第365話
その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、奇妙な静けさと、水面下で沸騰するような熱気に包まれていた。
デリリウム、クラスタージュエル、デルヴ鉱山、化石クラフト。この数ヶ月で、世界の理はあまりにも目まぐるしく、そしてどこまでも面白く変貌を遂げた。探索者たちは、その情報の洪水の中で、自らの現在地を見失い、そして次なる「正解」を求めて、ただ情報の海を漂っていた。
誰もが、次の大きな波を待っていた。
この混沌としたテーブルに、新たな秩序をもたらす、絶対的な「メタ」の到来を。
その、あまりにも大きな期待と、そしてどこか他人任せな空気。
それを、破壊したのは、やはりあの男だった。
その日の午後。
何の前触れもなく、彼の配信は始まった。
【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1021】
1: 名無しのJOKERウォッチャー
おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
始まったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
JOKERが、配信始めた!!!!!!!!!!!!!!!
タイトルが、ヤバい!!!!!!!!!!!!!!!!
その、あまりにも切羽詰まった絶叫。
それに、スレッドは一瞬にして、トップスピードへと加速した。
【配信タイトル:スマイト徒手空拳ビルドでデルヴ鉱山に挑戦…?】
【配信者:JOKER】
【現在の視聴者数:428,119人】
『は!?』
『スマイト!?徒手空拳!?』
『デルヴ鉱山!?どういう組み合わせだよ!』
『また、新しいビルド始めるのか!?ネクロマンサーはどうしたんだよ!』
その熱狂をBGMに、配信画面に映し出されたのは、見慣れた西新宿のタワーマンションの一室ではなかった。
薄暗い、岩と、錆びついた金属の匂いがする、無骨な空間。
そして、その中央で、青白い光を放つ巨大な機械「クローラー」が、静かにその出番を待っている。
デルヴ鉱山の、入り口だった。
そして、そのクローラーの前に、一人の男が立っていた。
神崎隼人――“JOKER”。
だが、その姿は、いつもの彼ではなかった。
その身を包んでいるのは、A級のプレートアーマーでも、禍々しいネクロマンサーのローブでもない。
ただの、みすぼらしい布の服。
レベル1の、初期装備だった。
「よう、お前ら。見ての通り、今日は新しいゲームだ」
JOKERは、ARカメラの向こうの興奮する観客たちに、不敵な笑みを向けた。
「戦士も、ネクロマンサーも、少しやり尽くした。だから、ゼロから始めることにした。本当の、ゼロからな」
彼は、そう言うと、インベントリから一つの、七色に輝く美しい水晶を取り出した。
【魂の水晶】。
彼は、それを躊躇なく、自らの胸へと当てた。
まばゆい光が、彼の全身を包み込む。
彼の魂が、一度リセットされ、そして新たな器へと再構築されていく。
光が収まった時、彼のステータスウィンドウに表示されていた全ての数字が、その輝きを失い、そして最も原始的な、しかし無限の可能性を秘めた「1」という数字へと、回帰していた。
彼は、新キャラクターを作成したのだ。
『うおおおおお!マジで、レベル1になった!』
『魂の水晶、初めて見た!すげえ!』
『ここから、何を始めるってんだよ…!』
その、あまりにも無謀な、そしてどこまでも挑戦的な始まり。
それに、コメント欄が熱狂する中、JOKERは、インベントリから、もう一つのアイテムを取り出した。
それは、小さな、しかし確かな存在感を放つ、スモールクラスタージュエルだった。
「今日の、主役だ」
彼は、そう言って、そのジュエルの詳細な情報を、配信画面に大写しにした。
「持たざる者
スモールクラスタージュエル
ジュエル
ホロウパームテクニックを追加する
フレーバーテキスト:
武器に頼り始めれば、
確実にそれなしでは生きていけなくなる。
ホロウパームテクニック
徒手空拳時は二刀流とみなされる
徒手空拳時に近接スキルのアタックスピードが40%上昇する
徒手空拳時に俊敏10ごとに近接スキルに14から20のアタック物理ダメージが追加される
(徒手空拳: 手袋、メインハンドアイテム、オフハンドアイテムを装備していない状態を徒手空拳と呼ぶ)」
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
そして、その静寂を破ったのは、一人の、あまりにも素直な、魂の叫びだった。
『は!?』
『なんだこれ!?徒手空拳ビルドしろってことか?wwww』
その、あまりにも的確な、そしてどこまでも楽しそうなツッコミ。
それが、引き金となった。
スレッドは、爆発した。
『うおおおおお!マジかよ!』
