表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
ネファレム・リフト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

415/491

第399話

 その日の世界の空気は、一つの巨大な「問い」を巡って、静かな、しかしどこまでも深い熱気に包まれていた。

 ネファレム・リフト。

 その無限の階層の頂を目指す、トップギルドたちの熾烈な競争。

 そして、その副産物として生まれた、霊体ペットという名の、新たな文化。

 世界は、その二つの熱狂に、完全に浮かされていた。

 誰もが、この平和な祭りが、永遠に続くと信じていた。

 その、あまりにも楽観的な空気に、国家という、最も巨大で、そして最も計算高いプレイヤーが、静かに、しかし確かな足取りで、その駒を進めてくるまでは。


 X(旧Twitter)トレンド - 日本

 1位: #G7ダンジョンサミット

 2位: #うちの子見て

 3位: #ペット外交

 4位: 八咫烏

 5位: #リフト戦争


【The New Stage of Diplomacy】


 @WeeklyDungeon_News

【速報】来月スイス・ジュネーブで開催されるG7首脳会議に先立ち、各国政府が、ネファレム・リフトで交換可能な霊体ペットを、公式な「国の象徴ナショナル・シンボル」として採用する動きが、世界中で加速しています。これは、新たな時代の「ソフトパワー」外交の始まりであると、専門家は指摘しています。 #ペット外交 #G7ダンジョンサミット


 @Dungeon_Gamer_Taro

 は!?

 マジかよ!

 政治家も、ペット自慢始めるのかよwww

 もう、なんでもありだな、この世界はwww


 @Build_Kousatsu

 …いや、笑い事ではない。

 これは、極めて高度な政治的メッセージだ。

 どの国が、どれだけのリフトポイントを蓄積し、そしてどれほど「格」の高いペットを交換できるか。それが、その国のダンジョン攻略能力と、国力そのものを、世界に示すための、最も分かりやすい指標となる。

 静かなる、軍拡競争だ。


 @V_Fan_Aoi

 難しいことは分からないけど、日本のペットが、可愛い子だといいなー!


 その、あまりにも巨大な、そしてどこまでも新しい、外交の舞台。

 その火蓋は、やはりこの国の、あの老獪な指導者によって、切って落とされた。


 首相官邸公式 @Kantei_Go_JP

【お知らせ】

 日本政府は、国際社会における我が国の文化的象徴として、また、世界の探索者コミュニティとの連携を深めるため、本日、ネファレム・リフトのポイント交換により、公式な霊体ペットを迎え入れましたことを、ご報告いたします。

 その名は、「八咫烏ヤタガラス」。

 神話の時代より、我が国の民を導いてきた、太陽の化身です。

 この三本足の烏が、世界の未来を、そして人類の進むべき道を、正しく照らしてくれることを、我々は信じています。


[画像:首相官邸の庭園。首相と坂本大臣が、一体の、神々しい霊体の隣で、厳かに記念撮影している写真。その霊体は、漆黒の羽を持ち、その足は確かに三本あり、その瞳は黄金の太陽のように輝いている]


 @Dungeon_Gamer_Taro

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!

 ヤタガラス!マジかよ!

 渋い!渋すぎる!だが、最高にカッコいいじゃねえか!

 #ペット外交 #八咫烏


 @LunaFan_No1

 きゃー!ヤタガラス様ー!

 うちのるなちゃんのペットの白兎「もちもち大福くん」と、お友達になってくださいー!


 その、日本の、あまりにも「らしい」、そしてどこまでも気高い選択。

 それに、世界の、他の国々が、黙っているはずもなかった。

 まるで、示し合わせたかのように。

 各国の指導者たちが、次々と、自らの「切り札」を、世界のテーブルへと提示し始めたのだ。


 The White House (Official) @WhiteHouse

 Today, we welcome a new symbol of American strength and freedom.

 This specter eagle, named "Liberty," will serve as a constant reminder of the values our great nation represents. God Bless America.

(本日、我々はアメリカの力と自由の新たな象徴を歓迎します。

「リバティ」と名付けられたこの鷲の霊体は、我々の偉大な国家が象徴する価値を、常に思い起こさせてくれるでしょう。アメリカに神の祝福を)


[画像:ホワイトハウスの執務室。アメリカ大統領が、その肩に、巨大な白頭鷲の霊体を止まらせ、自信に満ちた笑みを浮かべている写真。鷲の瞳は、鋭く、そしてどこまでも誇り高い]


 中華人民共和国中央人民政府 (Official) @china_gov

【公告】

 中華民族五千年の歴史と、その無限の発展を象徴する、新たな守護者を、世界に紹介する。

 見よ。これぞ、天命を授かりし、巨大な黄金の龍である。

 この龍の飛翔と共に、我々は世界の新たな時代を、領導していく。


[画像:北京の紫禁城を背景に、中国の国家主席が、その周りを旋回するように飛翔する、全長数十メートルはあろうかという、巨大な五本爪の龍の霊体と共に、静かに佇んでいる写真]


