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【公式ギルド最高幹部以外閲覧禁止】S級ダンジョン以上で出現するアーティファクトPart2

【幻創の絵筆】

[画像:穂先が存在しない、ただの白樺の木の枝のような絵筆。だが、所有者がそれを握り、創造の意志を込めた時、その先端から七色の光の粒子が溢れ出す。]


名前:

幻創の絵筆(まぼろしそうのえふで)

(PhantasmalBrush)


レアリティ:

神話級(Mythic-tier)


種別:

アーティファクト/空間投影具(Artifact/SpatialProjectionTool)


効果テキスト:


術者は、この絵筆を手に持ち、自らの精神力マナを少量消費することで、心に思い描いたイメージを空間へと投影する。投影された幻は、物理的な実体を持たず、あらゆる物体や生物を透過する。


幻は、術者の想像力の限りにおいて、完璧な視覚情報を再現する。また、術者の意志に応じて、幻に対応した音響や香り、そして温度や湿度といった環境情報すらも、限定された範囲内で再現することが可能である。


幻に触れた者は、その表面に触覚を感じることができるが、その感触は常に実体を伴わず、対象をすり抜ける。


幻の持続時間は、その規模と複雑さに応じて変動するが、術者が精神を集中させ続ける限り、最大で12時間維持される。


このアーティファクトは、直接的な物理・魔法ダメージを与えることや、物理法則を恒久的に書き換えることは、一切できない。その用途は、完全に平和的なものに限られる。


フレーバーテキスト:


世界は、退屈な灰色のキャンバスだった。


王は、同じ形の城を建て、

賢者は、同じ答えを書き写し、

英雄は、同じ怪物を斬り伏せた。


誰もが、定められた線の上をなぞるだけの、退屈な模写を強いられていた。


この一本の筆が、その画布に、

最初の「ありえない色」を落とすまでは。


それは、夢の色。

記憶の色。

まだ誰も見たことのない、明日という名の色彩。


さあ、描くがいい。

この幻の世界において、君こそが、ただ一人の神なのだから。




【ギルド最高幹部会-内部評価報告書】

アーティファクト・クラス:神話級


アイテム名:幻創の絵筆(PhantasmalBrush)


脅威レベル評価:E(安全。市場への流通も、原則として完全に自由とする)


1.概要

本アーティファクトは、所有者が心に思い描いたイメージを、空間に実体を持たない(まぼろし)(イリュージョン)として描き出す、究極の芸術創造ツールである。投影された(まぼろし)は、物理的な実体を持たずあらゆる物体を透過するが、術者の想像力の限りにおいて、完璧な視覚情報、音響、香り、さらには温度や湿度といった環境情報までもを再現することが可能である。(まぼろし)の持続時間は最大で12時間維持されるが、直接的な物理・魔法ダメージを与えることは一切できず、その用途は完全に平和的なものに限定される。


2.市場価値と経済的影響(1兆~4兆円の妥当性)

本アーティファクトの推定市場価値は、1兆円から4兆円が適正であると判断する。この価格設定は、以下の要因に基づいている。


A)需要の源泉――根源的な『創造』への渇望:

この絵筆を求めるのは、戦闘能力の向上を目指す探索者ではない。これを求めるのは、自らの想像力を、世界の理を超えた形で顕現させたいと願う、トップクラスの芸術家、建築家、あるいはエンターテイナーたちである。彼らにとって、このアーティファクトは自らの創造性の限界を突破するための、唯一無二の至宝となる。需要は極めて限定的だが、それを求める者にとっては、自らの全資産を投げ打ってでも手に入れたいという強烈な動機が存在する。


B)価値の本質――「体験」の創造:

【アニマとアニムスの円環(えんかん)】が「自己実現」という個人の内面的な充足をもたらすのに対し、この【幻創の絵筆】は、他者と共有可能な「究極の体験」を創造する。例えば、S級ダンジョンの最深部の光景を、安全な都市部で完全に再現するアートインスタレーション。あるいは、神話の時代の英雄たちの戦いを、五感で体験できる史上最高のエンターテイメントショー。これらがもたらす文化的・経済的価値は計り知れない。ただし、その利益は間接的なものであり、直接的な「投資」価値を持つ【若返りの薬】などとは一線を画すため、この価格帯が適正と判断する。


