第42話 「MIGHT!POWER!!STRENGTH!!!」
「…………………。」
「ん、どないしたんやC.B?」
C.Bがどこか遠くを憂いがある雰囲気で見つめる。
この方向は女子部の試合会場にあたる。
「………………いえ、なんでもありませんよ。」
すぐに軽く微笑み返すC.B。
しかし寂しそうなその面持ちから、何か思うことがあるのは違いない。
パルムたちは深掘りはせず、次の試合に備えるのであった。
ガヤガヤ…
ワーワー
「なんかアナウンス遅くね?なんかあったんか?」
客席からはさっさと進めろだの、バルカンが見たいだのとヤジが飛び交う。
司会やスタッフがなんとかアナウンスを通じて客を宥めるも、ブーイングが収まる気配がない。
「………バルカン選手と連絡が取れない…。」
「帰ったのか?まだ会場のどこかにいるだろ。さっさと探せ!」
遠目から見てもスタッフたちが慌て焦っている様子がはっきりと見える。
「どうやらバルカンと連絡が取れないらしいな。」
腕を組みながら語るチェリオス。
どこに顔のパーツがあるのか分からないが、どうやら視力だけにとどまらず耳もいいようだ。
「おま…すごいな…。この距離で聞こえるんかいな…。ほな銀ちゃん不戦勝でこのまま次いけるんか?」
「へぇ〜…残念やぜ…。」
悪い笑顔の銀之助。
それもそうか。あのC.Bを一瞬でかつ一撃で倒した異星人が相手なのだ。
出来れば戦いたくない。
そう思うのは当然かもしれない。
なににやけてんだとヨーベイガーに小突かれるも、銀之助は嬉しそう。
主人公とは思えないほどの人間臭さ。
「いやぁ〜残念や…。是非手合わせしたかったぜ…。ま、次機会があればその時やな…バルカンさんよ…。」
「いや、先にパルムとヴェルタースの試合をするみたいだぞ。」
「「えええええぇぇぇッッッッッッッッッッッッ!???!!?」」
目玉が飛び出し大口開けて叫ぶパルム。
まさかの試合ずらし。
確かにトーナメント左側から試合を行っているが、別に形式上右から行ってもなんら問題はない。
準決勝戦しか残っていないのだから。
「ってことはぁ…俺もしかして後々バルカンとやらなあかん感じ…?」
「まぁ、そうなるな。」
「当たり前やろ!何言うとんねん銀ちゃん!それよりも俺やろー!あんなごっつい筋肉ワニとやらなあかんのかよ!」
頭を抱えネガティブなパルムと銀之助にしっかりしろと激励をかけるチェリオス。
アナウンスが流れたので全身バイブの如く震えながらパルムはリングへと向かった。
後ろから友の声援を受けて。
「クッソ〜…まだ少しなんとか先延ばし出来ると思ってたのに…。あの筋肉モリモリのワニとやらなあかんのかよ…。」
[お待たせ致しましたッッッ!!!男性の部!残る選手はパルム、銀之助、バルカン、ヴェルタース!!!この中で誰が優勝とベルト、多額の賞金を手に入れ夢を掴むのかッッッ!!!それではいきましょう!!!]
ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッ!!!
試合もいよいよ大詰め。
準決勝の始まりである。
引きつった顔でブルブル震えるパルム。
奥の方からヴェルタースがズカズカと自信満々に歩いてくるのが見える。
[赤コーナー!仮面の優男、ルーク選手を打ち破ったそのパワー!一体何をすれば攻撃が通じると言うのか!!!ヴェルタースッッッッ!!!]
ウオオオオオオォォォォ!!!
「ヴェルタース!!!応援してるぜー!!!」
「親分ッッッ!!!やっちゃってくだせぇよ!!!」
リングに足をかけ会場に手を振るヴェルタース。
目つきこそ悪いものの、笑顔を満遍なく振る舞う彼の姿は本心に見える。
決して悪人ではない証拠なのかもしれない。
[青コーナー!!!まさかの変幻自在!?空を駆けるその姿!あのチェリオス選手を上回るそのスピード!!!お次は手慣れた動きでヴェルタースを沈めるか!?パーーールーーームーー!!!]
