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第273話

 その日の午後。

 彼の配信チャンネルに、一つの新たなショーの幕開けを告げるタイトルが表示された。

 それは、彼の揺るぎない自信と、そしてこれから始まるショーへの絶対的な自信を、これ以上ないほど雄弁に物語っていた。


『【ネクロマンサーLv.28】B級ダンジョンで、神を創る』


 そのあまりにも荘厳で、そしてどこまでも不遜なタイトル。

 それが公開された瞬間、彼のチャンネルには、通知を待ち構えていた数十万人の観客たちが、津波のように殺到した。

 コメント欄は、期待と興奮と、そしてわずかな困惑が入り混じった、熱狂の坩堝と化していた。


『きたあああああああ!』

『神を創る!?マジかよ!』

『今日のJOKERさん、いつも以上にテンション高いな!』

『スペクターとガーディアン、ついに解禁か!待ってたぜ!』


 その熱狂をBGMに、隼人は転移ゲートをくぐった。

 彼がたどり着いたのは、鬱蒼と木々が生い茂る広大な森だった。

 木々の間からは不気味な瘴気が立ち込め、遠くからは獣の咆哮とも人の悲鳴ともつかない、不気味な音が聞こえてくる。

 B級ダンジョン【賢者の森】。

 彼が、自らの新たな力を試すための、最初の舞台だった。


「よう、お前ら。見ての通り、今日は新しいテーブルだ」

 彼は、ARカメラの向こうの観客たちに、気だるそうに、しかしその瞳の奥には確かな興奮の色を宿して語りかけた。

「今日の目的は、ただ一つ。俺のこの、まだひよっこのゾンビ軍団を、本物の『神の軍勢』へと、生まれ変わらせることだ」

 彼はそう言うと、おもむろに自らのステータスウィンドウを開き、それを配信画面に共有した。

 彼の、膨大な未割り振りのステータスポイントが、視聴者たちの目の前に晒される。


「まず、儀式の前の、準備からだ」

 彼は、そのステータスポイントの中から、20ポイントを、一つの項目へと迷いなく注ぎ込んだ。


 筋力に20ステータスポイントをふる。

 これで、筋力は42になった。


『お!?筋力!?』

『なんで、ネクロマンサーが筋力に振るんだ?』

 コメント欄が、困惑の声を上げる。

 それに、JOKERは不敵に笑った。

「まあ、見てろよ。こいつは、俺のためじゃねえ。今日、生まれてくる俺の新しい『相棒』のためだ」


 そのあまりにも意味深な一言。

 それに、視聴者たちが息を呑む。

 そして彼は、インベントリから三つの神々しいオーラを放つユニーク装備を取り出し、その森の苔むした地面の上に、厳かに並べていった。

 禍々しい、しかしどこか気品のある兜、【リアー・キャスト】。

 歪な木の杖、【断末魔(だんまつま)】。

 そして、触れることすら躊躇われるような、美しいシルクの手袋、【アセナスの優しい接触】。

 彼が、この日のために用意した、最高の「生贄」だった。


「――来たれ」

 彼は、その三つの装備へと、骨のワンドを向けた。

 そして彼は、詠唱する。

 スキル**【アニメイトガーディアン】**。

 彼の全身から、膨大な魔力が溢れ出し、三つの装備へと注ぎ込まれていく。

 三つの装備が、まばゆい光を放ちながら宙へと浮かび上がり、そして一つの人型の影へと、収束していく。

 光が収まった時。

 そこに立っていたのは、一体の、あまりにも神々しい、霊体の騎士だった。

 その頭にはリアー・キャストが輝き、その手には断末魔(だんまつま)が握られ、そしてその指先はアセナスの手袋に包まれている。

 霊体が現れて、3つの装備をする。

 そして、そのガーディアンが誕生した、その瞬間。

 彼の背後に控えていた七体のゾンビミニオンたちの、その腐った肉体が、内側から力強く脈打つのを、彼は確かに感じた。

 リアー・キャストと、断末魔(だんまつま)の効果で、ゾンビ達の火力が68%もアップする。


『うおおおおお!なんだ、これ!』

『ゾンビが、光ってるぞ!』

『ダメージ、1.7倍近くになってるじゃねえか!インチキだろ、これ!』


 コメント欄が、そのあまりにも暴力的なバフの効果に、戦慄する。