『素手で戦えってか!熱すぎるだろ!』
『でも、武器も手袋もなしって、どうやってダメージ出すんだよ!』
その、あまりにも当然な疑問。
それに、JOKERは、最高のショーマンの笑顔で、答えた。
「**キーアイテムは、これだと紹介する。**そして、その答えを、今からお前らに見せてやるよ」
彼は、その場で自らの魂の内側…パッシブスキルツリーの広大な星空を開いた。
彼の手元には、まだ使われていない、貴重なギルドクエスト報酬のパッシブスキルポイントが、輝いていた。
「まず、ギルドから貰った、この虎の子の3ポイント。こいつを使って、外縁部のソケットまで、スキルポイントを振る」
彼の指先が、星空をなぞる。
三つの星が、光の線で結ばれ、ツリーの最も外側にある、一つの空っぽのソケットが、その輝きを増した。
そして彼は、そのソケットに、先ほどの【持たざる者】のジュエルを、躊躇なくはめ込んだ。
その瞬間、彼の魂の設計図が、拡張される。
ジュエルから、新たな、小さな星座が生まれ、その中心に、一つの強力な中ノードが、その姿を現した。
【ホロウパームテクニック】。
「そして、レベル1で与えられた、この最初の1ポイント。こいつを、消費して、ホロウパームテクニックを取得する」
彼が、その星に触れた、その瞬間。
彼の、その空っぽだったはずの両の拳に、目に見えない、しかし絶対的な力が宿った。
「――これで、北斗神拳伝承者になれたわけだ」
彼の、そのあまりにも不遜な、そしてどこまでも中二病的な一言。
それに、コメント欄が笑った。
『wwwwwwwwwwwwwwwww』
『お前はもう、死んでいるwwwwww』
『JOKERさん、ノリノリじゃねえかwww』
「だがな、お前ら。まだだ。まだ、足りねえ」
JOKERの声のトーンが、変わる。
それは、もはやただの道化師ではない。
自らのビルドを、神の領域へと引き上げようとする、狂気の科学者の、それだった。
「このビルドの、もう一つの主役。それは、これだ」
彼は、スキルジェムの一覧から、一つの赤い宝石を、指し示した。
【スマイト】。
「こいつは、本来、聖騎士たちが使う、神聖なスキルだ。だが、その要求ステータスは、筋力30。今の俺には、足りねえ」
「だから、こうする」
彼は、再びパッシブツリーを開いた。
そして、残されたギルド報酬の、最後の一つの星を、灯した。
「パッシブポイント1ポイントを、筋力+30に振る。」
「――これで、スマイトが使えるぜ」
その、あまりにも力技な、そしてどこまでも美しい、一点突破。
それに、コメント欄が、感嘆の声を上げた。
だが、彼の狂気のビルド構築は、まだ終わらない。
「そして、ここからが本番だ」
彼の瞳が、このゲームの、本当の「理」を、見抜いていた。
「このビルドの、本当の火力源。それは、筋力じゃねえ。**俊敏(DEX)**だ」
「だから、こうする」
彼は、レベルアップで与えられた、なけなしのステータスポイントを、全て俊敏へと注ぎ込んでいく。
そして、彼はパッシブツリーの、盗賊の領域へと、その手を伸ばした。
「まず、小ノード、俊敏+15を、二箇所取る。これで、俊敏が30プラス。」
「そして、その先にある、これだ」
彼は、一つの巨大な中ノードを、指し示した。
「中ノード【俊敏強化】。俊敏+40と、俊敏を8%増加させる。」
「そして、最後に、これだ。能力値マスタリー。能力値を、5%増加させる」
「これで、基礎値と合わせて、俊敏は88だ。」
彼は、そこで一度言葉を切ると、その口元に、最高の、そして最も獰猛な笑みを浮かべた。
「――126~180の火力だぜ!」
その、あまりにも暴力的なまでの、そしてどこまでも計算され尽くした、ダメージ計算。
それに、コメント欄は、戦慄した。
レベル1にして、すでにF級の雑魚をワンパンできるほどの、異常な火力。
だが、JOKERの、本当の「ショー」は、まだ始まってもいなかった。
「さて、ここからが本番だ」
彼の声が、その場の全ての空気を、支配した。
「鉱山が発見されてから、俺が最初に思ったのは、『レベル1で、鉱山に入ったら、どうなるのか?』だ」
「そして、その答えは、これだ!」
彼は、そう言うと、デルヴ鉱山の、そのマップを、配信画面に大写しにした。
そこに表示されていたのは、信じられないほどの、そしてどこまでも世界の理を嘲笑うかのような、一つの数字だった。
敵のレベル、『1』。
「――うおおおおおおお!そうか!入った時のレベルで決まるから、レベル1相当の敵になるのか!!!」
コメント欄の、一人の視聴者の絶叫。
それが、この世界の、新たな真実が、暴かれた瞬間だった。
スレッドは、爆発した。
『マジかよ!』
『なんだよ、その裏技は!』
『デルヴ鉱山、レベル1で入れば、ただのボーナスステージじゃねえか!』
その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも美しい、攻略法。