(な〜にが上回るじゃ手慣れた動きじゃ…。チェリオスを超えたのもたまたま…それにこのモードの動きなんかいっこも慣れてへんわい…。)
ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
「うぉッッッ!!!」
歓声にビビるパルム。
なんならヴェルタースよりも少し強めである。
あのチェリオス戦での試合運びが気に入られたのだろう。
黄色い声援も混じり、パルムはあっけにとられた。
「おいおい、パルムあいつめちゃくちゃ人気もんになっとるやないか。」
「そりゃスピードに定評のあるガーンキュー星人とあんな殴り合いしたんだ。そら人気も出るだろ。」
はぇ〜と感心する銀之助に傍で冷静に語るヨーベイガー。
チェリオスや他の異星人もウンウンと頷いている。
すると廊下の方から何やら声がしてきた。
「こっちで合ってると思うよチップくん。」
「こっちか!複雑な作りだなぁボル。」
「別にそんなことねぇだろ…。シンプルなマップだろ…。」
現れたのはルークにチップそしてディブロス。
ヴェルタースに倒されたスペースファイターに2人に銀之助と戦った水芸鮫。
「お!お前らもう大丈夫なんか!」
「はい!大丈夫です!今の薬は本当に凄いですよね。まさかへし折られた背骨も治るなんて。」
肩や背中を叩き称え合う。
「試合が始まる前に来れて良かった…。お願いだからあちこち転がらないでよチップ君…。」
「いやぁ〜!ゴメンゴメンボル!」
「ん、なんかあったん?」
「チップ君が、ここだ!って空けた扉が女子更衣室で…。着替えてる女性にしこたま怒られたんですよ。チップ君も蹴り飛ばされたし。」
「何!?羨ましいぞお前ら!!!!!」
「何言ってやがんだドスケベ目ん玉野郎。こちとら散々だったのによ。」
いやいや!!!男のロマンだろ!と叫ぶチェリオス冷たい目のディブロス。
なんかこの2人、合いそう。
デコボココンビか。
「アイツ、銀之助の連れなんだろ?どこまでやるかここで見させて貰うぜ。」
腕を組みつつ、リング上の2人を見つめるディブロス。
横でチェリオスが無視すんなよ〜!と言ってるがお構いなし。
他の異星人たちも会話をここいらで落ち着かせ、リングに集中するのであった。
「お前も女の子に人気だな!羨ましいぞ!あのボールちゃんとマスクマンみたいに!」
「い、いやぁ〜まさかさっきの試合一つでここまで人気になるとは…。そ、そういうお前も人気やないか!」
高らかに笑うヴェルタース。
俺様はかっこいいからな!仕方ない!と腕を組むその姿はまるで彫刻。
どう鍛えたらここまでの筋肉発達が臨めるのか。
「よぉし!ここで会ったのも何かの縁!!!遥々遠いとこから来たんだ!!!本来ならば会うことも無いような存在がここに来て巡り会えた!!!ならば!!!後は楽しむ…………………ん?」
意気揚々と語っていたヴェルタースが急に目が点になりパルムを見つめる。
パルムはどうしたのかと聞き返す。
「お前…………どっかで見たことあるぞ…。」
「え???なんのことすか…?」
3秒ほど考えた後ヴェルタースは何かに気づき、あっ!!!と叫びパルムに指をさした。
「お前!!!確か締め上げてほしいってリストに載ってた内の1人じゃねぇか!!!なんだっけ!確かマーボーとかボマーみたいな名前のやつから頼まれたんだ!!!」
「はぁ!???!!なんの話!!??!」
知らないのも当然だろう。
ボーナがけしかけたヴェルタースのワニワニ商会の部下たち。
勿論親方であるヴェルタースにも情報は入っていたのでパルムたちの顔は知っていたのだ。
銀之助はあのボーナ事件の事の詳細をクエスチョナーから聞いていたから知っていた。
しかし、終わったことなので銀之助はパルムになにも伝えていなかった。
だからマジでパルムはヴェルタースが何を言っているのか分からないのだ。
「………。」
「………。」
「………。」
観客席。
連れ3人から冷たい目で見つめられる1人のエリート。
そのエリートは冷や汗をかきながら口笛を吹きあらぬ方を見て誤魔化していた。
そんなクソエリートは今は放っておこう。
パルムは慌てふためき疑問をぶつけまくる。
クソエリートッテナンダコラ!!!オイ!!!
