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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
深淵の騎士、アルトリウス編

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444/491

第427話

 “ブレイド・ダンサー“エッジ”の衝撃的な敗北から数日間。世界の探索者たちの熱狂は、一時的な沈黙へと変わっていた。SeekerNetの攻略スレッドは、日夜アルトリウスの攻撃パターンを分析する書き込みで溢れかえっていたが、そのどれもが机上の空論に過ぎなかった。誰もが理解していたのだ。この神話級の怪物に、一個人の力で挑むのは、もはやただの自殺行為であると。

 世界の視線は、自然と、この星で最も強大な力を持つ者たちへと注がれていた。

 世界の頂点に君臨する、巨大なギルドたち。

 彼らは、この世界の新たな「理」に、どう答えるのか。

 その沈黙は、嵐の前の静けさだった。


 ◇


 挑戦者、その一:北欧の神々【オーディン】


 最初に動いたのは、やはり北欧の神々だった。

 ギルド【オーディン】。その名は、絶対的な力と、揺るぎない誇りの同義語。

 彼らは、ギルドの公式X(旧Twitter)アカウントを通じて、全世界にその挑戦を宣言した。


 ギルド【オーディン】日本支部公式 @Odin_Guild_JP

「沈黙は、終わりだ。ヴァルハラの戦士たちは、常に最高の試練を求めている。今宵、我らが主神オーディンの名の下に、あの深淵の騎士へと挑む。世界の頂は、常に我々のためにある。その証明を、見届けよ」

 #リフト戦争 #オーディン


 その、あまりにも傲慢な、そしてどこまでも力強い宣戦布告。

 それに、世界は熱狂した。


【配信タイトル:【神々の戦鎚】ヴァルハラによる、深淵の浄化】


 配信が始まると、そこに映し出されていたのは、オーディンが誇る、まさに「ドリームチーム」だった。

 先頭に立つのは、SS級“ラグナル”。その巨躯には、B級ダンジョンでドロップした神話級のプレートアーマーが輝き、その手には、雷を纏う巨大な戦鎚が握られている。

 その両脇を固めるのは、A級上位の中でも最強と謳われる、双子のバーサーカーと、百発百中の腕を誇るエルフの射手。そして、その後方には、ヴァルハラの守護神とまで呼ばれる、伝説的なヒーラーが静かに佇んでいた。

 彼らの戦略は、シンプルだった。

 圧倒的なまでの、暴力。


「――行くぞ」


 ラグナルの、その短い号令と共に。

 彼らは、神々の闘技場へと、その歩みを進めた。

 アルトリウスが、姿を現す。

 だが、オーディンの戦士たちは、怯まない。

 ラグナルが、雄叫びを上げた。

「ウォオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 戦鎚が、閃光を放つ。

 彼は、一直線に、アルトリウスへと突撃していった。

 戦いは、始まった。

 それは、あまりにも苛烈で、そしてどこまでも美しい、神々の戦争だった。

 ラグナルの戦鎚が、アルトリウスの大剣と激突するたびに、空間そのものが悲鳴を上げるかのような、凄まじい衝撃波が迸る。

 双子のバーサーカーが、その狂乱の斧で、アルトリウスの死角から嵐のような連撃を叩き込み、エルフの射手が、その動きを予測し、完璧な援護射撃を行う。

 そして、その全ての猛攻を、ヒーラーの、神々しいまでの回復魔法が、支えていた。

 コメント欄は、そのあまりにもハイレベルな攻防に、熱狂した。


『すげえ…!これが、オーディンの実力か!』

『押してる!互角以上に、渡り合ってるぞ!』


 確かに、彼らは押していた。

 アルトリウスの、その禍々しいHPバーが、少しずつ、しかし確実に、削られていく。

 1割、2割…。

 そして、ついに3割を削り切った、その瞬間だった。

 アルトリウスの動きが、変わった。

 彼は、それまでの猛攻をぴたりと止めると、その大剣を、闘技場の石畳へと、深く突き立てた。

 そして、彼はその空虚な眼窩で、ラグナルただ一人を、捉えた。

 ラグナルの、その戦士としての本能が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。

(…来る!)