3.社会的・思想的影響の評価:なぜ「究極的に安全」と言えるのか

当ギルド最高幹部会は、【幻創の絵筆】を、その計り知れない文化的価値にもかかわらず、**「思想的に究極的に安全なアーティファクト」**であると結論付ける。


第一に、その力の「非・戦闘性」と「非・干渉性」である。

効果テキストにも明記されている通り、このアーティファクトが生み出す(まぼろし)は、物理的な干渉力を一切持たない。敵を欺くためのデコイとしてすら、その実体のなさは致命的であり、戦闘への応用は不可能である。その力は、どこまでも芸術とエンターテイメントの領域に留まり、世界の秩序を脅かす危険性は皆無に等しい。


第二に、その存在がもたらす「正の文化的影響」である。

ダンジョンの出現は、世界に富と力をもたらした。だが、同時にそれは、人々の価値観を戦闘と効率へと、過度に傾倒させる危険性も孕んでいる。

この【幻創の絵筆】の存在は、ダンジョンがもたらす力が、ただ破壊と支配のためだけにあるのではないという、重要な事実を人々に示してくれる。それは、これまで誰も見たことのない「美」を創造し、人々の心を豊かにするための力でもあるのだと。このアーティファクトは、探索者社会の文化的な成熟を促す、極めて有益な触媒となりうる。


4.ギルドとしての公式見解・推奨措置

以上の分析から、当ギルド最高幹部会は、【幻創の絵筆】の市場流通を、健全な文化・経済活動の一環として**「完全に容認し、これを奨励する」**。

本アーティファクトは、探索者たちの多様な価値観と、創造の可能性を象徴する、素晴らしい遺物である。

ギルドとしては、その取引の透明性を確保するため、公式オークションハウスの利用を推奨するが、他の神話級アーティファクトのような、厳重な取引監視や介入の必要性は、一切ないものとする。

これは、脅威ではない。

ただ、そこに存在する、一つの美しい「夢」の現れなのだから。





【時の残響を聴く懐中時計】

[画像:銀細工が施された、美しいアンティークの懐中時計。だが、その文字盤には針が存在しない。蓋を開けると、ただ静かに、その場所の過去の光景を映し出す。]


名前:

時の残響を聴く懐中時計ときのざんきょうをきくかいちゅうどけい


レアリティ:

神話級(Mythic-tier)


種別:

アーティファクト/過去観測具(Artifact/PastObservationTool)


効果テキスト:


術者は、特定の場所でこの懐中時計の蓋を開け、精神を集中させることで「時の残響」を観測することができる。


観測される過去の出来事は、物理的な実体を持たない幽霊のような映像として再生される。この映像には、当時の音や香りといった情報も、希薄ながら付随する。


術者は、この過去の残響に対して一切の干渉を行うことができず、ただ一方的に観測することしか許されない。


観測可能な過去の範囲(時代や、特定の出来事の指定)は、術者の精神力と集中力に、大きく依存する。精神力が低い、あるいは集中力が散漫な状態では、術者の意図とは無関係な、断片的な映像しか観測できない場合がある。


このアーティファクトは、過去を「改変」する力ではなく、ただ「知る」ための力をもたらす。


フレーバーテキスト:


歴史は、勝者によって書かれ、敗者と共に沈黙する。

書物に記された言葉は、あまりにも脆く、そしてあまりにも多くの嘘に満ちている。


だが、真実は、決して消えはしない。

全ての壁は、記憶している。全ての床は、覚えている。


王が流した涙の跡を。

英雄が吐いた最後の息を。

名もなき民草の、ささやかな笑い声を。


歴史とは、読み解くものではない。


ただ、その場所に満ちる沈黙の残響に、耳を澄ます者だけが聴くことのできる、声なき歌なのだ。


さあ、蓋を開けろ。

そして、聴け。

忘れ去られた、時の歌を。





【ギルド最高幹部会-内部評価報告書】

アーティファクト・クラス:神話級


アイテム名:時の残響を聴く懐中時計(PocketWatchthatListenstoTime'sEcho)


脅威レベル評価:D(安全。ただし、その観測結果の戦略的価値によっては、最高レベルの機密管理を必要とする)


1.概要

本アーティファクトは、所有者が特定の場所で精神を集中させることで、その場所で過去に起こった出来事を、音や香りを含む幽霊のような映像として「観測」することを可能にする、究極の歴史探査ツールである。術者は過去の出来事に一切干渉できず、観測可能な範囲も術者の精神力に大きく依存する。その力の根幹は「観測」であり、「干渉」ではないため、世界の時間軸そのものを脅かす危険性は皆無である。


2.市場価値と経済的影響(20兆円の妥当性)

本アーティファクトの推定市場価値は、20兆円と評価する。この価格は、【時の揺り戻し、若返りの薬】に匹敵、あるいはそれを上回るものであり、その価値は以下の点に由来する。


A)「真実」という、値段のつけられない価値:

