第447話
【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1158】
1: 名無しの湊ウォッチャー
おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
始まったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
朱雀 湊君が、配信始めた!!!!!!!!!!!!!!!
タイトルが、ヤバい!!!!!!!!!!!!!!!!
その、あまりにも切羽詰まった絶叫。
それに、スレッドは一瞬にして、トップスピードへと加速した。
【配信タイトル:【初挑戦】A級下位【星霜の書庫】】
【配信者:朱雀 湊】
【現在の視聴者数:3,128,492人】
『きたあああああああ!』
『A級!?ついに、行くのか!』
『B級ソロクリアから、まだそんなに経ってないだろ!?成長速度、おかしいだろ!』
『待ってたぜ!最高のショーを、見せてくれ!』
その熱狂をBGMに、配信画面に映し出されたのは、冒険者学校の、彼の質素な、しかし綺麗に整頓された学生寮の一室だった。
そして、その中央で、一人の少年が、少しだけ緊張した面持ちで、ARカメラに向かって、深々と頭を下げた。
朱雀 湊。
その、少女と見紛うほど可憐な容姿と、その身に宿す、あまりにも暴力的なまでの力の、アンバランスさ。
それこそが、彼がこの世界の若者たちを、熱狂させる、最大の魅力だった。
「えー…皆さん、こんばんは。朱雀 湊です。今回は、A級下位ダンジョン【星霜の書庫】に、初挑戦します。よろしくお願いします」
彼の、そのあまりにも丁寧な、そしてどこか初々しい挨拶。
それに、コメント欄が、温かい声援で埋め尽くされる。
彼は、その声援に、少しだけはにかみながら、続けた。
「えっと、本当は、今回も配信するつもりじゃなかったんですけど…。この前のB級下位【古竜の寝床】の時、配信しなかったら、色々な方に『なんで配信しないんだ!』って、すごく怒られまして…。なので、今回から、ちゃんと配信することにしました」
その、あまりにも正直な、そしてどこまでも彼らしい理由。
それに、コメント欄が、爆笑の渦に包まれた。
『wwwwwwwwwwww』
『怒られてやんのwww』
『でも、ありがとう!待ってたぜ!』
その、温かい空気の中で。
一つの、あまりにも異質な、そしてどこまでも絶対的な存在感を放つコメントが、投下された。
投稿主は、この世界の、理そのものだった。
JOKER:
見てるぜ。頑張れよ
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
スレッドの、全ての時間が止まったかのような錯覚。
そして、その静寂を破ったのは、湊自身の、素っ頓狂な、そしてどこまでも嬉しそうな、絶叫だった。
「――えっ!?えええええええええええええええ!?!?JOKERさん!?見てるんですか!?いえーい!」
彼は、その場でぴょんぴょんと飛び跳ね、カメラに向かって、満面の笑みでピースサインを決めた。
その、あまりにも無邪気な、そしてどこまでも子供っぽい反応。
それに、コメント欄は、この日一番の、そしてどこまでも温かい、爆笑の渦に、完全に飲み込まれた。
JOKERの、そのたった一言。
それが、この歴史的な一夜の、始まりの合図だった。
◇
彼が、そのA級のゲートをくぐった、その瞬間。
彼の魂に、冷たい、しかしどこまでも馴染み深い枷がはめられたかのような、不快な感覚。
【世界の呪い:全ての属性耐性 -50%】
だが、彼は動じない。
B級の死線を、ソロで乗り越えてきた彼の魂は、すでにその程度の理不尽など、日常の一部として受け入れていた。
ダンジョンの内部は、どこまでも続く、氷と水晶でできた、巨大な図書館だった。
壁も、床も、天井も、全てが万年氷でできており、その表面には、古代の、しかし決して解けることのない霜の結晶が、美しい幾何学模様を描いている。天井からは、水晶でできた巨大なシャンデリアが吊り下がり、内部に宿る魔力の光で、どこまでも続く書架の列を、幻想的に照らし出していた。
その、あまりにも静かで、そしてどこまでも美しい、死の世界。
「えーと、ビルドなんですが、解説しながら進みますね」
湊の、その落ち着いた声が、配信に響き渡る。
彼は、その神々の領域の美しさに、一切の動揺を見せることなく、ただ淡々と、自らの「仕事」を始めた。
彼の前方に、最初の敵が現れた。
それは、古代のローブを纏い、その顔が古文書でできた、異形の司書たちだった。
【古文書の番人】。
彼らは、その紙の指先から、鋭い氷の礫を、嵐のように放ってきた。
「まず、敵に【血の怒り】をアクティブにして、リープスラムで飛び込みます」
湊の体が、赤い闘気のオーラに包まれる。そして彼は、その巨大な両手斧を軽々と担ぎ上げると、まるでバネのように、その場から天高く跳躍した。
そして、敵の軍勢の、そのど真ん中へと、隕石のように着弾する。
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
凄まじい轟音と共に、氷の床が砕け散り、その衝撃波だけで、数体の番人が吹き飛ばされた。
