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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
ナイトメア・リフト編

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425/491

第409話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、もはや日常を取り戻していた。

 いや、日常の「基準」そのものが、根底から書き換えられてしまった、と言うべきか。

【ナイトメア・リフト】。

 その、あまりにも唐突に世界の理として追加された、究極のハイリスク・ハイリターンコンテンツ。

 その発見から数週間。世界の探索者たちの日常は、完全にその紫色の石板…「夢魘(むえん)紋章(もんしょう)」に、支配されていた。

 もはや、それはただのアイテムではない。

 一つの、巨大な文化。

 一つの、終わることのない、世界規模の祭りだった。


 X(旧Twitter)トレンド - 日本

 1位: #ナイトメアチャレンジ

 2位: #リフト戦争

 3位: #オーディン

 4位: #青龍

 5位: JOKERまだ?


【The New Stage of the Rift War】


 @WeeklyDungeon_News

【リフト戦争、新時代へ】

 ネファレム・リフトのラダーランキングを巡る競争は、新たな局面を迎えています。単純な到達ランク競争は、JOKER氏の圧倒的な記録(ランク60ソロ・5分12秒)によって、事実上終焉。世界のトップギルドたちは、次なる「強さ」の証明の形を、模索し始めています。 #リフト戦争


 @Dungeon_Gamer_Taro

 だよな。

 もう、誰もJOKERの記録には挑もうとしねえ。

 あれは、もうそういう「概念」なんだよ。

 おかげで、ラダーランキング自体は、少し落ち着いてきたな。


 @Build_Kousatsu

 だが、水面下では、新たな戦争の火種が、燻り続けていた。

 そして、その火蓋は、やはりあの北欧の神々によって、切って落とされた。


 その、あまりにも的確な、そしてどこまでも不穏な、専門家の分析。

 それを、肯定するかのように。

 世界の、全ての探索者のタイムラインに、一つの、あまりにも挑戦的な「招待状」が、叩きつけられた。


 ギルド【オーディン】日本支部公式 @Odin_Guild_JP

【挑戦状】

 ヴァルハラの戦士たちは、常に最高の試練を求めている。

 ネファレム・リフトの、ランク61以上の階層。

 そこに眠る、真の悪夢。

 我々は、その全てを、歓迎する。

 これより、クリアして欲しい「ナイトメア・アフィックス」を、全世界から募集する。

 最も困難で、最も理不尽な紋章を、この投稿にリプライで提示せよ。

 我々が、その悪夢を、力で粉砕してみせよう。

 我々は、どんな難易度もクリア出来るエキスパートが揃ってます。

 #ナイトメアチャレンジ #オーディン


 その、あまりにも傲慢な、そしてどこまでも力強い、宣戦布告。

 それに、SeekerNetは、熱狂した。


『うおおおおお!マジかよ!』

『視聴者参加型の、公開処刑かよ!』

『面白すぎるだろ!』


 その、オーディンの、あまりにも鮮やかな一番槍。

 それに、他のギルドが、黙って見ているはずもなかった。

 まるで、示し合わせたかのように。

 世界の、全てのトップギルドが、その挑戦状に、アンサーを返したのだ。


 ギルド【青龍】日本支部公式 @Seiryu_Guild_JP

 面白い。

 その挑戦、我々も受けよう。

 龍の魂に、不可能という言葉はない。

 この国の民よ。我らが乗り越えるべき、最高の試練を提示せよ。

 #ナイトメアチャレンジ #青龍


 ギルド【月詠(つくよみ)】公式 @Tsukuyomi_Guild_JP

【募集】

 皆さん、こんにちは!月詠です!

 私達も、皆さんのリクエストにお応えします!

「こんな組み合わせの紋章、クリアできるの?」という、皆さんの疑問に、私達のチームワークで、お答えします!

 ぜひ、楽しい(?)悪夢を送ってくださいね!

 #ナイトメアチャレンジ #月詠


 The Red Bears Guild (Official) @RedBears_Russia

【命令】

 同志諸君!我らが「赤い熊」に、最高のウォッカの肴となる、最高の地獄を用意しろ!

 #NightmareChallenge #RedBears


【SeekerNet 掲示板 - 【募集】ギルドに挑戦させたい、最悪の紋章を晒すスレ】


 1: 名無しの紋章コレクター

 スレ立て乙。

 さて、お前ら。

 お自慢の、クソゲー紋章を、ここに晒してけ。

 そして、神々の戦争を、俺たちの手で、プロデュースしようぜ。

 まずは、俺からだ。


[画像:夢魘(むえん)紋章(もんしょう)のスクリーンショット]

 ランク:65

 アフィックス:

 ・プレイヤーはクリティカルストライクを与えることができない

 ・モンスターはクリティカル率+100%

 ・モンスターは「報復」を得る(攻撃を受けると、短時間攻撃速度が上昇する)

 報酬:大量の魔石


 どうだ?これを、オーディンの脳筋どもに、送りつけてやろうぜwww


 2: 名無しのゲーマー


 1

 乙!

