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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
ナイトメア・リフト編

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423/491

第407話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、穏やかな凪の中にあった。

 VTuberたちが切り拓いた「わちゃわちゃ」とした文化と、JOKERが火をつけたペットブーム。その二つの巨大な潮流は、すっかり世界の探索者たちの日常に溶け込み、誰もがこの平和で創造的な時間を楽しんでいた。

 リフト戦争の熾烈な競争も、今やラダーランキングの上位に名を連ねるトップギルドたちの、日常的な記録更新報告へと姿を変え、多くの探索者にとっては、どこか遠い世界の出来事となりつつあった。

 誰もが、思っていた。

 この、穏やかで、そしてどこまでも予測可能な日常が、しばらくは続くだろうと。

 その、あまりにも平和な幻想。

 それを、破壊する、新たな「理」の顕現。

 その最初の兆候は、いつも通り、最もありふれた、しかし最も世界の最前線に近い場所で、その産声を上げた。


【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 442】


 1: 名無しのB級タンク

 スレ立て乙。

 さて、諸君。今日も始めようか。我々人類が、神々の気まぐれな悪戯に、どう立ち向かうべきかの議論を。


 2: 名無しのC級(見学中)


 1

 乙です!

 最近は、楽園諸島のハウジングの話ばっかりだったから、こういうガチなスレは落ち着きますねw


 3: 名無しのA級(お忍び)


 2

 ああ。平和なのは良いことだがな。

 少し、刺激が足りんと思っていたところだ。

 今日も、リフトランク60の周回作業が始まる…。


 4: 名無しのVファン


 3

 **楽園諸島やVチューバーの話題をしてたら、**トップランカー様が退屈しちゃいますよね!

 でも、うちの推しのるなちゃんが、昨日初めて自分の島でファンミーティング開いてくれて、最高だったんですよ!


 5: 名無しの週末冒険者


 4

 いいなあ、ファンミ。

 俺も、ギルド島の祝福の塔のバフのおかげで、ようやくリフトランク20を安定して回れるようになったところだ。

 毎日が、充実してるよ。


 その、あまりにも平和で、そしてどこまでも満ち足りた、日常の会話。

 それが、唐突に、そしてあまりにも無慈悲に断ち切られた。

 その書き込みが投下されたのは、正午を少し回った、その時だった。


 155: 名無しのリフトジャンキー

 …おい。

 盛り上がってる所すまん。

 ネファレム・リフト、ランク50を周回してたら、こんなアイテムが出た。


 その、あまりにも不穏な、そしてどこまでも核心を突いた書き込み。

 それに、スレッドの空気が、わずかに変わった。


 156: 名無しのゲーマー


 155

 どうせまた、ちょっと珍しいMODが付いたレア装備だろ。

 見飽きたわ、そういうの。


 157: 名無しのリフトジャンキー


 156

 違う!違うんだよ!

 アイテムじゃねえ!石板だ!


 彼は、震える指で、その神々の遺産のスクリーンショットを、スレッドへと投下した。


 158: 名無しのリフトジャンキー

[画像:手のひらに収まるほどの大きさの、まるで夜空の闇をそのまま切り取って固めたかのような、禍々しい紫色の石板。その表面には、見る者の精神を蝕むかのような、絶え間なく形を変える不可解な紋様が、血管のように脈打っている。]


 名前:

 夢魘(むえん)紋章(もんしょう)

(Sigil of Nightmare)


 レアリティ:

 特殊 / フラグメント (Special / Fragment)


 種別:

 キーアイテム / リフトの紋章 (Key Item / Rift Sigil)


 効果テキスト:

 高ランクのネファレム・リフトで、ごく稀に発見される古代の石板。

 オベリスクにて、試練(しれん)要石(かなめいし)と共に捧げることで、ネファレム・リフトを、より危険で、より報酬の多い「ナイトメア・リフト」へと変質させることができる。

 紋章には、そのリフトに課せられる、いくつかの「悪夢のナイトメア・アフィックス」がランダムに刻まれている。


 ・このアイテムのナイトメア・アフィックスは「敵を倒すと10秒後に爆発する氷属性の爆弾が発生する」である

 ・このアイテムの報酬は「ナイトメア・リフトクリア時に次のレベル1分の経験値を得る」である


 このアイテムは、使用すると消費される。


 フレーバーテキスト:

 賢者は、この石板を市場で売り、確実な富を手にするだろう。

 だが、真に賢い者は知っている。

 最も価値のある宝とは、安全な取引の先にあるのではなく、

 自らが乗り越えた、悪夢の深淵の底にこそ眠っているのだということを。

 さあ、お前はどちらの賢者だ?

