第26話
神崎隼人の金策配信は、もはや彼と彼の熱心な視聴者たちにとって、一つの心地よい「ルーティン」と化していた。
毎日決まった時間に【ゴブリンの洞窟】へ潜り、軽快な音楽をBGMに、ゴブリンを「処理」していく。その動きは、もはや芸術の域に達していた。無駄な動きは一切なく、最小限の労力で、最大限の効率を叩き出す。
彼の配信は、もはやスリリングな冒険活劇ではない。それは、一人の熟練した職人が、黙々と自らの仕事をこなしていく様をただ眺めるだけのある種の、環境映像に近いものだった。
視聴者たちも、それを理解していた。彼らはもはや、隼人がゴブリンに苦戦することを期待してはいない。彼らが今か今かと待ち望んでいるのは、この退屈な「作業」の果てに、一日に一度か二度だけ訪れる、あの奇跡の瞬間だけだった。
視聴者A: 今日のオーブ、まだかなー
視聴者B: もう100体は狩っただろ。そろそろ、光ってくれ!
視聴者C: JOKERギャンブルタイムは、まだですか!?
「お前ら、せっかちだな。ギャンブルってのは、待つ時間も楽しみのうちなんだよ」
隼人は、コメント欄の催促に、やれやれと肩をすくめながら答える。
その時だった。
彼の目の前にいた、ひときわ体格の良い兜をかぶったゴブリン。彼が長剣の一振りで、それを光の粒子へと変えた、まさにその瞬間。
洞窟の空気が、変わった。
これまでオーブがドロップする時に見てきた、淡い青や黄色の光ではない。
もっと強く、もっと濃密な、そしてどこか不吉な橙色の光が、ゴブリンが消滅したその場所から、迸ったのだ。
視聴者D: ん!?
視聴者E: おい、今の光の色…!オーブじゃないぞ!
視聴者F: ユニークだ!!!!!!!!!!
コメント欄が、一瞬にして爆発的な熱狂に包まれる。
隼人の心臓もまた、ドクンと大きく脈打った。
ユニーク等級。
この世界の理を捻じ曲げる、唯一無二の伝説の装備。
彼はゴクリと喉を鳴らしながら、その橙色の光の中心へと、ゆっくりと歩み寄った。
【承】使い道の分からない「当たり」と視聴者の叡智
光が収まった場所に、静かに横たわっていたのは、一つの首飾りだった。
黒く、火山岩のようにざらついた質感の革紐。そしてその中央には、まるで燃え尽きた炭の中にかろうじて残った最後の熾火のように、鈍い、しかし確かな熱量を放つ黒曜石のような宝石が、はめ込まれていた。
隼人がそれを手に取った瞬間、アイテム名が彼の視界に表示される。
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アイテム名: 灰燼の首飾り(アッシュブリンガー・アミュレット)
種別: 首輪
レアリティ: ユニーク
装備レベル: 5
効果:
筋力 +50
攻撃によって与える火炎ダメージ +25%
最大HP +35
周囲の敵を、常に灰状態にする。
「…なんだ、こりゃ…」
隼人はそのあまりにも極端で、ちぐはぐな性能表示に、思わず素っ頓狂な声を漏らした。
まず彼の目を引いたのは、**『筋力+50』**という、異常なまでの数値だった。
レベル5の探索者が、装備一つで筋力が50も跳ね上がる。それはもはや、バグを疑うレベルの破格の性能だ。これさえあれば、彼の【パワーアタック】は、もはやゴブリンを「爆散」させるどころか、その存在を原子レベルで消滅させかねない。
だが、次に続く効果が彼を混乱させた。
『火炎ダメージ+25%』。
火炎ダメージ?俺は戦士だ。魔法など、使えない。全くの、無用の長物ではないか。
そして最後の、『周囲の敵を灰状態にする』。
灰状態?なんだ、それは。聞いたこともない。
筋力だけを見れば、間違いなく大当たりだ。
だが、他の効果は今の彼にとっては、全く意味をなさないゴミ同然。
あまりにも使いにくい。あまりにも、ピーキーすぎる。
彼は、自分のビルドとの相性の悪さに、思わず頭をかいた。
「STR+50はヤバいけど…火炎ダメージ?俺、使わねえしな。なんだこりゃ、微妙な…」
その彼の困惑した呟きが、配信に乗った瞬間だった。
これまで彼の戦いを冷静に分析していたベテラン視聴者たちの、コメント欄での空気が一変した。
彼らは、先ほどのユニークドロップの瞬間とはまた質の違う、ある種の専門家としての興奮に包まれていた。
元ギルドマン@戦士一筋: おいおいおいおいおい!JOKER、お前自分が何を拾ったか分かってるのか!?