「なんやなんや!!!ほなアレか!?!部下の不遜は上司の不遜みたいな感じで俺を絞め上げる気か!!!」
「ん?いいや。そんな気はないぞ。部下のミスは部下のミスだからな。アイツらが油断したから失敗したんだ。仇なんざ考えてねぇ。俺が考えてることは一つ!!!」
体を大きく動かし、ガッツポーズを取り叫ぶ。
「楽しむ事だッッッ!!!俺は何よりも楽しいことが好きだ!!!今ここでお前含め色々な異星人ども喧嘩が出来ること!!!それが何よりも楽しいッッッ!!!」
パルムはビビりつつ、ヴェルタースの言葉を反芻する。
「え…てことは、ルークとか…チップとかも楽しかったんか…?」
「楽しかった!!!でもアイツら、まだなんか隠し持ってる雰囲気だったんだよなぁ。まだまだ本気じゃなかった。惜しいもんだ。だからこそパルムッッッ!!!テメェは本気で来いや!!!」
「ほ、ホンマに喧嘩師なんやな…。伊達やない…。」
「そりゃあそうだ!!!そもそも人にはそれぞれ過去があってそれはかき消せねぇ!!!過去は形なき事実だ!!!でもよ!!!そんなもんずっと抱えて生きてたら辛いし、しんどいだけだろ!!!だから俺は楽しむんだ!!!それに楽しむのは俺だけじゃねぇぞ!!!」
「………………。」
「辛そうにしてるやつらも巻き込んで楽しみてぇんだよ俺は…。しんどいままなのはしんどいだろ。」
力強く、しかし静かにニヤァと笑うヴェルタース。
喋りはどこかアホっぽさがあるが、コイツは悪人では無さそうだ。
パルムは少し沈黙。
そして目をつむりこちらも静かに笑う。
「お前…いい奴やな。」
「いい奴なのかはわからんが…兎に角楽しみたいんだよ俺はよぉ!!!」
なるほど…と、目を空けたパルム。
先ほどのビビりちらかしていた目ではない。
「了解やッッッ!!!ほな俺も楽しむぞッッッ!!!」
「そうでねぇとなぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」
カーーーーーーーーンッッッッッッッッ!!!
ゴングが高らかに鳴らされた。
「よっしゃぁぁぁぁ!!!!!行けぇぇぇパルムッッッッッッッッ!!!!!!」
叫ぶ銀之助たち。
パルムは振り向くことはしないが、その背中で言葉のない返事を返す。
「ゴガァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
ヴェルタースが白目で勢いよく突進してきた。
「ウワァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」
パルムは泣き叫んだ。
ズコーーーーーッッッ!!!
さっき変わった目はなんだったのであろうか…。
兎角、ヴェルタースの野太い腕から放たれる拳にぶち当たったら終わりである。
サイドに飛び移ったパルムはへっぴり腰で逃げ惑う。
お構いなしに何度も殴りかかるヴェルタースに手も足も出ない状況だ。
「何やってんだよアイツ…。」
「でも凄いですよヨーベイガーくん!パルムくん、確実に攻撃を全部避けてる!」
ルークの冷静な分析。
確かにパルムはベソかきながら頭を抱えて逃げているが、後ろから殴りかかられているにも関わらず全て躱している。
本能なのかなんなのか分からないが、このままいけばヴェルタースの体力は消耗するだろう。
「しっかりせぇパルムッッッ!!!攻撃せぇ!!!負けたらサっちゃんに殺されんぞ!!!」
その言葉で我に返るパルム。
ヴェルタースの一撃を避けた次の瞬間に後ろを振り返り、顔めがけハイキックを炸裂させた。
少しよろけたヴェルタースに対し間髪なしにラッシュをかける。
むやみ矢鱈に殴るのではなく、人間の弱点の部分を確実に攻めていく。
そして膝蹴りを顔面に叩きつけ、バク転で後ろに下がり間合いを取った。
「…………………………効いてなくね………?」
殴った手応え自体はあった。
しかし、効いている手応えがまるでない。
その証拠にヴェルタースはケロッとしている。
寧ろヴェルタースを殴りかかったパルムの腕と足に痛みが残る。
「なんちゅう硬さ!!!」
「ルークの芸術みてぇな攻撃が効いてなかったんだ。それも当然か。俺様の水芸もどこまで通るかわかんねぇな…。」
「確実に急所に入れたのにボル!!!」
「そもそもが別次元なのでしょう…。あの鍛え上げられた筋肉。嘘が一つもない。それに硬いのは筋肉だけじゃありません。皮膚も強固なものですよ…。」
首辺りを揉みほぐすヴェルタース。
パルムの攻撃はマッサージに等しいとでも言うつもりなのだろうか。
「ど、どうでしょう…?」
「悪くはない。でもお前まだ本気出してねぇな…。」
「ほ、本気です…。」
戦意を失いつつあるパルム。
しかしまだ策はある。
なにも同じ土俵で戦う必要なんてことはない。
体格差を補う技があるだろう。
(アイツパンチばっかりで蹴り技があらへん…。そこを狙えば…!!!)