 だが、JOKERは満足げに頷くだけだった。

「**は?インチキだろ、それ?**当たり前だ。ギャンブルは、イカサマをして勝つもんだ」

 彼はそう嘯くと、自らのステータスウィンドウを再び開いた。


「さて、と。神は生まれた。次は、その神に仕える、天使を創るとしようか」

 彼は、そのステータスポイントの中から、さらに29ポイントを、一つの項目へと注ぎ込んだ。

 スペクター蘇生のために、知性に29ポイントふる。これで、知性は67になった。

 ステータスポイントは、残り45になった。


「さて、【カーネージ・チーフテン】と、【ホスト・チーフテン】を探すか」

 彼は、そう宣言すると、その新たに生まれ変わった死者の軍団を引き連れ、森の奥深くへと、どんどん進んで行った。


 ◇


 森の中は、彼の予想通り、モンスターの楽園だった。

 木々の陰から、物陰から、まるで無限に湧いてくるかのように、様々な種類の獣人や魔獣が、彼に襲いかかってくる。

 だが、それらはもはや彼の敵ではなかった。

 彼の軍団の先頭に立つのは、あの神々しいアニメイトガーディアン。

 彼が、その手に持つ断末魔(だんまつま)を軽く一振りするだけで、その周囲にいる味方ゾンビたちの力が、さらに増幅されていく。

 そして、そのガーディアンが、敵の一体にその指先で触れた、その瞬間。

 敵の頭上に、禍々しい時計の紋様が浮かび上がった。

 時間連鎖の呪い。

 敵の動きが、明らかに鈍重になる。

 そして、その鈍くなった的を、彼のゾンビ軍団が見逃すはずもなかった。

 神速の、蹂躙。

 そして、一体の獣人が倒された、その瞬間。

 死体が、爆発した。

 ボフンッ!というくぐもった音と共に、その獣人の死体は、血肉の嵐となって周囲にまき散らされ、隣にいた仲間たちを巻き込んでいく。

 まさに、無双だった。


『なんだ、これ…!』

『ガーディアンが、呪いをかけて、ゾンビが倒して、その死体が爆発する…!』

『完璧な、コンボじゃねえか!』

『JOKERさん、もはや何もしてねえwww ただ、歩いてるだけwww』


 コメント欄が、そのあまりにも美しく、そしてどこまでも効率的な殺戮の連鎖に、熱狂する。

 隼人もまた、その光景に満足げに頷いていた。

「…ああ。楽で、いいな。これ」


 そして彼は、ついにその獲物を見つけ出した。

 森の、ひときわ開けた広場。

 そこに、数十体の猿の獣人たちが、一つの集落を形成していた。

 その中心にいるのは、二体のひときわ巨大で、そして威厳のある個体。

【カーネージ・チーフテン】と、【ホスト・チーフテン】。


「…いたな」

 隼人の瞳が、鋭く光る。

 彼は、その軍団に、新たな命令を下した。

「――殺せ。だが、死体は綺麗に残せ」


 その、あまりにも冷徹な命令。

 それに、彼の軍団が呼応した。

 そこから始まったのは、もはや戦闘ではない。

 ただの、一方的な「狩り」だった。

 数分後。

 広場には、二つの完璧な死体だけが残されていた。


 隼人は、その死体の前に立つと、静かに詠唱を始めた。

 スキル【スペクター蘇生】。

 二つの死体が、青白い光に包まれ、そして霊体となって、その場に立ち上がった。

 彼の軍団に、二体の新たな「仲間」が加わった瞬間だった。

 そして、その二体のスペクターが誕生した、その瞬間。

 彼の、そして彼の全てのミニオンたちの体に、劇的な変化が訪れた。

 緑色の、そして赤い、二色のオーブが、彼らの周囲をくるくると回り始めたのだ。

 耐久力と狂乱チャージが、主人公とミニオン全員に供給される。

 彼の軍団は、今、本当の意味での「神の軍勢」へと、変貌を遂げた。


「…ふぅ」

 彼は、満足げに息を吐いた。

 そして彼は、この森の、さらに奥深くを見据えた。

 その瞳には、絶対的な自信が宿っていた。

「あとは、ボスだけだな」


 彼の、新たな人生の、本当の「ショー」が、今、始まろうとしていた。

 彼の魂は、その果てしない可能性の前に、これ以上ないほどの歓喜に、打ち震えていた。



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