第257話
西新宿の空を貫くかのようなタワーマンションの最上階。
その広大なリビングの床から天井まで続く巨大な窓からは、宝石箱をひっくり返したかのような東京の夜景が一望できた。
神崎隼人――“JOKER”は、ギシリと軋む高級ゲーミングチェアにその身を深く沈め、目の前の漆黒のモニターに映し出された自らの魂の設計図…ネクロマンサービルドのステータスウィンドウを、静かに、そしてどこか飢えた表情で眺めていた。
レベルは20。
だが、彼は決して満足していなかった。
C級ではない。
彼が見据えているのは、そのさらに先。
B級。
かつて、彼の戦士ビルドがその真価を証明し、そして自らの庭へと変えた、あの灼熱のテーブル。
【古竜の寝床】。
あの場所で、この死者の軍団がどこまで通用するのか。
それを試したいという、純粋な、そしてどこまでも暴力的なまでの好奇心。
それが、彼の魂を焦がしていた。
(…だが、今のままじゃ無理だ)
彼は、自らのビルドを冷静に分析する。
レベルは上がった。スキルも、揃えた。
だが、その器となる「装備」が、あまりにも貧弱すぎる。
アメ横の市場で、なけなしの金で買い揃えた、一体5000円のガラクタ一式。
F級、D級のテーブルでは、それでよかった。
だが、B級の、あの灼熱のカルデラで戦うには、あまりにも心許ない。
(…潮時か)
彼は、椅子からゆっくりと立ち上がった。
その瞳には、もはや情報の海をさまよう探求者の光はない。
ただ、獲物を見つけた狩人の光だけが、爛々と輝いていた。
彼は、財布代わりのスマートフォンを手に取ると、その画面に表示された銀行口座の残高を確認する。
数千万円という、もはや現実感を失った数字の羅列。
だが、今の彼にとって、それはただの数字ではない。
次なるギャンブルのための、最高の「軍資金」だった。
彼は、その足で再び夜の街へと繰り出した。
向かう先は、ただ一つ。
あらゆる欲望と奇跡が取引される、究極のテーブル。
上野、アメ横。
彼の、新たな人生のための、二度目の「仕入れ」が、今、始まろうとしていた。
◇
JRの高架下。
太陽の光がほとんど届かない薄暗い一角。
そこは、相変わらず混沌としたエネルギーに満ち溢れていた。
ベンダーたちの怒号。
探索者たちの、真剣な値切り交渉の声。
そして、そこかしこから漂ってくる、得体のしれない食べ物の匂い。
隼人は、その胡散臭い空気に、むしろ心が落ち着くのを感じていた。
ここは、騙される方が悪い、自己責任の世界。
彼のギャンラーとしての本能が、研ぎ澄まされていくのを感じた。
彼の足は、迷いなく一つの店へと向かっていた。
マーケットのさらに奥深く。
いかにも怪しげな空気が漂う一角。
そこに、その店はあった。
他の店のような派手な装飾は一切ない。
ただ、古びた長机の上に、無数のガラクタ同然のローブやワンドが、山のように積まれているだけ。
店主は、カウンターの奥でうたた寝をしている、一人の親父だった。
その顔には深い皺が刻まれ、その手は、長年何かを作り続けてきたであろう職人のそれだった。
隼人は、その親父の前に立つと、静かに声をかけた。
「…オヤジ、起きてるか」
「…んあ?」
親父は、眠たげな目をこすりながら顔を上げた。
そして、目の前の貧相なローブをまとった若者を一瞥すると、面倒くさそうに言った。
「…なんだい、兄ちゃん。冷やかしかい?」
「いや、買い物だ」
隼人は、単刀直入に言った。
「――親父、また買いに来たぜ」
その、あまりにも馴れ馴れしい、しかしどこか親しみのこもった一言。
それに、親父の眠たげだった目が、わずかに見開かれた。
彼は、目の前の若者の顔をマジマジと見つめ、そして思い出したかのように、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「…へっ。お前さんか。あの時の、変わり者のひよっこ」
「ああ」
「少しは、この世界のクソッタレな空気に、慣れてきたらしいな」
「まあな」
隼人は、不敵に笑った。
「それで?今日は、何の用だい。また、ガラクタでも漁りに来たのかい?」
「いや、違う」
隼人は、きっぱりと言った。
「レベル20まで上げたから、HP、ES、耐性10%が付いた品がほしい」
「…ほう?」
親父の目に、確かな興味の色が浮かんだ。
「景気が、いいじゃねえか。そんな上等な品、どこで使うんだい?」
「B級だ」
そのあまりにも、さらりとした一言。
それに、親父は驚いたように目を見開いた。
そして彼は、腹を抱えて笑い出した。
「はっはっは!B級だと!?面白い!面白いじゃねえか、兄ちゃん!」
「その歳で、そのレベルで、B級に挑む。そのイカれた度胸、俺は好きだぜ」
彼は、そう言うと、カウンターから立ち上がった。
