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スペース・ロック  作者: 祈鈴銀
第200369回宇宙トーナメント編

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第21話 「氷結の戦姫」

ゴングが鳴ったと同時に疾風の如く一気にディアに詰め寄るマンナ。

やはりどこの宇宙、どんな勝負事においても先手必勝の文字は付き物らしい。

もしくは、そうでもしなければ勝ち目が無いと判断したのか。

突きや蹴りの連撃。

パンチではない。突きをまるで教科書のお手本のように繰り出していく。

ディアはなんとか防いだり流したりしているものの、やはり近接格闘はマンナが有利か。

マンナの右足が唸る。

ディアはとっさに左腕でガードしたが、中段蹴りが途中足首が捻られ上段に変化。


(変則蹴りか!!!)


鈍い音が響く。

直撃を受けたこともあり少しふらつく。

続けざまにマンナが水面蹴り。

地に片方付いている足を払うつもりだったのだろうが、流れがテンプレ過ぎたのかディアに読まれふらつきを利用し跳び後ろ回し蹴りを放たれた。


ズザザザザッッッ!!!


リングが急ブレーキ跡で抉れる。

組み合いから30m程突き飛ばされた。

しかしマンナにもダメージは無い。

呼吸法により腹を固めたのだろう。


「へぇ、クトゥルフ空手初段ってのは伊達じゃないんだねぇ。」


「ありがとうございます!貴方も相当鍛えられているようで!」


まるで演舞のような立ち合い。

観客は拍手喝采で2人を称える。

次はディアから攻めるようだ。

リングを蹴り飛ばすようにマンナに向かい走りつつ、左手を手刀に整える。


「手刀ですか!ならばこっちも!」


向かってくる手刀を防ぎカウンターを狙ったが、まるで表面を袈裟斬りにでもされたかのように鮮血が飛び散った。


(打撃じゃなく斬撃…!!??!)


「あんた…まさか手刀は打撃技って考えてんの?古臭いよ。」


次は獣のような形に手を構え、指先でマンナを切り裂いていく。

今のところ皮膚しか切れていないが、このまま受け続けるとどのみち出血多量になる。

マンナはリングを思いっきり踏み込み、気合で衝撃波を起こした。

その勢いで仰け反ったディアの顔・みぞおち・下腹部に拳で3連打。


「ガハッッッ!!!」


「ゼアッッッ!!!」


腕と手をアイスピックのように相手に突き刺す貫手《ぬきて》。

できれば連続で攻撃をしたかった。

当たればかなりの追加ダメージを与えれたであろう。

しかしディアも戦闘経験が豊富なのか、マンナの手首を掴みそれを防ぐ。

そしてそのまま腕一本でマンナを持ち上げる。

一本背負い投げだ。


「見事!!!しかしッッッ!!!」


マンナは体を空中で捻り、逆さまの状態でムーンキック。

決して深くはないが確実にディアの頭部に当たった。

思わず手を離したディアに特大の前蹴りをぶちかまし、距離を大きく取る。

ディアは吹っ飛び、リングライン数歩手前でなんとか受け身を取った。


ウオオオオオオォォォォォォッッッッッッ!!!


