認したが、スイートピーたちが居ない。
だとすれば………。
「……………隊長として、仲間として…会いたいわな…。……………こっちだ。」
「………!!!生きているのかッッッ……!!!」
メルトロンに案内されるがまま、バルカンは何も喋らずについていった。
そして黒い扉がある建物に案内された。
細長いその建物。
そこにスイートピーたちは居る。
生きている。
傷だらけで、どこか欠損してるだろう。
しかし、生きてくれさえすればなんとかなる。
そしてメルトロンが扉を開けた。
ギギギと軋む音が響く。
その重たい扉の向こう。
「………………………………………???」
誰も居ない。
そればかりか、数人入れるようなスペースすら無い。
あるのは謎の大きめの箱のみ。
「どこに居るんだ…?」
「………………………………。」
メルトロンは死んだような顔と目でその箱を丁寧に開けていく。
「………これしか見つけられんかったらしい。」
箱の中には小隊のメンバーたちが身につけていた服装やアクセサリーのみであった。
「居なかった………のか…?」
「…………………あぁ。」
「ならば………生きている可能性もあるということか……!!!」
「確かに可能性はある。どこかに逃げ延びたのかもしれん。そう遠くない場所に。俺は直接見たわけじゃないから分からんがな…。」
メルトロンはそっとバルカンにその箱を差し出した。
「お前が持っていた方がいいだろう。いつかまた返せばいい。」
「あぁ、そうさせてもらいます…!ありがとうございます…メルトロン中尉…!!!」
「…………敬語は辞めてくれ…。同期なんだからよ…。」
タバコを天に向かい吹かすメルトロン。
相変わらず死んだような目ではあるが、どこか憑き物が取れたような気が晴れた顔をしていたという…。
その後バルカンはスイートピーたちを探しつつ、しっかりと銀河政府の軍人として仕事をしていた。
とはいえ、あの戦争のような戦いなどではなく災害救助がメインであった。
どこかでアイツらは生きている。
それを胸に刻み、毎日を真剣に生きていた。
「全く…早く返させろよな。」
ドレッサーの前で小さくそう呟く。
洗っても取れない血が染み付いた服やアクセサリー。
いつか必ず返すためにバルカンは磨き続けた。
アルストロは「新しいの買うってのぉ!いいって!」などと言うだろう。
シオンは物を大事にする少年なので受け取ってくれるだろう。
ベルギアはキザに目を閉じ、スイートピーは優しくほほ笑みながら受け取ってくれるはずだ。
そしてあの悲惨な戦争から2ヶ月が経った。
「除隊………………命…………令………?」
バルカンの目の前の上官が苦虫を噛み潰したような顔で俯いている。
「あぁ…何故かはわからんが…、そうらしい…。どうにか出来ないものかと上に抗議したが…すまん。」
バルカンはまだ多額の退職金を貰う条件は満たしていない。
多少は貰えるかもしれないが、それでもやはり正規の退職と比べれば雀の涙ほどである。
しかし納得がいかない。
バルカンはその場では上官に頭を下げ、踵を返した。
(何故だ…。何故いきなり除隊命令などが…。)
あまりにも唐突すぎる命令。
戦果を残し、指示通りに動いてきたバルカンをクビにする理由など探しても見つからない。
バルカンは直接抗議するべく、上級指揮官の元へと足を運んだ。
その時であった。
部屋から声がする。
それだけならば聞き逃し歩みを進めていただろう。
しかし、その会話の中にバルカン小隊が出てきたのだ。
なんの話だろうと耳を澄ます。
[ハッハッハッハッ!イントリー星人ももう少し上手く動いてくれると思ってたんだがなぁ。]
[まぁ良いだろう。あの予知夢の魔法が使える男はかなり厄介だったからな。いずれ俺たちの事も嗅ぎつけるはずだ。]
[確かに!それと…あの猫耳のガキだ。アイツの空間魔法も上手く使いたかったが…字も書けないカタワだったから望み薄だったろう!]
[あのブサイクなゴブリンにせよ、ダサい甲冑男も邪魔でしか無かったからな。我々の動きを確実に怪しんでいた。それはハッキリしている。奴らは勘ぐりすぎた。]
[ま、消えてしまう他ありませんな。死体はバラバラにしてイントリー星人に食わしましたぞい。]
[ウゲェ…そんなものまで食べるのかイントリー星人は…。]
[それにしても何も気づかないあのバルカンという男…何故あんな男がモテるのか全くわからん。ただの頭の悪い異星人だろう。いやはやそれにしても…]
[[[あのクズどもは死んでよかった。]]]
…………………………………
[さて、ではでは私はこの辺で…。]
上級指揮官の一人が立ち上がりドアノブに手をかけた瞬間だった。
ゴバオッッッッッッッッッッッッッッッ!!!
「ブベッッッッッッ!!!」
ドアを破壊し、鬼の形相で現れたバルカンに喉をこれでもかと握りしめられる指揮官。
指が食い込んでおり、呼吸もままならずもがき苦しむ。
「どういう事だ………説明しろ………!!!」
血走った眼が人の形をしたクズどもを睨みつける。




