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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
D級編

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第54話

 神崎隼人は、自室の古びたパソコンのモニターを、食い入るように見つめていた。

 彼の脳裏には、先ほど水瀬雫が教えてくれた新たなキーワード…**「フィニッシュスキル」**が、焼き付いて離れなかった。

 オーラとは違う、自己強化スキル。

 敵を倒したその死体が、連鎖爆発の起爆剤となる。

 その、あまりにも物騒で、そしてどこまでもギャンブラーの心をくすぐる響き。

 彼はその正体を突き止めるべく、再びSeekerNetの情報の海へとダイブした。


 彼は、トップランカーたちが集う「ビルド考察スレ」の最深部へと、アクセスする。

 そして検索窓に、ただ一言打ち込んだ。

『フィニッシュ』


 表示されたのは、一つの巨大なスレッドだった。

 タイトルは、『【芸術】フィニッシュスキル総合考察スレ Part.42』。


「…フィニッシュスキル?」

 どうやら「フィニッシュ」とは、通称らしい。正式なカテゴリー名は、「フィニッシュスキル」というのか。

 彼は、そのスレッドをクリックした。

 そして、そこに記されていたのは、彼のこれまでの戦闘の常識を再び根底から覆す、あまりにも美しく、そして残酷な「力」の体系だった。


 スレッドの最初の投稿には、この特殊なスキルカテゴリーの詳細な解説が記されていた。


 1 詠唱する吟遊詩人

「ようこそ、同志よ。君がこのスレッドにたどり着いたということは、ただ敵を殴り倒すだけの戦闘に飽き飽きし、自らの戦いを『芸術』の域へと高めたいと願う、求道者であるということだろう」

「ここでは、そんな君たちのために、この世界で最も華麗で、最も奥深いスキルカテゴリー…**『フィニッシュスキル』**について、語り合いたいと思う」


「まず、理解してほしい。フィニッシュスキルとは、二つの顔を持つ、特殊な自己強化スキルだ。

 一つ目の顔。それは、**『起動中は少量の属性ダメージを使用者と周囲の味方に付与する』**という、オーラに似た効果。

 これは、それだけでも十分に強力なバフとなるだろう。

 だが、このスキルの肝は、そこにはない」


「このスキルの真価。それは、二つ目の顔。

『敵を特定の状態異常にして倒すことで、初めて発動する特殊な追加効果』。

 我々はこれを、敬意を込めて**「フィニッシュブロー」**と呼ぶ」


 その解説に、隼人はゴクリと喉を鳴らした。

 彼はページをスクロールし、その具体的な効果を確認していく。


【フィニッシュ・オブ・アッシュ(灰のフィニッシュ)】


 フィニッシュブロー: **「炎上」**状態の敵を倒したその瞬間、その敵の死体は巨大な火の爆発を起こし、その最大HPに応じた範囲ダメージを、周囲に撒き散らす。


【フィニッシュ・オブ・アイス(氷のフィニッシュ)】


 フィニッシュブロー: **「凍結」**状態で敵を倒したその瞬間、その敵の体は無数の氷の刃となって破裂し、その破片が周囲の敵を切り刻む。


【フィニッシュ・オブ・サンダー(雷のフィニッシュ)】


 フィニッシュブロー: **「感電」**状態の敵を倒したその瞬間、天からその死体へと強力な落雷が発生し、さらにその雷が周囲の敵へと連鎖していく。


「…なんだ、これは…」

 隼人は、そのあまりにも派手で、そしてロマンに溢れた効果に、言葉を失った。

 死体爆発。氷の破裂。天からの落雷。

 それはもはや、ただのスキルではない。

 戦場を支配する、芸術的なまでの連鎖反応。


 隼人は、興奮に打ち震えながら、さらにスレッドを読み進めていく。

 そして彼は、このフィニッシュスキルというシステムが持つ、本当の恐ろしさを知ることになる。


 1 詠唱する吟遊詩人

「そして、ここからが上級者向けの話だ。

 よく聞いてほしい。

 このフィニッシュブローの効果は、**『重複』**する」


 重複?

