表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
過去・腐敗の領域初遭遇編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

329/491

第317話

物語(ものがたり)は10(ねん)(まえ)、ダンジョンが(あらわ)れる当日(とうじつ)(もど)る】

【ダンジョン出現(しゅつげん)()、5ヶ(げつ)経過後】


【2ch 掲示板(後のSeekerNet) - C級ダンジョン総合スレ Part. 92】


 112: 名無しの実況民A

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ボス部屋、着いたぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 D-SLAYERS、ついに、この地獄の最深部にたどり着いた!!!!!!!!!!!!!!!


 113: 名無しのゲーマー


 112

 うおおおおお!マジかよ!

 息もつかせねえ展開だな!

 で、ボスは!?ボスは、どんなやつなんだよ!


 115: 名無しの実況民B

 …やばい。

 …やばいぞ、これ…。

 今まで、俺たちが見てきたどのモンスターとも、違う…。


 その、あまりにも不穏な書き込み。

 それに、スレッドの全ての住人が、息を呑んだ。

 ギルドの公式ドローンが映し出すライブ映像。その画面は、禍々しい紫色の瘴気が渦巻く、巨大なドーム状の空間を映し出していた。

 そして、その広間の中心。

 それは、いた。


 高さ10メートルはあろうかという、威圧的な巨体。

 錆びつき、肉塊に侵食された無骨な装甲。

 その中央で、不気味な赤い光を放つ巨大な単眼のレンズ。

 それは、まるで地獄の底から蘇った古代の戦争機械。

 あるいは、悪魔と契約を交わした哀れな機械の成れの果て。


 その、あまりにも異様で、そしてどこまでも絶望的なボスの姿。

 それを、SeekerNetの掲示板で、リアルタイム実況しながら見守っていた、数万の視聴者たちが、同時に、目撃した。

 そして、彼らは気づいた。

 これが、自分たちの知る、C級のボスなどでは、断じてないということに。


『なんだ、あれは…』

『嘘だろ…?あんなの、聞いてねえぞ…』


 その絶望的な空気の中で、鬼塚宗一率いるD-SLAYERSは、その満身創痍の体で、その巨大な悪魔と対峙していた。

 彼らの全身からは、おびただしい数の傷口から、血が流れ落ちている。

 だが、その瞳には、一切の恐怖の色はなかった。

 ただ、自らの運命と、そしてこの国の未来を賭けて、この理不尽なテーブルに、最後まで食らいついてやるという、鋼鉄の意志だけが宿っていた。


 戦いの火蓋は、あまりにも静かに、そして唐突に切って落とされた。

 巨大なボスは、その巨体に似合わないほど滑らかな動きで、その右腕を、ゆっくりと持ち上げた。

 その腕の先端に装備されているのは、城壁すらも粉砕するという、巨大なプラズマキャノン。

 その砲身が、じりじりと、D-SLAYERSの一人、最も若い隊員である佐々木へと向けられていく。

 そのあまりにもゆっくりとした動き。

 だが、その動きの中に、鬼塚は絶対的な「死」の予感を感じ取っていた。

 彼の、戦場で培われた超感覚が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。

(…ダメだ)

(あれは、当たったら、死ぬ)


 その予感が、脳内を駆け巡った、その瞬間。

 鬼塚の、その喉から、これまでにないほどの、絶叫がほとばしった。


「――全員、敵の動きを確認!!!!」

「全力で避けろ!!!!後方部隊は、超遠距離まで退避!!!!」


 その、あまりにも切羽詰まった、隊長の魂の叫び。

 それに、隊員たちは、思考よりも早く、その体が反応した。

 彼らは、その場から一斉に、左右へと飛び退いた。

 そして、そのコンマ数秒後。

 ボスが、牙を剥いた。

 プラズマキャノンから、一条の、全てを焼き尽くす純粋な破壊の奔流が、放たれた。

 それは、もはやレーザー砲ではなかった。

 空間そのものを、引き裂く、神の怒り。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 凄まじい轟音と共に、光の奔流が、先ほどまで佐々木がいた場所を、通り過ぎていく。