「分かった。その心意気に免じて、俺が最高の『掘り出し物』を見繕ってやるよ」
彼はそう言うと、店の奥のガラクタの山を漁り始めた。
そして彼は数分後、六つの、みすぼらしい、しかし確かな魔力を秘めた装備を、カウンターの上に並べた。
盾、頭、胴、手、足、そして指輪。
その全てが、彼が求める条件を、完璧に満たしていた。
「…いくらだ?」
隼人が、尋ねる。
それに、親父は少しだけ渋い顔をした。
「…そうだな」
彼は、顎の無精髭を撫でながら言った。
「兄ちゃんには、悪いんだがな。**最近、値上がりしててな。**JOKERとかいうイカれた新人が、ネクロマンサーを流行らせちまったおかげで、この手の初心者向け魔法装備の需要が、爆発してるんだよ」
「だから、悪いが、これでもギリギリの値段なんだ。1部位、30万円だな」
30万円。
その、あまりにも暴力的な数字。
だが、今の隼人は動じない。
彼は、ただ静かに頷いた。
「…分かった」
彼は、続けた。
「よし、盾、頭、胴、手、足、指輪、6部位で180万円だな」
「カードで良いか?」
そのあまりにもあっさりとした、そしてどこまでも力強い即決。
それに、今度は親父の方が、驚いたように目を見開いた。
そして彼は、ニヤリと笑った。
その顔は、もはやただの眠たげな老人ではない。
この市場で、何十年も生き抜いてきたプロの商人の顔だった。
「…へっ。兄ちゃん、いつの間にそんな大物になったんだい」
「ああ、カードも対応してるよ。こっちも、時代に乗り遅れるわけにはいかねえからな」
隼人は、インベントリからギルド発行のブラックカードを取り出し、端末にスライドさせた。
180万円という大金が、一瞬で決済される。
彼は、手に入れた6つの装備を、インベントリへと収納した。
「まいどあり」
「ああ」
「…B級、死ぬなよ、兄ちゃん」
その不器用な、しかしどこまでも温かいエール。
それに、隼人は一度だけ振り返り、そして不敵に笑った。
「…当たり前だ」
◇
自室へと帰還した、隼人。
彼は、その日の戦利品を、テーブルの上に厳かに並べた。
そして彼は、その儀式を始めた。
まず、これまで世話になったF級のガラクタ装備を、その身から外す。
そして、新たに手に入れた6つの、確かな力を秘めたレア装備を、一つ、また一つと、その身にまとっていく。
その瞬間。
彼の全身を、これまでにないほどの、圧倒的な力の奔流が包み込んだ。
彼のステータスウィンドウが、更新される。
HP、ES、そして何よりも、耐性の数値が劇的に跳ね上がった。
彼は、脳内で高速の計算を始めた。
(【清純の元素】と【元素の円環】がもたらす、全耐性+31%。それに、この6部位の装備がもたらす、各耐性+10% × 6 = 60%)
(これで、耐性91%だ)
その、あまりにも強固な守り。
だが、彼はまだ満足しない。
彼は、自らの魂の内側…パッシブスキルツリーの広大な星空を開いた。
彼の手元には、まだ使われていない貴重なパッシブスキルポイントが、6ポイント残っている。
彼は、そのうちの2ポイントを使い、あのキーストーンへの道を、解放した。
小ノード**【全属性耐性 +5%】** (1pt)。
そして、その先にある、究極の守りの星。
キーストーン【ダイヤモンドスキン】(1pt)。
彼が、その最後の星に触れたその瞬間。
彼の全身を、これまでにないほどの硬質で、そして力強い光が包み込んだ。
彼の皮膚が、まるでダイヤモンドのように輝き、その存在そのものが一つ上の次元へと昇華していくような感覚。
彼のステータスウィンドウが、再び更新される。
全ての元素耐性が、さらに+20%上乗せされた。
(91%に、さらに20%プラスか…)
彼の口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。
(これで111%だ。B級の呪いを受けても、81%残るぞ)
B級の壁は、完全に崩壊した。
彼のネクロマンサービルドは、今、その真の力を解放する。
「…さてと」
彼は、満足げに頷いた。
「これで、ネクロマンサービルドでB級ダンジョン【古竜の寝床】に行ける」
「久々だな」
彼の瞳には、あの灼熱のカルデラの光景が映っていた。
「でも前に、大分周回したしな。ゾンビ達がどこまで通じるか?も、気になる所だ」
彼の、指揮官としての魂が、その未知なる挑戦に、これ以上ないほど高揚していた。
そして彼は、残された4ポイントのパッシ-ブスキルポイントを、静かに見つめた。
「…まあ、パッシブポイント4は、温存しておくか」
そうだ。
ギャンブラーは、常に切り札を残しておくものだ。
彼の、新たな人生の、本当の「ショー」が、今、始まろうとしていた。
