表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
ネファレム・リフト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

408/491

第392話

【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 431】


 1: 名無しのB級タンク

 スレ立て乙。

 さて、諸君。今日も始めようか。我々人類が、神々の気まぐれな悪戯に、どう立ち向かうべきかの議論を。


 2: 名無しのC級(見学中)


 1

 乙です!

 昨日の、B級タンクさんの人柱レポート、最高でした!カエルのペット、可愛かったです!


 3: 名無しのA級(お忍び)


 2

 ああ。だが、あの後、北米の猛者がランク30あたりで混沌ダメージの嵐に飲まれて、撤退したらしいぞ。

 やはり、このリフトは、生半可な覚悟で挑むべきではない。


 4: 名無しのB級戦士


 3

 だよな…。

 俺も、昨日ランク5まで行ったけど、敵の組み合わせが悪くて、二回もポータルで逃げ帰る羽目になった。

 完全に、運ゲーだ、これ。


 その、あまりにもリアルな、そしてどこまでも人間的な、試行錯誤の記録。

 スレッドは、この新たな世界の理を、一歩ずつ、しかし確実に解き明かしていく、開拓者たちの熱気で満ち満ちていた。

 誰もが、この混沌としたテーブルに、一つの確かな「答え」をもたらしてくれる、英雄の登場を、待ち望んでいた。

 そして、その英雄は、あまりにも唐突に、そしてどこまでも当然のように、その舞台へと降臨した。


 ◇


【配信タイトル:【新コンテンツ】ネファレム・リフト、ちょっと味見してみるか】

【配信者:JOKER】

【現在の視聴者数:6,128,492人】


 西新宿のタワーマンション、その最上階。JOKERは、漆黒のハイスペックPC【静寂(せいじゃく)(おう)】の前に座り、ARカメラの向こうの600万を超える観客たちに、不敵な笑みを向けていた。

 彼のモニターには、SeekerNetのB級ダンジョン総合スレが、大写しにされていた。


「よう、お前ら。見ての通り、今日は新しいテーブルだ」

 JOKERの声は、どこまでも楽しそうだった。

「お前らが、この数日間、必死に泥水を啜りながら開拓してきた、この新しい『地獄』。その答え合わせを、今からしてやろうじゃねえか」


 その、あまりにも不遜な、そしてどこまでもJOKERらしい宣戦布告。

 それに、コメント欄が、爆発した。


『きたあああああああ!』

『王の帰還!』

『味見www JOKERさん、余裕すぎるだろwww』

『待ってたぜ!あんたなら、このクソゲーをどう攻略するのか、見せてくれ!』


 その熱狂をBGMに、彼は淡々と、準備を始めた。

「まずは、これだ」

 彼は、公式マーケットの画面を開くと、検索窓に、一つの単語を打ち込んだ。

試練(しれん)要石(かなめいし)

 そこには、B級探索者たちが、なけなしの金で出品した、数十個のキーストーンが並んでいた。価格は、1個10万円。

 JOKERは、その全てを、何の躊躇もなく、カートへと放り込んだ。

「**試練(しれん)要石(かなめいし)を購入して、**と。まあ、20個もあれば、今日の遊びには十分だろ」


 数百万の金が、一瞬で消える。

 だが、彼の表情は、少しも変わらない。

 彼は、その手に入れた「チケット」をインベントリにしまい込むと、その魂を、切り替えた。

 戦士でも、ネクロマンサーでもない。

 あの、世界の理を破壊した、究極の「矛」。

 スマイト徒手空拳ビルドへと。


「さて、と。行くか」

 彼は、近場のB級ダンジョンのオベリスクで、リフトに入る。

 彼がゲートをくぐった瞬間、彼の全身を、むわりとした熱気が包み込んだ。

 B級の呪い。

 だが、今の彼にとって、それはもはやただの挨拶に過ぎなかった。

 彼の目の前には、黒曜石を削り出したかのような、滑らかな八角形の石柱…オベリスクが、静かに、しかし絶対的な存在感を放って、鎮座していた。

 彼は、そのオベリスクに、一枚のキーストーンを捧げた。

 石柱が、共鳴するように青白い光を放ち、彼の目の前に、特殊な次元への扉…ネファレム・リフトへのポータルが、その口を開いた。


「――ショーの始まりだぜ」


 彼が、その光の渦の中へと、その一歩を踏み出した、その瞬間。

 世界の、歴史が、再び、そして今度こそ決定的に、動き始めた。


 ◇


 リフトの内部は、彼の予想通り、混沌としていた。

 ある区画は、ゴブリンの洞窟のような湿った土の匂いがし、またある区区画は、古竜の寝床のような灼熱の空気に満ちている。

 そして、そこから湧き出てくるのは、レベル1の、あまりにも弱々しいモンスターたち。

「…なるほどな。最初は、こんなもんか」

 JOKERは、その光景に、少しだけ拍子抜けしたような、しかしどこまでも楽しそうな表情で、その拳を構えた。

 そして、彼は叫んだ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 黄金の雷霆が、嵐のように、吹き荒れる。

