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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
幽世の祭壇編

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426/491

第410話

 その日の世界の空気は、穏やかな凪の中にあった。

 JOKERがA級上位ダンジョンを蹂躙し、世界のトップギルドたちがリフトの階層を競い合う。そんな、どこか遠い世界の出来事をBGMに、大多数の探索者たちは、それぞれの日常を謳歌していた。

 特に、F級、E級といった低ランクの探索者たちと、彼らを魅了してやまないVTuberたちの世界は、これ以上ないほどの平和と、創造的な熱気に満ちていた。

 誰もが、思っていた。

 この、穏やかで、そしてどこまでも予測可能な日常が、しばらくは続くだろうと。

 その、あまりにも平和な幻想。

 それを、破壊する、新たな「理」の顕現。

 その最初の兆候は、いつも通り、最も平和で、そして最も多くの瞳が見つめる場所で、その産声を上げた。


 X(旧Twitter)トレンド - 日本

 1位: #楽園諸島

 2位: #Vの島

 3位: #今日のF級

 4位: #夏祭り

 5位: 自動翻訳


【The Calm Before the Festival】


 @Dungeon_Gamer_Taro

 今日の楽園諸島、平和だなぁ。

 サンクチュアリ・ポートのビーチ、完全に海の家と化してる。

 週末冒険者のオジサンたちが、屋台でモンスター素材の串焼き売ってるしwww


 @V_Fan_Aoi

 **Vチューバーがさぁ、**ああいう風にダンジョン以外の場所で楽しそうにしてくれると、こっちもなんだか和むよね。

 昨日のアリアちゃんのハウジング配信、最高だった…。


 @Hoshikawa_Mikan_Fan

 今日の、みかんちゃんの配信見てる奴いる?

 今、サンクチュアリ・ポートのビーチで、ファンのみんなとビーチバレーしてるぞ!

 平和の象徴かよ。 #Vの島


 @Gamer_Tetsu

(星川みかんの配信画面のスクリーンショット)

 みかんちゃん、サーブしようとして、ボールじゃなくて自分の足元のカニのペット蹴っ飛ばしてて草。

 今日も、通常運転だな。


 その、あまりにも平和で、そしてどこまでもいつも通りの日常の会話。

 それが、唐突に、そしてあまりにも劇的に、断ち切られた。

 その書き込みが投下されたのは、正午を少し回った、太陽が最も高く輝く、その時だった。


 @Mikan_Live_Watcher

 …ん?

 おい、みかんちゃんの配信見てる奴!

 みかんちゃんの後ろ!

 なんだ、あれ!?


 その、あまりにも不穏な書き込み。

 それに、スレッドの空気が、わずかに変わった。


 @Dungeon_Gamer_Taro

 は?なんだよ。

 また、変なペットでも見つけたのか?


 @Mikan_Live_Watcher

 違う!違うんだよ!

 砂浜から、なんか生えてきてる!


 彼は、震える指で、その神々の悪戯のスクリーンショットを、スレッドへと投下した。


[画像:星川みかんのアバターが、ビーチバレーボールを追いかけている、平和な配信画面のスクリーンショット。だが、その遥か後方、水平線が広がるはずの砂浜の中央に、巨大な、朱色の鳥居の上部が、まるで古代遺跡のように、砂の中からゆっくりと姿を現し始めている]


 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 そして、爆発。


『は!?』

『鳥居!?なんで、ビーチに!?』

『バグか!?いや、違う…!世界の理が、また…!』


 その混乱の渦の中で、星川みかん本人もまた、その異常事態に気づいた。

 あるVチューバーが、サンクチュアリ・ポートのビーチで遊んでたら、巨大な鳥居が出現する瞬間を目撃する。


「え…?えええええええええええええええ!?」

 彼女の、素の絶叫が、数十万人の視聴者の鼓膜を揺らした。

「な、な、なんですか、あれはー!?おっきな鳥居ですー!」

 彼女は、ビーチバレーを放り出すと、その好奇心の塊のような瞳をキラキラと輝かせ、その未知なる建造物へと、駆け出していった。

 そして、その彼女に続くように。

 その場にいた、**たくさんの目撃者が、**そして彼女の配信を見て、慌ててポータルを開いて駆けつけた、無数のファンたちが、一つの巨大な奔流となって、その鳥居の元へと、殺到していった。


【SeekerNet 掲示板 - 総合雑談スレ Part. 1825】


 1: 名無しの実況民A

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 祭りだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 楽園諸島で、とんでもねえことが起きてるぞ!!!!!!!!!!!!!!!


 2: 名無しのゲーマー


 1

 乙!

 ああ、見てる!みかんちゃんの配信!