「そして、インティミデーティングクライ、サイズミッククライで、バフします」
彼が、その小さな口を大きく開くと、竜の咆哮をもかき消すほどの、力強い雄叫びが、二度、連続で放たれた。
彼の全身から、赤い闘気のオーラがさらに迸り、彼の足元の大地が、まるで生き物のように脈打ち始める。
「そして、ヴォルカニック・フィッシャーで、仕留める。これが、基本ですね。じゃ、どんどん行きますね」
彼は、そう言うと、その両腕に、狂乱と耐久のチャージを溜め込み、その神々の力を宿した巨大な斧を、大地へと叩きつけた。
そこから始まったのは、もはや戦闘ではなかった。
ただ、一方的な、そしてどこまでも美しい「蹂躙」だった。
大地が、割れる。
そして、その裂け目から、灼熱のマグマの奔流が、まるで火山が噴火するかのように、凄まじい勢いで噴き出した。
氷の図書館が、炎の地獄へと、一瞬で姿を変える。
【古文書の番人】たちは、そのあまりにも理不尽な熱量の前に、悲鳴を上げる間もなく、その紙の体を灰へと変え、そして光の粒子となって消滅していった。
その、あまりにも壮絶な光景。
それに、コメント欄は、もはや意味をなさない絶叫の洪水で、埋め尽くされていた。
『つえー!』
『A級下位なのに、無双じゃねーか!』
『なんだよ、この火力…。B級の頃より、さらに上がってねえか!?』
『これが…これが、日本の至宝か…!』
その熱狂の中心で、湊は、ただ楽しそうに、その蹂躙を、繰り返していく。
リープスラムで飛び込み、クライをして、ヴォルカニック・フィッシャーを放つ。
その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも完成された、死のコンボ。
それに、A級の、あの硬い装甲を誇るクリスタル・ゴーレムたちですら、ただの的でしかなかった。
そして、彼はついに、その場所へとたどり着いた。
図書館の、最深部。
ひときわ巨大な、ドーム状の閲覧室。
その中央に、それはいた。
身長は、5メートルを超えているだろうか。
全身を、黒く磨き上げられた黒曜石の鎧で固めた、巨大な骸骨の騎士。
その手には、燃え盛る炎をその刀身に宿した、巨大な両手剣が握られている。
そして、その空虚な眼窩には、憎悪と、そして冷たい知性の光を宿した二つの赤い鬼火が、不気味に燃え盛っていた。
【禁書の番人、アルベリヒ】。
この、知識の聖域を、永遠に守り続ける、呪われた王。
「はい、という訳で、ボスまで到達しました」
湊の、そのあまりにも落ち着き払った声。
「じゃあ、こいつもサクサク倒しましょう。えー、事前情報では、呪いということなので、呪いを当たらないように、リープスラムで撹乱します」
その、あまりにも冷静な、そしてどこまでも的確な、ブリーフィング。
それに、コメント欄が、熱狂した。
『うおおおおお!ボス戦だ!』
『サクサクwww湊君、余裕すぎるだろwww』
戦いの火蓋は、切って落とされた。
アルベリヒが、その巨大な両手剣を、天へと掲げる。
その切っ先から、おびただしい数の、紫色の呪いの弾丸が、雨のように、湊へと降り注いだ。
だが、その全てが、空を切る。
湊の体は、もはやそこにはなかった。
彼は、そのリープスラムの、神速の跳躍で、その死の弾幕を、まるでダンスを踊るかのように、華麗に、そして優雅に、すり抜けていく。
そして、彼はその嵐の、その中心へと、完璧なタイミングで、着弾した。
そして、クライをして、ヴォルカニック・フィッシャーを、ぶち込む。
「――バカナ!」
アルベリヒの、その空虚な顎から、初めて、苦痛と、そして驚愕の絶叫が漏れた。
その、あまりにも人間的な、そしてどこまでも滑稽な反応。
それに、湊は、その美しい顔に、最高の、そして最も無慈悲な笑みを浮かべて、答えた。
「はいはい、そういうのは良いから、早く倒されて下さいね」
その、あまりにも鬼畜な、そしてどこまでも彼らしい一言。
それに、コメント欄が、爆笑の渦に包まれた。
『朱雀君、鬼畜wwwww』
『ドSだ、こいつ!』
『でも、そこがいい!』
黄金の、雷霆ならぬ、灼熱のマグマ。
それが、アルベリヒの、その黒曜石の鎧を、内側から、完全に粉砕した。
ワンパンだった。
王は、消滅する。
その巨体は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅した。
後に残されたのは、絶対的な静寂と、そしてその中心で、おびただしい数のドロップ品の山を前にして、その勝利の余韻に浸る、一人の少年の姿だけだった。
「――やったー!A級、突破です!」
彼の、その子供のように無邪気な、そしてどこまでも誇らしげな、歓喜の絶叫。
それに、コメント欄は、万雷の拍手喝采で応えた。
『おめでとう!』『最高のショーだった!』
その、温かい祝福の嵐。
その中で、湊は、ふと、その表情を、曇らせた。
彼は、自らのARウィンドウに表示された、新たなクエストの通知を、その大きな瞳で、ただじっと、見つめていた。
そして、彼は、その日の配信を、最後の、そして最も重いため息と共に、締めくくった。
「えー…次は、皇帝の迷宮です。…行きたくないけど、仕方がないので、行きます。お楽しみに…」
その、あまりにも人間的な、そしてどこまでも正直な、魂の叫び。
それが、この歴史的な一夜の、最高の、そして最も愛すべき、結末となった。




