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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
D級編

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50/491

第50話

 神崎隼人は、再びあの忌々しい場所へと戻ってきた。

 D級ダンジョン、【打ち捨てられた王家の地下墓地】。

 ひんやりとした、大理石の床。壁に描かれた、王族たちの瞳のない肖像画。そして、彼の肌を刺す、静かで冷たい死の気配。

 前回、彼はこの場所で、初めての「敗北」を喫した。

 ボスのギミックを見抜けず、戦略的撤退を余儀なくされた。

 だが、今日の彼は違う。

 彼の腰のベルトには、マーケットで手に入れた5本のフラスコが、確かな存在感を放っている。

 そして何よりも、彼の魂には、昨夜新たに手に入れた一つのスキルジェム…**【吹雪の鎧ブリザード・アーマー】**が、静かにその出番を待っていた。

 準備は、万端だ。

 テーブルのルールも、ディーラーのイカサマの手口も、全て見切った。

 あとは、このテーブルで俺が最強であることを、証明するだけ。


 彼は、地下墓地の入り口でARコンタクトレンズを装着し、配信のスイッチを入れた。

 タイトルは、シンプルに、そしてこれ以上ないほど挑戦的だった。


『【D級リベンジ】骸骨の王よ、遊びは終わりだ【新スキルテスト】』


 そのタイトルが表示された、瞬間。

 彼のチャンネルには、通知を待ち構えていた数万人の観客たちが、津波のように殺到してきた。

 コメント欄は、彼のリベンジマッチを期待する熱狂的な声で、埋め尽くされる。


『きたああああああ!リベンジ配信!』

『待ってたぜ、JOKERさん!』

『あのクソボスを、どう攻略するのか見せてくれ!』

『新スキルテストってことは、あの吹雪の鎧か!?』


 隼人は、その熱狂を背中に感じながら、カメラの向こうの観客たちに、不敵に笑いかけた。

「よう、お前ら。昨日は、見苦しいところを見せちまったな」

 彼は、わざとそう嘯いてみせる。

「昨日は、テーブルのルールを知らなかった。だが、今日の俺は違う。イカサマのタネは、見切った。今度は、こっちがハメる番だ」

 その力強い宣言に、コメント欄がさらに沸き立つ。

 彼はゆっくりと、地下墓地の重い石の扉を押し開け、その冷たい闇の中へと、再びその身を投じた。


 地下墓地の内部は、相変わらず静寂に包まれていた。

 だが、今の隼人には、その静寂すらも心地よいBGMに感じられた。

 彼はまず、最初の広間へと進む。

 カタカタと、お馴染みの音を立てて、数体の骸骨兵が地面から湧き出てきた。

 以前の彼であれば、【無限斬撃】で一瞬で処理していた相手。

 だが、今日の彼は違った。


「さてと。まずは、こいつの性能テストから始めるとすっか」

 彼はそう言うと、自らのオーラを切り替えた。

 これまで彼の火力の根幹を支えていた、【自動呪言】のオーラをオフにする。

 そして代わりに、昨夜手に入れたばかりの、新たなスキルを起動させた。【吹雪の鎧】。

 彼の全身を、青白いダイヤモンドダストのような冷気のオーラが、ふわりと包み込む。

 彼のMPバーの25%が、予約済みの鈍い灰色へと変わった。


 そして彼は、信じられない行動に出た。

 殺到してくる骸骨兵の一体の攻撃を、彼は避けるでもなく、パリィするでもなく、ただその場に仁王立ちし、無防備にその身に受け止めたのだ。


『え!?』

『JOKERさん、何してんだ!?』

『避けないのかよ!』


 視聴者たちの、悲鳴。

 そして、骸骨兵の錆びついた剣が、確かに彼の胸当てを捉えた。

 ゴン、という鈍い音。

 だが、彼の赤いHPバーは、ピクリとも動かなかった。

 代わりに、そのHPバーの上に新たに出現した、細く、しかし確かな青色のゲージが、ほんのわずかに1ミリほど減少しただけだった。


 ==================================== 物理ダメージ 1 を、受けました エナジーシールドが、ダメージを肩代わりしました エナジーシールド: 30/30 -> 29/30