「やるじゃねぇかあのエルフの子!!!もしかしてマジでこのまま勝つんじゃねぇか!?」


「突きや蹴り、受け身から身体の柔軟性…どれを取っても一級品だ。本当に強いぞあの子!」


「いっけー!!!」


善戦するマンナを応援するクエスチョナー、グレート、エメリィ。

魔力なんてのはただの数値でしか無い。

この考えを持つコイツらからしたら面白い光景に見えるだろう。

銀河政府や魔力主義のやつらを見返せる。

本筋を理解出来ないものに大きな衝撃を与えることが出来る。

ワクワクしつつ応援するも、やはり触角が生えた丸メガネだけは渋い顔をしている。


「…………お前らマジで言ってんのかよ。」


「あ?お前こそなに言ってんだよ。エルフちゃん善戦してんじゃねぇか。なにが気に入らねぇんだよ。」


腕を組むボーナに問いかけるクエスチョナー。

どつやらボーナからしたらマズイのはマンナの方だという。


「わかんねぇのかよお前ら…。良く見ろよ。」


「見てるよ。今でもエルフちゃんが攻めてて、あの青髪の女の子防ぐ一方じゃねぇかよ。」


「………使ってねぇ。」


「使ってない?なにが?」


「あのディアとかいう女。魔法を一切使ってねぇ。」


ボーナから2人に顔を移す。

確かにディアは魔力があるにも関わらず魔法を使っていない。

だからどうしたと言うのか。

こちらからすれば魔法を使う暇がないほど嵐のような攻撃を受けているようにしか見えない。


「使わないんじゃねぇ、使ってねぇんだ。要するにあのエルフは気づいてねぇかもしれねぇが明らか舐められてる。」


「じ…じゃあ…あのディアって子…。全然本気じゃないのか…?」


「あぁ。なんだったら魔法を使う相手かどうか見定めてるんじゃねぇか?」


魔法というのは確かに凄い能力である。

しかし、生物学的にも解剖学的にも言えることではあるが魔法というのは所詮身体能力の延長線上にあるものである。

つまり魔法を使うのにも体力が関係してくる。

連発で使う事はフルマラソンを全力で走る、筋トレを長時間するようなもの。

それも体術よりもヘタすれば消耗が激しい場合などもある。

だから戦いにおいて体術で決まればそれに越した事はないのだ。


「見てろよ。そろそろ動くと思うぜ。」


ガードが遅れているディア。

左半身ががら空きである。

どこをどう攻撃しても当たらない余地が無いほどの好機をマンナが逃すわけがない。


「隙ありッッッ!!!これで終わりです!!!」


渾身の右回し蹴り。

何かが砕けた音が弾け飛ぶ。

周りの観客も口を開け固唾を飲む。

クエスチョナーたちも同様な様子であり、ボーナはさも当然のような顔をしていた。


「な…………!!!」


蹴りは確かにディアに当たった。

しかし、当たったのはディアの表面を覆うキラキラとした厚い氷。

本体にダメージはない。


「できれば魔法使わず戦いたかったんだけどね。」


目が合った。

マンナは後ろに跳び距離を取った。

そうでもしなければ全身氷漬けにされていただろう。


「凄いねぇ。自分が凍らされるイメージでも頭に湧いたの?」


「フフ…良くいいますね…。わざと殺気をあからさまにぶつけてくださったから分かったんですよ…。」


頬に汗が流れる。

しかしその汗ですら次第に固まっていく。

リングが全面的に氷の膜が張られている。

冷気がその場を覆い、リングを囲う魔法壁も霜で白く染まっていく。

ディアが本気を出し始めた。


「アイス・コーン」


掌から鋭利な氷柱《つらら》を出現させ、高速でマンナに襲いかかる。

それに一発ではない。

連続で発射している。

マンナは避けようとすると、足の裏が凍っておりへんばりついて動けない。

一気に身体に力を入れ筋肉を盛りあげ振動させるマンナ。

シバリングである。

体の内側から熱を発生させ表面まで浸透。

これは魔法ではなく身体機能を極限までに鍛え上げた賜物だろう。

足の裏の氷が溶けたのを確認するとすぐさま氷柱を回避。

初動が遅かったせいで一発目の氷柱で左肩を抉られたものの、まだまだ致命傷ではない。

攻撃を回避しつつディアの元に走る。


「すげぇ!!!シバリングじゃねぇか!!!まだまだどうなるかわかんねぇぞ!!!」


「いや、シバリングってのは本来あんなに一気に熱を生む機能じゃねぇ。それにあのエルフ、シバリングしながら動いてやがる。体力的にも状況的にも明らか不利だぜ。」


「まぁ…確かにボーナの言う通りではあるけどよ…。」


ディアの目の前まで接近。

渾身の一撃を拳にのせて放つも氷の壁で防がれた。


ガンッッッッッッ!!!!!!!!


