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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
ネファレム・リフト編

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410/491

第394話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、もはやただの情報交換の場ではなかった。それは、一つの巨大な電子の円形闘技場コロッセオであり、世界の頂点を巡る神々の戦争を、何百万という観客が固唾を飲んで見守る、熱狂の特等席と化していた。

【ネファレム・リフト】。

 その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも残酷な実力指標の出現は、世界の探索者たちの心に、忘れかけていた闘争心の炎を、再び燃え上がらせていた。


【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 438】


 1: 名無しのB級タンク

 スレ立て乙。

 さて、諸君。今日も始めようか。我々人類が、神々の気まぐれな悪戯に、どう立ち向かうべきかの議論を。


 2: 名無しのC級(見学中)


 1

 乙です!

 昨日のJOKERさんのリフト配信、最高でしたね!ランク40ソロクリアとか、もう意味が分かりません…。


 3: 名無しのA級(お忍び)


 2

 ああ。あの男の動きは、もはや我々の参考にはならん。

 それより、現実を見ろ。

 今、世界のトップギルドたちが、本気でこのリフト戦争に参戦し始めたぞ。JOKERの記録を塗り替えるのは誰か、という新たなレースが始まっている。


 そして、その戦いは、瞬く間に世界中へと、燎原の火のように燃え広がった。


 X(旧Twitter)


 ギルド【月詠(つくよみ)】公式 @Tsukuyomi_Guild_JP

【記録更新】

 当ギルド所属の精鋭パーティ「月光」、先ほどネファレム・リフトのランク50を、クリアいたしましたことを、ご報告いたします。

 我々は、常に日本の、そして世界の最前線を走り続けます。

 #リフト戦争 #月詠


 The Red Bears Guild (Official) @RedBears_Russia

【速報】我がギルド「赤い熊」が、ネファレム・リフトのランク45をクリア。これは、ロシア国内初の快挙である。

 同志諸君、我々の力を見よ! ウラー!

 #RiftWar #RedBears


 Les Chasseurs Fantômes @Chasseurs_FR

【記録】当ギルド「幽霊猟兵」所属部隊が、リフトランク42を突破。フランス国内初の記録を樹立。

 我々の芸術的な戦術の前に、敵はいない。

 #GuerreDuRift #ChasseursFantômes


 Knights of Albion [KOA] @AlbionKnights_UK

【アチーブメント(実績)解除】アルビオンの騎士団が、リフトランク40のクリアに成功しました。これは、連合王国イギリスにとって誇るべき初の快挙です。

 女王と国家のために!

 #RiftWar #KOA


 SeekerNet 掲示板 - ライブ実況スレ Part. 8


『うおおおおお!月詠、ランク50到達!すげえ!』

『ロシアの赤い熊も来たぞ!ランク45!』

『フランスにイギリス…!国際色豊かなギルド達が、〇〇国内初というただし書きを付けながら自慢する流れになってて草』

『完全に、国の威信を賭けた代理戦争じゃねえか!熱すぎるだろ!』


 その、あまりにもハイレベルで、そしてどこまでも血生臭い、神々の戦争。

 その、あまりにも巨大な熱狂の、そのすぐ足元で。

 もう一つの、どこまでも平和で、そしてどこまでも微笑ましい「戦争」が、繰り広げられていた。


 X(旧Twitter)


 夢見るな@ナロウライブ @Luna_Yumemi

【るなーん!速報だよっ!】

 みんなの応援のおかげで、ついに!ついに!

 ネファレム・リフトの、ランク1をクリアできましたー!

 やったー!やったー!