「…なるほどな」

 隼人は、その光景に感嘆の声を漏らした。

「HPの身代わりになるシールドか。これが、エナジーシールド…」

 彼はその場で、骸骨の攻撃を数発受け続ける。

 その度に、青いシールドだけが削れていき、彼の生命線であるHPは、全く傷つかない。

 そして彼がバックステップで距離を取ると、魔法のような現象が起こった。

 ダメージを受けなくなってから、ちょうど10秒後。

 削れていた青いエナジーシールドのゲージが、一瞬で全快したのだ。


「10秒ダメージを食らわなけりゃ、全回復。…こりゃ、強いな」

 彼は、そのあまりにも便利な防御システムに、心の底から感心していた。

「たった30のエナジーシールドでこれなら、もし100、いや、200もあれば…?まともな攻撃じゃ、HPに傷一つ付かなくなる。鉄壁じゃねえか?」


 彼の、その素直な感想。

 それが、コメント欄に潜んでいたある一派の魂に、火をつけた。「魔法使い派閥」。

 彼らはこれまで、JOKERのあまりにも戦士に特化したビルドに、少しだけ寂しさを感じていたのだ。


 魔術師A: そうだ!それだよ、JOKERさん!それこそが、魔法使いの戦い方だ!


 ハクスラ廃人: HPを捨てて、ESに全てを賭ける。それが、俺たちCIカオス・イノキュレーションビルドの真髄よ!


 ベテランシーカ―: HPを気にせず、立ち回れる。詠唱に、集中できる。だから、魔法使いは強いんです。JOKERさん、あなたはその才能の入り口に、今、立ったんですよ!


 その熱狂的な、魔法使い派閥のコメント。

 それを見た他の視聴者たちも、次々と新たな期待の声を上げ始めた。


『次は、絶対魔法使いやってくれ!』

『JOKERさんの、MPスタックビルド見てみてえ!』

『【複数人の人生】があるんだから、やらない手はないだろ!』


 その、あまりにも熱烈なラブコールに、隼人は苦笑いを浮かべた。

 そして彼は、いつものJOKERの不敵な笑みで、その期待を焦らすように答えた。

「はっ…それも面白そうだな。だが、そいつは強い魔法使い用の装備が手に入った時の、お楽しみだな」


 その一言は、魔法使い派閥の期待をさらに煽る、最高のファンサービスとなった。


「さてと。ウォーミングアップは、終わりだ」

 隼人はそう言うと、オーラを再び【吹雪の鎧】から、【自動呪言】へと切り替えた。

 彼の全身を、再び禍々しい紫色のオーラが包み込む。

 そして彼は、そこから本当の無双を始めた。

【無限斬撃】で骸骨兵を一撃で粉砕し、MPを回収する。

 ネクロマンサーの集団が現れれば、その復活の詠唱が終わる前に、骸骨の壁を**【鉄壁の報復】でいなしながら強引に突破し、その懐で【衝撃波の一撃】**を叩き込む。

 彼の前にはもはや、どんな敵も、どんなギミックも、意味をなさなかった。

 彼は、このD級ダンジョンですら、自らの絶対的なホームグラウンドへと変えてしまっていた。


 そして、ついに。

 彼は、あの因縁の場所へとたどり着いた。

 巨大な、円形のホール。

 その中央に鎮座する、骨の玉座。

 前回、彼に初めての敗北を味わわせた王が、そこにいた。


【骸骨の百人隊長】。


 彼はゆっくりと立ち上がり、その空虚な眼窩の鬼火で、再び現れた侵入者を睨みつける。

 そして、前回と全く同じように、その全身から青白い憎悪のオーラを放ち始めた。

 広間全体が、凍てつく冷気に包まれる。


 だが、隼人はもう動じない。

 彼はその光景を冷静に見つめながら、ゆっくりと自らのオーラを切り替えた。

【自動呪言】を、オフに。

 そして、【吹雪の鎧】を、オンに。

 彼の体を、ダイヤモンドダストのようなオーラが包み込む。

 それは、これから始まる吹雪の中での死闘を覚悟した、王者の構えだった。


 彼は長剣を構え、ARカメラの向こうの観客たちに、そして目の前の骨の王に、静かに告げた。

「さてと」

「リベンジマッチの時間だ」

「――今度は、最後まで付き合ってもらうぜ、骨の王様」


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