 どういうことだ?


 1 詠唱する吟遊詩人

「つまり、こういうことだ。

 君がもし、何らかの手段で、自らの攻撃に炎と氷、二つの属性を同時に乗せることができたとしよう。

 そして、その攻撃で**『炎上』かつ『凍結』**している敵を倒した、その瞬間。

 何が起こるか、分かるかな?」


「その敵の死体は、巨大な火の爆発を起こしながら、同時に、無数の氷の刃となって破裂するのだ。

 爆発のダメージと、破片のダメージ。

 その二つが、同時に周囲の敵へと襲いかかる。

 これ一つだけで、敵のグループをワンアクションで消滅させることも、夢ではない。

 これこそが、フィニッシュスキルの真髄。死と死を掛け合わせ、新たな死を生み出す、死のコンビネーションアートだ」


 その、あまりにも凶悪なコンボの思想。

 隼人の脳内に、電流が走った。

 彼の右手に握られた、ユニーク長剣【憎悪の残響】。

 あれは、彼の物理攻撃に、追加の冷気ダメージを付与する。

 つまり、彼がこの剣で敵を殴れば、それは物理と冷気の複合ダメージとなる。

 ならば。

 もし彼が、【フィニッシュ・オブ・アイス】を装備すれば。

 彼はいつでも、氷のフィニッシュブローを発動させることができる。

 そして、さらに。

 もし彼が、何らかの手段で自らの攻撃に**「炎」や「雷」**の属性を追加することができたなら…?

 彼は、ただ剣を振るうだけで、爆発と氷結と落雷を同時に引き起こす、歩く天災と化すことができるのではないか。


 その、あまりにも途方もない可能性。

 彼のギャンブラーとしての魂が、歓喜に叫び声を上げていた。

 そして、スレッドの最後の一文が、彼のその興奮を、現実的な「目標」へと変えさせた。


 1 詠唱する吟遊詩人

「だからこそ、我々フィニッシュスキルの求道者は、常に渇望しているのだ。

 自らのビルドに、一つでも多くのフィニッシュスキルを組み込むために。

 あるいは、一つでも多くのオーラを張り、自らを強化するために。

 そう、MPだ。

 MPを大幅に増やして、フィニッシュスキル、あるいは新しいオーラを張ること。

 それこそが、我々のビルドを次のステージへと引き上げる、最も簡単で、最も確実な強さに繋がるのである」


 全ての情報を理解した、隼人。

 彼の心は、完全に決まっていた。

 これだ。

 これこそが、俺が次に目指すべき道だ。

 MPを増やし、このフィニッシュスキルという新たな「力」を、手に入れる。

 そしていずれは、複数のフィニッシュを同時に発動させ、誰も見たことのない究極のコンボを、完成させる。


 彼の胸に、新たな、そしてこれまでにないほど巨大な野心の炎が灯った。

 彼はすぐさま、SeekerNetのマーケットへとアクセスする。

 そして検索窓に、打ち込んだ。

『フィニッシュ・オブ・アイス』

『最大MP増加 装備』


 表示された、アイテムの数々。

 そのどれもが、今の彼にとってはまだ少しだけ手の届かない、高価なものばかり。

 彼の軍資金は、まだ足りない。

 もっと、稼がなければ。

 もっと、効率的に。

 もっと、圧倒的に。


 彼は、静かにパソコンの電源を落とした。

 そして立ち上がり、自らの新たな相棒、【憎悪の残響】を手に取る。

 その刀身からは、青黒い冷気のオーラが、静かに立ち昇っていた。

 彼はその剣を握りしめ、呟いた。


「…面白い。実に、面白いじゃねえか」


 彼の瞳は、もはや目の前の現実ではなく、その遥か先に広がる無限の可能性の地平線を見つめていた。

 物語は、新たな、そしてあまりにも魅力的な「目標」を見つけ出した主人公が、その実現のために再びダンジョンという名のテーブルへと向かう、その静かな、しかし確かな決意を描き出して、幕を閉じた。

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