## ステータス (ネクロマンサービルド)
- **レベル:** 20
- **クラス:** 魔術師レベル3
- **アセンダンシー:** なし
- **HP:** 530 / 530 `((基礎100 + 清純の元素+40 + アビスジュエル +45 + アビスジュエル +45 + 装備一式300)`
- **ES:** 190 / 190 `((【始まりの一歩】+14 +【最初の守り】+16 +【身体を守る秘密】+20 +【深い祈り】+20 + 装備一式+140)× 1.12)`
- **MP:** 102 / 152 `((基礎116 + 【始まりの一歩】+16 + 【深い祈り】+20 / 予約: 28 + 22)`
- **筋力 (Strength):** 22 `((基礎5 + ステータス振り+ 17)`
- **体力 (Constitution):** 10
- **敏捷 (Dexterity):** 26 `((基礎12 + ステータス振り+ 14)`
- **知性 (Intelligence):** 38`((基礎8+クラスボーナス+10 + 【深い祈り】+20)`
- **精神 (Mentality):** 7
- **幸運 (Luck):** ??
- **ステータスポイント:** 残り: 59
- **パッシブスキルポイント:** 残り: 4`(ギルドパッシブポイント+4/24済み)`
- **HP自動回復:** 10 / 秒 `(活力のオーラ+10)`
- **MP自動回復:** 20 / 秒 `(基礎1 + 魔法の源泉15 × 1.25)`
- **物理ダメージ軽減:** 0%`()`
- **精度 (Accuracy):** +93 `(精度のオーラ+93)`
- **移動速度:** +0% `()` ※水銀のフラスコ使用時、さらに+40%
- **攻撃速度:** +0% `()`
- **チャージ上限値:**
- **持久力チャージ:** 3
- **狂乱チャージ:** 3
- **パワーチャージ:** 3
- **耐性値:**
- **火耐性:** 75% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式+65% + 小ノード+5% + ダイヤモンドスキン+15%)`
- **氷耐性:** 75% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式+65% + 小ノード+5% + ダイヤモンドスキン+15%)`
- **雷耐性:** 75% (上限) `(元素の盾+26% + 装備一式+65% + 小ノード+5% + ダイヤモンドスキン+15%)`
- **混沌耐性:** 0% `()` ※アメジストのフラスコ使用時、さらに+35%
### ミニオンオフェンスマスタリー
- **【骨砕きの猛攻】:** (1pt)
- 効果: ミニオンのヒットは敵の物理軽減を50%の確率で無視する。
- **【血の吸血】:** (1pt)
- 効果: ミニオンの攻撃ダメージ1%をライフリーチする。
### キーストーン (大型パッシブ)
- **【ダイヤモンドスキン】:** (1pt)
- 効果: 全ての元素耐性が+15%される。
### 中ノード (Notable Passives)
- **【深い祈り】:** (1pt)
- 効果: 最大ES+20最大MP20知性+20
- **【死者のロード】:** (1pt)
- 効果: ミニオンの最大HP15%上昇、ミニオンのダメージ20%上昇、最大召喚ゾンビ召喚+1、最大召喚スケルトン+1
- **【死への同調】:** (1pt)
- 効果: 最大スペクター召喚+1、最大召喚ゾンビ召喚+1、最大召喚スケルトン+1
- **【不屈の軍勢】:** (1pt)
- 効果: ミニオンは15%の追加物理ダメージ軽減率を持つ。ミニオンの全ての元素耐性 +15%。そして、ミニオンは出血中に移動しても追加のダメージを受けない。
### 通常パッシブ (小ノード)
- **【始まりの一歩】 +14ES、+16MP:** (1pt)
- **【最初の守り】最大ES+16MP自動回復レート25%:** (1pt)
- **【身体を守る秘密】最大ES+10、最大ES6%増加:** (2pt)
- **【守りの復活】最大ES6%増加ESリチャージレート10%**(1P)
- **【ミニオンライフノード】ミニオンの最大HP10%上昇**(2箇所, 計2pt)
- **【ミニオンライフダメージノード】ミニオンの最大HP10%上昇。ミニオンのダメージ10%上昇。**(1P)