【The Pet Cold War】


 SeekerNet 掲示板 - 国際情勢分析スレ Part. 88


 1: 名無しの国際ウォッチャー

 スレ立て乙。

 …始まったな。

 ペット冷戦が。


 2: 名無しのゲーマー


 1

 乙。

 ああ、もうめちゃくちゃだ。

 日本のヤタガラス、アメリカのワシ、中国の龍。

 全員、カッコよすぎるだろ…。

 どんだけポイント使ったんだよ、これ…。


 3: 名無しのビルド考察家


 2

 ポイントだけではない。

 これらの、国家を象徴するレベルの最上級ペットは、交換に必要なポイントもさることながら、その交換条件として、リフトランク100以上をクリアしていることが、暗黙の前提となっているという噂だ。

 つまり、これは、ただのペット自慢ではない。

 水面下で、各国の特殊部隊(D-SLAYERSやデザート・イーグル)が、どれほどの高ランクに到達しているかを誇示する、軍事パレードそのものなのだ。


 4: 名無しのA級(お忍び)


 3

 そういうことだ。

 そして、その裏側で、ギルド間の、熾烈な情報戦が繰り広げられている。

「中国の龍は、ブレスを吐くらしいぞ」

「いや、アメリカのワシは、ソニックブームを放つらしい」

「日本のヤタガラスは、未来予知の能力があるとか、ないとか…」

 全て、ただの霊体ペットのはずだ。戦闘能力は、ない。

 だが、その「噂」そのものが、新たな抑止力として、機能し始めている。

 恐ろしい時代になったもんだ。


 そして、その奇妙で、そしてどこまでも壮大な、国家間の茶番劇。

 その、クライマックスとなる舞台。

 G7ダンジョンサミットが、スイス、ジュネーブで、その幕を開けた。

 世界の、全てのニュースネットワークが、その歴史的瞬間を、生中継していた。

 レマン湖のほとり、国際公式ギルド本部の、荘厳な会議室。

 そこに、世界の指導者たちが、集結した。

 アメリカ大統領、日本の首相、ドイツの首相、フランスの大統領…。

 彼らは、その固い表情で、握手を交わし、そして世界の未来について、語り合う。

 だが、その日の、本当の主役は、彼らではなかった。

 彼らの、その肩の上で、あるいはその背後で、静かに、しかし絶対的な存在感を放つ、神々しい霊体のペットたち。


 会議が、終わり。

 最後の、記念撮影の時間。

 世界の指導者たちが、横一列に並ぶ。

 そして、その各国の首脳陣と一緒に、記念撮影する、それぞれの国の象徴たち。

 日本の首相の肩には、三本足の烏が。

 アメリカ大統領の腕には、白頭鷲が。

 中国の国家主席の背後には、巨大な龍が、その姿を淡く揺らめかせている。

 その、あまりにもシュールで、そしてどこまでも歴史的な一枚の写真。

 それが、全世界へと配信された、その瞬間。

 X(旧Twitter)は、爆発した。


『なんだこれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

『シュールすぎるだろwwwwwwwwww』

『完全に、ポケモンマスターたちのサミットじゃねえかwww』

『でも、カッコいい…。マジで、カッコいい…』


 その、あまりにも平和で、そしてどこまでも人間的な、熱狂。

 その中心で、この世界のパワーバランスは、もはや核兵器の数でも、経済力でもない。

 自国の「推しペット」の、その「格」によって左右されるという、新たな時代へと、完全に、そして未来永劫に、移行してしまったのだ。


 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも滑稽な、世界の茶番劇。

 それを、西新宿のタワーマンションの一室で。

 JOKERは、ただ一人、その配信画面の、小さなワイプの中で、静かに、そしてどこまでも楽しそうに、眺めていた。

 彼の肩の上では、1ポイントで交換した緑色のカエルが、呑気に、ゲコ、と鳴いた。

 そして、彼の背後では、1800ポイントをはたいて手に入れた九尾(きゅうび)(きつね)が、その九本の美しい尾を揺らしながら、退屈そうに欠伸をしていた。

 JOKERは、その全ての光景を一瞥すると、ふっと、その口元を緩ませた。

 そして彼は、ARカメラの向こうの、数百万人の観客たちに、聞こえるように呟いた。

 その声は、どこか呆れたような、しかしどこまでも、満足げな響きを持っていた。


「…まあ、平和で、良いことだ」


 彼の、そのあまりにも人間的な、そしてどこまでも優しい一言。

 それが、この新しい時代の、本当の幕開けを告げる、ファンファーレとなったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