第45話「リトリート」
長い廊下を渡り、チェリオスとルークがこちらに向かい歩いてきた。
パルムとヴェルタースの具合を見に行ってくれたのだ。
本当は銀之助も行きたかったのだが、処置室の部屋も廊下も狭いので大人数で押し寄せたら迷惑になる。
なのでチェリオスたちが率先して行ってくれたのだ。
それに銀之助は次の試合のために柔軟や、心の落ち着きを整える時間が必要だ。
恐らくパルムの元に行っても「銀ちゃんリラックスしときぃな。」などと言われるであろう。
「チェリオス、どうやった?」
「2人とも魔力ドリンク飲んでメディカルポッドでゆっくりしているな。パルムは腕が痛い〜つってたぜ。」
「ヴェルタースさんは、もう動けるから試合を直接見せろ!って言ってましたね。でもあの人、胸骨と肋折れてるもんですから救護班に止められてましたね。」
笑顔のチェリオスとルークにつられ、野郎どもも笑い合う。
しかし銀之助は違和感を覚えた。
パルムが痛がっている…?
「チェリオス…パルム、腕痛い言うてたんか…?」
「あぁ、救護班曰く両腕にヒビが入りまくってたみたいだぜ。」
「だからメディカルポッド入ってんだろ?俺と一緒に入ってたアレじゃねぇか。なんかおかしいか?」
ヨーベイガーが銀之助に対して、不思議そうに尋ねた。
「いや…それは分かるんやが…パルムは特殊能力なんかどうか知らんけど、すぐに治るんや…。チェリオスと戦ったあともすぐに治ってたやろ。ヴェルタースから受けたダメージがデカすぎたんか?」
一同が確かに、と頷く。
「それもあるだろうな。しかし、恐らくだが…パルムは外部からの攻撃によって受けた傷はすぐに治るが、自傷に近しい行動によって出来た傷の治りは遅いんじゃないだろうか。」
腕を組みながら静かに語るチェリオス。
具合を見に行った時パルムに直接聞いたらしいが、恐らくマルチモードでヴェルタースと戦ってた時点で腕はイカれていたと思うと。
パワーダンプモードになって、耐えられるようにはなったがやはり無理はしていたらしい。
しかし銀之助はまだ不思議に思っている事があった。
前にカフェの閉店作業をしていたとき、サーシャにパルムが冗談交じりで接し、おちょくった事があった。不幸にもその時サーシャは生理中であり、イライラしていたのであろう。
パルムは思いっきり頭部を殴られた。
泣きながら頭部を押さえるも、サーシャは白目と歯茎を剥き出し睨んでいた。
そこまでは分かるのだが、その痛みは次の日になってやっと少し引いてきたのであった。
サーシャのパンチが凄いと言えばそれまでだろう。
しかし、それでもあのパルムの痛みの引きが遅かったのは何か引っかかる。
しかしそんな事今考えても仕方がない。
ストレッチを終えた銀之助は両頬を叩き、ガッツポーズを仲間たちに向け、リングへと足を運んでいった。
「頑張れよ〜銀之助〜!!!」
[お待たせ致しましたッッッ!!!続いて最後の準決勝戦を始めたいと思いますッッッッッッ!!!!!!]
ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッ!!!
そろそろラストを飾るであろうこの大会。
客は疲れ知らずで、熱量が更に増し叫び声を上げる。
[赤コーナー!!!地球人にも関わらずあのヨーベイガー選手とディブロス選手を打ち破った男!!!やはり地球人には何か不思議な力があるのか!!!町田ぁぁぁぁ銀之助えええぇぇぇッッッッッッッッ!!!!!!!]
ウオオオオオオォォォォ!!!!!!
(地球人やのにてなんやねん。思いっきり差別やんけ…。……………ていうか紹介マトモやな……。なんか嫌な予感が………俺死ぬんか…?)
[青コーナーッッッッ!!!異次元人の技を披露させずに秒殺!!!この男はまだまだ未知数だッッッッ!!!キャプテエエエェンバルカァァァァァァン!!!!!!!]
ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
向こうの廊下からバルカンが歩み寄る。
なんとか連絡がついたようだ。
しかし、何か様子がおかしい。
雰囲気がおかしいのだ。
「…………なんかおかしくねぇかバルカンのおっさん。」
「私と戦った時とオーラが違います…。何かあったのでしょうか…。」
「???」
腕を組み訝しむディブロスと怪訝表情を浮かべるC.B。
そして何も思わないバカボール。
このバルカンの様子は銀之助も感じ取っていた。
(なんかおかしいぞアイツ…。予選の時に助けてくれたアイツじゃない…。C.Bと戦った時とも違う…。)
「バルカン…なんかあったんか?」
「……………………。」
何も答えない。
しかしなんにせよ、もう試合は始まる。
考えている余裕など存在しない。
無言のバルカンの事をしっかりと見つめつつ、互いに拳を当て両サイドへと別れる。
[試合開始いいいぃぃぃッッッッ!!!!!!]
カーーーーーーーーーンッッッッ!!!
ゴングが鳴り響いた。
銀之助は性格の事もあり、構えを取り相手の動向を伺う。
バルカンは相変わらず無言で怖い顔をしているものの、銀之助同様構えを取り銀之助を見返す。
(あの異次元人のC.Bが一瞬でやられたんや…。どう出るかわからんぞ…。)
これはヨーベイガーやディブロスと戦った時と同じであるが、全身にくまなく魔力を回す。
特に足と目に集中させ、いつどのような技を出されても動けるように準備を整える。
そしてまばたきをした次の瞬間であった。
シュンッッッ………………
ドゴオオオオオオォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
やはり飛んできた。
銀之助はまばたきの瞬間が狙われる事を予想していたのでなんとか体を反らし、バルカンの攻撃を避けた。
しかし、直撃は免れたものの右頬から鮮血が滴り落ちる。
(今のは…………魔力砲か………!)
魔力砲。
気合砲の名を耳にしたことがないだろうか。
アレは人間の気から発することが出来る衝撃波のようなものであり、熟練した戦士などが使うイメージがあるだろう。
魔力砲とはその気合砲に様々な属性(遁)を込めて放つ衝撃波のことである。
バルカンは手のひらから蒸気が出ており、かなりの高温だったことが伺える。恐らく熱魔法。
それに銀之助の頬が切れた事も考えるに、斬撃性もあったのだろう。
「なんて速さだ!!!良く見えたな銀之助のやつ!!!」
「な、何も見えなかったボル…!!!」
「いや、銀之助さんは見えた訳ではないと思います。これから来るであろう様々な攻撃パターンを計算した上で予測して避けたのでしょう。なんにせよ、修羅場をくぐってきた人間にしか出来ない高等技術です。」
冷静に分析して語るC.B。
バルカンに一撃で負けた故に、説得力のある解説に周りのディブロスたちは納得。
(速いけど、なんとか対応は出来た…!!!兎に角直線移動せずにアイツに近づかんと…!!!)
バッッッッッ!!!
銀之助はリングを蹴るように前に出た。
ジグザグに、また予測不能な動きをしつつバルカン目掛け走る。
銀之助は残念ながらとくにこれと言ってグラーケンの魔道で魔法を覚えられなかった。
ヨーベイガー戦での反転魔法は自衛隊所属時から使えていたものである。
それを魔道で更に強く鍛えただけである。
しかしこの反転魔法、先ほどのバルカンの魔力砲にはあまり効果が無い。
何故ならば、魔力砲の魔法を反転させたところで気合砲自体は生きている。
それを無防備の状態で受けるわけにはいかない。
ちなみにこの魔力砲とは銀之助が付けた名前である。世間では気合砲も魔法のひとつと言われているが、銀之助はそうは思っていない。
確実に存在するのだ。
魔力とはまた違う「気力」というものが。
バルカンは左手から何度も魔力砲を放つが銀之助には少し掠る程度。
無論痛みはあるが、直撃を考えれば可愛いものだ。
(よしッッッ!!!ここまで近づけたらもう十分や!!!)
バルカンまであと一歩というところまで接近した銀之助。
攻撃するかのような予備動作を取ると、バルカンもそれに合わせカウンターの動きを取る。
バルカンの銃弾のような左振り下ろしストレートが迫る。
銀之助はその腕を掴み、見事な一本背負いを炸裂させた。
「ドゥラッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
ウオオオオオオォォォォッッッッ!!!!!!