ハクスラ廃人: 馬鹿野郎!微妙なわけがあるか!そいつは、「ビルドのメインになる」アイテムだぞ!お前が、それを使いこなせないってだけだ!
ベテランシーカ―: JOKERさん、落ち着いて聞いてください。その首飾りは、あなたのような物理攻撃型の戦士が使うものじゃありません。それは、ある特定の特殊なビルドを目指す者たちが、喉から手が出るほど欲しがる最高の逸品なんです!
隼人は、そのあまりの剣幕にたじろいだ。
「…特殊なビルド?」
ハクスラ廃人: そうだ!世の中にはな、筋力を上げながら物理攻撃じゃなくて、火炎属性のスキルで戦う変態的なビルドがあるんだよ!例えば、**『火炎トーテム』**ビルド!地面に火を噴くトーテムを何本も何本も設置して、自分は安全な場所から敵が焼かれていくのを眺めてるだけっていう、陰湿で最高に楽しいビルドがな!
元ギルドマン@戦士一筋: そのビルドのキーアイテムの一つが、それだ。彼らは、STR50という破格のボーナスを、トーテムの設置数や他の装備の要求値を満たすために使う。そして、火炎ダメージ+25%という純粋な火力アップの恩恵を、最大限に受けるのさ。
ベテランシーカ―: そして何よりも問題なのが、最後の効果…**『灰状態』**です!JOKERさん、それは最強クラスのデバフなんですよ!
ハクスラ廃人: そうだ!灰状態になった敵はな、まず**移動速度がガクンと落ちる!**そして何よりヤバいのが、そいつが受ける火炎ダメージが、大幅に増加するんだ!つまり、その首飾りを装備してるだけで、周囲の敵は勝手に炎に弱いノロマな的になるってわけよ!
隼人はその専門家たちの完璧な解説によって、ようやく自分がどれほどとんでもないお宝を引き当ててしまったのかを、理解した。
これは、彼にとっては宝の持ち腐れかもしれない。
だが、これを必要としている誰かにとっては、まさしく人生を変えるほどの究極の一品。
そして、そういうアイテムには当然、途方もない「価値」が付随する。
元ギルドマン@戦士一筋: JOKER、そいつはすぐに売れ。下手に、自分で使おうとするな。STR型の炎ビルドをやってる金持ちの道楽プレイヤーが見たら、絶対に飛びついてくるぞ。相場を、よく調べろ。安く、買い叩かれるなよ。
ハクスラ廃人: そうだぜ!安く見積もっても、10万円は余裕で超える!F級ダンジョンのドロップ品としては、破格中の破格だ!おめでとう、JOKER!お前はまた、デカい当たりを引いたんだ!
