第340話
【物語は10年前、ダンジョンが現れる当日に戻る】
【ダンジョン出現後、9ヶ月経過後】
【2ch 掲示板(後のSeekerNet) - C級ダンジョン総合スレ Part. 102】
511: 名無しのC級戦士
スレ立て乙。
はぁ…。今日も一日、D級墓地で骨拾いだったぜ。
B級の壁、マジで厚すぎだろ。耐性装備、高すぎるんだよ…。
512: 名無しのC級魔術師
511 乙。
分かる。俺も、C級の【嘆きの聖歌隊】で、もう一週間足踏みしてる。
あそこのガーゴイルと幽霊のコンボ、ソロじゃ無理ゲーだ。
誰か、腕のいいタンクかヒーラー、紹介してくれねえかな…。
513: 名無しのC級盗賊
512
なあ、お前ら。
ちょっと、面白い噂、聞いたことあるか?
最近、C級の上位層の間で、密かに話題になってるらしいんだが。
なんか、時給制でパーティをサポートしてくれる、謎の支援専門の女の子がいるらしい。
514: 名無しのゲーマー
513
は?支援専門?ヒーラーってことか?
時給制って、いくらだよ。
515: 名無しのC級盗賊
514
それが、ヒーラーとはちょっと違うらしい。
なんでも、オーラを提供してくれるんだとよ。
それも、こっちがリクエストしたオーラを、好きなように3つも。
料金は、最低一時間1万円からで、ドロップも折半らしいがな。
516: 名無しのC級戦士
515
は!?
オーラ3つ!?嘘だろ!
【迅速のオーラ】と【憤怒のオーラ】、どっちもMP50%予約だぞ!?
二つ張っただけで、MP枯渇するじゃねえか!
釣り乙。
517: 名無しのビルド考察家
516
いや、待て。
もし、それが本当なら、話は変わるぞ。
例えば、タンクが不足しているパーティに、【決意のオーラ】と【活力のオーラ】、それに加えて【純度のオーラ】まで提供できるとしたら?
そのパーティの生存率は、劇的に跳ね上がる。
C級ですら、B級に匹敵するほどの耐久力を手に入れることになる。
…もし、本当ならな。
その、あまりにも非現実的で、そしてどこまでも甘美な噂。
それに、スレッドは「釣りだろ」「詐欺じゃねえの?」といった、懐疑的な声で溢れかえっていた。
誰もが、そんな奇跡が存在するはずがないと、信じていた。
その、停滞した空気を、断ち切るかのように。
一つの、あまりにも生々しい、そしてどこまでも興奮に満ちた書き込みが、投下された。
535: 名無しのC級戦士@昨日クリア組
…おい、お前ら。
釣りじゃねえぞ。
536: 名無しのゲーマー
535
!?
538: 名無しのC級戦士@昨日クリア組
ああ、その噂はガチだぜ?
俺が、その本人だ。
昨日、俺のパーティ、C級【嘆きの聖歌隊】のボス部屋で、半壊状態だったんだ。
もうダメだって、諦めかけてた。
そしたら、偶然、その子とダンジョンの中で会ってな。
ダメ元で、声をかけてみたんだよ。
そしたら、本当に来てくれた。
541: 名無しのC級魔術師
538
kwsk!
545: 名無しのC級戦士@昨日クリア組
ああ。
本当に、まだ中学生くらいの、小柄な女の子だった。
物静かで、ほとんど喋らない。
俺たちが、ボロボロなのを見て、「お手伝い、しましょうか?」って、それだけ。
俺は、藁にもすがる思いで、「【決意のオーラ】と【活力のオーラ】、それと【迅速のオーラ】をお願いします!」って頼んだ。
そしたら、彼女、こくりと頷くだけでな。
その手に持ってた、小さな旗が描かれた杖を、静かに地面に突き立てたんだよ。
その瞬間、俺たちの全身を、三色の神々しい光が包み込んだ。
マジで、一瞬だった。
MPが枯渇する様子も、全くなかった。
548: 名無しのC級盗賊
545
マジかよ…。
551: 名無しのC級戦士@昨日クリア組
ああ、マジだ。
その後のことは、もう言うまでもねえだろ。
俺の防御力は、B級のタンク並みに跳ね上がり、アタッカーの攻撃速度は、目で追えねえくらいになった。
あれほど苦戦してたガーゴイルと幽霊の群れが、冗談みてえに溶けていったよ。
圧勝だった。
報酬は、約束通り時給とドロップ折半で払ったが、安すぎるくらいだったぜ。
なんでも、小遣い稼ぎに、こうして時々ダンジョンに潜ってるらしい。
もう、C級のダンジョンにも、普通に来てるみたいだぞ。
各種好きなオーラを3つ提供してくれるってのも、本当だった。
その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも具体的な体験談。
それに、スレッドの空気は、完全に変わった。
懐疑は、驚愕へ。そして、驚愕は、純粋な興奮へと。
577: 名無しのビルド考察家
…信じられん。
だが、それが事実だとしたら、一つの大きな謎が残る。
ていうか、オーラ3種とか、MP大丈夫なのか?
50%予約オーラ二つに、固定値予約オーラ一つ。
パッシブで、よほどMP予約効率を積んでいない限り、不可能だ。
それに、まだ中学生だろ?レベルも、たかが知れてる。
パッシブポイントも、足りるはずがない。
一体、どんなカラクリなんだ…?
その、あまりにも本質的な、そして誰もが抱く疑問。
それに答えたのは、再び、あのC級戦士だった。
彼の書き込みは、この世界の、新たな神話の始まりを告げる、ファンファーレとなった。
591: 名無しのC級戦士@昨日クリア組
ああ、それだよ。
俺も、気になって、本人に直接聞いてみたんだ。
「お嬢ちゃん、なんでそんなにオーラ張れるんだ?」ってな。
そしたら、彼女、少しだけ困ったように首を傾げて、こう言ったんだよ。
「私の、スキルですから」って。
俺が、さらに食い下がったらな。
彼女、少しだけ躊躇った後、小さな、しかしどこまでも透き通った声で、教えてくれた。
「…いやー、本人と話をしたけど、SSS級スキルらしいぜ?」
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
スレッドの、全ての時間が止まった。
そして、次の瞬間。
爆発した。
『は!?』
『SSS!?!?』
『嘘だろ!?存在するのかよ、そんなランク!』
621: 名無しのC級戦士@昨日クリア組
ああ。俺も、聞き間違いかと思ったよ。
でもな、彼女のあの瞳。あれは、嘘をついてる人間の目じゃなかった。
詳しくは話をしなかったけど、SSS級というのは聞いたぜ。
それ以上は、何も教えてくれなかった。
ただ、静かに微笑んで、「お代は、結構です。皆さんの、助けになれたのなら」って言って、去っていったよ。
…まるで、聖女様みたいだったぜ。
その、あまりにも荘厳で、そしてどこまでも気高い、伝説の誕生。
それに、スレッドはもはや、制御不能の熱狂の坩堝と化した。
誰もが、その名も知らぬ、中学生の少女の姿を、それぞれの心に思い描き、そして賞賛の言葉を送り続けた。
『軍旗の聖女だ…』
『オーラの女神様だ…』
その日、この世界の片隅で。
一つの、新たな神話が、確かに産声を上げたのだ。
その少女の名が、鳴海詩織であることを。
そして、彼女がこれから、この世界の運命を大きく左右する、重要なプレイヤーの一人となることを。
まだ、誰も知らなかった。