「チェストォォォォォォォッッッッッッ!!!」


不敵な笑みを浮かべるディアも一変。

マンナが拳一発、蹴り一発入れただけで氷壁が粉々になったからだ。


「これを壊すか!!!やるねぇ!!!」


マンナは白目を剥き、身体から発せられる熱が陽炎のように揺らめく。

汗の量も尋常では無い。

しかし、先程ボーナの言う通りシバリングは長くは続かない。

この機能のおかげでマンナの攻撃力も跳ね上がってはいるが体力の減少が凄まじい。


(持ってあと2分…!!!それまでに決着を着けないとッッッ!!!)


「アイス・クエイクッッッ!!!」


てのひらをリングに叩きつけ冷たい突風を吹き荒らす。氷遁と風遁の合わせ技だろう。

浮かび上がったマンナに「アイス・ブラスト」という真正面型の突風をぶつける。

マンナの皮膚の表面が少し凍る。

ディアは狂気じみた笑顔で右腕を氷柱のような氷を纏い近接格闘。

なんとか流したり防いだりするも、触れた直後にも当たった部位が凍り始める。

厳しいがそもそも触れてはならないのだ。


(もう…アレをやるしか…ッッッ!!!!!)


マンナの熱が更に上昇。

膝蹴りでディアの氷柱を破壊し、目にも止まらないスピードで殴り倒し空中に放り投げた。


ウオオオオオオォォォォォッッッッッッ!!!!!


大喝采。

クエスチョナーたちも立ち上がってしまいガッツポーズで応援。

ボーナも少し動揺したのか汗が浮かび、口も半開き。


(エルフ重拳壱の型…!!!)


「白峰連芭《びゃくほうれんば》ッッッ!!!!!!!!!!」


強烈な踵落とし。

ディアのみぞおちにぶち当たり、隕石の如くリングに叩きつけられた。


スタッッッ!!!


「ハァッ……ハァッ………ッッッ!!!!!」


激しく肩で呼吸するマンナ。

シバリングも解け、全身には脂汗が覆う。

筋肉も痙攣し、もう動くことは出来ないだろう。


[ワーン!!!]


カウントダウンが始まった。

もう立たないでくれ。

これで終わりであってくれ。

マンナは死にかけの体でそう思う他なかった。

次第に砂煙が無くなっていく。

そこには倒れているディアの姿。

カウントダウンも3に差し掛かったその時。


ピキッッッ


「……………え。」


バキキッッビキッ……………


ディアの身体にクラックが入っていく。


ガシャァァァァァァァンッッッ!!!


