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ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物  作者: パラレル・ゲーマー
過去・腐敗の領域初遭遇編

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328/491

第316話

物語(ものがたり)は10(ねん)(まえ)、ダンジョンが(あらわ)れる当日(とうじつ)(もど)る】

【ダンジョン出現(しゅつげん)()、5ヶ(げつ)経過後】


【2ch 掲示板(後のSeekerNet) - C級ダンジョン総合スレ Part. 91】


 811: 名無しの実況民A

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 始まったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ギルドの公式配信!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

【公式LIVE】C級ダンジョン【嘆きの聖歌隊】異常領域調査!!!!!!!!!!!!!!!


 812: 名無しのゲーマー


 811

 うおおおおお!マジかよ!

 仕事サボって見てて良かった!


 813: 名無しのC級戦士


 811

 今、ゲート前にいるんだが、とんでもない物々しさだぞ…。

 機動隊が、完全にダンジョンの入り口を封鎖してる。

 俺たち一般人は、一歩も入れねえ。

 本当に、政府が動いたんだな…。


 815: 名無しの実況民B

 配信、始まった!

 ドローン映像だ!うわ、画質めっちゃ綺麗!

 …ん?

 なんだ、こいつら…?


 その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも困惑に満ちた一言。

 それに、スレッドの全ての住人が、その視線をモニターへと集中させた。

 そこに映し出されていたのは、彼らがこれまで一度も見たことのない、あまりにも異質な、探索者の一団だった。


 ◇


 C級ダンジョン【嘆きの聖歌隊】、三階層目。

 その、かつては荘厳だったであろう礼拝堂の回廊は、今や、血管のように脈打つ紫色の瘴気に覆われ、壁の大理石は、まるで病んだ肉のように、ぬめりを帯びた有機的な物質へと変貌していた。

 その、冒涜的な光景の中を、十数人の男たちが、完璧なフォーメーションを組んで、静かに、そして確かな足取りで進んでいく。

 彼らの身を包んでいるのは、見慣れたゴブリンレザーでも、オークプレートでもない。

 自衛隊の迷彩服の上に、特殊な合金で作られた黒一色のプロテクターを装着し、その頭には、通信機器が内蔵されたフルフェイスのヘルメット。その手には、魔力を帯び、青白い光を放つ最新鋭のレア等級の剣と盾が握られている。