 なんだよ、あの鳥居!かっけえ!


 3: 名無しのB級タンク

 みんなで、行くことにする!

 俺も、今からポータルで飛ぶ!

 乗り遅れるなよ、お前ら!


 4: 名無しのA級(お忍び)

 …ほう。

 またか。

 神々の、気まぐれなアップデート。

 面白い。

 実に、面白いじゃねえか。


 その熱狂は、瞬く間にSeekerNetの全ての掲示板へと、燎原の火のように燃え広がっていく。

 そして、その情報の奔流は、当然のように、世界の、あらゆる国の探索者たちの元へと、届けられた。


【The First Pioneers】


 @Mikan_Live_Watcher

 みかんちゃん、鳥居くぐったぞ!

 うおおお、光がすごい!


 @Gamer_Tetsu

 入ると、そこはお祭り会場だった!

 なんだこれ!提灯がいっぱいで、祭囃子が聞こえる!

 屋台もあるぞ!たこ焼き!りんご飴!

 最高じゃねえか!


 @V_Fan_Aoi

 すごい!すごい!

 妖怪さんたちが、屋台やってる!

 みんな、ニコニコしてて、全然怖くない!

 可愛い!


 その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも平和な、異世界への扉。

 スレッドは、お祭り騒ぎとなった。

 そして、その熱狂の、まさにその頂点で。

 一つの、この世界の、歴史を永遠に変えることになる、小さな、しかし決定的な「奇跡」が、発見された。


 @US_Explorer_Bob (X - English)

 This is insane! I followed the crowd through the gate! It's some kind of Japanese summer festival! So cool!

 But... wait a minute. Why can I read all your posts in perfect English?

(なんだこれ、ヤバい!みんなについてゲートをくぐってみたんだ!日本の夏祭りみたいだ!最高だな!

 でも…ちょっと待てよ。なんでお前らの書き込みが、全部完璧な英語で読めるんだ?)


 @US_Explorer_Bob

 え?

 あんたの書き込み、普通に日本語で読めるけど…?

 え?え?

 ええええええええええええええええええええええ!?


 @German_Guild_Hans (X - German)


 @Dungeon_Gamer_Taro

 Seltsam. Für mich ist das alles auf Deutsch.

 Was zum Teufel geht hier vor?

(奇妙だな。俺には、全部ドイツ語に見えるが。一体、何が起きてるんだ?)


 @Build_Kousatsu

 …まさか。

 そういうことか。

 この、「幽世の祭壇」と呼ばれる空間。

 その内部では、世界の理が、特殊な法則で満たされているのだ。

 海外の人の言語が、自動翻訳されてる事を発見する。

 全ての言語と文字が、個々の探索者の母国語へと、自動的に翻訳される。

 …なんだ、この奇跡は。

 神々の、悪戯か。

 それとも、祝福か。


 その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも希望に満ちた発見。

 それが、最後の引き金となった。

 スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。

 言葉の壁が、ない。

 その、あまりにも甘美な響き。

 それは、世界の、全ての探索者にとって、究極の福音だった。


 冒険者達は、お祭り会場に殺到する。

 日本の、アメリカの、中国の、ヨーロッパの、南米の。

 あらゆる国の、あらゆる人種の探索者たちが、その肌の色も、信じる神も、そして話す言葉も、全てを忘れて、一つの「祭り」の熱狂の中へと、その身を投じていった。


 だが、会場は、それに応じて、自動で、どんどん巨大な会場になる。

 人が増えれば増えるほど、祭りの会場は、その地平線を、まるで生き物のように、どこまでも、どこまでも広げていく。

 決して、満員になることはない。

 ただ、常に活気があり、賑やかで、そしてどこか心地よい、少し混雑してるな、ぐらいを維持する。

 その、あまりにも優しく、そしてどこまでも完璧な、世界の理。


 その、あまりにも平和で、そしてどこまでも美しい光景。

 それに、SeekerNetは、もはや言葉を失っていた。

 ただ、そのあまりにも巨大な「奇跡」の前に、ひれ伏すしかなかった。


 @Hacksla_Haijin

 …チッ。

 なんだよ、これ。

 気味が悪いほど、平和じゃねえか。

 まあ、いい。

 たまには、こういうのも、悪くはねえか。

 俺も、少しだけ、覗いてくるとするか。


 その、あまりにも珍しい、そしてどこまでも素直な、ハクスラ廃人の一言。

 それが、この歴史的な一夜の、全てを物語っていた。

 世界の、全ての探索者が、その階級も、国籍も、そして憎しみも、全てを忘れて、ただ一つの、同じ祭りの熱狂の中にいた。

 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも温かい、奇跡の一夜。



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