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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
暗黒の鏡編

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354/491

第341話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、奇妙な静けさと、水面下で沸騰するような熱気に包まれていた。


 事件は、いつも通り、最もありふれた、そして最も見過ごされがちな場所で、その産声を上げた。


【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 423】


 111: 名無しの竜狩り

 スレ立て乙。

 はぁ…。今日も一日、【古竜(こりゅう)寝床(ねどこ)】で来訪者待ちだったぜ。

 結局、一度も会えなかった。マジで、確率どうなってんだよ…。


 112: 名無しのA級(お忍び)


 111

 分かる。

 俺もだ。こっちはA級下位の【古代遺跡アルテミス】を5周したが、影も形も見えなかった。

 フラクチャーオーブの欠片集めは、もはやただの苦行だな。


 113: 名無しのC級(見学中)


 112

 A級様が、こんなところに…。

 お疲れ様です…。


 114: 名無しの竜狩り


 113

 まあ、愚痴っててもしょうがねえか。

 今日の周回、始めるわ。

 …ん?


 その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも不穏な一言。

 それに、スレッドの空気が、わずかに変わった。


 115: 名無しのゲーマー


 114

 どうしたんだよ、竜狩りニキ。

 また、変なトカゲでも見つけたか?


 116: 名無しの竜狩り


 115

 いや、違う。

 なんか、入り口に、変なのができてる。

 鏡…?いや、違うな。水面みたいに、揺らめいてる。

 ちょっと、動画撮ってくるわ。


 その書き込みから、数分後。

 彼は、再びスレッドに舞い戻ってきた。

 その手には、この世界の理を、再び根底から揺るがすことになる、一つの爆弾を抱えて。


 121: 名無しの竜狩り

 …おい、誰かこれ知ってるか?

 B級【古竜(こりゅう)寝床(ねどこ)】の入り口に、なんか変な鏡ができてたんだが…


[動画リンク:薄暗い洞窟の入り口。その中央に、周囲の風景を歪ませながら、まるで水面のように銀色に揺らめく、人一人が通れるほどの大きさの楕円形の鏡が、不気味に、しかしどこか美しく浮遊している]


 その、あまりにも異様で、そしてどこまでも幻想的な光景。

 それに、スレッドは爆発した。


『は!?』

『なんだ、これ!?』

『新種のギミックか!?』

『やべえ!絶対、触るなよ!呪われるぞ!』


 その、あまりにも当然な、そしてどこまでも正しい忠告。

 だが、その声は、一人のギャンブル狂の耳には、届いていなかった。


 135: 名無しの竜狩り

 …はっ。面白い。

 俺が、人柱になってやるよ。

 見てろ、お前ら。


 その、あまりにも無謀な、そしてどこまでもヒーロー的な宣言。

 それに、スレッドは、固唾を飲んだ。

 動画の中で、竜狩りのアバターが、その揺らめく鏡…**【デリリウム・ミラー】**へと、ゆっくりと、その手を伸ばしていく。

 そして、その指先が、鏡の表面に触れた、その瞬間だった。


 パリンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 甲高い、ガラスが砕け散るような音。

 鏡は、その美しい姿を維持できず、無数の光の破片となって、砕け散った。

 そして、その破片の中心から、おびただしい量の**【暗黒のデリリウム】**が、まるでダムが決壊したかのように、凄まじい勢いで噴出した。

 乳白色と、漆黒と、そして深い紫色が混じり合った、禍々しい霧。

 それは、一瞬にして、ダンジョンの入り口全体を飲み込み、そしてその勢いを止めることなく、洞窟の奥深くへと、なだれ込むように侵食を始めた。

 竜狩りの、そのライブ映像は、一瞬にしてモノクロームの、悪夢のような風景へと変貌した。


「うわああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 彼の、素直な絶叫。

 それが、この歴史的な祭りの、始まりの合図だった。



 スレッドは、パニックに陥った。

『おい!大丈夫か、竜狩り!』

『なんだよ、これ!ダンジョンが、変形したぞ!』

『逃げろ!早く、ポータルで!』

 その、悲鳴に近い声援。

 だが、その声は、もはや彼には届いていなかった。


 数分間の、ノイズと静寂。

 誰もが、その勇敢な人柱の、あまりにもあっけない最期を覚悟した。

 だが、彼は、生きていた。


 211: 名無しの竜狩り

 …はぁ…はぁ…生きてる…。

 なんだよ、これ…。マジで、地獄だ…。


 彼の、その震える声での報告。

 それに、スレッドは安堵と、そして新たな好奇心で、沸き立った。

 彼は、その悪夢の中で、命からがら走りながら、その世界の新たな「ルール」を、断片的に報告し続けた。


 225: 名無しの竜狩り

 おかしい!敵が、おかしい!

 いつもの竜人族じゃねえ!

 霧の中から、見たこともねえ、ぐにゃぐにゃした化け物が、無限に湧いてきやがる!

 しかも、動きが、速ええ!


 238: 名無しの竜狩り

 クソッ!アイテムが、ドロップしねえ!

