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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
来訪者編

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343/491

第331話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、奇妙な静けさと、水面下で沸騰するような熱気に包まれていた。

 数日前、あのJOKERがB級中位ダンジョンで遭遇したという、謎の青い人型存在…通称「来訪者」。そして、彼がドロップしたという、鑑定不能の奇妙なアイテム【フラクチャーオーブの欠片】。

 その配信のログは、瞬く間に世界中を駆け巡り、あらゆるビルド考察家や情報屋たちが、不眠不休でその分析にあたっていた。

 だが、答えは出なかった。

 あまりにも、情報が少なすぎたのだ。

 世界の空気は、新たな時代の幕開けを前にした、嵐の前の静けさのように、ただ張り詰めていた。


 その静寂を、最初に破ったのは、やはり現場の探索者たちの、生々しい絶叫だった。


【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 421】


 1: 名無しの竜狩り

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 出た!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 マジで、出やがった!!!!!!!!!!!!!!!

 B級【古竜(こりゅう)寝床(ねどこ)】の最深部で、あの青いオバケに遭遇したぞ!!!!!!!!!!!!!!!


 2: 名無しのC級(見学中)


 1

 マジかよ!

 JOKERの配信で見たやつか!?


 3: 名無しの竜狩り


 2

 ああ、間違いねえ!

 いきなり空間が歪んで、無音で出てきやがった!

 そしたら、見たこともねえキモいモンスターを、無限に召喚しやがる!

 俺のパーティ、半壊させられたぞ!

 なんとか全部倒したら、JOKERの時と同じように、すうっと消えていきやがった…。


 4: 名無しのゲーマー


 3

 で、でも、ドロップは!?

 ドロップは、どうだったんだよ!


 5: 名無しの竜狩り


 4

 ああ、それがこれだ…。


[画像:インベントリ画面のスクリーンショット。【混沌(こんとん)のオーブの欠片(かけら)】x3、【変化(へんか)のオーブの欠片(かけら)】x5、【高貴(こうき)のオーブの欠片(かけら)】x1が、寂しげに並んでいる]


 …これだけだ。

 欠片ばっかり。

 正直、あの死闘に見合う報酬とは、到底思えねえ…。


 その、あまりにも生々しい、そしてどこか失望に満ちた報告。

 それが、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。

「俺も見た!」「A級下位の【古代遺跡アルテミス】にも出たぞ!」「こっちも欠片だけだった…」

 B級以上の、あらゆるダンジョン。

 その、あらゆる場所で、あの青い来訪者が、まるで気まぐれな神のように、その姿を現し始めたのだ。

 そして、彼らが残していくのは、決まって、あのささやかな、しかしどこか期待を裏切るような、オーブの「欠片」だけだった。


 スレッドには、当初の熱狂から一転、冷静な分析と、そして深い溜息が混じり合った、奇妙な空気が流れ始めた。


 311: 名無しのビルド考察家

 …なるほどな。

 ようやく、データが揃ってきた。

 来訪者の出現条件は、B級以上のダンジョンで、極めて低い確率でのランダムエンカウント。一日一回会えるかどうかという確率だ。

 そして、そのドロップテーブルの99%以上は、各種オーブの欠片。

 20個集めれば、確かに一つのオーブにはなる。だが…。


 312: ハクスラ廃人


 311

 ああ、割に合わねえな。

 正直、欠片のドロップは微妙だ。

 あいつが召喚するモンスターの群れと戦う時間とリスクを考えたら、普通にそのダンジョンを周回して、魔石を売って、マーケットでオーブを買った方が、よっぽど効率が良い。

 これは、ただのハズレテーブルだ。


 その、あまりにも的確な、そしてどこまでも冷徹な結論。

 それに、スレッドは諦観の空気に包まれた。

 JOKERが引き当てた、あの大量の欠片は、ただのビギナーズラック。

 来訪者とは、ただの、少しだけ珍しいだけの、しかし何の旨味もない、新種のエリートモンスター。

 誰もが、そう結論付けようとしていた。

 その、停滞した空気を、再び断ち切ったのは、やはり、あの男の、一つの書き込みだった。


 325: ハクスラ廃人

 …だがな。

 一つだけ、気になることがある。

 あのJOKERが拾った、謎の欠片。

【フラクチャーオーブの欠片】。

 あれの報告が、まだ、世界のどこからも上がってきていない。

 もし、万が一。

 あの欠片が、このクソみてえなテーブルの、たった一つの「大当たり」だったとしたら…?


