第46話 「血に濡れた過去」
「…………出来れば思い出したくも無いけどな。」
「だろうな。だがお前ほどの男なら分かっているだろ。忘れてはならん、確実に存在したあの残酷な現実を。」
銀之助は必死に一等兵まで階級を上げた。
それ以上を目指さなかったのは、心の何処かでここではやっていけないという思いがあったからかもしれない。
それ以前に実力の無さを痛感したのもあるだろう。
衛生兵として、戦地でのバックアップ。
怪我をしてるから治しましょう。
そんな簡単なものではない。
「俺は常に最前で戦ってきた。お前は衛生兵だったから実際に見ていただろ。仲間の死を。」
バルカンの言う通り、嫌というほど見てきた。
昨日まで同じ釜の飯を食った仲間が、翌日には体の一部が欠損していたり、生死の間を彷徨っているのだから。
しかしそれはまだマシな方だ。ほとんどが四肢が吹き飛び内臓は飛び出し、バラバラに吹き飛び戦場で散った仲間は数え切れない。
「……………分かるよ。酷い話、俺は地球人やからて理由で遺体回収の仕事も押し付けられてたからな。……………気狂いそうやったわ。」
哀しきかな、既に屍となった人間は人間扱いされない。ゴミを回収するようなカートに腕や頭などを詰め込んでいくのだ。
もはや物扱い。
「そこでも種族差別か。やはり汚いな。」
「それでも手伝ってくれるもんはおったけどな。…………もうこの世におらんけどよ…。それにしてもなんでこの話したんな。ただ境遇が似てるから話しただけとちゃうやろ。」
「………………。」
油断を誘っている訳でもない。
何故こんな重苦しい過去の話を持ちかけてきたのか銀之助にはバルカンの思惑が分からないでいた。
同じ境遇だ、いい勝負をしようなどといった雰囲気でもない。
「誘っているんだ。」
「誘う………?何を…。」
「同じような境遇だったんだ。恨んでるだろ。銀河政府を…………。」
恨みがないと言えば嘘になる。
自分だけではない。周りの生き延びた仲間たちも銀之助同様に切り捨てられた。
実際にそれを見てきた銀之助は銀河政府を心から嫌悪している。
生き延びた仲間たちは散り散りになったので今どうしているのかは分からない。
どこかで生きていてほしい。
そう思うほかない。
「確かに無いって言うたら嘘になる…。でも、もう正直関わりたくないってのが本音や。それに今銀河政府は………」
銀之助のセリフにバルカンの目元が少し動く。
「関わりたくないだと……………?銀河政府のために戦った俺たちを…命をかけて牙なきものを守るために戦ってきた俺たちを捨てたあのゴミの掃き溜めに…………関わりたくないだと…………!!!」
冷や汗が流れる銀之助。
目の前のバルカンから黒いオーラが滲み出ている。
恐らくこれはバルカン本来のものではない。
そんな気がしてならない。
明らかにイラついているバルカンがいつ攻撃を仕掛けてきても動けるように集中する。
「銀河政府は……………!!!銀河政府は…………………ッッッッッッ!!!!!」
銀河政府に関わって恨みを抱かないのは裏金や汚職などでズブズブの極悪人だけだろう。
バルカンがここまで恨みを滲ませているのはディラスに心を解放されたからだが、銀之助たちはそんなこと知る由もない。
それに、元々バルカンの心にあった憎しみ。
それはとある出来事が大きな原因だった。
2037年。
バルカンは当時33歳で階級は軍曹。
様々な戦地で最前で戦い、次々と武勲をあげていった。
そしてイントリー星人という種族が母星の一部の区域から始まり違う惑星の範囲まで武力弾圧、強制収容、大量虐殺を行っていたのでそのジェノサイド討伐にバルカン小隊として赴いた。
他にも一個中隊や部隊の仲間は居たのだが、数が多いので把握しきれていない。
バルカン小隊はバルカンを含めたった5人の最精鋭チーム。
それぞれの実力は1人で一個中隊レベルの強さを誇っていた。
メンバーは隊長のバルカン。
副隊長のスイートピー。
猫耳族のシオン。
ゴブリンのアルストロ。