 そして、その後方の壁に、巨大なクレーターを穿った。


「…はぁ…、はぁ…」

 佐々木は、その場で尻餅をつき、荒い息を繰り返していた。

 彼は、確かに避けたはずだった。

 だが。

 彼の視界の隅、ARウィンドウに表示された自らのHPバー。

 それが、信じられないほどの速度で、その輝きを失っていく。

 100%、90%、80%…。

 そして、10%で、ぴたりと止まった。

 一瞬で、HPが9割、吹き飛んだのだ。

 彼は、自らの体を見下ろした。

 だが、どこにも怪我はない。

 ただ、その魂そのものが、根こそぎ削り取られたかのような、絶対的な虚脱感だけが、そこにあった。

 彼は、ただ呆然と、その場に座り込むことしかできなかった。


 その、あまりにも理不尽な光景。

 それを、掲示板の視聴者たちも、そして霞が関の対策本部で戦況を見守っていた政府関係者たちも、同時に目撃していた。

 阿鼻叫喚。

 掲示板は、もはや意味をなさない絶叫の洪水で、埋め尽くされた。

 対策本部のオペレーションルームでは、アナリストたちが悲鳴に近い声を上げていた。

「HP、9割消失!被弾は、していません!レーザーの余波だけで、これほどのダメージが…!?」

「なんだ、この怪物は…!?」


 その混沌の中心で。

 鬼塚は、その唇を噛み締めていた。

 そして、彼は叫んだ。

「佐々木を、下げろ!退避!退避だ!」

 だが、その声は、あまりにも遅すぎた。

 ボスの、巨大な単眼のレンズ。

 それが、再び、その動きを止めた佐々木へと、ゆっくりと、しかし確実に、向けられていく。

 二射目が、来る。

 誰もが、その若い英雄の、あまりにもあっけない最期を、覚悟した。

 だが、その絶望の、まさにその中心で。

 一つの、巨大な影が、動いた。

「――俺が、やる」

 その、低い、しかしどこまでも頼もしい声。

 部隊の、最年長であり、そして最強の盾役である、ベテランの曹長だった。

 彼は、その巨大な塔の盾を構えると、佐々木の前に、仁王立ちになった。

 そして、彼はその全ての攻撃を、その一身に受け止める覚悟を決めた。


「――馬鹿野郎!」

 鬼塚の、その悲痛な叫び。

 それと、二射目のレーザーが放たれるのは、ほぼ同時だった。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 光の奔流が、曹長の、その鋼鉄の盾を、完全に飲み込んだ。

 凄まじい、衝撃。

 だが、盾は砕けない。

 彼の、B級レア等級の、その最強の盾が、その神の一撃を、確かに受け止めていた。

 だが、その代償は、あまりにも大きかった。

 彼のHPバーもまた、佐々木と同じように、一瞬で9割を失い、そして彼はその場で、膝から崩れ落ちた。

 怪我こそないが、呆然としている。

 二人、戦闘不能。


 レーザーのターンは、終わった。

 だが、本当の地獄は、ここからだった。

 ボスは、そのプラズマキャノンを、ゆっくりと格納すると、代わりに、もう片方の腕を、持ち上げた。

 そこにあるのは、巨大な、そしてどこまでも無骨な、鉄のハンマーだった。

 ボスは、そのハンマーを、天へと振りかぶる。

 大振りの、力を貯めるような動き。

 その、あまりにもゆっくりとした動きの中に、鬼塚は、これまでに感じたことのないほどの、純粋な殺意が溢れ出ているのを感じていた。

 彼は、即座に、このクソゲーの、唯一の攻略法を、見つけ出していた。


「――全員、接近戦をするぞ!」

 彼の、その絶叫。

 それは、もはやただの命令ではなかった。

 この、絶望的なテーブルで、生き残るための、唯一の賭けだった。

「遅れてたら、死ぬから、付いてこい!」

 彼は、その言葉と同時に、地面を蹴った。

 一直線に、ボスの、その巨大な懐へと。

 他の、まだ動ける隊員たちもまた、その隊長の覚悟に応えた。

 彼らは、雄叫びを上げながら、その死地へと、その身を投じていく。

 そして、彼らがボスの足元へと到達した、その瞬間。

 巨大なハンマーが、振り下ろされた。

 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 凄まじい、地響き。

 彼らが、先ほどまでいた場所が、巨大なクレーターへと変わる。

 だが、彼らは、無傷だった。

 完璧な、タイミングでの、回避。


 そして、彼らの、反撃が始まった。

 彼らは、その無防備なボスの、足や、胴体を、その手に持つ長剣で、嵐のように、打ち据えていく。

 ガキン、ゴキンと、金属の断末魔が響き渡る。

 だが、その手応えは、あまりにも軽い。

 ボスの、巨大なHPバー。

 それが、わずかに、本当にわずかに、その輝きを失っただけだった。

 5%。

 たった、5%しか、削れていない。


 その、あまりにも絶望的な事実。

 それに、隊員たちの顔に、一瞬だけ、影が差した。

 だが、その絶望を、隊長の、狂気的なまでの笑い声が、かき消した。


「…はっ、はははははははははははははははっ!」

 鬼塚は、笑っていた。

 血の味のする口の中で、彼は心の底から楽しそうに、笑っていた。

 そして彼は、ARカメラの向こうの、言葉を失った政府関係者たちに、そしてこの世界の全ての神々に、宣言した。

 その声は、絶対的な、そしてどこまでも凶暴な、王者のそれだった。

「――この、針の穴を通すような行動を、あと19回、か」

「……やってやろうじゃねえか」

 彼の、その凶暴そうな笑み。

 それが、この地獄の、本当の始まりを告げる、ファンファーレとなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