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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
4つ目の持たざる者編

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486/491

第468話

 その日の世界の空気は、一つの巨大な「祭り」の熱狂に、完全に支配されていた。

【四天王集結、アトラスの守護者たち】。

 JOKERが、そのあまりにも唐突な、そしてどこまでも挑戦的な「招待状」を、世界の頂点に立つ三人の少女たちへと送った、あの日から数日。

 SeekerNetの掲示板は、連日その話題で持ちきりだった。

 誰が、最初に、己が担当するガーディアンのマップを見つけ出すのか。

 そして、誰が、最初に、その未知なる試練を乗り越えるのか。

 世界の、数千万の視線が、四人の天才たちの、その次なる一手に注がれていた。

 そして、その沈黙を最初に破ったのは、やはり、あの最も自由で、そして最も予測不能な、オーディンの不死鳥だった。


 ◇



【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1175】


 1: 名無しの実況民A

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 始まるぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 アリスちゃんが、見つけたらしいぞ!!!!!!!!!!!!!!!

 最初の、ガーディアンマップを!!!!!!!!!!!!!!!!


 2: 名無しのゲーマー


 1

 乙!

 マジかよ!一番乗りは、アリスちゃんか!

 さすが、持ってる女は違うな!


 3: 名無しのビルド考察家


 2

 一体、どのガーディアンだ…?ミノタウロスか?フェニックスか?

 いや、彼女の猪突猛進なスタイルを考えれば、あるいは…。


 その、あまりにも巨大な期待。

 それに、答えるかのように。

 午後9時きっかり。

 二つの、あまりにも見慣れた配信が、同時に始まった。


【配信タイトル:【アトラスガーディアン】ヒュドラさん、見つけましたわ!【レース一番乗り!】】

【配信者:アリス@オーディン】


【配信タイトル:【神々の観戦席】不死鳥vs多頭蛇、高みの見物】

【配信者:JOKER】


 JOKERの配信画面には、アリスの、そのやる気に満ち溢れたサムネイルが大きく映し出され、そのワイプの中で、JOKER、ソフィア、そして湊が、どこか楽しそうに、その歴史的瞬間の始まりを待っていた。


「よう、お前ら。見ての通り、今夜は観戦モードだ」

 JOKERの声が、1200万を超える観客の鼓膜を揺らす。

「四天王レース、最初の走者は、あのお転婆娘、アリスだ。さて、どんなショーを見せてくれるかな」

 その、あまりにも楽しそうな声。

 それが、この血と、氷と、そして不屈の魂の物語の、始まりの合図だった。


 ◇


「皆さん、こんばんはー!アリスですわ!」

 アリスは、その大きなサファイアのような青い瞳を、闘志の炎で燃え上がらせていた。

 彼女のARウィンドウには、一枚の、禍々しい紋様が刻まれたマップが表示されている。

【ヒュドラの巣窟】。

「やりましたわ!ついに、見つけました!JOKER先輩、小鈴さん、ソフィアさん!お先に、行かせていただきますわよ!」

 その、あまりにも無邪気な、そしてどこまでも挑戦的な、勝利宣言。

 それに、コメント欄は「頑張って!」「アリスちゃんなら、やれる!」「一番乗り、おめでとう!」といった、温かい応援の言葉で埋め尽くされていた。


 彼女は、その声援を背に、自らの楽園諸島のマップデバイスに、その神々の領域への鍵を、捧げた。

 開かれたポータルは、どこまでも深く、そしてどこまでも湿った、緑色の渦だった。

 彼女が、その中へと飛び込んだ先。

 ヒュドラマップは、下水道だった。

 それは、かつて月ノ宮(つきのみや)るりが伝説を創り上げた、あの【忘れられた下水道】を、さらに巨大に、そしてさらに禍々しくしたかのような、古代の、巨大な地下水路。

「…うぅ。少し、ジメジメしますわね」

 アリスは、その美しい顔を、わずかに歪ませた。

 だが、彼女は歩みを止めない。

 彼女は、その闇の奥深くへと、下水道を進んでいく。

 そして、数十分後。

 彼女は、ついに、その場所へと到達する。


 そこは、ひときわ巨大な、円形の空間だった。

 天井からは、滝のように汚水が流れ落ち、その水しぶきが、不気味な緑色の燐光を放つ苔を、妖しく照らし出している。

 そして、その空間の、中央。

 それは、いた。

 弓矢を携えた敵が、待ってる。

 身長は、3メートルほど。その下半身は、巨大な蛇。だが、その上半身は、驚くほどに引き締まった、人間の女性のものだった。その肌は、青白い鱗に覆われ、その背中からは、まるで孔雀の羽のように、無数の、蛇の頭が生えていた。そして、その手に握られているのは、彼女の身長ほどもある、珊瑚と骨でできた、巨大な弓。

【ヒュドラの守護者、リリス】。

 その、あまりにも美しく、そしてどこまでも冒涜的な姿。

 そして、アリスが、本当に驚愕したのは、そのボスの姿ではなかった。

 横には、大砲が、大量にある。

 その、円形の闘技場を囲むようにして、数十門の、古代の遺跡から発掘されたかのような、禍々しい紋様が刻まれた、石造りの大砲が、静かに、そして確かに、その砲門を、彼女ただ一人へと向けていた。