(これだけじゃ大したダメージにならへん!!!間髪なしに入れんと!!!)
銀之助はバルカンの腕を掴み、両足でロック。
腕ひしぎ十字固めの形へと運んだ。
完全にへし折るつもりだ。
ここで中途半端な攻撃を仕掛けたところで、反撃されて逆転されるのがオチである。
グググ…と思いっきり力を込める。
銀之助の身長170cmに対してバルカンの身長238cm。
身長差はあれどそれを補えるのがサブミッション。関節技。
幸い、バルカンの肉体はとても筋骨隆々で引き締まったものではあるが、ヴェルタースほどの図体ではない。
銀之助の関節技は通用する。
(ここで折っとかんと後に響く!!!それに反撃されたら次の行動!!!それだけじゃ!!!)
しかし段々と銀之助は不安になってきた。
背負投げにせよ、今の腕ひしぎにせよバルカンからうめき声が全く聞こえない。
技が効いていないのか?
そう思ったが、この掴んでいる腕の筋肉や骨のきしみ具合から見てそれは恐らくない。
ならば痛覚がないのか?
銀之助はそんな事を頭の片隅に置きつつ、バルカンの顔を見る。
そして帽子から少しこちらを覗く目と目があった。
あってしまった。
「ッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
銀之助はすぐさま腕ひしぎを解き、急いでバルカンの元から離れた。
観客たちからすれば、折角のチャンスを放棄した銀之助の行動に理解できない。
しかし銀之助は本能でヤバいと感じ、その場から距離を取ったのだ。
倒れているバルカンがゆっくりと立ち上がる。
腕ひしぎを食らった腕を少し震わせた後、リングを殴打。
リングは当然のように陥没。
「貴様………その動き…、まるで軍人の教科書のようだな…。」
「へッ………サンキュ………!」
「ベイゴーマ星人と戦った時のセリフは…どうやら本当のようだな…町田銀之助。」
銀之助はこの会話である事に気がついた。
背負投げの時、銀之助は必死だったので分からなかった。
バルカンは受け身を取っていた。
そして腕ひしぎの時は、バルカンは腕に魔力を込め筋肉と骨にダメージがいかないように調節していた事に。
これはとある人間が得意とする動きだ。
「お前…………まさか…軍人か…!!!?」
「厳密に言えば【元】軍人だ。貴様同様、退役軍人だ。」
「おい目ん玉!アイツらどんな会話してんだ!聞こえてんだろ!」
「目ん玉じゃねぇチェリオスだボケ!!!覚えとけバカ鮫!!!………どうやらバルカンは銀之助と同じ退役軍人らしいな。」
なるほどな、と腕を組む。
退役軍人ならばあの強さは納得がいく。
バルカンが同じ退役軍人と知り少し驚く銀之助。
「なるほどな…やからそこまでダメージ無いんやの…。それにしてもなんで教えてくれたんや?サービスか?」
「いや、種族は違えど同じ退役軍人の身。ならば他に共通する点があるだろう。」
「………何や。」
「銀河政府に切り捨てられた者同士だ。」
「………………………。」
分からない訳がなかった。
銀之助は衛生兵として戦争に行き、後に解雇。
様々な仕事の面接に赴いたが全て落ち、今のカフェ経営をしている。
戦争が終わればなんの保険も無しに捨てられる。
それを味わった銀之助にはバルカンの気持ちが痛いほど理解できる。
そして過去の軍人時代の記憶の一部が蘇った。
それは戦争の過去帳のような資料であった。
そこに書かれていた名前。
「バルカン……………。お前…まさか、バルカン軍曹か!!!?」
「よく知っているな。銀之助貴様、衛生兵と言ったな。階級は?」
「一等兵や。めちゃくちゃ頑張ってそこまで行った…。」
「なるほどな…。立派なものだ。…なれば戦地に直接赴いた経験もあるだろ。そこで何を見た。」
「……………………。」
決して忘れられない。
しかし、決して忘れてはいけない。
凄惨な現実。
壮絶な状況。
このバルカンのセリフで銀之助は過去の記憶を鮮明に思い出していくのであった。