- **【ミニオンダメージノード】ミニオンのダメージ16%上昇。**(2箇所, 計2pt)
- **【ミニオンライフ物理軽減ノード】ミニオンの最大HP8%上昇、ミニオンは8%の追加物理ダメージ軽減率を持つ**(1P)
- **全属性耐性 +5%:** (1pt)
## スキル
- **ユニークスキル:**
- **【複数人の人生】:** 複数のビルドを保存・切り替え可能。莫大なコストがかかるため、「有用度1」の大ハズレスキルとされているが、JOKERの【運命の天秤】がその常識を覆す可能性を秘める。
- **【運命の天秤】:** クラフトなどの確率が絡む事象に介入し、奇跡的な結果を生み出す。JOKERの伝説の根幹をなすスキル。
- **カスタムスキル:**
- **【通常技】ゾンビ召喚 (消費MP: 12):** ゾンビを召喚する。最大ゾンビ数は3体 ミニオンの最大ライフが4%上昇する
- **ジェム構成:** (ゾンビ召喚レベル4 + 近接物理ダメージサポートレベル1 + 近接スプラッシュサポートレベル1 + ミニオンダメージサポートレベル1 )
- **【通常技】【脆弱の呪い】 (消費MP: 12):** 範囲の敵を呪う対象の受ける物理ダメージを20%アップする
- **【通常技】【デセクレート】 (消費MP: 11):** 毎秒8.2の基礎混沌ダメージを与える。基礎持続時間は4秒。死体を5体スポーンさせる。スポーンさせる死体のレベルはエリアレベルと一致する、最大レベル20スポーン可能な最大死体数 10
- **【通常技】【フレッシュオファリング】 (消費MP: 16):** 基礎持続時間は5秒。消費する死体が1体増えるごとに基礎持続時間が1秒追加される。ミニオンにアタックスピード20%増加を付与する。ミニオンにキャストスピード20%増加を付与する。ミニオンに移動スピード20%増加を付与する。
- **【通常技】火の矢 (消費MP: 9):** クラススキル。火の矢を放つ。
- **【通常技】ES再生 (消費MP: 0):** クラススキル。ESを瞬時に再生する。戦闘中につき一回使用可能。
- **【通常技】魔法の源泉 (消費MP: 0):** クラススキル。MPの10%を基礎MP回復にプラスする。
- **発動中のオーラ/バフ:**
- **【元素の盾 Lv.10】(MP予約: 0):** 全属性耐性+26%。
- **【活力のオーラ Lv.1】(MP予約: 28):** HP自動回復+10/秒。
- **【精度のオーラ Lv.1】(MP予約: 22):** 精度+93。
## 装備品
- **武器:** 【普通のワンド】(ノーマル)
- **盾:** 【魔法の盾】(マジック)
- 効果: HP+50 ES+20 全耐性+10%
- **頭:** 【魔法のローブ頭】(マジック)
- 効果: HP+50 ES+20 全耐性+10%
- **胴:** 【魔法のローブ胴】(マジック)
- 効果: HP+50 ES+20 全耐性+10%
- **手:** 【魔法の手装備】(マジック)
- 効果: HP+50 ES+20 全耐性+10%
- **足:** 【魔法の足装備】(マジック)
- 効果: HP+50 ES+20 全耐性+10% 移動スピード+8%
- **首輪:** 【清純の元素】
- 効果: 全耐性 +5% 最大HP +40 このアイテムに、Lv10の【元素の盾】スキルが付与される。
- **指輪 (左):** 【清純の元素】
- 効果: 【元素の盾】のMP予約コストを100%減少させる。
- **指輪 (右):** 【魔法の指輪】(マジック)
- 効果: HP+50 ES+20 全耐性+10%
- **ベルト:** 【暗黒の玉座】(ユニーク)
- 効果: アビスソケットを1個持つ アビスソケットを1個持つ 装着したアビスジュエルの効果が50%増加
- HP+30 ミニオンの最大HP10%上昇 ミニオンのヒットは10%の確率で毒を敵に与える × 2 × 1.5
- **インベントリ保管:**
## フラスコ
- **スロット1:** ライフフラスコ (中)
- 効果: HPを回復する。
出血状態で、使用すると、出血を、即座に、解除し4秒の出血耐性を付与する。
- **スロット2:** マナフラスコ (小)
- 効果: MPを回復する。
- **スロット3:** 水銀のフラスコ
- 効果: 使用後4秒間、移動速度が40%上昇する。
- **スロット4:** 解呪のフラスコ
- 効果: 使用時、自身にかかっている呪い(デバフ)を解除する。
- **スロット5:** アメジストのフラスコ
- 効果: 使用後6秒間、混沌耐性が35%上昇する。