表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
D級編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/491

第57話

 神崎隼人は、自らの絶対的な成長を実感していた。

 D級ダンジョン【打ち捨てられた王家の地下墓地】。

 あれほど彼を苦しめたあの場所は、もはや彼の安定した収入源であり、そして格好のレベル上げの狩場と化していた。

 ユニーク長剣【憎悪の残響】がもたらすノーコストの攻撃オーラ、【憎悪のオーラ】。

 そして、その火力をさらに15%増幅させる【脆弱の呪い】。

 この二つの相乗効果によって、彼のただの一振りは、もはやD級の雑魚モンスターが耐えられるレベルのものではなくなっていた。

 スキルを使うまでもない。

 ただ歩き、剣を振るうだけで敵は砕け散り、経験値と魔石へと変わっていく。

 その圧倒的な殲滅速度は、彼の資産を日に日に増やしていった。


 だが、彼は決して満足はしていなかった。

 彼のギャンブラーとしての本能が、常に囁きかけるのだ。

(この火力は本物か?)

(今の俺の強さは、ただこの剣一本に依存しているだけではないのか?)

(もしこの先、物理攻撃が全く通用しない敵が現れたら?その時、俺はどうする?)


 彼は知っていた。

「調子を整えるのも、地道に勝つ事から始める」。

 今のこの安定した勝利は、次なる大きなギャンブルに挑むための、最高の準備期間なのだと。


 その日の夜。

 ダンジョンから帰還した隼人は、自室で再びSeekerNetの情報の海へとダイブした。

 目的は明確だ。

 先日フリーマーケットで手に入れたMP+110の装備。

 そして、レベルアップによって得られた潤沢なMP。

 この新たなリソースを使い、彼のビルドを次のステージへと引き上げる、新たなオーラスキルを探すために。


 彼が向かったのは、いつもの『戦士クラス総合スレ』。

 彼は検索窓にこう打ち込んだ。

『オーラ おすすめ 火力以外』


 彼の今の火力は、D級においてはすでにオーバースペック気味だ。

 彼が求めているのは、純粋なダメージの上乗せではない。

 もっと戦略的で、もっと未来の投資となるような、新たな「力」。


 スレッドを読み漁っていくと、ベテランたちの議論は、大きく二つの方向に収束していた。

 それは、戦士というクラスの永遠のテーマとも言える、二つの選択肢だった。


【第一の回答:活力のオーラ】

 一つ目の回答。

 それは、**【活力のオーラ(バイタリティ)】による「生存性の極致」**を目指すという思想だった。


 元ギルドマン@戦士一筋:

『火力は憎悪のオーラで十分だというのなら、次に目指すべきはやはり「死なないこと」の追求だろう。

 そこでお勧めするのが**【活力のオーラ】**だ。

 レベル1の時点ではMP予約28で毎秒10のHP自動回復。お前の指輪【混沌の血脈】と合わせれば、秒間25のリジェネだ。これだけでも十分に強力。

 だが、このスキルの真価はその成長性にある』


 ハクスラ廃人:

『その通りだぜ。こいつはスキルレベルが上がるにつれて、その回復量と消費MPがとんでもねえ勢いで跳ね上がっていく。

 最終的には毎秒193回復というとんでもない性能になるが、その代わり予約MPも233必要になる。

 つまり、MPがあればあるほどその恩恵がデカくなる、大器晩成型のオーラってわけだ』


 ベテランシーカ―:

『ええ。隼人さんのように【生命の泉】のパッシブを取得しているプレイヤーにとっては、最高の選択肢の一つです。

 割合回復の【生命の泉】と、固定値回復の【活力のオーラ】。

 この二つのリジェネを同時に展開すれば、あなたはまさに「歩く要塞」。C級、B級のボスの強力な継続ダメージすらも、笑って耐え抜くことができるでしょう』


 それは、あまりにも堅実で、そして魅力的な提案だった。

 これさえあれば、二度とあのバジリスクのようなDoT地獄に苦しめられることはないだろう。


【第二の回答:精密のオーラ】

 だが、隼人はすぐにその選択肢に飛びつきはしなかった。

 彼は、もう一つの全く思想の異なる提案に、目を奪われていたからだ。

 それは、**【精密のオーラ】**という、あまりにも地味で、しかし本質的な力だった。


 疾風のローグ:

『リジェネ?耐性?戦士の旦那方は、相変わらず亀みてえな戦い方が好きらしいな。

 俺たちスピード狂から言わせりゃ、そんなもんは二の次だ。

 お前ら忘れてねえか?この世界の大原則を。

 **「当たらなければ意味がない」**ってな』


 ハクスラ廃人:

『…出たなローグ。だが、こいつの言うことにも一理ある。

 JOKER、よく聞け。C級以上のダンジョンになると、回避力が異常に高いエリートモンスターが頻繁に出現するようになる。

 そいつらは硬くはない。だが、とにかく攻撃が当たらねえ。

 お前の自慢の一撃も、空を切るだけならただの素振りだ。

 そのクソッタレな泥試合を避けるために必要になるのが、**「精度アキュラシー」**というステータスだ』


 元ギルドマン@戦士一筋:

『うむ。そして、その精度を最も効率的に確保する手段。それが**【プレシジョン(精密のオーラ)】**だ。

 こいつはレベル10から使用可能で、予約MPもたったの22。それでいて、精度を+93も上げてくれる。まさに「使い得」の神スキルだ。

 C級に挑戦するなら、これがないと話にならないと言っても過言ではない』


 活力のオーラか、精度のオーラか。

 生存性を取るか、未来への投資を取るか。

 隼人は、その二つの選択肢を前にして、静かに思考を巡らせていた。


 彼は選んだ。

 だが、その選択は視聴者たちの予想の斜め上をいくものだった。

 彼は、どちらか一方を選ぶのではない。


「…面白い」

 彼は、ARカメラの向こうの観客たちに、不敵に笑いかけた。

「――両方試してみりゃ、いいだけの話だろ?」


 そのあまりにもJOKERらしい回答に、コメント欄が沸き立った。

 そうだ、彼には【複数人の人生】がある。

 一つのビルドに固執する必要など、ないのだ。


 彼はその場でマーケットへとアクセスした。

 そして、彼がまず購入したのは**【プレシジョン(精密のオーラ)】**のスキルジェムだった。

 価格は3万円。

 彼のギャンブラーとしての判断が、より優先順位が高いのはこちらだと告げていた。

 なぜなら、「攻撃が当たらない」という事態は、「HPが足りない」という状況よりも遥かに、彼にとって屈辱的な「敗北」を意味するからだ。


 そして彼は、残りの金で【活力のオーラ】のジェムも購入した。

 こちらは4万円。少し高かったが、彼の資産はまだ十分に残っている。


 二つの新たなオーラ。

 二つの新たな可能性。

 彼はその二つの宝石を手に取り、自らの魂へとセットした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やっぱり突っ込まれてた ベテランシーカー=受付嬢の伏線のつもりなんかな 余りにもエグい
〉ベテランシーカ―:『ええ。隼人さんのように…… 神崎があえて本名を明かす描写がない気が……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