リングを蹴り上げ走るパルム。
わざとヴェルタースの上半身までジャンプし、攻撃を誘う。
「デリャァァァァァッッッ!!!」
(来たッッッ!!!)
パルムはヴェルタースの右ストレートを上手いこと利用し、足元でしゃがみてこの原理で転倒させた。
「ウオッッッ!!!」
そしてチェリオス戦でも披露したスピニングトーホールドを即座にかけた。
「なっ!バカ野郎ッッッ!!!何やってんだパルムッッッ!!!」
チェリオスの叫びも時すでに遅し。
「………………え?固くね?というか太くね?」
なんとか腕は届いているものの、ヴェルタースの足があまりにも太すぎてまるで効果がない。
体格差がありすぎてサブミッションも通用しないのが分かった瞬間であった。
「グベッッッ!!!」
もう片方の足で蹴り上げられたパルム。
そしてヴェルタースは宙に浮いているパルムを思いっきり殴り飛ばした。
ドゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!
セコイヤの木でもへし折れたような音が響きパルムはぶっ飛ばされる。
たった一撃ではあるが、パルムはグロッキーだ。
(や……やべ………。ど………どうにか……!!!意識を………!!!)
あまりオススメはできないが、パルムは自分で頭部を軽く掌底突き。
なんとか回転しラインアウトは免れた。
頭がグワングワンと揺れる。
セルフ掌底突きもそうだが、ヴェルタースのストレートが効いたのだ。
いや、アレはストレートではない。
ただの【ジャブ】だろう。
「どうしたよオラァ!??!!本気で楽しめよッッッ!!!」
(ヤ…………ヤベェ…………。なんじゃこのパンチ力……………。こんなもん連続で貰ったら……!!!それに…俺の攻撃が………通らん…!!!)
そこでふと、パルムはグラーケンの修行のシーンが頭によぎった。
(良いか?この技は本来、今のお前さんの力ではそこまで強くは使えん。しかし、絶対に通常の攻撃が通らん相手が現れる…。その時に…これを使えるように鍛えるのじゃ…!)
「……………………師匠…。それが………今なんかの…。」
(今の俺じゃ…3〜5連が限界やろう…。でも…アイツ相手には…やるしかない…!!!)
パルムは両腕に力を込めたかと思うと、何か覚悟を持った目で走りだした。
「ウオオオオオオォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」
「そうだそうだよッッッ!!!世界は友達…じゃねぇや。まぁ友達かもしんねぇけど…。本気でこいやッッッ!!!楽しもうぜッッッ!!!」
相変わらずヴェルタースはパンチを放ってくる。
パルムは懐まで接近。
ヴェルタースのパンチは顔に当たったがまともに命中はどうにか避ける事に成功。
その変わり顔が掠り摩擦熱で顔に火傷、威力で皮膚が裂けるもそんな事はどうだっていい。
今は兎に角、この技をぶち当てるだけだ!
「ディィィリャァァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!!!」
思いっきり右ストレートをヴェルタースのみぞおちにぶち込んだ。
新必殺技。
「5連魔圧ブレーカーッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」




