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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
4つ目の持たざる者編

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488/491

第470話

 その日の世界の空気は、一つの巨大な「問い」を巡って、静かな、しかしどこまでも深い熱気に包まれていた。

【四天王集結、アトラスの守護者たち】。

 JOKER、アリス、そして小鈴。三人の天才が、それぞれ自らのガーディアンを打ち破り、その証であるフラグメントを手に入れた。

 残るは、一人。

 ヴァルキリー・キャピタルの白き剣、ソフィア・リード。

 彼女が、いつ、その沈黙を破るのか。世界の、全ての視線が、その一点へと注がれていた。

 そして、小鈴がフェニックスを討伐した、まさにその数時間後。

 世界は、その「答え」を、目の当たりにすることとなる。


【配信タイトル:【アトラスガーディアン】ミノタウロス、狩りの時間ですわ】

【配信者:ソフィア・リード@Valkyrie Capital】


 JOKERの配信画面には、そのあまりにも優雅な、そしてどこまでも挑戦的なサムネイルが映し出され、神々の観戦席に座る三人の怪物は、その最後の挑戦者の、その初陣を、固唾を飲んで見守っていた。


 ◇


「皆さん、ごきげんよう。ソフィア・リードですわ」

 ソフィアの声は、いつも通り、静かで、そしてどこまでも気高かった。

 彼女のARウィンドウには、巨大な迷宮が描かれたマップが表示されている。

【ミノタウロスの迷宮】。

「アリス様、小鈴様。見事な戦いでしたわ。わたくしも、お二人に遅れを取るわけには、まいりませんわね」

 その、あまりにも穏やかな、しかしどこまでも競争心を煽る一言。

 それに、コメント欄は「頑張って!」「ソフィア様なら、余裕ですわ!」「待ってました!」といった、熱狂的な応援の言葉で埋め尽くされていた。


 彼女は、その声援を背に、自らの楽園諸島のマップデバイスに、その神々の領域への鍵を、捧げた。

 開かれたポータルは、どこまでも深く、そしてどこまでも土と、鉄の匂いがする、暗黒の渦だった。

 彼女が、その中へと飛び込んだ先。

 ミノタウロスマップは、洞窟だった。

 それは、古代の、巨大な地下迷宮。壁も、床も、天井も、全てが人の手によって掘られた、無骨な岩肌が、剥き出しになっていた。

「…ふむ。随分と、野蛮な内装ですわね」

 ソフィアは、その美しい顔を、わずかに歪ませた。

 だが、彼女は歩みを止めない。

 彼女は、その闇の奥深くへと、洞窟を進んでいく。

 そして、数十分後。

 彼女は、ついに、その場所へと到達する。


 そこは、ひときわ巨大な、円形の闘技場だった。

 闘技場の壁には、無数の、巨大な獣の骸骨が飾られ、その中央には、血で黒ずんだ、巨大な石の玉座が鎮座していた。

 そして、その玉座に、それはいた。

 斧を持ってる敵が待ってる。

 身長は、5メートルを超えているだろうか。その全身は、鋼鉄のような黒い毛で覆われ、その筋肉は、まるで鎧のように、隆起していた。そして、その手に握られているのは、彼の身長ほどもある、両刃の巨大な戦斧。

