第376話
【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1028】
1: 名無しのJOKERウォッチャー
スレ立て乙。
さて、と。今日も、神の御業を拝む時間としますか。
2: 名無しのゲーマー
1
乙。
ああ。もはや、彼の配信は、俺たちの生活の一部だな。
今日は、どこまで行くんだろうな。レベル30は、超えたんだっけ?
3: 名無しのビルド考察家
2
昨日の配信終了時点で、レベル31だ。
信じられん速度だよ。
そして、その配信は、今日もまた、始まった。
【配信タイトル:スマイト徒手空拳ビルド、デルヴ鉱山蹂躙の続き】
【配信者:JOKER】
【現在の視聴者数:4,351,478人】
『きたあああああああ!』
『待ってたぜ!』
その熱狂をBGMに、配信画面に映し出されたのは、デルヴ鉱山の、あの無骨な入り口だった。
そして、その中央で、JOKERが、そのレベル31になったばかりの、しかしすでに神の風格を宿した、徒手空拳のキャラクターを、満足げに眺めていた。
「よう、お前ら。今日のショーの、始まりだ」
JOKERの声は、どこまでも楽しそうだった。
彼は、その日の稼ぎで、さらにいくつかの装備を更新していた。ステータスは、昨日よりもさらに、暴力的にインフレしている。
彼は、デルヴ鉱山を蹂躙しながら、雑談する。
「…で、ビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』だがな。あれは、ただのピアノ・トリオの名盤じゃねえ。あれは、対話だ。三つの魂が、互いの音を探り、そして一つの完璧な調和へと昇華していく、奇跡の記録だ。まあ、お前らには…」
彼が、そのいつもの高尚な音楽談義を続けながら、クローラーを起動させ、闇の底へとその歩みを進めていく。
そして、その光の道に誘われるかのように、闇の中から現れる、おびただしい数のモンスターたち。
彼は、その雑談を止めることなく、ただ片方の拳を、軽く振るうだけ。
スキル、【スマイト】。
ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
黄金の雷霆が、炸裂する。
彼の、そのあまりにも過剰な火力。
それに、レベル32相当のモンスターたちが、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅していく。
そして、その度に。
彼の全身を、黄金の光が、包み込んだ。
【LEVEL UP! Lv.32 → Lv.33】
【LEVEL UP! Lv.33 → Lv.34】
その、あまりにも日常的な、そしてどこまでも常軌を逸した光景。
それに、コメント欄は、もはや驚愕すら通り越して、ただ温かい笑いに包まれていた。
だが、その和やかな空気の中で、一人の視聴者が、最近の世界の大きな「謎」について、問いかけた。
『なあ、JOKERさん。ちょっと、聞きたいんだけどさ』
『あんたが、このデルヴ鉱山のレベリング方法を発見してから、もう結構経つよな。なのに、なんであんた以外の誰も、このビルドを真似しようとしないんだ?デルヴ鉱山レベリング、流行らんな』
その、あまりにも素朴な、そしてどこまでも本質的な疑問。
それに、スレッドの空気が、わずかに変わった。
そうだ。
誰もが、心のどこかで感じていた、その違和感。
あれほどの革命的な発見だったにも関わらず、世界のメタゲームは、驚くほど静かだった。
その、ざわめき。
それに、答えたのは、JOKER本人だった。
彼は、目の前の敵をスマイトの一撃で粉砕しながら、まるで世間話でもするかのように、その世界の残酷な真実を口にした。
「…ああ、それか」
彼の声は、どこまでも冷静だった。
「答えは、シンプルだろ。真似できねえんだよ、誰も」
「このレベリングは、レベル1の時点で、F級の雑魚をワンパンできるだけの初期火力がなけりゃ、ただの自殺行為だ。そして、その火力を出すための『鍵』が、あの【持たざる者】だ。それだけのことだ」
その、あまりにも的確な、そしてどこまでも本質を突いた回答。
それに、スレッドの有識者たちが、同意の声を上げる。
ハクスラ廃人:
ああ、JOKERの言う通りだ。
圧倒的な攻撃力がないと、無理だからなぁ。
あのジュエルがなければ、ただの夢物語だ。
JOKERは、そのコメントを拾うと、さらに続けた。
その声には、この世界の全てを見通しているかのような、絶対的な王者の響きがあった。
「そして、その【持たざる者】が、今、この世界にいくつ存在するか。お前ら、知ってるか?」
彼は、そこで一度言葉を切ると、その指を三本、立ててみせた。
「俺が買い取った1個と、オーディンのアリスの1個と、そして青龍が200億で落札した、あの小鈴とかいう女の子の1個で、世界に3つだけだろ?」
「予想じゃ、もっと増えるかなと思ってたが…。」
その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも独善的な、世界の現状分析。
それに、コメント欄は、戦慄した。
『は!?』
『世界に、3つだけ!?』
『マジかよ…。そんな、希少なアイテムだったのかよ…』
その、絶望的な空気。
その中で、一人の、ギルド関係者を名乗る、匿名の情報屋が、一つの、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも絶望的な「追撃」を、投下した。
811: 名無しのギルド内部情報通
…JOKERの言う通りだ。
だが、お前ら、まだ甘いな。
その「3つだけ」という認識すら、楽観的すぎるぞ。
812: 名無しのゲーマー
811
は!?
