第287話
【SeekerNet - North America Server】
スレッドタイトル: [Official] Adventurer High School Monthly Rankings - Discussion Thread Part. 5
511: 名無しの速報ウォッチャー
おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
お前ら、今すぐギルドの公式ページに飛べ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
出たぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
冒険者学校、今月の月間ランキングが、たった今、更新された!!!!!!!!!!!!!!!
512: 名無しのGladiator
511
スレ立て乙。
どうせまた、日本の朱雀湊が1位なんだろ?
あいつのウォークライビルドは、マジで手が付けられねえからな。
513: 名無しの速報ウォッチャー
512
ああ、1位はそう……なんだが……。
問題は、そこじゃねえ。
2位だ。
2位を見ろ。
俺は、今、自分の目を疑ってる。
その、あまりにも意味深な書き出し。
それに、スレッドの空気が、わずかに変わった。
そして、その速報ウォッチャーは、震える指で一枚のスクリーンショットをアップロードした。
そこに表示されていたのは、目を疑うような、そしてどこまでも輝かしい、一つの「事実」だった。
【日米合同冒険者高等学校 - 月間総合ランキング】
1位:朱雀湊(日本校・B級)
2位:ホリー・ミラー(北米校・B級)
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
スレッドの全ての動きが、ぴたりと止まった。
誰もが、その名前の意味を、そしてその隣に添えられた「B級」というランクの意味を、必死に理解しようとしていた。
そして、次の瞬間。
スレッドは、爆発した。
『は!?』
『ホリー!?あの、フラスコ投げの!?』
『2位!?マジかよ!あの朱雀湊に、肉薄してるじゃねえか!』
『B級…!彼女も、B級に上がったのか!』
その熱狂の渦の中心で。
一つの、新たなスレッドが産声を上げた。
それは、もはやただのファンクラブではない。
世界のメタゲームそのものを動かす、巨大な議論の始まりだった。
スレッドタイトル: [Meta Discussion] The Poisonous Concoction Revolution - Is this the new meta?
1: 名無しのPathfinder (ベテラン)
さて、諸君。
先のランキングが、全てを証明した。
ホリー・ミラー嬢が編み出した(あるいは再発見した)、【ポイゾナスコンコクション + フィニッシュ・オブ・アゴニー】ビルド。
これは、もはやただの「面白いビルド」ではない。
B級という、多くの探索者が停滞する壁を、ソロで、かつ安定して突破するための、一つの完成された「答え」だ。
そして、その「答え」は今、燎原の火のように、この北米の大地を焼き尽くそうとしている。
2: 名無しのShadow_Stalker (古参盗賊)
1
ああ、全くだ。
俺は、今、E級の【毒蛇の巣窟】で新人の育成を手伝ってるんだが、酷いもんだったぜ。
B級以下の盗賊ども、みんなポーション瓶投げてやがる…。
右を見ても、フラスコ。左を見ても、フラスコ。
俺が、必死に影の中からダガーで急所を狙ってるその横を、緑色の瓶がびゅんびゅん飛び交っていく。
もはや、戦場じゃなくて、化学実験室だ。
その、あまりにも的確な、そしてどこか悲哀に満ちた比喩。
それに、スレッドから笑いが漏れた。
3: 名無しのBerserker
2
wwwwwwww
だが、いや、実際強いんだよな、これが。
俺も昨日、そのコピービルドの連中とパーティ組んだけど、殲滅速度が尋常じゃねえ。
俺が斧で一体殴り殺す間に、あいつら、毒の霧で5体くらい溶かしてるんだからな。
まあ、派手なスキルじゃないから、玄人好みのスキルだったけどな。
4: 名無しのShadow_Stalker (古参盗賊)
3
だから、それが問題なんだよ。
ほんと、それ。コピーキャットだらけだ。
俺たち盗賊の美学は、どこに行ったんだ?
