第251話
【物語は10年前ダンジョンが現れる当日に戻る】
【ダンジョンが現れて2週間と3日経過】
スレッドタイトル:【愚痴】ドロップ品没収とか、マジでやってらんねえ【一時金10万】 Part. 29
512: 名無しのE級魔術師
…おい。
…おい、お前ら。
ちょっと待て。
俺、今、E級の【女王蟻の巣穴】ってダンジョンにいるんだが。
とんでもねえもんを、拾っちまったかもしれん。
515: 名無しの最初の戦士
512
どうせまた、ちょっと珍しいレア装備だろ。
どうせ、没収されるんだ。
もう、見飽きたよ、そういうの。
518: 名無しのE級魔術師
515
違う!
違うんだよ!
これは、レアじゃねえ!
オレンジ色に、光ってやがる!
そのあまりにも衝撃的な一言。
それに、スレッドが一瞬で凍りついた。
オレンジ色。
ユニーク。
この世界に、まだ数個しかドロップ報告のない、伝説の輝き。
521: 名無しのゲーマー
は!?
マジかよ!
早く、鑑定しろ!
選ばれし者!選ばれし者は、どこだ!
525: 名無しの選ばれし者
ここにいる!
早く、そのテキストを書き込め!
俺が、この目で確かめてやる!
そのあまりにも興奮しきったやり取り。
数分後。
E級の魔術師は、震える指でその神のテキストをスレッドに投下した。
そして、そのテキストが表示されたその瞬間。
世界の全てが、変わった。
533: 名無しのE級魔術師
アイテム名: 清純の元素
種別: 首輪
レアリティ: ユニーク
効果:
・全耐性 +5%
・最大HP +40
・このアイテムに、Lv.10の【元素の盾】スキルが付与される。
・【元素の盾】: 周囲の味方の火、氷、雷属性耐性を+26%するオーラ。
フレーバーテキスト:
王も、英雄も、神々でさえも
皆、等しくこの小さな光から始まった。
恐れることはない。
その一歩は、祝福されている。
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
スレッドの全ての動きが、ぴたりと止まった。
誰もが、そのあまりにも荘厳で、そしてどこまでも優しいテキストを、ただ呆然と見つめていた。
そして、次の瞬間。
スレッドは、これまでのどの熱狂とも比較にならない、本当の「爆発」を起こした。
『なんだこれ…』
『なんだこれ…なんだこれ…』
『は?強すぎだろ?なんだ、この装備?』
『最大HP+40に、耐性26%!?なんだこりゃ!』
『おい、これ装備したら、E級のあの忌々しい魔法攻撃、全部避けなくても平気になるんじゃねえか!?』
『ほぼ、ダメージ喰らわなくなるだろ、これ!最強装備だ、これ!』
そのあまりにも巨大な、そしてどこまでも希望に満ちた発見。
それに、スレッドはもはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。
だが、その熱狂の中で。
まだ誰も気づいてはいなかった。
本当の「革命」は、ここから始まるのだということに。
その熱狂の火に、油を注ぐかのように。
また一つ、新たな、そしてより異質な「宝石」の報告が上がり始めた。
788: 名無しの最初の盗賊
…おい、お前ら。
少し落ち着け。
また、新しいのが出たぞ。
今度は、指輪だ。
[画像:スキルジェムと同じくらいの大きさのだが、その形状が完璧な円環で、中央に小さな穴が空いている白銀の指輪]
鑑定しても、『元素の円環』としか出ない。
スキルジェムのように、魂にセットしようとしてもできない。
一体、どうやって使うんだ、これは…?
その新たな謎。
それに、スレッドの猛者たちが、その叡智を結集させ始めた。
そして、その答えにたどり着いたのは、一人の名もなき、しかし天才的な発想力を持つゲーマーだった。
815: 名無しのゲーマー
…なあ、お前ら。
さっき、魔術師が拾ったあの首輪。
【清純の元素】。
あれ、説明文に書いてあったよな。
『Lv.10の【元素の盾】スキルが付与される』って。
そして、そのオーラには、MP予約コストがかかるはずだ。
だが、もし。
もし、この指輪が、そのコストを何かどうにかするアイテムだったとしたら…?
そのあまりにも核心を突いた一言。
それに、スレッドの全ての住人が息を呑んだ。
そして、その仮説を証明するために。
二人の勇者が、名乗りを上げた。
821: 名無しのE級魔術師
…分かった。
俺が、試してみる。
俺が拾った、【清純の元素】。
こいつと、その指輪を同時に装備してみる。
どうなるか分からんが…。
吉と出るか、凶と出るか。
見ててくれ。
そのあまりにも勇敢な宣言。
スレッドは、再び静まり返った。
そして、数分後。
彼からの報告が、投下された。
その内容は、もはや人間の理解を超えていた。
828: 名無しのE級魔術師
…………………………………
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………………………………………………………………
…消えた
831: 名無しのゲーマー
は?
835: 名無しのE級魔術師
だから、言っただろ。
消えたんだよ。
MPの、予約コストが。
ゼロに、なったんだ。
俺のMPバー、全く減ってねえ。
なのに、俺の体は確かに【元素の盾】のオーラに包まれてる…。
そのあまりにも衝撃的な事実。
それに、スレッドは本当の意味での「爆発」を起こした。
【清純の元素】と、【元素の円環】。
その二つを組み合わせることで、MP予約コストを踏み倒す。
そのあまりにも美しく、そしてどこまでも完成されたシナジー。
ビルド構築。
その無限の可能性の扉が、開かれた瞬間だった。
祭りは、もはや誰にも止められない。
その熱狂の渦の中で。
誰もが、同じことを思っていた。
(やべー、これ、どうにかして自分の物にしたい)
(どうにか、出来ねえか…?)
そのあまりにも純粋な欲望。
それが、この停滞した世界を再び動かし始める、最初の、そして最も力強い歯車となることを。
まだ、誰も知らなかった。
◇
そして、その熱狂が最高潮に達した、その時。
日本政府が、動いた。
再び、緊急の記者会見。
だが、その内容は、もはや誰もが予想していた、そして待ち望んでいたものだった。
『本日、E級ダンジョンにて新たに発見されました二つのユニークアイテム、【清純の元素】、及び【元素の円環】。そのあまりにも大きな戦略的価値を鑑み、政府は、その発見者に対し1000万円の一時金を支給し、その所有権を買い取りしたことを、ここにご報告いたします』
1000万円。
そのあまりにも暴力的で、そしてどこまでも甘美な数字。
それが、日本中に、いや世界中に配信されたその瞬間。
世界の全てが、変わった。
これまで、この狂乱の祭りをどこか遠くから、冷めた目で見ていた人々。
会社で、上司に頭を下げ、
学校で、退屈な授業を受け、
家庭で、日々の生活に追われていた、ごく普通の人々。
彼らの、その瞳の色が変わった。
彼らの心の中に、一つの黒い、しかしどこまでも純粋な炎が灯った。
(…1000万?)
(ダンジョンに行けば、1000万手に入るのか…?)
(会社、辞めるか…)
(学校、辞めるか…)
一攫千金のチャンス。
そのあまりにも強烈な麻薬。
それに、世界中が酔いしれた。
冒険者たちが、それまでどこか遠くから見ていた人々。
彼らも、これには注目した。
祭りは、もはや一部のゲーム好きだけの、ものではなくなった。
全ての人間を巻き込んだ、巨大な、そしてどこまでも危険なギャンブルへと、その姿を変えようとしていた。