 うわ、エグいwww

 クリティカルビルド、完全死亡じゃねえかwww

 オーディン、どうすんだよ、これwww


 3: 名無しの月詠ファン

 私は、これを月詠に送ります!


[画像:夢魘(むえん)紋章(もんしょう)のスクリーンショット]

 ランク:62

 アフィックス:

 ・プレイヤーはHPとESを自動回復できない

 ・フラスコの効果が50%減少する

 ・モンスターは混沌ダメージの追加ヒットを得る

 報酬:高貴のオーブ x1


 うちのギルドの、鉄壁のヒーラーなら、きっと何とかしてくれるはず…!

 #頑張れ月詠


 4: 名無しの青龍ウォッチャー

 いや、これだろ。

 これを、青龍に送る。


[画像:夢魘(むえん)紋章(もんしょう)のスクリーンショット]

 ランク:70

 アフィックス:

 ・モンスターはプレイヤーを呪う呪いを反射する

 ・モンスターはプレイヤーを威嚇する

 ・モンスターはプレイヤーの元素耐性を-20%するオーラを持つ

 ・モンスターは倒されると、自爆する

 報酬:レベルアップ


 これぞ、地獄の全部乗せ。

 だが、彼らなら、やってくれるはずだ。


 その、あまりにも熾烈な、そしてどこまでも悪意に満ちた(?)、「悪夢」の推薦合戦。

 スレッドは、お祭り騒ぎとなった。

 そして、その推薦を受けた各ギルドは、その挑戦を、ライブ配信で、世界へと公開し始めたのだ。


【The Nightmare Live Shows】


 SeekerNet 掲示板 - ライブ実況スレ Part. 15


『始まった!オーディンの、ナイトメアチャレンジ!』

『マジかよ!あの、クリティカル禁止紋章に、本当に挑戦するのかよ!』

『うおおお、パーティ構成、変えてきた!クリティカルを捨てて、DOT(継続ダメージ)ビルドと、ミニオンビルドで固めてやがる!』

『すげえ…!これぞ、本物のエキスパート…!どんな理不尽にも、対策を立ててきやがる!』


『月詠も、始まったぞ!』

『ヒーラーの子、マジで過労死寸前じゃねえかwwwリジェネがないのに、回復追いついてるの、ヤバすぎるだろ!』

『タンクが、神がかってる!絶対に、後衛は死なせないっていう、気迫が伝わってくる!』


『青龍は…なんだ、これ…』

『蹂躙してやがる…。ランク70の、あの地獄を…』

『なんだ、あいつらの装備…。もしかして、レプリカ・アルベロンか…?』


 その、あまりにもハイレベルな、そしてどこまでも極限の、戦い。

 それに、世界の探索者たちは、熱狂した。

 彼らは、もはやただの観客ではない。

 自らが、その地獄の脚本の一端を担った、共犯者だった。

 その、一体感。

 それが、この新たなエンターテイメントの、本当の魅力だった。


 だが、その熱狂の、まさにその頂点で。

 誰もが、一つの、あまりにも巨大な「不在」に、気づいていた。


『…そういえば』

『JOKERは、どうしたんだ?』

『この祭り、完全にスルーかよ』


 その、あまりにも当然な疑問。

 それに、答えるかのように。

 一つの、あまりにもマイペースなスレッドが、ひっそりと、しかし確実に、そのログを更新していた。


【SeekerNet 掲示板 - JOKER配信・雑談スレ】


 811: 名無しのJOKERウォッチャー

 …なんか、すみません。

 今、JOKERさんの配信見てるんですけど。


 812: 名無しのゲーマー


 811

 ああ?JOKERが、どうかしたのかよ。

 あいつは、どうせ高みの見物を決め込んでんだろ。

 この戦争には、興味ねえよ。


 815: 名無しのJOKERウォッチャー


 812

 いや、それが…。

 なんか、いつものようにジャズのうんちく垂れながら、デルヴ鉱山でレベリングしてます。

 さっき、レベル60になりました。

「よし。あと8だな」って、呟いてました。

 …それだけです。


 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 スレッドの、全ての時間が止まったかのような錯覚。

 そして、その静寂を破ったのは、一人の、あまりにも素直な、魂の絶叫だった。


『――マイペースすぎるだろ、あの男!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 その一言が、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。


『マジかよ!』

『世界が、こんなに盛り上がってるってのに!』



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