 」


 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 スレッドの、全ての時間が止まったかのような錯覚。

 そして、その静寂を破ったのは、一人の、あまりにも素直な、そしてこのスレッドの全ての住人の心を代弁するかのような、一言だった。


 165: 名無しのゲーマー

 …は?


 その一言が、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。


『なんだこれ!?』

『ナイトメア・リフト!?なんだこれ、高難易度に出来るって事か?』

『フレーバーテキスト、かっこよすぎだろ!』

『いや、それより報酬を見ろ!報酬を!』


 その混乱の渦の中で、一つの、あまりにも巨大な「甘い蜜」の匂いを、世界の探索者たちは、確かに嗅ぎつけていた。


 172: 名無しのA級(お忍び)

 …おい、待て。

 そして、報酬が、レベル1アップ分の経験値!?

 めちゃくちゃ美味しいじゃねーか!


 その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも甘美な、報酬。

 それに、スレッドは、本当の意味での「爆発」を起こした。

 もはや、それは賞賛ではない。

 一つの、新たな黄金郷への扉が開かれたことに対する、純粋な、そしてどこまでも暴力的なまでの、欲望の奔流だった。


『マジかよ!』

『レベル1アップ!?ランク50で、かよ!』

『これさえあれば、レベル上げ放題じゃねえか!』


 その、熱狂の、まさにその中心で。

 あの、最初の発見者であるリフトジャンキーが、一つの、あまりにも人間的な、そしてどこまでも正直な「決断」を、下した。


 255: 名無しのリフトジャンキー

 …いやー、すごいのは分かった。

 すごいのは、よーく分かったが…。

 悪い、売るわ。

 フレーバーテキスト、ごめんwwww


 その、あまりにも潔い、そしてどこまでも現実的な、魂の叫び。

 それが、引き金となった。

 スレッドは、もはやお祭り騒ぎではない。

 一つの、巨大な笑いの渦に、完全に飲み込まれていた。


 それにwwwwwwと笑う、掲示板の名無し達。

『wwwwwwwwwwwwwwwww』

『正直者で草』

『賢者だったなwww』

『まあ、俺でも売るわwww』


 その、あまりにも平和で、そしてどこまでも人間的な、笑いの連鎖。

 だが、その和やかな空気を、断ち切るかのように。

 一人の、冷静な、しかし世界の理そのものを揺るがすほどの、鋭い分析が、投下された。


 301: 名無しのビルド考察家

 …おい、お前ら。

 笑ってる場合じゃねえぞ。

 もっと、重要なことがある。

 話は変わるけど、報酬はランダムって事か?

 JOKERがドロップした、あのフラクチャーオーブの欠片も、来訪者からのランダム報酬だった。

 これも、同じだ。


 その、あまりにも的確な、そしてどこまでも本質を突いた指摘。

 それに、スレッドの空気が、一瞬で引き締まった。

 そして、そのビルド考察家は、その最後の、そして究極の「結論」を、告げた。


 305: 名無しのビルド考察家

 ああ。

 ナイトメア・アフィックスと、報酬次第で、価値が変わりそうだな。

「レベル1アップ」は、間違いなく大当たりだ。

 だが、ハズレもあるかもしれん。「ポータルスクロール1枚」とかな。

 そして、アフィックスもだ。「敵が氷の爆弾を落とす」程度なら、まだいい。

 だが、もし、「プレイヤーのクリティカル率が0になる」とか、「全ての攻撃が反射される」みたいな、ビルドそのものを殺しにくる、クソみてえなアフィックスがあったとしたら…?


 その、あまりにも鮮やかで、そしてどこまでも悪魔的な、可能性の提示。

 それに、スレッドは、本当の意味での「爆発」を起こした。

 もはや、それは賞賛ではない。

 一つの、新たな、そして最も危険なギャンブルのテーブルが開かれたことへの、畏敬の念だった。


 815: 元ギルドマン@戦士一筋

 …なるほどな。

 そういうことか。

 紋章そのものが、一つの巨大な「ガチャ」なのだな。

 リスクと、リターン。

 その、振り幅が、あまりにも大きすぎる。


 821: ハクスラ廃人

 ああ、間違いないな。

 神様とやらは、とんでもねえクソゲーを、また俺たちに用意してくれたもんだぜ。

 だがな…。


 彼は、そこで一度言葉を切ると、その口元に、最高の、そして最も獰猛な笑みを浮かべた。


 822: ハクスラ廃人

 ――最高の、テーブルじゃねえか。


 その、あまりにも力強い、そしてどこまでもギャンブル狂らしい、宣言。

 それに、スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。

 誰もが、その未知なる、そしてどこまでも面白い、新たなゲームの虜になっていた。

 その、あまりにも巨大な、そしてどこまでも混沌とした、新時代の幕開けを。



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diabloか
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