【ミノタウロスの守護者、アステリオス】。

 その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも暴力的な存在感。


「あらあら」

 ソフィアは、その絶望的な光景を前にして、しかし不敵に笑った。

 その声は、どこまでも、楽しそうだった。

「随分と、可愛らしいペットですこと」


 戦闘開始。

 アステリオスが、その牛の鼻から、荒々しい息を吐き出した。

 そして、その巨体を揺らし、一直線に、ソフィアへと突撃してきた。

 戦斧が、風を切り裂き、唸りを上げる。

 だが、その、山をも砕くかのような一撃は、空を切った。

 ソフィアの体は、まるで幻影のように、その攻撃を、華麗に避けていた。

 そして、その回避の、ほんのわずかな隙間。

 彼女の、その華奢な、しかし神の力を宿した拳が、ミノタウロスの、その無防備な脇腹へと、閃光のように叩き込まれる。

 スマイト、スマイトする。

 黄金の雷霆が、炸裂する。

「グオッ!?」

 ミノタウロスの、その巨体が、初めて、苦痛の声を上げた。

 だが、そのダメージは、浅い。

 ソフィアは、その手応えに、その美しい眉を、わずかにひそめた。

 そして、彼女は、その唇から、どこまでも優雅な、しかしどこまでも残酷な、挑発の言葉を、紡ぎ出した。


「あらあら、これだけですの?すぐ倒しちゃいますわよ?」


 その一言が、引き金となった。

 ミノタウロスの、その獣の瞳が、憎悪の赤い光で、燃え上がった。

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 ミノタウロスは、新たな攻撃を仕掛ける。

 彼は、その巨大な戦斧を、闘技場の床へと、力任せに叩きつけた。

 轟音。

 そして、地響き。

 それは、洞窟全体を攻撃して、落石攻撃を仕掛けてくる。

 天井から、おびただしい数の、巨大な岩石が、雨のように、ソフィアへと降り注いだ。


「…それは、ちょっとまずいですわね…!」

 ソフィアの、その冷静だったはずの声に、初めて、明確な焦りの色が浮かんだ。

 落石攻撃を避けながら、斧攻撃も避ける。両方しなきゃならない。キツイですわね。

 彼女は、その死の雨の中を、そしてミノタウロスの、その追撃の斧の嵐の中を、必死に、そして無様に、転がり続けた。

 その、あまりにも一方的な光景。

 それに、神々の観戦席にいた、湊が、悲鳴に近い声を上げた。

「危ない!ソフィアさん!」


 そして、その戦況は、さらに、絶望的なものへと変わっていく。

 落石をぶん投げてくるミノタウロス。

 彼は、その足元に転がっていた、巨大な岩石を、その怪力で掴み上げると、まるでボールのように、ソフィアへと投げつけた。

「…っ!」

 スマイトで迎撃するが、落石の破片で、視界が遮られる。

 砕け散った岩石の、その粉塵。

 それが、彼女の視界を、一瞬だけ、完全に奪った。

「まずい!」

 避け…!!

 彼女の、その戦士としての本能が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。

 だが、もう遅い。

 ミノタウロスの一撃が、クリーンヒット。

 彼の、その巨大な戦斧が、ソフィアの、その無防備な胴体を、完璧に捉えた。

 彼女の、その華奢な体は、まるで紙切れのように、壁まで吹き飛ぶ。


『ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』

 悲鳴を上げるコメント欄。

 誰もが、その絶望的な光景に、彼女の死を、確信した。

 だが。

 壁に叩きつけられ、土煙の中に沈んだはずの、その場所から。

 一つの、どこまでも冷静な、そしてどこまでも気高い声が、響き渡った。


「――ふぅ」

 土煙が、晴れる。

 そこに立っていたのは、その純白のドレスに、わずかな土埃を付けただけで、しかし傷一つない、ソフィア・リードの姿だった。

 しかし、一撃を貰う時に、相手の攻撃にスマイトで迎撃しており、ノーダメージ。

 彼女の、その拳と、そしてミノタウロスの戦斧が激突した、そのコンマ数秒の瞬間に。

 彼女は、そのドレスの埃を、優雅に払いながら、その美しい顔に、最高の、そして最も無慈悲な笑みを浮かべて、言った。


「ふー、まともに食らうと、死にますね。しかし、のろまですから、無理ですわよ?」


 その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも残酷な、挑発。

 それに、ミノタウロスの、その獣の理性が、完全に焼き切れた。

「グルオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 ミノタウロスは、怒り、突撃する。

 だが、その、あまりにも直線的で、そしてどこまでも単純な攻撃。

 それを、ソフィアは、待っていた。

 彼女は、その頭上から降り注ぐ、巨大な岩石の一つを、そのスマイトの拳で、横薙ぎに殴りつけた、スマイトで落石をぶん殴り、ミノタウロスにぶつける。


「お返しですわ」

 黄金の雷霆を纏った岩石が、砲弾となって、ミノタウロスの、その巨大な顔面に、直撃する。

「グギャッ!?」

 ミノタウロスの、その巨体が、初めて、よろめいた。

 だが、ソフィアの、その無慈悲な「遊戯」は、まだ終わりではなかった。


「ほらほら、今度は貴方が、対応する番ですわよ?」

 彼女は、その場から一歩も動かない。

 ただ、その頭上から降り注ぐ、無限の弾丸を、そのスマイトの拳で、次々と、ミノタウロスへと打ち返していく。

 落石を、スマイト攻撃で、吹き飛ばし、ミノタウロスにぶつける。

 それは、もはや戦闘ではなかった。

 ただ、一人の天才が、そのあまりにも巨大な「壁」を相手に、一人だけの、壁打ちテニスを楽しんでいるかのような、あまりにも滑稽で、そしてどこまでも残酷な光景だった。

 ミノタウロスは、何も出来ずに、倒される。

 やがて、その巨体は、自らが降らせたはずの、無数の岩石の墓標の下に、完全に沈黙した。


「ふー。落石攻撃が、マイナス行動でしたね。力尽くのほうが、よろしかったですのに」

 ソフィアは、その完璧な勝利に、しかしどこか退屈そうに、そう呟いた。

 そして、その彼女の足元に、一つの、小さな、しかしひときわ強い輝きを放つ、ドロップ品が、静かに、その姿を現した。

 それは、ミノタウロスの、その角の一片のようだった。

【ミノタウロスのフラグメント】。

 彼女の、そのあまりにも気高い挑戦は、終わった。

 そして、世界の、本当の戦いは、これから始まろうとしていた。

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