【公式ギルド最高幹部以外閲覧禁止】S級ダンジョン以上で出現するアーティファクトPart4
名前:
死者の絵葉書
(ししゃのえはがき)
(Postcards from the Void)
レアリティ:
神話級 (Mythic-tier)
種別:
アーティファクト / 因果律介入具 (Artifact / Causal Intervention Tool)
効果:
一枚の絵葉書と、一本の万年筆、そして一つのインク瓶が収められたレターセット。1000セット分である。
術者は、亡くなった特定の個人の名を心に強く念じながら、この万年筆とインクを使い、絵葉書にメッセージを綴ることができる。
書き終えた絵葉書を空中に放つと、それは淡い光の粒子となって消滅し、時間と空間を超えて、対象となる死者の魂の元へと届けられる。
約24時間後、術者の手元にあるインク瓶の中に、返信が書かれた全く同じ絵葉書が、静かに現れる。
この「文通」は、インクがなくなるまで続けることができる。一つのインク瓶で、およそ10往復分のやり取りが可能とされる。
このアーティファクトは、死者を蘇らせることも、過去を改変することもできない。
ただ、伝えられなかった言葉を届け、そして聞くことのできなかった言葉を受け取る、その一度きりの機会を与えるだけである。
フレーバーテキスト:
王は、その墓碑に、不滅の功績を刻んだ。
英雄は、その伝説を、吟遊詩人に語り継がせた。
賢者は、その叡智を、何千冊もの書物に遺した。
だが、彼らが本当に伝えたかった言葉は、そんなものではなかったはずだ。
「ありがとう」
「ごめんなさい」
そして、「愛している」と。
あまりにもありふれた、そのたった一言を伝えるためだけに。
人は、時にその人生の全てを賭ける。
さあ、ペンを取れ。
インクが乾かぬうちに。
お前の最後の言葉を待っている、静かな魂が、まだそこにいるのだから。
【最高機密 / 閲覧レベルΩ+ / 破棄厳禁】神話級アーティファクト評価報告書
文書番号: G7-AΩ01-X01
作成日: 20XX年X月XX日
作成部署: 国際公式探索者ギルド アーティファクト管理局 特殊遺物評価分析室 / 倫理査定委員会 合同部会
提出先: ギルド最高幹部会
アーティファクト・クラス: 神話級
アイテム名: 死者の絵葉書 (ししゃのえはがき)
脅威レベル評価: SSS+ (存在根絶対象。発見次第、即時封印・破壊を最優先とする)
現在の状況: 過去10年間で唯一ドロップが確認された1000セットのうち、998セットはS級探索者・黒崎龍臣氏との最高機密契約に基づき、彼の管理下にある特殊な異次元倉庫に保管。残りの1セットが、研究サンプル及び緊急時使用のプロトコル策定のため、ギルドの最深保管庫『虚無の聖域』にて厳重に封印済み。
1. 概要
本アーティファクトは、一枚の絵葉書、一本の万年筆、そして一つのインク瓶が収められたレターセットの形状を取る。
術者は、亡くなった特定の個人の名を心に強く念じながらメッセージを綴り、空中に放つことで、対象となる死者の魂(あるいは、その魂が遺した世界の記憶の残滓)の元へと届けることができる。約24時間後、術者の元には、死者からの返信が書かれた絵葉書がインク瓶の中から現れる。この「文通」は、一つのインク瓶でおよそ10往復分が可能とされる。
本アーティファクトは、死者を蘇らせることも、過去を改変することもできない。
その効果は、ただ、伝えられなかった言葉を届け、そして聞くことのできなかった言葉を受け取る、その一度きりの機会を与えることに限定される。
戦闘能力は、皆無である。
2. 市場価値と経済的影響
本アーティファクトは、最高幹部会の満場一致による緊急決議に基づき、【禁忌指定】のさらに上位…【存在秘匿指定】とされたため、市場価値は測定不能。その取引は、未来永劫、許可されることはない。
もし、万が一この存在が公になれば、その価値は正の方向に無限大へと発散するだろう。【時の揺り戻し、若返りの薬】が5兆円、【時の残響を聴く懐中時計】が20兆円という値を付けたが、それらですら、この【死者の絵葉書】の前では、ただの玩具に過ぎない。
金では決して買えないもの…「失われた時間」と「伝えられなかった想い」。それを、限定的ではあるが可能にするこのアーティファクトは、世界の全ての富豪、権力者、そして愛する者を失った全ての人間にとって、自らの全資産、いや、魂そのものと引き換えにしてでも手に入れたいと願う、究極の至宝となる。
ドロップ数が一度に1000セットと複数であった点は、一見するとその希少性を緩和するように思えるかもしれない。だが、我々はこの事実こそが、本アーティファクトの最も危険な点であると結論付ける。
たった一つしか存在しないのであれば、それは「神話」であり「諦め」の対象となる。だが、1000個存在するとなれば、それは「自分にも手が届くかもしれない『希望』」へと姿を変える。その希望は、やがて狂気の渇望となり、世界の秩序を根底から破壊する、最も危険な火種となるだろう。
3. 社会的・思想的影響の評価:開けてはならないパンドラの箱
本アーティファクトが、なぜ脅威レベルSSS+…【不動の大地、ガイアの礎】すらも超える、究極の危険物として指定されたのか。その理由は、それがもたらす「情報」や「混乱」のレベルが、他のアーティファクトとは、根本的に次元を異にするからである。
終わりのない戦争の引き金:
考えてみてほしい。アメリカ大統領が、暗殺されたジョン・F・ケネディと対話できたら?ロシア大統領が、旧ソ連の英雄スターリンから、最後の助言を得られたら?あるいは、世界のトップギルドのマスターが、黎明期に命を落とした伝説の創設者から、失われたビルド理論を伝授されたとしたら?