 その、あまりにも悪魔的で、そしてどこまでもギャンブル心をくすぐる、仮説。

 それに、スレッドの空気が、再び変わった。

 そうだ。

 まだ、終わってはいない。

 このゲームの、本当の「当たり」は、まだ誰も見ていないのだ。

 そして、その議論は、新たな、そしてより専門的なスレッドへと、その舞台を移していく。


【SeekerNet 掲示板 - クラフト総合スレ Part. 216】


 1: 名無しのクラフトマニア

 スレ立て乙。

 さて、賢者たちの時間だ。

 例の、JOKERがドロップしたという【フラクチャーオーブの欠片】。

 あれの、正体について、本気で語ろうぜ。

 まだ誰も完成品を持っていない以上、ここにあるのはただの憶測だ。だが、その憶測こそが、俺たちの仕事だろ?


 2: 名無しのビルド考察家


 1

 乙。

 まず、名前からして不穏だ。「フラクチャー(Fracture)」。破壊、骨折、分裂。何かが「壊れる」ことに関係するオーブなのは、間違いないだろう。


 3: 名無しの元ギルドマン@戦士一筋


 2

 うむ。

 だが、それがどういう意味を持つのか…。全く、見当がつかんな。

 アイテムを、文字通り破壊するだけの、呪いのオーブか?

 それにしては、ドロップ率が低すぎる。

 何か、我々の理解を超えた、特別な意味があるはずだ。


 4: ハクスラ廃人


 3

 だよな。

 俺も、昨日の夜からずっと考えてるんだが、全く答えが出ねえ。

 混沌のオーブがMODをランダムに書き換えるように、こいつも何かをランダムにするんだろうが…。

 何をだ?ソケットの数か?リンクか?

 いや、それなら既存のオーブがある。

 全く新しい概念のクラフトアイテム。それだけは、確かだ。


 5: ベテランシーカ―


 4

 皆さん、一つだけ確かなことがあります。

 それは、ギルドの最高レベルのデータベースにも、このオーブに関する情報が一切存在しないということです。

 つまり、これは、我々人類が初めて手にする、未知の「理」。

 その効果が、祝福であるか、呪いであるか。

 それを知るためには、ただ一つしか方法はありません。


 その、あまりにも静かで、そしてどこまでも真理を突いた一言。

 それに、スレッドの全ての住人が、息を呑んだ。

 そして、そのベテランシーカ―の言葉を引き継ぐかのように。

 一人の、名もなき探索者が、その魂の叫びを、スレッドへと投下した。


 288: 名無しのB級タンク

 ああ、そうだよな…。

 理屈こねてても、しょうがねえ。

 誰か20個集めてフラクチャーオーブを手にするんだ?

 それしか、ねえよな!


 その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも本質的な、挑戦状。

 それが、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。

『うおおおおお!そうだ!』

『誰が、最初に神の領域にたどり着くのか!』

『俺が、なってやる!』


 その熱狂の、まさにその中心で。

 あの、百戦錬磨のベテランたちが、その興奮を隠しきれない様子で、その声を上げた。

 彼らの言葉は、この新たな時代の幕開けを告げる、ファンファーレだった。


 815: 元ギルドマン@戦士一筋

 …ふん。面白い。

 実に、面白いじゃねえか。

 これだから、この世界は、やめられん。


 821: ハクスラ廃人

 ああ、まったくだぜ!

 エッセンス、宿命のカードに引き続き、来訪者かよ。この世界は本当に飽きないな。

 最高の、クソゲーだ!


 828: ベテランシーカ―

 ええ。

 欠片のドロップは正直微妙だけど、フラクチャーオーブの正体が気になるぜ。

 この、謎を解き明かす瞬間の、高揚感。

 これこそが、我々探索者の、報酬なのだから。


 その、あまりにも力強い、そしてどこまでも楽しそうな、宣言。

 それに、スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。

 誰もが、その未知なるオーブの、その甘美な謎の虜になっていた。

 そして、その熱狂は、やがて一つの、巨大な「渇望」へとその姿を変えていく。


 1011: 名無しのA級富豪

 …おい、お前ら。

 誰か、【フラクチャーオーブの欠片】、持ってねえか?

 言い値で買うぞ。

 一個、1億円でどうだ?


 その、あまりにも暴力的で、そしてどこまでも純粋な、欲望の書き込み。

 それが、この新たなゴールドラッシュの、始まりの合図だった。

 欠片を、集めろ。

 20個集めて、この世界の、誰も見たことのない奇跡を、その手で作り出すのだ。

 その熱狂は、もはや誰にも止められない。

 世界の、全てのB級以上の探索者が、その日、一つの共通の夢を見た。

 あの、青い来訪者と出会い、そしてその手から、世界の理を砕く、あの禁断の欠片を、手に入れる夢を。

 新たな、ゴールドラッシュ。

 その、あまりにも静かで、そしてどこまでも熾烈な、競争の時代の幕開けだった。



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