影に潜み、音もなく敵の背後を取り、その心臓を一撃で貫く。
その、洗練された暗殺術こそが、俺たちの誇りだったはずだ。
それがどうだ。
古き良き盗賊が、ポーション投げという邪道が幅を利かせるとはな…。
嘆かわしい。実に、嘆かわしい時代になったもんだ。
その、あまりにも頑固な、しかしどこか筋の通った「古き良き」盗賊の嘆き。
それに、スレッドの空気は、大きく二つに割れた。
15: 名無しのTrickster
4
↑邪道は言い過ぎじゃないか?
気持ちは分かるぜ、爺さん。
だがな、時代は変わるんだよ。
いつまでも、古い美学にしがみついてるだけじゃ、取り残されるだけだ。
強いスキルがいいスキルだ。強いスキルを使って、なにが悪い?
結果が全て。それが、この世界のルールだろ。
18: 名無しのJuggernaut
15
その通りだ。
ホリー・ミラーは、結果を出した。
それも、誰の真似でもない、自分だけのやり方でな。
俺は、彼女を尊敬するぜ。
武器が買えないなら、武器を使わない戦い方を見つければいい。
その、逆転の発想こそが、本物の「オリジナリティ」ってもんだろ。
22: 名無しのShadow_Stalker (古参盗賊)
18
ふん。
だがな、若造ども。
その「オリジナリティ」が、いつまで通用するかな。
A級のダンジョンに入ってみろ。
敵の混沌耐性が、50%を超えてる世界だ。
お前らのその毒瓶なんざ、ただの気休めにしかならねえよ。
その時、お前らはどうする?
武器も持たず、ただ瓶を投げることしか知らないお前らに、何ができる?
その、あまりにも重く、そしてどこまでも真理を突いた問いかけ。
それに、スレッドは一瞬だけ静まり返った。
そして、その沈黙を破るかのように。
一つの、あまりにも楽観的で、そしてどこまでも現代的なコメントが投下された。
35: 名無しのWitch
あらあら、お爺様たちったら。難しい話は、そこまでよ。
いいじゃない、別に。
A級で詰まったら、その時にまた新しいビルドを考えればいいだけの話でしょ?
今は、今一番強くて、一番楽しいビルドで遊ぶ。
それで、何か問題でもあるのかしら?
その、あまりにもあっけらかんとした一言。
それに、古参の盗賊も、もはや言葉を失っていた。
スレッドは、その深刻な議論から一転、だらだらとした雑談の様相を呈し始めていた。
41: 名無しのRanger
ていうか、ホリーの配信、見た?
昨日の夜、RVの中から雑談してたやつ。
あの子、普通にポテチ食いながら、フラスコのクラフトやってんだぜ?
天才なのに、やってることが俺たちと変わらなくて、なんか安心したわw
42: 名無しのGladiator
41
分かる。
あの、ゆるい感じがいいんだよな。
JOKERみたいに、常にピリピリしてるのもカッコいいけど、ホリーの配信は、なんか見てて癒される。
43: 名無しのSlayer
42
分かる。
俺、昨日の夜、嫁さんと喧嘩して家追い出されたんだけど、ホリーの配信見ながらRVで寝てたわ。
なんか、実家に帰ったような安心感があった。
44: 名無しのBerserker
43
お前、何やってんだよwwwwww
その、あまりにも平和な、そしてどこまでもどうでもいい会話のキャッチボール。
それが、今の北米の探索者たちの、リアルな空気感だった。
彼らは、もはやメタゲームの進化を、深刻な脅威とは捉えていない。
ただ、日々移り変わる流行りのビルドを、ファッションのように楽しみ、そしてその変化そのものを、エンターテイメントとして消費しているのだ。
その、あまりにも健全な、そしてどこまでも自由な精神。
それこそが、この国の、本当の強さの源泉なのかもしれない。
その日の夜もまた。
北米大陸の、無数のキャンプサイトで。
若き盗賊たちが、緑色の瓶を投げながら、こう呟いていたことだろう。
「――これが、今のトレンドなんでね」と。
新しい時代の歯車は、もはや誰にも止められない。
その中心で、一人の少女が、彼女自身も知らぬ間に、世界の常識を、塗り替えていたのだ。