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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
S級下位編

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463/491

第446話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、もはや日常の全てを放棄していた。

 仕事も、学業も、そして睡眠すらも。世界の、数千万に及ぶ探索者たちの視線は、一つの、あまりにも巨大な「事件」の余韻に、完全に支配されていた。

 神崎隼人――“JOKER”。

 この世界の理そのものを、その身一つで蹂躙し続けてきた絶対的な王者が、S級ダンジョンでアーティファクトをドロップし、そして、全世界が見守る生配信の真っ只中で、完璧な美少女へとその姿を変えた。

 その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも美しい「神話」の誕生。

 それは、世界の探索者たちに、絶望ではなく、むしろ一つの奇妙な、そしてどこまでも熱狂的な興奮をもたらしていた。

 神が、初めて見せた、あまりにも人間的な「遊び心」。

 その全てが、この停滞しかけていた世界に、新たな、そして最高のエンターテイメントを、提供したのだ。


【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1155】


 1: 名無しのJOKERウォッチャー

 スレ立て乙。

 …はぁ。

 まだ、心臓がバクバクしてる。

 昨日のJOKERちゃんのアーカイブ、もう20回は見直しちまったよ。

 あの、雫さんの前でガチ照れしてたシーン。

 人類の宝だろ、あれは。


 2: 名無しのゲーマー


 1

 乙。

 分かる。めちゃくちゃ分かるぞ。

 俺、あのシーンだけで白飯三杯は食える。

 まさか、あのJOKERに、あんな可愛い一面があったなんてな…。

 完全に、新しい扉が開かれた瞬間だった。


 3: 名無しのA級(お忍び)


 2

 ああ。

 だが、俺が驚いたのはそこじゃない。

 変身後の、S級ダンジョンでの戦闘だ。

 腕のサイズが変わった、と言いながらも、その動きには一切のブレがなかった。

 むしろ、そのしなやかさが増した分、より洗練されていたようにすら見えた。

 恐ろしい男だ。いや、女か。

 もはや、性別など、あの男の前では些細な問題でしかないのかもしれんな。


 4: 名無しのVファン


 3

 でも、やっぱり一番は、雫さんとのやり取りですよね!

 あの、完璧なまでの「てぇてぇ」空間!

 見てるこっちが、砂糖吐きそうになりましたもん!

 JOKERちゃん、絶対雫さんのこと好きでしょ!


 5: 名無しの週末冒険者


 4

 おいおい、お前ら。

 少し、落ち着けよ。

 確かに、JOKERちゃんの可愛さは、世界の真理だ。

 だが、もっと重要なことがあるだろうが。

 あの指輪だよ!【アニマとアニムスの円環】!

 あれ、どうすんだ、JOKERは!?


 その、あまりにも的確な、そしてどこまでも本質的な問いかけ。

 それに、それまで和やかな(?)空気に包まれていたスレッドの空気が、一瞬にして、欲望と、打算と、そして純粋な好奇心が入り混じった、熱狂の渦へと叩き込まれた。


 211: 名無しの市場ウォッチャー

 そうだ!

 忘れてた!

 あれ、神話級のアーティファクトだぞ!

 数ヶ月前、中東の石油王が4兆5000億円で落札した、あの化け物アイテムじゃねえか!

 JOKER、あれ売るのか!?売らないのか!?


 212: 名無しのビルド考察家


 211

 いや、待て。

 あの時のオークションは、世界で初めて市場に出たという、ご祝儀相場も含まれていた。

 雫さんの話によれば、S級探索者の間では、比較的ドロップしやすい部類らしい。

 とはいえ、それでも数兆円の価値があることには、変わりないがな。


 213: 名無しの現実主義者


 212

 だよな。

 売れば4兆5000億円だろ?

 いや、少し値下がりして、3兆円だとしても、だ。

 一生、遊んで暮らせる金額だぞ。

 俺なら、即売りだ。


 215: 名無しのゲーマー


 213

 いやいや、お前は分かってねえな。

 あのJOKERだぞ?金なんざ、もはやただの数字でしかないだろ。

 それより、あの「おもちゃ」を手に入れたんだ。

 遊ばないわけが、ねえだろうが。


 218: 名無しの名無し

 でももったいないよな。

 実際一度試してみたいな。

 いや変な意味じゃなくて、試しにね?


 その、あまりにも人間的で、そしてどこまでも正直な、魂の叫び。

 それが、引き金となった。

 スレッドは、もはやお祭り騒ぎではない。

 一つの、巨大な「共感」の渦に、完全に飲み込まれていた。


 221: 名無しの週末冒険者


 218

 それに草。

 いやでもまあ試したいよね。

 男なら、誰だって一度は考えるだろ。

 自分が、もし女だったら、どんな感じなんだろうって。

 それを、完全に、リスクなしで、体験できるんだぞ?

 金じゃ、買えねえ価値があるぜ、あれには。


 225: 名無しのVファン


 221

 分かります!

 逆も、然りですよね!

 私も、もし男の子になれたら、やってみたいこと、たくさんありますもん!

 力仕事を、軽々こなしてみたり、低い声で、イケボ配信してみたり!

 夢が、あります!