本アーティファクトを求めるのは、主にギルドの歴史編纂室や、未解決事件を追う探偵ギルド、あるいは失われた家族の最後の姿を求める者たちである。彼らにとって、この懐中時計がもたらすのは金銭的なリターンではない。それは、金では決して買うことのできないはずの**「真実」や「失われた過去」**という、人の根源的な願いそのものである。このあまりにも大きな無形の価値が、その価格を神話の領域へと押し上げている。


B)国家レベルの戦略的情報価値:

本アーティファクトがもたらす「情報」は、時に一国の運命すら左右する、究極の戦略兵器となりうる。例えば、失われた古代文明の超兵器の設計図、伝説級アーティファクトの隠し場所、あるいは敵対国家の歴史的な弱点や、決して表に出ることのなかった不都合な真実。それがもたらす戦略的アドバンテージは、一国の軍事バランスを覆しかねない。20兆円という価格は、一個人が支払える額ではない。だが、国家がその未来を賭けて投資する対象としては、十分に妥当な範囲内であると結論付ける。


3.社会的・思想的影響の評価:なぜ「安全」でありながら「危険」なのか

当ギルド最高幹部会は、【時の残響を聴く懐中時計】を、その力の行使そのものは**「思想的に極めて安全」**であると結論付ける。過去を変える力はないため、世界の秩序を直接的に脅かすことはないからだ。


ただし、それが暴き出す**「真実」**は、時に現在の秩序を揺るがす劇薬となりうる。これまで信じられてきた歴史が覆され、英雄が罪人となり、国家の正当性が失われる。そのような事態を誘発しかねない、極めて危険な「情報兵器」としての側面を、我々は決して看過してはならない。その観測結果の取り扱いには、最高レベルの慎重さが求められる。


4.ギルドとしての公式見解・推奨措置

以上の分析から、当ギルド最高幹部会は、【時の残響を聴く懐中時計】の個人所有は認めるものの、その使用によって得られた情報、特に国家間の歴史や、世界の根幹に関わるような重大な情報については、ギルドへの報告を義務付けるという、厳格な管理体制を敷くことを推奨する。


本アーティファクトは、武器ではない。

だが、歴史とは、時にどんな武器よりも鋭く、そして重い。

その「重み」を正しく理解し、管理すること。それこそが、世界の秩序を守る我々ギルドに課せられた、最も重要な責務の一つである。





【追記事項】20XX年X月XX日

件名:本アーティファクトの初公開市場取引後の、事後評価報告


1. 使用結果の概要

先日、EUのメディア王アルフレッド・フォン・シュタインベルク氏によって20兆円で落札された本アーティファクトの、その後の使用結果について、ここに追記する。

同氏は、我々が最も懸念していた国家レベルの戦略的情報収集ではなく、あくまで個人的な、そして極めて人間的な動機…30年前に失踪し記憶を失っていた妻、エレナとの再会のために、その力を行使した。

観測された「真実」は、世界の秩序を揺るがす劇薬ではなく、一つの家族に幸福を取り戻すための、奇跡の処方箋となった。この一連の出来事は、テレビ番組を通じて全世界に報道され、大きな感動を呼んだ。


2. ギルドとしての評価と安堵

今回の事例は、本アーティファクトがもたらす力の「正しい使われ方」の、最高の模範例であったと結論付ける。

我々幹部会は、このアーティファクトの情報を公開し、オークションに出品するという決定に対し、その情報兵器としての側面に、少なからぬ懸念を抱いていた。

だが、その懸念は杞憂に終わった。

この一件は、アーティファクトがもたらす力が、必ずしも破壊や混沌に繋がるものではないという、極めて重要な前例となった。我々が危惧した「情報兵器」としての側面ではなく、**「希望の象徴」**としての側面が、全世界に示されたことは、今後のギルド運営において計り知れないほどの好影響をもたらすだろう。

**ギルドが、この奇跡の物語を世界に公開して、本当に良かった。**この決断は、正しかった。その安堵を、ここに記録する。


3. 今後の推奨措置

本アーティファクトに対する脅威レベル評価「D」は、引き続き維持する。

その力の行使そのものは安全であるが、それがもたらす「情報」の価値は、依然として計り知れないからだ。

だが、今回の奇跡(きせき)継承(けいしょう)は、このアーティファクトが持つリスクを、世界が正しく理解し、そして受け入れるための、最高の教材となった。

我々は、この奇跡の物語を、人類が新たな力と正しく向き合うための、最初の、そして最も美しい道標(みちしるべ)として、ギルドの歴史に永遠に記録するものとする。


以上。




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