第377話
それを、嘲笑うかのように。
一人の男が、その産声を上げた。
その日の夜、SeekerNetのライブ配信総合スレに、一つの、あまりにも挑戦的なスレッドが立ったのだ。
【スレッドタイトル:【The Answer】徒手空拳への、俺からの回答。A級上位、蹂躙ショー】
投稿主は、匿名のA級探索者。
だが、そのあまりにも不遜なタイトルは、この国の、全てのトップランカーたちの好奇心を刺激するには、十分すぎた。
配信が始まると、そこに映し出されていたのは、A級探索者らしい、豪華絢爛な隠れ家と、そして一人の、あまりにもアメリカ的な男の姿だった。
年の頃は、40代半ばだろうか。日に焼けた肌、無精髭、そしてその口元に浮かべた、自信に満ち溢れた笑み。その手には、バーボンのロックグラスが握られている。
彼の名は、ジャック・“サイクロン”・ライアン。
かつては海兵隊に所属し、退役後は傭兵として世界中の紛争地帯を渡り歩いてきたという、生粋の戦闘狂。
「――よう、ひよっこども」
ジャックの、そのしゃがれた、しかしどこまでもよく通る声が、スピーカーから響き渡った。
「日本の天才サマのマジックショーは、楽しかったか?結構なことだ。だがな、お遊戯の時間は、終わりだ。今から、お前らに、本物の『戦争』ってもんを、見せてやる」
彼は、そう言うと、バーボンを一気に煽った。
そして、彼は語り始めた。
「**俺のビルドは、デリリウムから出る、**このジュエルで完成した。お前らにも、披露したくてな!」
「まず愛用の指輪これも5億はするぜ!」
名前:
元素を統べる者
(げんそをすべるもの)
レアリティ:
ユニーク (Unique)
種別:
プリズムリング
要求レベル: 30
(暗黙モッド)
全ての元素耐性 +10%
(明示モッド)
敵に付与されている元素状態異常の種類ごとに、ヒットおよび状態異常による元素ダメージが40%増加する
全ての元素耐性 +30%
10%の確率で敵を凍結、感電、発火させる
フレーバーテキスト:
炎は、ただ全てを焼き尽くす獣。
氷は、ただ全てを凍てつかせる牢獄。
雷は、ただ気まぐれに天を裂く狂気。
愚者は、その中から一つを選び、自らの力と勘違いする。
だが、真の王は、その三匹の獣に首輪を付け、玉座の前に跪かせる。
彼らが奏でる不協和音こそ、この世界で最も美しい、破壊の交響曲なのだから。
次に彼が、配信画面に大写しにしたのは、一つの、あまりにも異質で、そしてどこまでも悪魔的な、スモールクラスタージュエルだった。
尋問
クラスタージュエル(小)
ジュエル
シークレットオブサファリングを追加する
痛みは結構な動機ではあるが、
真実を求めるならば、
知られざる痛みへの恐怖に並ぶものはない。
シークレットオブサファリング
発火、冷却、凍結および感電を与えることができない。クリティカルストライクは焦げ、脆弱および消耗を与える
(焦げ: 焦げは、ヒットが与えた火ダメージに基づいて、焦げ状態の敵の元素耐性を最大-30%する。持続時間は4秒)
(脆弱: 脆弱は、ヒットが与えた冷気ダメージに基づいて、脆弱状態の敵が受ける攻撃のクリティカル率を最大+6%追加する。持続時間は4秒)
(消耗: 消耗は、ヒットが与えた雷ダメージに基づいて、消耗状態の敵が与えるダメージが最大20%減少する。持続時間は4秒)
その、あまりにも難解で、そしてどこまでも美しい、究極のシナジー。
それに、スレッドの有識者たちが、戦慄した。
『は!?』
『なんだ、これ!?』
『発火、冷却、感電を、付与できなくなる!?デメリットジュエルかよ!』
『いや、待て!クリティカルストライクが、別の状態異常を付与する…だと…!?』
その混乱の渦の中で、ジャックは、最高の、そして最も不遜な笑みを浮かべた。
「そうだ。俺のクリティカルは、もはやただのダメージじゃねえ。敵の魂そのものを灼き、砕き、そして枯渇させる、三つの呪いだ。だがな、これだけじゃ、まだ足りねえ」
「キーは、トラップやマインで使われる、こいつだ」
彼が、次に表示させたのは、二匹の、小さな機械の蜘蛛が描かれた、スキルジェムだった。
【スキッターボット召喚】。
「こいつらが、俺の代わりに、冷却と感電を、ばら撒いてくれる。これで、『発火、冷却、凍結および感電を与えることができない』というデメリットを、完全に踏み倒すぜ」
静寂。
そして、爆発。
『は!?』
『待て待て待て待て!頭が、追い付かねえ!』
『【シークレットオブサファリング】の効果は、「術者自身が」状態異常を付与できなくなるだけ…。ミニオンが付与する効果には、影響しないのか!?』
『そういうことか!自分のクリティカルで3種類!スキッターボットが自動で2種類!』
『これで、5種類の状態異常への元素ダメージ200%が、取得できるのかよ!』
その、あまりにも鮮やかで、そしてどこまでもルールの外側を突くようなコンボ。
それに、スレッドは、本当の意味での「爆発」を起こした。
もはや、それは賞賛ではない。
一つの、世界の理そのものが、根底から覆された瞬間への、畏敬の念だった。
「――さて、と」
ジャックは、そう言うと、A級上位ダンジョン【天測の神域】の、そのゲートをくぐった。
そして、彼はその神々の領域で、その悪魔のビルドの、本当の力を、世界へと見せつけた。
彼は、その手に、三つの属性のダメージを宿した、特殊な剣を装備していた。
そして彼は、ただ、回った。
スキル、【サイクロン】。
彼は、一つの巨大な、そして元素の竜巻と化した。
その竜巻に触れた、A級の天使たちが、悲鳴を上げる間もなく、その神々しい体を、五色の呪いに蝕まれ、そして光の粒子となって消滅していく。
A級上位を、蹂躙する。
その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも美しい、破壊の光景。
「ハハハ、良い感じだ。こりゃ、S級も見えてきたな」
彼の、そのあまりにも力強い、そしてどこまでも自信に満ちた、勝利宣言。
それに、スレッドは、もはや言葉を失っていた。
ただ、そのあまりにも巨大な「才能」の、その誕生の瞬間を、固唾を飲んで見守るだけだった。
JOKERが支配するこの世界に、全く新しいタイプの「王」が、誕生したのだ。