 スマイトのラッシュで、雑魚敵を掃除しながら、100%まで貯める。

 進捗ゲージが、凄まじい勢いで上昇していく。

 そして、ゲージが100%に達した、その瞬間。

 彼の目の前の空間に、禍々しい紫色の魔法陣が展開された。

 そして、その中心から、一体の、巨大なガーゴイルが、その石の巨体を現した。

 リフトガーディアン。

 だが。

「――終わりだ」

 JOKERの、その冷徹な一言。

 黄金の拳が、ガーゴイルの、その硬い石の心臓を、寸分の狂いもなく、貫いた。

 ボスが召喚される。ワンパンする。

 ガーゴイルは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅した。

 後に残されたのは、絶対的な静寂と、そして彼のARウィンドウにポップアップした、一つの小さな、しかし確かな勝利の証だけだった。

 ポイント+1ゲット。


『うおおおおおお!はっや!』

『ランク1、クリアタイム28秒!世界記録、爆誕!』

『まあ、そうなるよなwww』


 その、あまりにも当然な、そしてどこまでも圧倒的な勝利。

 それに、コメント欄が、祝福の言葉で埋め尽くされる。

 JOKERは、その声援に、満足げに頷くと、ドロップしたランク2のキーストーンを拾い上げ、そしてオベリスクの前へと、帰還した。


「さて、と。次は、お楽しみの時間だな」

 彼は、そう言うと、オベリスクの前で、静かに目を閉じ、そして念じた。

 彼の目の前に、広大な、そしてどこまでも美しい、景品の交換ウィンドウが、ホログラムとして展開される。

 若返りの薬、1億ポイント。

 神話級のユニーク装備の数々。

 その、あまりにも眩しい光景。

 それに、コメント欄が、再び熱狂の渦に叩き込まれた。


『うおおおおお!これが、報酬画面か!』

『やべえ!夢がありすぎる!』


 JOKERは、その神々の宝物庫を、まるでデパートのショーウィンドウでも眺めるかのように、気怠そうにスクロールしていく。

 そして、彼は一つのタブの前で、その指を止めた。

【ペット】。

 彼は、そのタブを開くと、表示された可愛らしい、あるいは禍々しい、様々な霊体のリストを、吟味し始めた。

 そして彼は、その中の一つを、指差した。

 1ポイントで交換できる、緑色の、つぶらな瞳を持つ、カエルの霊体。

 彼は、何の躊躇もなく、その交換ボタンを、タップした。

 彼の足元に、ぽよん、という可愛らしい音と共に、半透明の、緑色のカエルが、その姿を現した。

 カエルは、彼の足に、ぴょんぴょんと飛び跳ね、そしてその肩の上へと、ちょこんと乗った。

 その、あまりにも意外な、そしてどこまでも和む光景。

 それに、JOKERは、ふっと、その口元を緩ませた。


「おっ、意外と可愛いな」


 その、あまりにも人間的な、そしてどこまでも素直な一言。

 それに、コメント欄が、この日一番の、温かい笑いに包まれた。


『wwwwwwwwwwwwwwwww』

『JOKERさん、カエル好きだったのかwww』

『ペット枠、確定だな!』


「いや、別にそういうわけじゃねえが…」

 JOKERは、照れくさそうに、そう言いながらも、その肩の上のカエルを、満更でもない様子で眺めていた。

 そして彼は、再び景品リストへと、その視線を戻した。

 彼の瞳が、ある一点で、ぴたりと止まった。

 そこに表示されていたのは、九本の、美しい黄金の尾を持つ、白銀の狐の霊体だった。

 その、あまりにも気高く、そしてどこまでも美しい姿。

 それに、JOKERの、その眠たげだった瞳が、子供のように、キラキラと輝いた。


九尾(きゅうび)(きつね)?カッコいいじゃねーか。ぜひ、欲しいな」


 その、あまりにも無邪気な、そしてどこまでも正直な、魂の叫び。

 それが、彼の、新たな目標が定まった瞬間だった。

 彼は、ARカメラの向こうの、数百万人の観客たちに、そして自らの魂に、宣言した。

 その声は、新たなゲームの始まりを告げる、ファンファーレだった。


「――よーし、どんどんリフト回すぞ!」


 そこから始まったのは、もはやただのレベリングではなかった。

 ただ、一方的な、そしてどこまでも美しい「蹂躙」だった。

 ランク2、3、5、10…。

 彼は、その圧倒的な火力で、リフトの階層を、凄まじい勢いで、駆け上がっていく。

 そして、その日の配信が終わる頃。

 彼は、20までノンストップで上げ続けていた。

 彼は、その日の成果を、満足げに、そしてどこか誇らしげに、配信画面に表示させた。


「ランク1から、20まで。

 獲得ポイントは、1 + 2 + 3 + … + 20。

 つまり、今日の稼ぎは、210ポイントだ」


 その、あまりにも異常な、そしてどこまでも常軌を逸した、成長速度。

 それに、コメント欄は、もはや意味をなさない絶叫の洪水で、埋め尽くされていた。

 JOKERは、その熱狂をBGMに、静かに、そして満足げに、頷いた。

「…まあ、九尾(きゅうび)までは、まだまだ先が長いがな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