それに、世界中が、熱狂した。
そして、その熱狂の中心で。
JOKERは、その新たな人生の、その最初の獲物を、その目に捉えていた。
クローラーの、その光の道の、すぐ脇の闇。
そこに蠢く、一体の、あまりにも弱々しい、レベル1の、闇の怪物。
彼は、その怪物へと、その空っぽの、しかし神の力を宿した拳を、構えた。
そして彼は、ARカメラの向こうの、言葉を失った数百万人の観客たちに、そしてこの世界の全ての神々に、宣言した。
その声は、新たな時代の、幕開けを告げる、ファンファーレだった。
「――じゃあ、鉱山でレベリングタイムだぜ?」
彼が、そのクローラーの起動スイッチを、入れた、その瞬間。
世界の、歴史が、再び、そして今度こそ決定的に、動き始めた。
クローラーが、その重い車体を軋ませながら、闇の底へと、その歩みを進めていく。
そして、その光の道に誘われるかのように、闇の中から、一体、また一体と、おびただしい数の、レベル1のモンスターたちが、その姿を現した。
その数、数百、いや千は下らない。
その、絶望的なまでの物量。
だが、JOKERは動じない。
彼は、その群れの、その中心へと、ただ一人、歩いていく。
そして、彼はその右の拳に、全ての魂を込めた。
スキル、【スマイト】。
ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
もはや、それは拳の音ではなかった。
ただの、純粋な爆発音。
彼の拳が、一体の怪物を捉えた、その瞬間。
黄金の雷霆が、炸裂した。
その、あまりにも理不尽なまでの範囲ダメージ。
それに、彼を中心とした半径数十メートルの、全てのモンスターたちが、飲み込まれた。
そして、その光が収まった時。
そこには、もはや何も残ってはいなかった。
あれほど、絶望的に見えた怪物の軍勢。
それが、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅していた。
ワンパンだった。
静寂。
そして、その静寂を破るかのように。
彼の全身を、これまでにないほど強く、そしてどこまでも濃密な、黄金の光が、包み込んだ。
レベルアップ。
だが、それは一度ではなかった。
【LEVEL UP! Lv.1 → Lv.2】
【LEVEL UP! Lv.2 → Lv.3】
【LEVEL UP! Lv.3 → Lv.4】
【LEVEL UP! Lv.4 → Lv.5】
【LEVEL UP! Lv.5 → Lv.6】
【LEVEL UP! Lv.6 → Lv.7】
【LEVEL UP! Lv.7 → Lv.8】
祝福のウィンドウが、彼の視界に、滝のように、そしてどこまでも連続して、ポップアップし続ける。
たった一度の、デルヴ。
たった一撃の、スマイト。
それだけで、彼のレベルは、一気に8まで上昇したのだ。
その、あまりにも非現実的な、そしてどこまでも常軌を逸した光景。
それに、コメント欄は、もはや言葉を失っていた。
ただ、そのあまりにも巨大な「理不尽」の前に、ひれ伏すしかなかった。
『…なんだ、これ…』
『…なんだよ、これ…』
『ヤバい。ヤバい。完全に、世界の理を壊してるって』
『敵はF級レベルの雑魚敵なのに、密度が半端ないから、凄いスピードでレベルが上がるのか!インチキかよ!!!!!』
その、絶叫と、そして歓喜の、洪水。
その中心で。
JOKERは、その足元に広がる、大量のドロップ品に囲まれて、静かに、その場に座り込んでいた。
そして彼は、満足げに、自らの魂の内側…その、新たに7ポイントもの星が灯った、パッシブスキルツリーを、ただ静かに、吟味していた。
彼の、新たな人生。
その、あまりにも常軌を逸した、そしてどこまでも美しい「蹂躙」が、今、始まった。
その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも狂った、神々への挑戦。
その幕開けを、世界の全てが、ただ固唾を飲んで、見守っていた。
## ステータス (スマイト素手ビルド)
- **レベル:** 8
- **クラス:** なし
- **アセンダンシー:** なし
- **HP:** 244 / 244 `((基礎184 + 清純の元素+40 )`
- **ES:** 0 / 0 `()`
- **MP:** 70 / 70 `((基礎70)`
- **筋力 (Strength):** 35 `((基礎5 + 筋力+30 × 1.05)`
- **体力 (Constitution):** 10
- **敏捷 (Dexterity):** 92 `((基礎12 + 小ノード30 + 俊敏強化40) × 1.13)`
- **知性 (Intelligence):** 8`((基礎8 × 1.05)`
- **精神 (Mentality):** 7
- **幸運 (Luck):** ??