それは、もはやただの歴史研究ではない。世界のパワーバランスそのものを、根底から覆す、究極の「情報兵器」だ。この1000セットの絵葉書を巡り、国家間の、そしてギルド間の、終わりのない、そしてどこまでも血生臭い争奪戦が始まることは、火を見るより明らかである。
社会秩序の完全な崩壊:
もし、このアーティファクトの存在が、一般市民に知れ渡ったらどうなるか。
愛する家族を、恋人を、友を失った、世界中の何十億という人々。彼らが、この「奇跡」の存在を知った時、社会は、もはやその秩序を維持することはできないだろう。
誰もが、その1000セットの一つを手に入れるために、全てを投げ打つ。仕事も、家庭も、そして法すらも。世界は、一つの巨大な「聖杯戦争」の舞台と化し、その果てにあるのは、ただの混沌と、破滅だけだ。
魂への、冒涜:
そして、何よりも。
我々が、最も恐れるべきは、これだ。
このアーティファクトは、死者の安寧を、そして生者の尊厳を、根本から冒涜する。
人は、死を受け入れ、その悲しみを乗り越えることで、成長する。過去は、変えられないものとして、その胸に抱きしめ、そして未来へと歩みを進める。それこそが、我々人類が、数万年かけて築き上げてきた、倫理であり、そして美徳だったはずだ。
だが、このアーティファクトは、その全てを否定する。
「やり直せるかもしれない」
その、あまりにも甘美な、そしてどこまでも残酷な希望。
それは、人々から未来へ進む力を奪い、ただ過去の亡霊に囚われた、永遠の子供へと、退行させてしまうだろう。
これは、魂の「麻薬」だ。
4. 過去の所有者と、現在の管理体制について
本アーティファクトの、過去10年間で唯一の発見者、及び所有者は、S級探索者にして、新宿の裏社会を支配する男、黒崎龍臣である。
彼が、いつ、どこで、これを手に入れたのか。その詳細は、今もって不明である。
だが、彼がこのアーティファクトを、自らの独占物としなかったこと。その事実こそが、我々にとって、唯一の救いだったのかもしれない。
我々ギルドの最高レベルの諜報機関による調査によれば、彼はこのレターセットを、ただの一度だけ、使用した形跡がある。
相手は、病で亡くなった、彼の最愛の妹、光。
その「文通」で、彼が何を語り、そして何を受け取ったのか。それは、彼の魂の最も深い場所にしまわれた、永遠の秘密だ。
だが、その儀式を終えた後、彼は我々ギルドに、非公式なルートを通じて、接触してきた。
そして彼は、このあまりにも危険な神の遺産を、自らの手で管理するのではなく、**「貸し出す」**という形で、我々国際公式ギルドに、その管理を委ねたのだ。
その理由は、定かではない。
あるいは、彼はその一度の使用で、このアーティファクトが持つ、本当の恐ろしさを、その肌で理解したのかもしれない。自らが、これ以上この力に触れ続ければ、その魂が歪んでしまうことを。
あるいは、これは彼の、あまりにも老獪な、そしてどこまでも計算され尽くした、一手だったのかもしれない。この、あまりにも重すぎる「爆弾」を、表社会の番人である我々に押し付けることで、自らはその責任から逃れ、そして我々の動きを、高みの見物を決め込む。
…真意は、闇の中だ。
だが、いずれにせよ。
現在、このアーティファクトは、彼の協力の下、我々の完全な管理下に置かれている。
5. ギルドとしての公式見解・推奨措置
以上の観点から、当ギルド最高幹部会は、これまでの情報統制の方針を、今後も、そして未来永劫、堅持することを、ここに改めて、そして最強の意志をもって、再確認する。
アーティファクト【死者の絵葉書】に関する、全ての情報。
その存在、その効果、そしてその所有者に関する、全ての記録。
その全てを、最高レベルの禁忌情報として、永久に非公開とする。
我々の責務は、ただアーティファクトを管理することではない。
人類の『精神的な成長』を、そのあまりにも脆い魂を、守ることだ。
世界は、まだこの「真実」を知るには、あまりにも幼すぎる。
我々は、世界の真の守護者として、この重すぎる秘密を、その墓場まで抱え続ける。
そして、危ういバランスの上で踊る彼ら探索者たちの、そのささやかな、しかし尊い日常を、影から守り続けていく。
それこそが、我々に課せられた、最も重い、そして最も気高い、責務である。
この報告書もまた、最高機密として、アーカイブの最深部へと、封印するものとする。
以上。