甲冑星人のベルギア。
この日、5人は弾圧地区の一部を解放し一旦落ち着いたので食事を取っていた。
「よぉ〜しッッッ!!!飯もたらふく食ったし!!!ここらでいっちょ腹踊りでも決めますかぁ〜!!!」
褌一丁になり、マジックペンで腹に面白い顔を描き腰をうねらせ小躍りするアルストロ。
それを見て小隊や他の部隊が大笑い。
あのバルカンでさえ、目元がにっこりしながら笑っている。
悲惨な戦争。
同じ部隊でなくとも戦場の仲間。
当然のようにその仲間は散っていく。
しかし、こうでもしなければ完全に気が狂ってしまう。
アルストロのひょうきんさはみんなを救っていた。
「バルカ〜ン!これなんて読むの?」
シオンがページを開き本の文字を指さす。
この本の対象年齢は5歳レベルなのだが、シオンは11歳。この歳にして読み書きがあまり出来ないのだ。
彼は天涯孤独であり、孤児院にすら入れなかったが生まれ持った戦闘センスを買われ紆余曲折を経てバルカン小隊に入隊。所謂少年傭兵。
今では小隊のマスコットとして愛されている。
いつも笑顔で人に優しく、分け隔てなく接する姿はまるでただの可愛い少年である。
バルカンは優しくそして丁寧に字の読み方と意味を教えつつ、一緒に本を読み進めた。
「シオンねぇ〜、いつか学校行きたいんだ。」
「大丈夫。いけるさ。シオンならな。」
「大丈夫かなぁ。怖がられないかな?」
左目辺りを触るシオン。
ある戦闘で左目を負傷してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。
その目は失明しており、隻眼である。
「大丈夫だ。んなもん気にすんじゃねぇ。それにお前はハンサムだからモテるだろうな。」
バルカンとともに笑顔で接するベルギア。
少しバルカンよりもガタイが良く、気前のいい突貫野郎。
周りはアルストロの踊りを見て、手を叩き笑い合い酒を酌み交わす。
ここには戦争のせの字も見当たらない。
戦士たちの、心を唯一休ませるひととき。
ベルギアも酒が回ったのか、服を脱ぎアルストロに加わる。
途中優男のスイートピーの手を引っ張り、ほぼ無理やりの形で参加させた。
そうしてドンチャン騒ぎは落ち着き、真夜中になった。
「……………みんな寝たな。」
焚き火の前で静かにココアを飲むスイートピー。
「そうだな…。このバカ騒ぎも…いつまで出来るかわかったもんじゃ無いからな。」
「あぁ…。………でももう少しでこの戦争も終わる…。それにこれが終わったら…………」
「小隊の解散…だな。寂しい気持ちもあるが…こんな小隊、さっさと解散した方がいい。違う形でまた会って…」
「結婚式に呼んだり…飲みに行ったり…戦いから離れて…本当の意味で、日常の中に溶け込んで会えば良い…。」
焚き火の火がもう少しで消える。
バルカンとスイートピーはだんだん交わす言葉が減ってきた。
また戦の続きが待っている。
また誰かが死ぬ。
それを承知の上で、皆戦っている。
怖くない訳がなかった。
「………………俺さ。」
スイートピーが静かに口を開いた。
「戦争終わったらよ…軍人辞めて退職金貰って…孤児院かなにか開こうと思っててよ。」
「孤児院…か。いいじゃないか。優しいお前らしい。人殺すために魔法陣張って魔法飛ばすより、よっぽど似合ってる。応援するぜ。」
「サンキューな…。それでよ…バルカン。お前軍人辞めてから行く予定無かったらよ…一緒にやらないか?」
「俺が?…………いいのか?」
「あぁ、勿論だ。」
男2人による将来の話。
2人は静かにほほ笑み合う。
そのタイミングで焚き火が消えたので、そろそろ寝ることにした。
互いに背を向き合い寝袋に入る。
「スイートピー。」
「ん?」
「死ぬなよ。」
「…………………………ハハッ。」
何も思わなかった。
ただの照れ隠しだと思っていた。
何故この時、彼の口から直接聞かなかったのだろう。
バルカンはなんの疑問も抱かずに、瞼を静かに閉じた。
ガバッッッッッッ!!!