- **ステータスポイント:** 残り: 35
- **パッシブスキルポイント:** 残り: 7`(ギルドパッシブポイント+9/24済み)`
- **HP自動回復:** 0 / 秒 `()`
- **MP自動回復:** 1 / 秒 `(基礎1)`
- **物理ダメージ軽減:** 0%`()`
- **精度 (Accuracy):** +0 `()`
- **移動速度:** +0% `()` ※水銀のフラスコ使用時、さらに+40%
- **攻撃速度:** +0% `()`
- **チャージ上限値:**
- **持久力チャージ:** 3
- **狂乱チャージ:** 3
- **パワーチャージ:** 3
- **耐性値:**
- **火耐性:** 31% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式5%)`
- **氷耐性:** 31% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式5%)`
- **雷耐性:** 31% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式5%)`
- **混沌耐性:** 0% `()` ※アメジストのフラスコ使用時、さらに+35%
### キーストーン (大型パッシブ)
- **【ホロウパームテクニック】:** (1pt)
- 効果:徒手空拳時は二刀流とみなされる
徒手空拳時に近接スキルのアタックスピードが40%上昇する
徒手空拳時に俊敏10ごとに近接スキルに14から20のアタック物理ダメージが追加される
(徒手空拳: 手袋、メインハンドアイテム、オフハンドアイテムを装備していない状態を徒手空拳と呼ぶ)
### 能力値マスタリー
- **【能力値強化】:** (1pt)
- 効果: 能力値5%上昇
### 中ノード (Notable Passives)
- **【俊敏強化】:** (1pt)
- 効果: 俊敏+40 俊敏8%上昇
### 通常パッシブ (小ノード)
- **【回避力ノード】回避力8%上昇**(2箇所, 計2pt)
- **【クラスタージュエルノード】**(1pt)
- **【俊敏ノード】俊敏+15**(2箇所, 計2pt)
## スキル
- **ユニークスキル:**
- **【複数人の人生】:** 複数のビルドを保存・切り替え可能。莫大なコストがかかるため、「有用度1」の大ハズレスキルとされているが、JOKERの【運命の天秤】がその常識を覆す可能性を秘める。
- **【運命の天秤】:** クラフトなどの確率が絡む事象に介入し、奇跡的な結果を生み出す。JOKERの伝説の根幹をなすスキル。
- **カスタムスキル:**
- **【通常技】【スマイト Lv.1】 (消費MP: 7):** 近接攻撃を行い、指定位置または近くの敵に稲妻を落とし範囲ダメージを与える。各対象は一度のみこのスキルがヒットする。もしこのスキルが敵に命中すれば、使用者はオーラを付与する。 オーラにより1から4の追加雷ダメージが付与される。オーラは10%の感電確率を付与する
- **発動中のオーラ/バフ:**
## 装備品
- **武器:**
- **盾:**
- **頭:**
- **胴:**
- **手:**
- **足:**
- **首輪:** 【清純の元素】
- 効果: 全耐性 +5% 最大HP +40 このアイテムに、Lv10の【元素の盾】スキルが付与される。
- **指輪 (左):** 【清純の元素】
- 効果: 【元素の盾】のMP予約コストを100%減少させる。
- **指輪 (右):**
- **ベルト:**
- **インベントリ保管:**
## フラスコ
- **スロット1:** ライフフラスコ (中)
- 効果: HPを回復する。
出血状態で、使用すると、出血を、即座に、解除し4秒の出血耐性を付与する。
- **スロット2:** マナフラスコ (小)
- 効果: MPを回復する。
- **スロット3:** 水銀のフラスコ
- 効果: 使用後4秒間、移動速度が40%上昇する。
- **スロット4:** 解呪のフラスコ
- 効果: 使用時、自身にかかっている呪い(デバフ)を解除する。
- **スロット5:** アメジストのフラスコ
- 効果: 使用後6秒間、混沌耐性が35%上昇する。