 魔石も、装備も、何も出ねえぞ!

 なんだよ、これ!ただの、地獄かよ!

 …いや、待て。

 なんだ、このカウンターは…?

 画面の隅に、なんか数字が増えていく…。


 245: 名無しの竜狩り

 分かったぞ!

 霧が!霧が、後ろから晴れていきやがる!

 立ち止まったら、飲まれる!

 急いで、どんどん敵を倒して、ダンジョンを進む必要があるんだ、これ!

 クソッ!やるしか、ねえ!


 その、あまりにもリアルタイムな、そしてどこまでもスリリングな実況。

 それに、スレッドの住人たちは、もはやただの観客ではなかった。

 彼らは、その場にいるかのように、竜狩りと共に、その悪夢の中を、走り続けていた。

 そして、数十分後。

 その、長い、長い死闘の果てに。

 彼は、ついに、ダンジョンの最深部、ボスの間を駆け抜け、そして入り口へと、生還した。

 彼が、その霧の領域から、最後の一歩を踏み出した、その瞬間だった。


 ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!


 彼の、その足元。

 まるで、壊れたスロットマシンのジャックポットのように、おびただしい数のアイテムが、光の洪水となって、噴き出したのだ。

 数十個のB級魔石。

 十数個の、高価なレア装備。

 そして…。

 その光の山の、その中心で。

 これまで誰も見たことのない、一つの奇妙な宝石が、ひときわ強い輝きを放っていた。

 木の枝のように有機的な装飾が施された、巨大な、ラージサイズのジュエル。

 彼は、そのあまりにも莫大な報酬に、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 そして、彼はその戦利品の山と、そしてその奇妙な宝石のスクリーンショットを、震える指で、スレッドへと投下した。

 その一枚の画像が、この世界の常識を、再び、そして完全に、破壊することになる。



 その、あまりにも衝撃的なレポート。

 それは、SeekerNetを、爆発させた。

 有識者たちが、その戦闘ログと、ドロップ品を、徹底的に分析し、そして戦慄と共に、その結論を導き出した。

「デリリウム」。

 それは、ハイリスク・ハイリターンを極限まで突き詰めた、神々の気まぐれな、新たな「ゲーム」なのだと。

 そして、本当の衝撃は、あの無名のB級探索者が手に入れた【ラージクラスタージュエル】が、ギルドの公式オークションに出品された時に、起こった。


【SeekerNet 掲示板 - クラフト総合スレ Part. 217】


 1: 名無しのクラフトマニア

 おい、お前ら!

 見たか!?

 あの、竜狩りニキが拾った、クラスタージュエル!

 今、オークションに出てるぞ!

 そして、その効果テキストが、公開された!

 震えろ!


 その書き込みと共に、一枚の画像が貼り付けられた。

 そのテキストを読んだ、全てのクラフター、全てのビルド研究家が、その場で崩れ落ちた。


 効果:

 パッシブスキルツリーの外縁部にあるソケットにのみ装着可能。装着すると、ツリーを拡張し、ランダムで8~12の新たなパッシブスキルを生成する。

 追加されたスキル群には、2つのジュエルソケットが含まれる。

 このジュエルには、『このジュエル内の小ノードは、ミニオンのダメージが10%上昇する』というエンチャントが付与されている。


 静寂。

 そして、爆発。


『は!?』

『パッシブツリーを、拡張する!?』

『自分で、ツリーを、作れるのかよ!?』

『なんだよ、これ!なんだよ、これ!』


 その熱狂の、まさにその頂点で。

 あの、竜狩りのジュエルを、一人のA級クラフターが、数千万円という、破格の値段で落札した。

 そして彼は、歴史的なクラフト配信を、始めた。

 彼は、そのクラスタージュエルに【混沌のオーブ】を、何度も、何度も、使用した。

 そして、ついに、一つの「神の組み合わせ」を、全世界に見せつけたのだ。

 そのジュエルに、付与された、新たなMOD。

 それは、『このジュエル内の中ノードに、【憤怒(ふんぬ)指揮官(しきかん)】を追加する』。

 そして、もう一つ。

『このジュエル内の中ノードに、【新た(あらた)なる脅威(きょうい)】を追加する』。

 一つのジュエルの中に、二つの、本来であれば決して両立することのなかった、強力な中ノードが、同時に存在している。

 その、あまりにも冒涜的で、そしてどこまでも美しい光景。


 掲示板は、爆発した。

「好きな強い中ノードを、重複して取る事が出来る!」

「まさに、パッシブツリーの革命だ!」

 ビルド構築の、常識が、完全に覆された瞬間だった。


 その日を境に、世界のメタゲームは、完全に変わった。

 探索者たちの目的は、もはやただ強いユニーク装備を拾うことではない。

 自らの、魂の設計図そのものを、自らの手で、無限に拡張していくこと。

 その、あまりにも深く、そしてどこまでも面白い、新たな「沼」へと、世界の全ての人間が、その身を投じていくことになる。

 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも混沌とした、新時代の幕開けを。



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