 #V探索者デビュー #ナロダン


 癒月アリア@ナロウライブ @Aria_Yuzuki

 ふふっ…。私も、先ほどランク1をクリアできました。

 道中で出会った、迷子のゴブリンさんを助けていたら、少しだけ時間がかかってしまいましたが…。

 でも、とても楽しい冒険でしたよ。

 #V探索者デビュー #アリア様聖女


 シスター・クレア@ナロウライブ @SisterClaire_NL

 神に、感謝を。

 私も、ランク2をクリアすることができました。

 これも、皆様の温かい祈りのおかげです。

 ちなみに、クリア報酬のキーストーンが、なぜか2個ドロップしました。アーメン。

 #クレア様の奇跡


 鬼灯るる@カクヨムライブ @Ruru_Hozuki

 …ん…。

 …なんか、クリアしてた…。ランク3…。

 …眠い…。

 #るる様配信


 SeekerNet 掲示板 - VTuber総合応援スレ Part. 52


『るなちゃんランク1クリアおめでとう!』

『アリア様、ダンジョンの中でも人助けとか、マジ聖女…』

『クレア様の豪運、また発動してて草』

『るる様、寝てる間にランク3は意味が分からんwww』

『Vチューバー達も、キーストーンを10万円で購入して、ランク1クリア!とか、ランク2クリアとか、微笑ましい報告が上がるなw』

『この、トップランカーたちのガチ戦争と、VTuberたちのわちゃわちゃ感の温度差よwww最高のエンターテイメントだろ、これ』


 その、あまりにも平和で、そしてどこまでも温かい熱狂。

 その、巨大な渦の中心から、ただ一人、完全に隔絶された男がいた。

 神崎隼人――“JOKER”。

 彼は、その全ての狂騒を、まるで対岸の火事のように、あるいは、水槽の中の熱帯魚を眺めるかのように、ただ静かに、そしてどこか退屈そうに、見下ろしていた。


【配信タイトル:スマイト徒手空拳ビルド、デルヴ鉱山リハビリ中】

【配信者:JOKER】

【現在の視聴者数:6,528,194人】


「…だから、キース・ジャレットの『ケルン・コンサート』は、ただのピアノ・ソロの名盤じゃねえんだよ。あれは、ドキュメンタリーだ。最悪のコンディションのピアノで、即興演奏だけで、あの神の領域の音楽を生み出した。人間の魂が、逆境の中でどれほどの輝きを放つことができるのか。その、記録だ。…まあ、お前らにはただの眠くなるBGMかもしれんがな」


 彼のそのあまりにも高尚で、そしてどこまでも難解な音楽談義。

 それに、コメント欄が、いつものように、しかしどこまでも熱狂的に、反応した。


『出たwwwww JOKERさんのジャズ講座wwwww』

『もう何言ってるか全然分かんねえけど、この無敵の王者が、退屈そうに高尚な雑談しながら敵を蹂躙していくスタイル、最高にクールで好きだわ』

『BGMが、もはやJOKERの人生そのものなんだよな…』


 彼がそう語りながら、クローラーの光が照らし出す、闇の回廊を進んでいく。

 そして、その光の道に誘われるかのように、闇の中から現れる、おびただしい数のモンスターたち。

 彼は、その雑談を止めることなく、ただ片方の拳を、軽く振るうだけ。

 スキル、【スマイト】。


 ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 黄金の雷霆が、炸裂する。

 彼の、そのあまりにも過剰な火力。

 それに、レベル45相当のモンスターたちが、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅していく。

 そして、その度に。

 彼の全身を、黄金の光が、包み込んだ。


【LEVEL UP! Lv.44 → Lv.45】


 その、あまりにも日常的な、そしてどこまでも常軌を逸した光景。

 その、あまりにも退屈な「作業」の、その合間に。

 彼の、600万人の観客たちの声が、コメント欄を通じて、彼の元へと届いていた。


『JOKERさん!リフト戦争、すごいことになってるぞ!月詠が、ランク50クリアしたって!』

『青龍も、オーディンも、もう目の色変えてる!』

『JOKERは、参戦しないのかよ!』


 その、あまりにも純粋な、そしてどこまでも必死な、ファンたちの声援。

 それに、JOKERは、そのARコンタクトレンズの視界の隅に表示されるコメントを一瞥すると、ふっと、その口元を緩ませた。

 そして彼は、デルヴ鉱山の、その絶対的な闇の中で、スマイトの一撃でモンスターの群れを消滅させながら、そのあまりにもマイペースな、そしてどこまでも彼らしい「答え」を、口にした。


「…ほう。盛り上がってるじゃねえか」

「まあ、俺はいい。レベリングにちょうどいいな、リフトは。レベルが、もう少し上がってから、本格的に参戦させてもらうさ」

 彼は、そう言って、まるで他人事のように、頷いた。

 そして彼は、その口元に、最高の、そして最も不遜な笑みを浮かべた。


「それにな」

「デルヴ鉱山の燃料費も、馬鹿にならないからな。10万円で買えるキーストーンは、実際安いしな」


 その、あまりにも現実的で、そしてどこまでもギャンブラーらしい、損得勘定。

 それに、コメント欄が、爆笑の渦に包まれた。


『wwwwwwwwwwwwwwwww』

『理由が、セコすぎるwwwwww』

『世界の覇権より、燃料費を気にする男www』

『でも、そういうとこが、好きだぜ!』


 その熱狂の、まさにその頂点で。

 その日の配信が終わる頃。

 JOKERは、その日の成果を、淡々と報告した。

「――**ランク50、クリア。**まあ、こんなもんか」

 彼は、そう言うと、配信の終了ボタンへと、その指を伸ばした。

 彼の、あまりにも静かな、しかしどこまでも圧倒的な、勝利宣言。

 世界の、全てのギルドが、その威信を賭けて、ようやくたどり着いたその頂きに。

 彼は、ただの「レベリングついで」に、あっさりと到達してしまったのだ。

 その、あまりにも巨大な「理不尽」。

 その、あまりにも残酷な「格」の違い。



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