十万円。
その現実的な、しかしあまりにも大きな数字。
隼人は、手の中にあるその黒く鈍い輝きを放つ首飾りを見つめた。
これが、十万…。
ゴブリン・シャーマンの大魔石の、倍の価値。
これ一つで、妹・美咲の一ヶ月分の特殊な治療を、受けさせてやることができる。
彼の心に、熱い何かがこみ上げてくる。
彼は深く息を吸い込むと、その高ぶる感情を無理やり押さえつけた。
そして、いつものJOKERのポーカーフェイスに戻って、カメラの向こうの熱狂する視聴者たちに告げた。
「なるほどな。俺にとっては猫に小判だが…欲しい奴がいるってんなら、そいつに高く売りつけてやるのが、このアイテムへの礼儀ってもんだろ」
彼はそう言うと、手に入れたばかりの【灰燼の首飾り】を、インベントリの一番大切な場所へとしまい込んだ。
今日の配信は、ここまでだ。
これ以上ゴブリンを狩り続けても、この大当たりを超える興奮は得られないだろう。
彼は視聴者たちに短く別れを告げると、配信を終了した。
静寂が戻った、洞窟の中。
彼は、一人考える。
この、十万円の首飾り。
これを、どうやって最も高く、そして安全に売り捌くか。
ギルドの、公式な取引所か。
あるいは、あのアメ横の混沌としたフリーマーケットか。
そこにはまた、新たなギャンブルが待っている。
彼の次なる戦いは、ダンジョンの中ではない。
人と金と欲望が渦巻く、「市場」という名の新たなテーブルの上で、繰り広げられるのだ。
物語は、隼人が手に入れた新たな「資産」を元に、次なるステージへとその一歩を踏み出す、その確かな予感をはらんで幕を閉じた。
神崎隼人は、自室の古びたパソコンの前で、静かに息を吐いた。
インベントリの中で、禍々しくも美しいオーラを放つユニーク首飾り、【灰燼の首飾り(アッシュブリンガー・アミュレット)】。筋力+50という破格の性能と、今の彼には使い道のない火炎ダメージ強化、そして未知のデバフ「灰状態」。
あまりにもピーキーで、彼のビルドとは全く噛み合わない、奇妙な宝物。
だが、視聴者たちの熱狂的な解説によれば、これは特定のビルドを組む者にとっては、喉から手が出るほど欲しい、究極の逸品らしい。
そして、その価値は十万円を下らないと。
(十万…)
その数字の重みが、ずしりと彼の肩にのしかかる。
ゴブリン・シャーマンの大魔石を売って得た、五万円。それだけでも、彼の人生にとってはありえないほどの大金だった。その倍。
これを、どうやって最も高く、そして安全に売り捌くか。
彼の頭に、二つの選択肢が浮かんだ。
一つは、あのアメ横の混沌としたフリーマーケット。あそこならば、足元を見て買い叩こうとする三流詐欺師も多いが、同時に、正規のルートでは手に入らないような大金を持つ闇の富裕層も紛れ込んでいるかもしれない。交渉次第では、相場以上のとんでもない値段で売れる可能性も、ゼロではない。ハイリスク・ハイリターンな、彼好みのテーブルだ。
だが、彼は首を横に振った。
あの場所は、危険すぎる。今の彼が、十万円を超えるような大金を動かしていると知られれば、どんなハイエナが群がってくるか分からない。裏社会の面倒は、もうこりごりだった。
ならば、選択肢はもう一つしかない。
ギルド公認の、公式な取引所。
手数料は取られるだろう。足元を見られることはなくとも、相場以上の爆発的な利益も期待できないかもしれない。ローリスク・ローリターン。
だが、今の彼が何よりも優先すべきは、「安全性」と「確実性」だった。
この金は、彼のただの遊び銭ではない。
妹・美咲の命に、繋がる金なのだから。
「…行くか」
彼は決意を固め、椅子から立ち上がった。
向かう先は、再び西新宿。
あの清潔で、どこか息苦しいが、しかしこの世界で最も信頼できる金融機関へ。
翌日。
隼人は再び、『関東探索者統括ギルド公認 新宿第一換金所』の、ガラス張りの自動ドアをくぐっていた。
前回訪れた時とは、彼の心境は全く違っていた。もはや、この場所に気後れするような場違いな感覚はない。彼は、確かな「商品」を手に、正当な「取引」をしに来た、一人のプロのビジネスマンだった。
「いらっしゃいませ。本日は…あら、JOKERさん」
カウンターの向こうで彼を迎えてくれたのは、幸運にも見知った顔だった。水瀬雫が、驚きと、そしてどこか嬉しそうな表情で彼に微笑みかけていた。
「また、何かすごい物でも見つけられたのですか?」
「…まあ、そんなところだ」