 228: 名無しのA級(お忍び)


 225

 ふむ。

 確かに、戦闘以外の面でも、興味深いアーティファクトではあるな。

 潜入調査や、諜報活動においても、その価値は計り知れん。

 性別を変えるだけで、別人として、世界に溶け込むことができるのだからな。


 231: 名無しのハクスラ廃人

 チッ。

 くだらねえ。

 そんな、ままごと遊びみてえなことに、興味はねえ。

 だがな…。

 まあ、俺が女になったら、どんなビルドを組むか。

 それだけは、少しだけ、考えてみてもいいかもしれん。


 その、あまりにもツンデレな、しかしどこまでもハクスラ廃人らしい一言。

 それに、スレッドは、この日一番の、温かい笑いに包まれた。

 そして、その和やかな空気の中で。

 一人の、情報通を自称するユーザーが、一つの、あまりにも衝撃的な「新情報」を、投下した。


 355: 名無しのギルド内部情報通

 …おい、お前ら。

 盛り上がってるところ悪いが、一つ、面白い話を教えてやろうか。

 アニマとアニムスの円環が、実際あまり巷に出回らないのは、JOKERが言ってたように、収集家がいるらしいぞ。

 それも、ただのコレクターじゃねえ。

 世界の、トップクラスの富豪や、好事家たちだ。


 356: 名無しのゲーマー


 355

 ほう?

 なんで、そんな奴らが?


 358: 名無しのギルド内部情報通


 356

 ここからが、本題だ。

 これは、俺がギルドの鑑定部門の友人に、最高級の酒を何本もおごって、ようやく聞き出した、トップシークレットの情報なんだがな…。

 震えんなよ。

 アニマとアニムスの円環って、個体によって変化する性のタイプが違うらしい。


 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 スレッドの、全ての時間が止まったかのような錯覚。

 そして、その静寂を破ったのは、一人の、あまりにも素直な、魂の絶叫だった。


『――マジ?』


 その一言が、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。


『は!?』

『タイプが違う!?どういうことだ!?』

『おい、詳しく教えろ!』


 その、あまりにも熱狂的な問いかけ。

 それに、情報通は、満足げに、そしてどこまでも優越感に浸った様子で、答えた。


 365: 名無しのギルド内部情報通

 ああ。

 なんでも、その指輪が生成されたダンジョンの特性や、あるいはドロップした瞬間の、世界の魔素の流れみたいな、複雑な要因が絡み合ってな。

 変身後の、大まかな「方向性」が、決まるらしい。

 例えば、炎系のダンジョンでドロップした個体は、情熱的で、グラマラスな美女に。

 氷系のダンジョンなら、クールで、知的な美女に。

 森のダンジョンなら、素朴で、癒やし系の少女に、といった具合だ。

 まあ、あくまで傾向であって、確定ではないらしいがな。

 だから、世界の好事家たちは、自らの「理想の性」を求めて、様々なタイプの円環を、コレクションしてるってわけだ。

 面白いだろ?


 その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでもコレクター心をくすぐる、新情報。

 それに、スレッドは、本当の意味での「爆発」を起こした。

 もはや、それは賞賛ではない。

 一つの、世界の理そのものが、自分たちの想像を、遥かに超えて、面白く、そして奥深かったという事実に対する、畏敬の念だった。

 そして、その熱狂の、まさにその頂点で。

 一人の、天才的な発想力を持つゲーマーが、その究極の、そしてどこまでも不謹慎な「仮説」を、投下した。


 388: 名無しのビルド考察家

 …待て。

 待て待て待て待て待て。

 じゃあ、JOKERが、あのクールビューティーに変身したのは、彼がドロップしたのが、S級の、あの無機質で、どこか冷たい【ゴブリンの要塞(ようさい)、ガンドール】だったから…?

 だとしたら、もし、彼がもっと別の、例えば、S級の、もっとこう…ファンシーなダンジョンで、これを拾っていたとしたら…?

 じゃあ、JOKERがクールビューティーに変身じゃなくて、こじんまりしたロリに変化するパターンもあったって事か?


 静寂。

 そして、爆発。


『は!?』

『ロリJOKER!?!?』

『なんだよ、それ!見てえ!見てえぞ!』


 401: 名無しの名無し

 ロリのJOKER想像つかねぇ!


 その、あまりにも冒涜的で、そしてどこまでも魅力的な、もう一つの「IF」の世界線。

 それに、スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。

 誰もが、そのあり得たかもしれない、もう一人の「JOKERちゃん」の姿を、それぞれの心に、描き始めていた。


 415: 名無しのVファン

(JOKERの、あの鋭い切れ長の瞳だけを切り抜いて、ナロウライブの、幼女系VTuberのアバターにコラージュした、クソコラ画像)

 こんな感じか?


 421: 名無しのゲーマー


 415

 やめろwwwwwwwwwwwwwwwwww

 でも、ちょっと見てみてえwwwwwwwwwwwwwww


 425: ハクスラ廃人

 …チッ。

 くだらねえ。

 だが、まあ…。

 もし、ロリJOKERが、あのスマイト徒手空拳ビルドで、「オラオラオラオラ!」とか言いながら、S級のボスを蹂躙するんだとしたら…。

 それは、それで、一つの芸術かもしれんな。


 その、あまりにも的確な、そしてどこまでも歪んだ、ハクスラ廃人の一言。

 それが、この歴史的な一夜の、全てを物語っていた。

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