「なるほど、こういうタイプですの。…行きましょう!」

 アリスは、その絶望的な光景を前にして、しかし不敵に笑った。

 彼女は、その手に、黄金の雷霆を纏った。

 そして、一直線に、そのヒュドラの守護者へと、突撃していった。

 その、あまりにも無謀な突撃。

 それに、コメント欄が、加速する。


『いけえええええええええええ!』

『アリスちゃん!突撃!突撃!』


 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 アリスの突撃と、ほぼ同時に。

 闘技場を囲む、数十門の大砲が、火を噴いた。

 だが、放たれたのは、炎ではない。

 大砲から、冷気属性の氷玉が、交互に出てきてる。

 それは、絶対零度の、氷の弾丸。

 闘技場の床を、まるでビリヤードの玉のように、不規則に反射しながら、アリスへと殺到する。

 そして、弓矢で攻撃を仕掛けてくる。

 ヒュドラの守護者、リリスもまた、その神速の弓捌きで、無数の、追尾性能を持つ氷の矢を、雨のように放ってきた。

 上から、下から、そして横から。

 その、あまりにも理不尽な、全方位からの弾幕。

「きゃっ!」

 アリスは、その死の弾幕の中を、踊るように駆け抜ける。

 立ち位置を常に考えなければ、凍結してしまう。いやらしいギミックだ。


「…ほう。面白い」

 神々の観戦席で、JOKERが、その瞳を細めた。

「ただのボス戦じゃねえ。弾幕シューティングか。あのお転婆娘に、捌ききれるか?」

 その、JOKERの問いに、答えるかのように。

 アリスは、その弾幕の、ほんのわずかな隙間を、完璧に見切り、そしてついに、ヒュドラの懐へと、潜り込んだ。

 接近戦を仕掛け、スマイトを一撃入れる。

「オラッ!」

 黄金の雷霆が、炸裂する。

 だが、その彼女の拳が、ヒュドラの、その青白い鱗に触れた、その瞬間だった。

 弓矢で遠くを攻撃したと思うと、そこにワープしてしまう。

 ヒュドラは、闘技場の、対極にある壁際へと、一本の矢を放ち、そしてその矢が着弾するのと同時に、その姿を、そこへと転移させていた。


「うわー!なんて事ですの!死ぬ気で接近したのに、また初めから!?」

 と絶叫するアリス。

 その、あまりにも無慈悲な、そしてどこまでも心を折りに来る、ヒットアンドアウェイ戦法。

 それに、アリスは、その美しい顔を、これ以上ないほど、悔しさに歪ませた。

 だが、彼女は諦めない。

 **再び大砲の氷玉を避けながら、接近戦を仕掛けてスマイトする。これを複数回繰り返し、**そしてついに、彼女は、その無敵だったはずの戦術の、一つの「綻び」を、見つけ出した。

 彼女は、あえて、その氷玉の一つを、その身に受けた。

 HPが、3割、消し飛ぶ。

 だが、その代償として。

 彼女は、その被弾の硬直を、スマイトの、次なる一撃の、完璧な「起点」へと、変えてみせたのだ。

 そして、彼女は、その傷ついた体で、しかしこれまでで最も速く、そして最も力強い一撃を、再びヒュドラの、その懐へと、叩き込んだ。

 そして、ヒュドラが、ワープする、そのコンマ数秒前。

 彼女は、その耳につけた通信機に、その全ての魂を込めて、叫んだ。

「JOKER先輩!見ましたか、今の!これですわ!」


 その、あまりにも誇らしげな、そしてどこまでも弟子らしい、叫び。

 それに、JOKERは、最高の、そしてどこまでも満足げな笑みを浮かべて、答えた。

「ああ。見てたぜ。最高の、一撃だった」


 その、師弟の、あまりにも温かい、そしてどこまでも美しい、魂の交感。

 それに、神々の観戦席にいた、ソフィアと湊もまた、その息を呑んでいた。

 そして、彼らは理解した。

 このレースの、本当の面白さを。

 それは、ただのタイムアタックではない。

 それぞれの、天才たちが、それぞれのやり方で、その魂を、成長させていく、物語なのだと。


 戦いは、続いた。

 アリスは、その後も、何度も、何度も、その命を散らし、そして蘇り、その度に、ヒュドラのHPを、確実に削り取っていった。

 そして、ついにその時は来た。

 彼女の、その不屈の猛攻の前に、ヒュドラの、その美しい鱗が、ひび割れ、そしてその神々の領域の力が、尽きようとしていた。

 アリスは、その最後の、そして全てを終わらせるための一撃を、その黄金の拳に込めた。

 そして、彼女は叫んだ。

「――これで、おしまいですわ!」


 黄金の雷霆が、炸裂する。

 ヒュドラの守護者は、その美しい顔に、初めて、満足げな笑みを浮かべたかのように見えた。

 そして、彼女は、その存在ごと、この世界から完全に消滅した。

 静寂。

 後に残されたのは、絶対的な静寂と、そしてその中心で、荒い息をつきながら、しかし確かな勝利を噛みしめる、一人の少女の姿だけだった。

 そして、その彼女の足元に、一つの、小さな、しかしひときわ強い輝きを放つ、ドロップ品が、静かに、その姿を現した。

 それは、ヒュドラの、その鱗の一枚のようだった。

 ヒュドラのフラグメント、ゲット!


「…ふぅ。やった、やりましたわ…!」

 アリスは、その場にへたり込んだ。

 だが、その表情は、これ以上ないほどの、達成感に満ち溢れていた。

 彼女は、その勝利の証を、震える指で拾い上げた。

 そして、彼女は呟いた。

 その声は、どこまでも、正直だった。


「…あとこれ、3回ですの…?しんどいですわね…」


 その、あまりにも人間的な、そしてどこまでも可愛らしい、本音。

 それに、コメント欄は、万雷の拍手喝采と、そして温かい笑いに包まれた。

 だが、彼女は、すぐにその顔を上げた。

 その瞳には、再び、不屈の闘志の炎が、宿っていた。


「…でも、負けてられませんわ!」

 彼女の、その力強い宣言。

 それが、このあまりにも長く、そしてどこまでも美しい、レースの、新たな始まりを告げる、号砲となった。

 世界の、本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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