隼人はぶっきらぼうにそう答えると、インベントリから【灰燼の首飾り】を取り出し、カウンターのトレイの上にそっと置いた。
雫は、その禍々しいオーラを放つ首飾りを一瞥しただけで、その価値を瞬時に見抜いたようだった。彼女のプロとしての目が、驚愕に見開かれる。
「こ、これは…ユニーク等級…!しかも、【灰燼の首飾り】じゃありませんか…!まさかこれを、あのゴブリンの洞窟で…?」
「ああ」
「信じられない…」
彼女はゴクリと喉を鳴らすと、すぐにプロの顔に戻り、テキパキと手続きを進め始めた。
「承知いたしました。これほどの高額商品となりますと、通常の買い取りではなく、ギルドの公式オークションシステムへの**『委託出品』**をお勧めしますが、いかがいたしますか?手数料は、落札価格の5%と少しお高くなりますが、その分、日本中の富裕層の探索者たちの目に触れることになります。間違いなく、ただ売るよりも高値が付きますよ」
「…それで頼む」
隼人は、即決した。
手続きは、数分で終わった。
【灰燼の首飾り】は雫の手によって、厳重なケースに収められ、オークションの出品リストへと登録される。
開始価格は、雫が査定した最低保証価格の8万円。
オークションの制限時間は、半日…つまり12時間。
その瞬間から、日本中の探索者がアクセスできる巨大な電子の市場で、一つの小さな、しかし極めて価値のある首飾りを巡る、静かな、しかし熾烈な戦争の火蓋が切って落とされた。
隼人は換金所を出て、どうやって時間を潰すか考えた。
家に帰るには、中途半端な時間だ。かといって、このビジネス街の小洒落たカフェに入るような趣味も、金も持ち合わせていない。
彼は結局、換金所のビルが見える公園の人の少ないベンチに腰を下ろし、自らのスマートフォンでオークションページの更新ボタンをただひたすらに押し続けるという、最も原始的で、最も心臓に悪い時間の潰し方を選んだ。
画面に表示される数字。それは、ただのデータではない。
その一桁一桁が、妹の薬になり、治療になり、そして未来になる。
その、あまりにもリアルな重圧。
それが、彼の心をじりじりと締め付けていく。
いつの間にか、彼の額にはじっとりと、冷たい汗が浮かんでいた。
オークション開始から、一時間。
最初の入札が入った。『85,000円』。
そこから、戦いはゆっくりと始まった。
90,000円。
92,000円。
100,000円。
ついに大台を突破した。隼人の心臓が、ドクンと大きく跳ねる。
だが、戦いはまだ終わらない。
価格は、じりじりと、しかし確実に吊り上がっていく。
110,000円。
115,000円。
120,000円。
おそらく、STR型の炎ビルドを組む二人の金持ちプレイヤーが、互いに一歩も引かずに入札合戦を繰り広げているのだろう。
隼人はもはや、息をすることすら忘れ、ただスマートフォンの画面を睨みつけていた。
そしてオークション終了、10分前。
価格は、135,000円で膠着していた。
もう、決まったか。
隼人が安堵の息を吐きかけた、その時だった。
残り1分を切った、その瞬間。
画面の数字が、跳ね上がった。
『現在価格: 140,000円』
最後の最後で、新たな入札者が現れたのだ。
それは、まるで麻雀のオーラス。あるいは、ポーカーの最終ラウンド。
極限の、心理戦。
隼人は、固唾を飲んでその結末を見守った。
だが、それ以上の更新はない。
先に競り合っていたプレイヤーが、この土壇場での殴り込みに、降りたのだ。
そして、ついに。
彼のスマートフォンの画面に、無機質な、しかし彼にとっては世界で最も美しい文字列が表示された。
『オークションは終了しました。最終落札価格: 140,000円』
「…よっしゃ…!」
隼人は思わず、ガッツポーズを取った。周囲の目も忘れ、声を上げていた。
手数料の5%…7000円を差し引いても、彼の手元には133,000円という大金が転がり込んでくる。
彼は震える足で立ち上がると、再びあの換金所へと向かった。
隼人はその日の夜、再び配信のスイッチを入れた。
場所は、ダンジョンではない。西新宿の夜景が見えるビルの屋上。彼が時々、一人で考え事をする時に使う、秘密の場所だ。
配信のタイトルは、シンプルにこうつけた。
『【雑談】今日の配当、換金してきた』
彼が配信を開始した、その瞬間。
通知を待ち構えていた数千人の視聴者が、一斉に彼のチャンネルへとなだれ込んできた。
視聴者A: きたあああああ!JOKER雑談配信!