遂には全身が砕け散った。

観客たちは死んでしまったものだと思ったのだがマンナ含め実力者たちはそうでない事を知っている。


「…………こ、氷の…………み、身代わり…。」


「御名答。」


マンナが後ろを振り向こうとしたが、疲労困憊の身体では間に合わず背中合わせに両腕を掴まれ足を内側からかけられた。


「なッッッ!!!パロ・スペシャルやんけッッッ!!!」


「見事なプロレス技…!かけかたが上手すぎる…!」


サーシャとアスカが叫ぶ。

かのメキシコ出身のラウル・ロメロが考案されたとされるパロ・スペシャル。

マンナはなす術もなく、膝をリングに着けた。


ググググググググ………………


「あんたは良くやったよ…。魔力も無いのにさ…。さっさとギブアップしな。じゃなきゃ、両腕へし折れるよ。」


「クグッッッ………そ、それだけは…絶対に…しません…………!!!!!」


「意固地だねぇ。どうせ私の勝ちは動かない。負けられない理由でもあんの?」


「わ………私は…、お、恩返し……!!!の…ために………!!!!!」


「…………………………。」


マンナの両親は魔力が高く、高貴な人柄であった。

母は美しく優しく、父は強く気高く。

その両親の元に生まれたのがマンナであった。

そしてどの惑星でも行われる赤子にする魔力測定。

魔力の高いエルフの母の元に生まれたのだ。きっとこの子も高いはず。そう思っていた。

エルフ自体、魔力が高い一族なのだ。

しかし、叩き出された数値は0。

魔力を一切持たない女の子だった。

国民は呪われた子だと忌み嫌う者も居た。

しかし親族は誰もそんな事は思わず心からマンナを愛した。

その結果心の優しい女の子に育った。

とある日、マンナが小学生の頃泣きながら家に帰ってきた。

どうしたのかと心配すると、クラスの子にいじめられたという。


「魔力がない化け物〜。」


「エルフ族の落ちこぼれ!」


「気持ち悪い!あっちいけ!」


それでもう学校に行くのが嫌だと泣き喚いた。

両親はそっとマンナの肩に手を置いた。


「嫌なら行かなくて良いよ。」


そう優しく語ってくれた。

そして不登校になって数週間後、近くにクトゥルフ空手の道場が出来た。

全然知名度が無い道場なのである意味有名になったがどこの異星人も噂なんてものは49日。いつしか廃れていった。

マンナはお小遣いで買った駄菓子をポーチいっぱいに入れて家に向かっている時、透明ガラスに映る修行中の生徒たちにくぎ付けになった。

休憩時間になり、生徒の動きがなくなった時後ろから声をかけられた。


「お嬢ちゃん、興味あるのかい?」


マンナは知らない人に話しかけられたので怖がりその場を離れた。

後ろからは「またいつでもおいで!」とタコのような大男が言っていたのを聞き逃さず。

マンナはたまに見る程度だったのがいつしか毎日見るようになった。

そして家族と出かけていた時にも眺めていたので、そこを師範に話しかけられ入門する事になった。

やはりエルフ族だからか成長がものすごく、みるみるうちにマンナは強くなっていった。そしておっぱいもデカくなっていった。

いつしかマンナは美しい少女となり、地元では知らない者が居ないほどになった。

小学生の時にいじめてきた男子もどうやら自分のために綺麗になったと思ったらしく、付き合ってあげてもいいなど手のひらを返してきたがキッパリ断った。

そして宇宙トーナメントの事を知り、道場の宣伝と力試しに参加したという。

しかし師範には反対されたという。

今のままじゃ駄目だ、まだ行くな…と。


「負ける…訳には…!!!いかないんです!!!」


次第に起き上がるマンナ。

驚くディアであったが細い目になり小さく呟く。


「くだらない。」


「ッッッ!!!なにッッッ!!!」


「くだらないって言ったのよ。つまらない。所詮人間の話じゃない。アンタ…泥水すすったり、ゴミ食べて生きてきた訳じゃないんでしょ?所詮はただの恵まれた女の戯言。」


掴まれた腕の力がまた強くなる。


「アカンッッッ!!!あのままじゃマンナちゃん腕折れる!!!」


「あんたみたいな恵まれたやつの話聞いた私がバカだったわ…。私はね………莫大な金が必要なのよ…。腹空かせて待ってるバカチビどものためにね…。」


「腹を…空かせて待ってる……チビ………?」


余計なことを言ってしまったとディアは零す。


「だから………あんたの恵まれた話聞いてたらムカッ腹がたってくんのよッッッッッッッッッ!!!!!!!パロ・グレイシャッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


掴んでいた腕が一瞬で凍結。

そしてクラックが入り…………


ガシャァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッン!!!!!


両腕が粉々に砕かれた。

両腕欠損。根元から大量に出血。

声にならない叫び声を上げのたうち回るマンナ。

悲惨な光景に目をつむる観客。

クエスチョナーも同じであり、ボーナは力を入れた細い目で冷や汗を垂らす。

しかしマンナのまだ両足は生きている。

立ち上がろうと顔を上げた時、のど元に氷柱を突きつけられた。

見下した冷徹な目で睨むだけで一言も発しないディア。

マンナは眉に皺を寄せ、痛みで脂汗を流しつつ冷静に状況を読み取った。


「………ま…………参りました………。」


カンカンカンカンカンカンカンッッッッッッ!!!!!!!!


17分23秒。

ディアの勝利。

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