「ハァ…!!!ハァ…!!!!!」
星が綺麗に輝く常闇。
スイートピーは汗だくで目を覚ました。
眉が寄り、寝袋を強く掴むその様子から穏やかなものではないと感じ取れる。
不安そうな顔でバルカンや周りを見渡すスイートピー。
このままスイートピーは寝ることが出来ずに、朝を迎えることとなる。
午前10時43分。
司令官の指示に従い、魔法による無線で各々持ち場についていた。
スイートピーはバルカンの目を盗み、アルストロとベルギアに手招き。
「どうしたよトピー?」
「また例のアレか?」
「…………あぁ。聞いてくれるか。」
スイートピーの種族は予知夢の能力があった。
なので戦地ではこの能力がいかんなく発揮され、銀河政府もとい各部隊は勿論バルカン小隊のメンバーたちからも重宝され頼られていた。
今回も予知夢の内容は戦局についてだろう。
この能力のお陰で今まで何度も覆してきた。
ゆっくりと口を開くスイートピー。
しかし、それを聞いたアルストロとベルギアは目を大きく開き心のざわつきが抑えられない。
「それ…どうにかならねぇのか…?!」
「俺が見た内容はここまでだ…。どこかのタイミングで航空支援を呼ぼうと思う…。そうでもなければ…!!!」
「俺たちは…全滅…。」
「あぁ…、どこかのタイミングで未来を変える必要がある!兎に角…バルカンを…。」
その時であった。
ドッゴオオオオオオオオオォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
激しい連続の爆発。
イントリー星人が押し寄せてきた。
予知夢の内容のタイミングより少し早い。
しかし動きは大体同じである。
スイートピーは魔法壁を張りつつ、周りの小隊たちに無線を飛ばし連携が取れるように指示。
アルストロとベルギアもそれに合わせ印を組み、イントリー星人と対峙するのであった。
戦闘開始からおよそ2時間が経過した。
「トピー………ど、どうなって…やがる…。」
「……………予知夢の…内容より…は、激しいぞ…………!!!」
周りにはかつて仲間たちだった死体。
スイートピーたちは体中に槍や刃物が突き刺さり、満身創痍。
ベルギアの自慢の甲冑は、仲間を庇い続けたせいで崩れ落ち肌が露出。
既に片腕は切り落とされ、軍から支給された魔法の杖を片手で持ちなんとかそれにしがみつき立っていた。
アルストロも片目がやられているものの、まだ生きている。
バルカンは欠損こそないが、体中から噴き出す血液を見れば残り時間が少ないと見て取れる。
シオンはここには居ない。
あらかじめ他の部隊と合流させていた。
何故このように状況なってしまったのか。
スイートピーが見た予知夢。
イントリー星人は、血統は違えど同じイントリー星人などを人質として捕らえている。
その人質の場所がまるで別の場所に変わっていたのだ。
そのせいでスイートピーたちは上手く動くことが出来ずにいた。
確かに予知夢は100%当たるわけではない。
それでも確率は9割超えである。
それに変わっていたとしても大きく不気味に変わることはない。
それにもかかわらず、人質の居場所が違っていた。
まるで誰かがスイートピーの予知夢を見てそれに合わせ動いたかのように。
「相手は…1000人程か…。」
「人質さえ居なけりゃ………どうってこと無いんだがな…。」
「………今…無線が入った…………。どうやら人質の市民は…他の小隊が…解放したらしいな…。」
「そりゃぁ〜………よ、良かったぜ…!後は暴れるだけか………!!!航空支援も…叩き潰されて…動けねぇし……な……!!!」
しかしダメージがあまりにも大きい4人は数の暴力で苦戦を強いられている。
応援に期待したいが、他の部隊は別の場所でイントリー星人たちの相手をしている。
このままでは全滅だ。
「バルカン…頼みがある…。」
「なんだスイートピー…。」
「応援…呼んできてくれないか…。」
「バカ言うな…、一人でも欠けたら…そ、それこそ全滅だろう…!!!」
スイートピーはここで一人でも逃さないと予知夢通りになってしまうと分かっていた。
アルストロとベルギアに相談した結果、バルカンを離れさせる事にしたのだ。
メンバーの中で一番早く動けるのはバルカンである。
しかし、そんな事はバルカンには言えない。
言ったところでバルカンの事だ。
絶対に断るであろう。
とくにこんな戦局ならば、余計その場から離れないだろう。
ここでバルカンを逃がせば、未来は変わる。
少なくとも全滅は避けられる。
バルカンが応援を呼び、それが間に合い全員が助かる。
もしくは…………………
「死ねや他所もんのゴミクズどもがァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」
イントリー星人が一気に襲いかかってきた。
ここまでか…!!!
ゴオオオ!!!
「!??!!」
その時、次元に穴が空きそこからシオンが飛び出してきた。
「シオンッッッ!!!」
「お前なんでここにッッッ!!!」
衣服はボロボロで、肌は抉れ筋肉と骨が見えるほどのダメージを負っている。
そんなシオンがここに来たところで何もできないだろう。
息も絶えだえのその猫耳の少年は笑顔で小さく呟いた。
「聞いてたよ…。僕だけ仲間はずれは…ヤダ………よ。」
スイートピーはその言葉を聞き、瞬時に行動に出た。
時間にしては1秒となかったであろう。
もうこの戦局を覆す術はどこにもない。
(ごめんな…シオン…。巻き込んじまってよ…。それに…アルストロ…ベルギア…情けない副隊長で…………すまん…。)
シオンを心配しているバルカンを後ろから蹴り飛ばし、その次元の穴へ押しやった。
「なッッッッッッッッッ…………!!!お前らッッッ………!!!!!」
「悪いな…バルカン……………。」
バルカンがその時最後に見た光景は、笑顔で見送る4人の英雄たちであった。