視聴者B: ダンジョンじゃないのか!珍しいな!
視聴者C: で、どうだったんだよあの首飾り!いくらで売れたんだ!?
コメント欄はすでに、オークションの結果を今か今かと待ち望む声で、溢れかえっていた。
隼人はその熱狂を焦らすように、ゆっくりとタバコに火をつけた。
そして紫煙を夜空へと吐き出しながら、静かに告げた。
「ああ、お前らが気になってるアレな」
「――例の首飾り、14万で売れた」
その一言が投下された、瞬間。
コメント欄はもはや、制御不能の熱狂の坩堝と化した。
視聴者D: じゅ、じゅうよんまん!?!?!?
視聴者E: はああああああああ!?F級ダンジョンのドロップ品が、14万!?
視聴者F: 嘘だろ…俺の月給より、高いんだが…
視聴者G: F級で一発14万か…。夢がありすぎるだろ、この世界…!
視聴者H: 羨ましい…羨ましすぎる…!俺も、探索者になろうかな…
視聴者I: JOKERさん、マジで神に愛されてるな…。
嫉妬、羨望、驚愕、そして憧れ。
あらゆる感情がごちゃ混ぜになった、コメントの嵐。
隼人は、その熱狂をどこか他人事のように眺めていた。
彼にとって重要なのは、金額の多寡ではない。
この金で、何ができるか。
この金で、どうやって次の勝利を掴むか。
ただ、それだけだ。
隼人は、自分の銀行口座の残高を、ARウィンドウで配信画面に共有した。
そこには、これまでの雀荘での稼ぎと、今日手に入れた13万3千円。そして、残っていた軍資金を合わせた、合計**『16万5千円』**という、彼にとっては天文学的な数字が表示されていた。
彼はその数字を指でなぞりながら、カメラの向こうの数千人の共犯者たちに、問いかけた。
その声は、次の最高のギャンブルの開始を告げる、ディーラーの声だった。
「さて、お前ら」
「この16万5千円で、次に俺は何をすべきだと思う?」
その、あまりにも魅力的な問いかけ。
先ほどまでただ彼を羨んでいた視聴者たちの、目が変わった。
彼らはもはや、ただの観客ではない。
このJOKERという男の人生を賭けたギャンブルのテーブルに、参加するプレイヤーの一人になったのだ。
コメント欄の流れが変わる。
羨望は、熱狂的な「提案」へと姿を変えた。
『もっといい武器を買うべきだ!無銘の剣じゃ、もう限界だろ!』
『いや、防具だ!防御を、もっと固めろ!』
『スキルジェムだろ!あの魔術師みたいに、スキルを改造しろ!』
『パッシブポイントが手に入るクエストの、準備費用に使うべきだ!』
『いいや、ここはあえて全部貯金して、妹さんの治療費に…!』
無数の提案。無数の戦略。
隼人は、そのカオスな、しかし愛のあるコメントの一つ一つを、その驚異的な記憶力で脳内に焼き付けていく。
どのカードを、選ぶか。
どの道に、賭けるか。
彼の次なる一手は、まだ決まっていない。
だが、確かなことは一つだけ。
彼のショーは、まだ始まったばかりだということだ。