 彼らの動きには、一切の無駄がない。

 一切の、私語もない。

 ただ、ヘッドセットを通じて交わされる、無機質なコードサインだけが、その静寂を切り裂いていた。

 彼らは、冒険者ではない。

 兵士だ。

 国家が、その威信をかけて作り上げた、最初の「怪物」。

 陸上自衛隊、ダンジョン特殊戦略部隊…通称『D-SLAYERS』。


「――アルファより、ブラボーへ。前方50メートル、敵性存在を確認。数は5。交戦許可を求む」

 部隊の先頭を進んでいた斥候役の隊員が、その低い声で報告する。

 隊長である鬼塚宗一は、その報告に、ヘルメットの奥で、その鋭い瞳をわずかに細めた。

「…こちら、ブラボー。許可する。セオリー通り、各個撃破。被害は、最小限に抑えろ」

「「「了解」」」


 その、あまりにも冷静な、そしてどこまでもプロフェッショナルなやり取り。

 その直後だった。

 回廊の曲がり角から、五体の、禍々しいオーラを放つ影が現れた。

 腐敗した、骸骨の司書。

 その空虚な眼窩は、憎悪の赤い光を灯し、その骨の手の先には、紫色の混沌の魔力が渦巻いていた。

 彼らが、その魔力を解放しようとした、その瞬間。

 D-SLAYERSの、神速の制圧が始まった。

 前衛の盾役二人が、巨大な塔の盾を構え、完璧な壁を形成する。

 そして、その壁の隙間から、アタッカーである鬼塚たちが、嵐のように躍り出た。

 彼らの剣が、閃光のように煌めく。

 骸骨たちの、脆い骨の体は、その一撃で、いとも簡単に砕け散る。

 だが、その手応えに、鬼塚は眉をひそめた。

 彼のヘッドセットに、後方の分析班からの、悲鳴に近い報告が叩き込まれる。


『――隊長!ダメです!敵の攻撃力が、想定を遥かに上回っています!先ほどの魔法弾の余波で、盾役のシールドの耐久値が、40%も削られました!』


 その、あまりにも衝撃的な事実。

 それに、鬼塚の脳内で、全ての計算が、一瞬で再構築されていく。

 彼は、B級ダンジョンへの入場経験が、あった。

 この、あまりにも暴力的なまでの火力。

 それは、彼がよく知る、一つの「格」を、雄弁に物語っていた。

 彼は、部隊の全てのメンバーへと、その絶対的な、そしてどこまでも無慈悲な命令を下した。


「――全隊員に告ぐ。敵性存在の脅威レベルを、B級相当に再設定する」

「これより、本任務はC級偵察任務ではない。B級殲滅作戦と見なす」

「全員、死ぬ気で戦え」


 その、あまりにも重い、隊長の覚悟。

 それに、隊員たちの間に、一瞬だけ緊張が走った。

 だが、彼らはプロだった。

 その瞳には、もはや恐怖の色はない。

 ただ、与えられた任務を、その命に代えてでも遂行するという、鋼鉄の意志だけが宿っていた。


 ◇


 そこから先は、地獄だった。

 腐敗したガーゴイル。

 その石の爪の一撃は、D級のレア等級のプレートアーマーですら、容易く引き裂く。

 腐敗した聖歌隊員。

 その魔法の弾幕は、もはやただの牽制ではない。

 一発一発が、致命傷となりうる、死の豪雨だった。

 D-SLAYERSは、その圧倒的な物量の暴力の前に、じりじりと、しかし確実に、その戦力を削られていった。


「――負傷者、後退!回復班、急げ!」

 鬼塚の、怒号が飛ぶ。

 彼らが、この地獄で生き残るための、唯一の戦術。

 それは、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも過酷なものだった。

 ある程度被弾したら後方に下がり、後詰の新たな隊員で隊列を固めて、再び先陣を切る。

 交代制の、肉壁。

 彼らは、自らの命を、そして仲間たちの命を、まるでチェスの駒のように、効率的に消費しながら、それでも、一歩、また一歩と、前進を続けていた。

 その、あまりにも壮絶な、そしてどこまでも美しい、消耗戦。

 その光景を、SeekerNetの掲示板で、世界の全ての探索者たちが、固唾を飲んで見守っていた。


『…なんだ、これ…。戦争じゃねえか…』

『C級ダンジョンだろ、ここ…?なんで、こんなことに…』

『頑張れ…!頑張れ、D-SLAYERS…!』


 そして、数時間に及んだ死闘の末。

 彼らはついに、そのエリアの全ての敵を、殲滅した。

 後に残されたのは、おびただしい数のモンスターの残骸と、そしてその中心で、息も切れ切れになりながら、それでもその場に立ち尽くす、D-SLAYERSの、ボロボロの姿だけだった。

「…こちら、ブラボー。エリア内の、敵性存在の殲滅を確認」

 鬼塚は、震える声で、霞が関の司令部へと、報告を入れた。

「ただし、当方の損害も甚大。戦力は、B級並みと判断。これ以上の、作戦続行の可否について、指示を求む」


 ◇


 霞が関、対策本部の会議室。

 その空気は、これまでにないほど、重かった。

 モニターに映し出された、D-SLAYERSの、満身創痍の姿。

 そして、鬼塚からの、あまりにも重い報告。

 坂本は、その場で、人生で最も過酷な決断を、迫られていた。

 ここで、撤退させるか。

 あるいは、このまま、進ませるか。

 撤退させれば、彼らの命は助かるだろう。だが、この腐敗の領域の謎は、永遠に闇の中だ。

 進ませれば、あるいは、全滅するかもしれない。だが、その先に、この国の未来を救う、答えがあるのかもしれない。

 数秒間の、永遠のような沈黙。

 やがて、坂本は、その深い皺の刻まれた顔を上げた。

 その瞳には、非情な、しかしこの国を背負うリーダーとしての、絶対的な覚悟が宿っていた。


「――鬼塚君。聞こえるか」

 彼の声は、静かだった。

「作戦を、続行せよ」


 その、あまりにも無慈悲な、しかしどこまでも力強い、命令。

 それに、鬼塚は、ただ一言だけ、答えた。


「――了解。作戦、続行!」


 彼は、その傷だらけの仲間たちへと、向き直った。

 そして彼は、その全ての魂を込めて、叫んだ。

「行くぞ、野郎ども!ここが、俺たちの死に場所だ!」


 その、あまりにも力強い、隊長の覚悟。

 それに、隊員たちの、疲れ切っていたはずの瞳に、再び、闘志の炎が宿った。

 彼らは、雄叫びを上げながら、この地獄の、さらに奥深くへと、その歩みを進めていった。


 そして、彼らはついに、その場所へとたどり着いた。

 ダンジョンの、最深部。

 ひときわ巨大な、真鍮の歯車でできた、巨大な扉。

 その奥から、これまでにないほどの、巨大な駆動音が、響き渡ってくる。

 彼らが、その扉を押し開けた、その先に。

 それは、いた。

 高さ10メートルはあろうかという、威圧的な巨体。

 錆びつき、肉塊に侵食された無骨な装甲。

 そして、その中央で不気味な赤い光を放つ巨大な単眼のレンズ。

 それは、まるで地獄の底から蘇った古代の戦争機械。

 あるいは、悪魔と契約を交わした哀れな機械の成れの果て。


 その、あまりにも異様で、そしてどこまでも絶望的なボスの姿。

 それを、SeekerNetの掲示板で、リアルタイム実況しながら見守っていた、数万の視聴者たちが、同時に、目撃した。

 そして、彼らは気づいた。

 これが、自分たちの知る、C級のボスなどでは、断じてないということに。


『なんだ、あれは…』

『嘘だろ…?あんなの、聞いてねえぞ…』

『逃げろ!』

『下がれ!下がるんだ、D-SLAYERS!』

『そいつは、ダメだ!勝てるわけがねえ!』


 掲示板は、絶叫と、そして悲鳴に似た警告の言葉で、埋め尽くされた。

 だが、その声は、届かない。

 ダンジョンの、その絶望的な静寂の中で。

 鬼塚たちは、ただ、自らの運命と、そしてこの国の未来を賭けて、その巨大な悪魔と、対峙するしかなかった。



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