 だが、もう遅い。

 アルトリウスの、その折れたはずの左腕が、ありえない速度で、ラグナルの、その鎧の隙間へと、突き込まれていた。

 それは、もはや物理的な攻撃ではなかった。

 深淵の、呪いそのもの。

 ラグナルの、その鋼鉄のようだったはずの体が、内側から、紫色の瘴気に蝕まれていく。

「ぐっ…あああああああああああああああああああっ!!!!!」

 SS級の英雄が、初めて、苦痛の絶叫を上げた。

 彼の、その完璧だったはずの動きが、一瞬だけ、止まった。

 その、あまりにも致命的な、一瞬の隙。

 それを見逃すほど、深淵の騎士は、甘くはなかった。

 大剣が、閃光のように煌めく。

 ラグナルの、その神話級のプレートアーマーが、まるでガラス細工のように、粉々に砕け散った。

 オーディンの、そのあまりにも誇り高き誇りは、あまりにもあっけなく、砕け散った。


 ◇


 挑戦者、その二:中華の赤い龍【青龍】


 オーディンの敗北は、世界に衝撃を与えた。

 だが、その衝撃が冷めやらぬうちに。

 東の、巨大な龍が、その重い腰を上げた。


 ギルド【青龍】日本支部公式 @Seiryu_Guild_JP

「ふん。蛮族の、力押しでは、あの深淵は超えられん。我らが、本当の『戦術』というものを見せてやろう」

 #リフト戦争


 彼らが、配信画面に映し出したのは、オーディンとは、あまりにも対照的な光景だった。

 そこにいたのは、たった五人の精鋭ではない。

 その後方、ポータルの入り口付近に、さらに十数名の支援部隊が控えていたのだ。

 彼らは、戦闘には直接参加しない。

 ただ、その手に持つ杖や、巻物を使い、闘技場の外から、前衛の五人へと、ありとあらゆる種類のバフ(強化魔法)を、送り続ける。

 攻撃力上昇、防御力上昇、移動速度上昇…。

 青龍の、その圧倒的な物量と、規律が生み出した、究極のドーピング戦術。

 そして、その強化を一身に受けた前衛の五人は、もはや人間ではなかった。

 一人一人が、歩く要塞。歩く最終兵器と化していた。

 彼らの戦いは、あまりにも、堅実だった。

 タンクが、完璧な挑発でアルトリウスの注意を引きつけ、その猛攻を、三人がかりで受け流し、そして後方の魔術師と射手が、そのわずかな隙に、確実にダメージを叩き込んでいく。

 その、あまりにも美しく、そしてどこまでも計算され尽くした、完璧な連携。

 それに、世界は、再び熱狂した。


『なんだ、これ…!これが、青龍の総力戦か!』

『ずるい!ずるいだろ、これ!でも、強い!』


 彼らは、オーディンが超えられなかった、3割の壁を、あっさりと突破した。

 そして、ついに35%を削り切った、その時。

 アルトリウスの、あの深淵の呪いが、再び牙を剥いた。

 だが、青龍は、それすらも読んでいた。

 呪いを受けたタンクが、即座に後方へと下がり、入れ替わるようにして、もう一人のタンクが、その壁となる。

 完璧な、ローテーション戦術。

 だが、彼らは、まだ気づいていなかった。

 アルトリウスの、その本当の恐ろしさに。

 彼が、その大剣を突き立てたのは、呪いを放つためだけではなかった。

 その剣が突き立てられた、闘技場の石畳。

 その、おびただしい数の亀裂の中から、無数の、黒い、影の手が、這い出てきていたのだ。

 その手は、後方に控えていた、支援部隊の足首を、掴んだ。

「なっ!?」

「うわあああああああああああっ!」

 悲鳴が、上がる。

 支援部隊が、一人、また一人と、その影の中へと、引きずり込まれていく。

 バフが、途切れる。

 その、ほんのわずかな、力の空白。

 それを、アルトリウスが見逃すはずもなかった。

 彼の、その猛攻が、二倍、三倍の速度で、前衛のタンクたちへと、襲いかかった。

 青龍の、その万里の長城のような鉄壁の陣形は、その内側から、あまりにもあっけなく、崩壊した。


 ◇


 最後の希望:日本の月【月詠】


 二つの、巨大なギルドの、あまりにも壮絶な敗北。

 それに、世界の探索者たちは、もはや言葉を失っていた。

 誰もが、思った。

 もう、終わりだと。

 人類に、あの怪物を倒すことは、不可能なのだと。

 その、あまりにも重く、そしてどこまでも絶望的な空気。

 その中で、日本の、一つの小さなギルドが、静かに、その挑戦の名乗りを上げた。


 ギルド【月詠(つくよみ)】公式 @Tsukuyomi_Guild_JP

「我々は、最強ではない。だが、誰よりも、諦めが悪い」

 #月詠 #挑戦


 彼らの、そのあまりにも無謀な、そしてどこまでも気高い挑戦。

 それを、世界の誰もが、祈るような気持ちで、見守っていた。

 彼らの戦いは、オーディンのような暴力でも、青龍のような物量でもなかった。

 それは、一つの、完璧な「舞踏」だった。

 タンクが、アルトリウスの攻撃を、その盾で受け流す。

 その、コンマ数秒の隙間。

 二人の、盗賊が、その影の中から現れ、その背中に、毒の刃を突き立てる。

 そして、ヒーラーが、その全てを、完璧なタイミングの回復と、浄化の魔法で、支え続ける。

 彼らのHPバーは、常に、ジェットコースターのように乱高下していた。

 だが、決して、ゼロにはならない。

 その、あまりにも神がかった、そしてどこまでも人間的な、チームワーク。

 それに、世界は、心を奪われていた。


 そして、彼らはついに、その場所へとたどり着いた。

 世界の、誰もが到達できなかった、あの絶望の領域。

 アルトリウスのHPが、ついに4割削られ、残り6割となった、その瞬間。

 誰もが、その歴史的な瞬間に、歓喜の声を上げた。

 だが、その歓喜は、次の瞬間、絶望の悲鳴へと変わった。

 アルトリウスが、咆哮を上げた。

 彼の、その折れていたはずの左腕が、深淵の闇を纏い、新たな「剣」として、その姿を現したのだ。

 二刀流。

 これまでとは比較にならない速度と手数で襲いかかり、完璧だったはずの月詠の連携を粉砕。パーティは全滅する。


 この**「4割の壁」**は、世界のトップランカーたちに、絶対的な絶望を与える。

 その、あまりにも無慈悲な、そしてどこまでも美しい、敗北の記録。

 それが、この世界の、新たな「常識」となった、その瞬間だった。



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