第473話
彼の新たな、そして最も美しい死の舞踏が、今、始まろうとしていた。
そして、その舞踏が数回繰り返され、四人の挑戦者たちの精神が、肉体が、そして闘技場の床が、その限界を迎えようとしていた、まさにその時だった。
シェイパーの、その禍々しいHPバーが、ついに残り3割を切ったのだ。
だが、それは希望の光ではなかった。
さらなる、絶望の始まりだった。
『――まだ、だ。まだ、終わらせはしない』
シェイパーの、その魂の叫びが、闘技場全体を震わせる。
そして彼は、その星屑でできたローブの、その奥から、もう一体の「自分」を、引きずり出した。
それは、彼と全く同じ姿をした、しかしその全身が、より濃い深淵の闇でできた、完璧な分身だった。
その分身は、本体のように動くことはない。ただ、闘技場の中央に、まるで砲台のように鎮座し、そして一つの行動だけを、機械的に、そして永遠に繰り返し始めた。
極太ビーム、三連魔法弾、そしてヴォラタイルアノマリー。
その、フェーズ1の悪夢が、常に、そしてランダムに、闘技場を蹂躙し続ける。
「おい、分身が出た!常に一人、気をつけろ!」
JOKERの、その絶叫が、混沌の中で響き渡る。
「敵のHPは、残り3割だ!ここで、ラッシュをかけるぞ!」
彼の、その魂の全てを賭けた、最後の号令。
それに、三人の少女たちが、応えた。
そこから始まったのは、もはや戦闘ではなかった。
ただ、純粋な、そしてどこまでも美しい、魂の、爆発だった。
ソフィアが、その完璧な計算を捨てた。彼女は、ただひたすらに、分身が放つ死の弾幕を、その神がかった回避能力だけでいなし続ける。
「ここは、わたくしに、お任せを!」
小鈴が、その絶対的な防御を捨てた。彼女は、その金剛の肉体を盾として、シェイパー本体の、その猛攻を、ただ一身に受け止め続けた。
「――喝ッ!」
そして、アリス。
彼女は、その「命」すらも、捨てた。
彼女は、笑っていた。最高の、そして最も狂気的な笑みを浮かべて、ただひたすらに、死に、そして蘇り、その復活の無敵時間を利用して、シェイパーの、その懐へと、特攻を仕掛け続けた。
「JOKER先輩!今ですわ!」
その、三人の天才たちが、その命と、誇りと、そして魂の全てを賭けて作り出した、ほんの、ほんのわずかな、コンマ数秒の隙間。
それこそが、JOKERが待ち望んでいた、最高の、そして唯一の「勝ち筋」だった。
「――終わりだああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
彼の、その黄金の拳が、シェイパーの、その絶望に満ちた、心臓を、確かに、そして完全に、貫いた。
◇
ズッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
これまでとは、比較にならない凄まじい破壊音。
シェイパーの、その星屑の肉体を形成していた魔力の奔流が、制御を失い、内側から暴走を始める。
彼の、そのローブが、内側からの光によって、ひび割れていく。
そして、その亀裂の隙間から、漏れ出したのは、深淵の闇ではなかった。
一つの、どこまでも穏やかで、そしてどこまでも気高い、創造主の、魂の光だった。
彼は、その最後の瞬間に、その呪いから、解放されたのかもしれない。
彼の、その巨大な体は、ゆっくりとその場に崩れ落ち、そして満足げな光の粒子となって、消滅していった。
静寂。
後に残されたのは、絶対的な静寂と、そしてその中心で、おびただしい数のドロップ品の光に照らされながら、その場に倒れ込む、四人の、英雄たちの姿だけだった。
JOKERは、疲労困憊のまま、その場に座り込む。
彼の、その荒い息遣いだけが、マイクを通じて、世界の、数千万人の視聴者の元へと、届けられていた。
そして、その静寂を破ったのは、四人の、同時に、そして心の底から絞り出された、歓喜の絶叫だった。
「「「「終わったー!!!!」」」」
その声援に、JOKERは、ただ静かに頷くと、ボスがドロップした報酬の中から、ひときわ強い輝きを放つ、二つのアイテムを、拾い上げた。
一つは、石板の欠片。【知識の断片】。
そして、もう一つ。
それは、深紅の、美しいフラスコだった。
死にゆく太陽
ルビーフラスコ
フラスコ
8秒間持続
使用時に50中20チャージを消費
現在50チャージ
火耐性の最大値 +5%
火耐性 +40%
要求 レベル 68
持続時間が60%低下する
使用に必要なチャージ量が150%増加する
効果中は効果範囲が20%増加する
効果中はスキルが投射物を追加で2個放つ
フレバーテキスト:万物は死なねばならない。
燃え尽きるか爆発するかは其方次第だ。
その日、世界の探索者たちは、本当の「最強」の意味を、その目に焼き付けることになった。
それは、レベルでも、装備でも、そしてユニークスキルでもない。
ただ、仲間を信じる心。
それこそが、神々の理不尽すらも、乗り越える、唯一の力なのだと。