どういうことだ!?
815: 名無しのギルド内部情報通
812
ギルドが、この数週間、世界中のデリリウムのボス討伐ログを、徹底的に分析した。
その、最終報告書が、昨日、俺たちアナリストチームの元に回ってきた。
震えろ。
デリリウムのボスは、どうも【持たざる者】を確定でドロップするわけじゃない。
全部で7種類あるユニーク・スモールクラスタージュエルの中から、ランダムに一つをドロップするだけらしいぞ。
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
そして、爆発。
『は!?』
『7分の1!?嘘だろ!?』
『ただでさえ、デリリウムのボス自体、会えるかどうか分からねえのに…』
821: 名無しのギルド内部情報通
ああ。
だから、そもそもドロップしづらいとか、調査結果が出てたぞ。
オーディンと青龍が、あのオークションでそれを手に入れられたこと。
その全てが、もはや天文学的な確率の、奇跡だったというわけだ。
その、あまりにも無慈悲な、そしてどこまでも残酷な真実。
それに、JOKERは、配信画面の向こう側で、ふっと息を吐き出した。
そして彼は、ARカメラの向こうの、言葉を失った数百万人の観客たちに、聞こえるように呟いた。
その声は、どこまでも楽しそうだった。
「――なるほど、そういう事か。」
「B級以上で一日一回会えるなら、相当数会えてそうだが、ランダムドロップなら仕方ないな。」
彼は、そう言って、まるで他人事のように、頷いた。
そして彼は、その口元に、最高の、そして最も不遜な笑みを浮かべた。
「…面白い」
「持たざる者同好会とか、作ろうかな」
その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも場違いな一言。
それに、コメント欄が、ざわめいた。
『は!?』
『同好会!?www』
「ああ」
JOKERは、頷いた。
「俺が、会長な。」
「そして、アリスと、小鈴が、副会長な。」
その、あまりにも独善的で、そしてどこまでも楽しそうな、宣言。
それに、コメント欄は、この日最高の、そしてどこまでも温かい、爆笑の渦に、完全に飲み込まれた。
『wwwwwwwwwwwwwwwww』
『勝手に決めるなwwwwww』
『でも、見たい!その三人だけの、同好会!』
その熱狂の、まさにその頂点で。
ありえない奇跡が、起こった。
JOKERの、そのコメント欄。
そこに、二つの、あまりにも神々しい名前が、同時に、そして静かに、その光を灯したのだ。
アリス@オーディン:
賛成です!
小鈴@青龍:
賛成、です
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
そして、爆発。
JOKER自身もまた、そのあまりにも予想外の、そしてどこまでも愛らしい、二人の副会長からの返答に、そのポーカーフェイスを、完全に崩壊させていた。
「…おっ、見てたか。」
彼は、そう言って、腹を抱えて笑い出した。
「はっはっは!面白い!面白いじゃねえか!」
彼は、その笑い声の余韻の中で、宣言した。
その声は、新たな時代の、幕開けを告げる、ファンファーレだった。
「――なら、決定な!」
「持たざる者同好会、本日、結成だ!」




